環境科学会誌
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33 巻, 6 号
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一般論文
  • 亀山 康子, 佐々木 実紀
    2020 年 33 巻 6 号 p. 159-171
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2020/11/30
    ジャーナル フリー

    異常気象の増加等,気候変動影響と考えられる事象による被害を軽減する備えとして,適応策の重要性が指摘されている。企業も自社にとって重要なリスクを見極めそれに備えることが,企業の総合リスク管理につながり,企業価値を高めるといえる。しかし,業種によって懸念すべきリスクは異なると想定されるにもかかわらず,そのような業種ごとの違いに注目した研究はない。そこで,本研究では,気候変動に関して毎年アンケート調査を実施している非政府組織CDPのデータを活用し,業種ごとに,世界および日本の企業がいかなる気候変動影響を懸念しているか,またそのように認識する背景について,単純集計およびトピックモデルを用いて分析した。

    結果,まず選択式回答の単純集計では,(1)世界で最も懸念していたリスクは「急激かつ集中的な降雨や干ばつ」であり,特に鉱物関連の素材産業や食品,保険業界が懸念している,(2)「サイクロン(台風等)」への懸念は,日本企業の割合が世界より高く,特に運輸やエネルギー産業の割合が高い,(3)「企業の評判」低下も多くの企業がリスク認識を有していたが,世界では金融・保険業が最も高い認識を示したのに対して,日本では情報通信や素材(木材その他)がより多く懸念を示している等の特徴が示された。

    次に,自由記述回答で用いられた単語をトピックモデルを用いて分析したところ,業種ごとに異なる気候変動影響をリスクとして懸念している背景にある考え方を抽出することができた。世界と比較して日本企業の回答からは「操業や業務を行っている地域やその顧客のいる地域への影響」「事業投資リスク」等のトピックの代わりに,規制を受ける側としてのリスクに関するトピックが抽出された点に特徴があった。

    以上,企業アンケート回答データを利用し,異なる種類の気候変動影響に対する業種ごとのリスク認識の違いと,相違が生じる背景にある考え方の違いを示すことができた。

  • 豊成 春子, 田畑 智博
    2020 年 33 巻 6 号 p. 172-183
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2020/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,環境未来都市構想に基づいて選定された環境未来都市(11都市と地域)および環境モデル都市(23都市)を対象に,各都市における取組の効果を評価するとともに,課題を考察した。環境,社会,経済に関わる14項目16指標と各指標の目標値を提案した。提案した指標を用いて各都市を評価した結果,環境未来都市に選定されている都市の達成率は比較対象とした都市の達成率よりも高く,環境未来都市構想の理想像として機能していることがわかった。一方,環境モデル都市に選定されている都市の達成率は,比較対象とした都市の達成率よりも低かった。これらの都市は社会,経済の指標が芳しくなく,環境,社会,経済の価値を整合的に創出できていないことがわかった。また,個別都市について,各指標の結果をもとに取組の効果と課題を考察した。

  • 藤井 達也, 三橋 正枝, 古川 柳蔵
    2020 年 33 巻 6 号 p. 184-194
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2020/11/30
    ジャーナル フリー

    近年,気候問題をはじめとした様々な地球環境問題が益々悪化している。地球環境問題の原因は人間活動の肥大化である。ライフスタイルを変えられるかどうかが問われており,環境配慮行動の実践を繰り返し,ライフスタイルへ定着が急がれる。ライフスタイル変革を促す環境配慮行動を評価するには,人々の多様で潜在化した無意識に生起され,社会的背景・文化的背景,環境,コミュニティなどと関連性を持って成り立っている日常的な行為を把握する必要がある。そこで,本研究では,オントロジー工学に基づき,実世界で起こる日常的な複数連なる行為をモデル化し,感情を含んだ行動の共通概念を明示化することにより,日常的な行為の変容と感情や意識との関係を評価し,推論する方法を検討することを目的とする。

    日本の複数の地域の小学生を対象として持続可能な暮らしの構築のための木育ワークショップを実施し,参加者へのアンケート,インタビュー及びビデオによる録画したデータに基づき分析を行った。木育ワークショップに参加した子どもの笑顔に着目し,子どもの笑顔に至るまでの行動をパターン化し,オントロジー工学に基づき行為分解木を描くことにより,笑顔に至るプロセスにおけるその人の感情の共通概念を明示化できることが示された。また,笑顔数などの客観的なデータを用いて,日常的な行為の変容と感情や意識との関係を評価することで,ある特定の行為を通した一人当たりの笑顔数が環境意識の高さや環境意識の向上度合によってどの程度になるか推論できる可能性が示唆された。

2019年シンポジウム
  • 朴 秀日, 加藤 博和, 大野 悠貴
    2020 年 33 巻 6 号 p. 195-207
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2020/11/30
    ジャーナル フリー

    日本では,急激な人口減少や超高齢化,気候変動,巨大自然災害,エネルギー危機などの脅威に対してしなやかに対応できるような都市空間構造への転換が急務である。これを進めるにあたり必要となる様々な施策を,地域主体で立案し実施することを支援する評価システム開発を目的とする。

    評価システムでは,長期的な人口・建物・インフラの推移をコーホートモデルによって推計し,都市空間転換策実施による漸次的な効果の発現を追跡することができる。そして,平常時の長期的Sustainabilityを環境・社会・経済のTriple Bottom Lineの各側面から評価する。また,巨大自然災害に対するResilienceを生命・健康被害と生活環境被害に分け,余命指標を用いて評価する。これらを同時に評価するシステムを整備できたことによって,気候変動緩和・適応や巨大自然災害への対応,エネルギーセキュリティ確保を,人口減少下において進めていくための都市空間構造転換の方向性と,それに合わせた各種施策・技術の導入方針を検討することを可能とした。

    多様な施策を扱い各側面から評価することによって,都市空間構造転換策の方針を総合的に検討し,合わせて環境・エネルギー施策を導入することが考慮できる。自治体施策担当者との意見交換によって,評価システムを用いた自治体内横断での各種施策の検討に資することが明らかにできた。

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