環境科学会誌
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34 巻, 1 号
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特集「バイオマスの利活用の現状および処理技術やシステム」
特集論文
  • 神田 崚, 萩野 隆生, 古賀 大輔
    2021 年 34 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2021/01/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    嫌気性消化槽を有する多くの下水処理場は,MAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)による配管閉塞や機器トラブルの課題を抱える。神戸市東灘処理場もこの課題を有している処理場の1つである。そこで,平成24年度B-DASH事業にて,消化汚泥からのリン除去回収設備(処理汚泥量239 m3/d)を導入し,実証試験を行った。消化汚泥のPO4-P除去率約90%で良好かつ安定運転を継続し,MAPのスケール生成抑制効果が示唆された。また,回収されたリンは神戸市内での地産地消を目指し,回収リンを原料とした園芸用肥料,水稲用肥料を開発,販売している。肥料の出荷数は販売を開始した2015年と比較し,8倍強に増加しており,リン資源の地域循環を構築している。また,本肥料は,市内学校の給食に使用される野菜,お米に使用され,子どもの食育,また,リン資源の重要性を伝える環境教育に貢献している。

  • 杉本 憲司, 菅野 孝則, 高田 陽一, 岡田 光正
    2021 年 34 巻 1 号 p. 8-17
    発行日: 2021/01/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,瀬戸内海において製鋼スラグによって人工的に創出した岩礁性藻場生育基盤による二酸化炭素吸収の効果を確認するため,海藻着生などの炭素吸収について検討することを目的とした。人工岩礁性藻場生育基盤は2013年2月~2018年2月に計4回施工を行い,合計面積は36,500 m2であった。岩礁性藻場生育基盤は,創出後16~40カ月まで海藻着生湿重量は季節的な変化をしながら1,251~2,916 g·cm−2まで増加した。岩礁性藻場生育基盤創出前の1981~2012年における岸側の砂泥域の平均藻場面積は1,259 m2であったが,創出後に流れや波浪の抑制によって2014~2020年における平均藻場面積は5,934 m2と4.7倍に拡大し,海草の株密度も増加した。人工岩礁性藻場生育基盤創出前の2012年では砂泥性藻場による年間炭素吸収量は6 kgCであったが,創出後の2015年には創出岩礁性藻場面積は11,528 m2,増加砂泥性藻場面積は3,919 m2となり,増加炭素吸収量は1,476 kgC(創出岩礁域824 kgC, 砂泥域652 kgC)と増加した。2018年には,創出岩礁性藻場面積は36,540 m2,増加砂泥性藻場面積は5,068 m2となり,増加炭素吸収量は4,658 kgC(創出岩礁域3,200 kgC, 砂泥域1,458 kgC)と更に増加した。製鋼スラグによる人工岩礁性藻場生育基盤の創出によって二酸化炭素吸収の効果が定量化できた。

  • ナーライリ フマイダ, 中井 智司, 西嶋 渉, 後藤 健彦
    2021 年 34 巻 1 号 p. 18-26
    発行日: 2021/01/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,Aurantiochytrium sp. L3W株の培養による味噌製造プロセス排水や大豆煮汁排水からの溶存有機炭素(DOC)及び溶存窒素(DN)の除去,ならびに同株バイオマスとドコサヘキサエン酸などの脂肪酸の生産に対する影響を評価した。希釈によりバイオマスと脂質生産量は減少したが,DOC及びDN利用におけるバイオマスの収率は希釈により増加した。また,5倍以上の希釈により,味噌製造プロセス排水や大豆煮汁排水のDN濃度は東広島市の下水放流基準以内にあったが,DOC濃度は20倍希釈を行ってもBODの放流基準を超過すると推定された。さらに,希釈によってL3W株のDHA生産も抑制されたが,L3W株バイオマス中のDHA含有量は大豆煮汁排水10倍希釈液10.7 mg/g, 味噌製造プロセス排水20倍希釈液では16.8 mg/gに達した。

  • 利谷 翔平, 周 勝, 細見 正明
    2021 年 34 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2021/01/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    養豚におけるふん尿処理技術である堆肥化や浄化は,環境負荷ガス(NH3や温室効果ガスのCH4およびN2O)の排出や,堆肥の供給過剰,一律排水基準の遵守が十分にできないという課題がある。本研究では,慣行の養豚経営(飼料生産,豚舎,堆肥化,排水処理,堆肥の農地施用)(慣行システム)と,ふん尿処理に乾式メタン発酵と多収米水田を用いる乾式システム(飼料生産,豚舎,乾式メタン発酵,発酵残渣の多収米水田施用)の炭素および窒素収支を解析し,環境負荷を比較した。

    飼料生産,農地および多収米水田以外の炭素および窒素収支を解析した結果,いずれのシステムにおいても豚舎からの炭素の流出が過大評価されたものの,他の工程では収支がほぼとれた。

    システム全体からのNH3排出量は,慣行システムの1.5 kg N/頭/年に対し,乾式システムでは多収米を輸入飼料の一部と代替(代替率10% wet)することで1.1 kg N/頭/年に削減された。溶脱や処理水の放流に伴う水系への窒素放出量は,慣行システムの4.3 kg N/頭/年に対し,乾式システムでは,ふん尿由来窒素が排水処理されることなく全て発酵残渣に移行し,そのまま水田に施用されるため,3.0 kg N/頭/年となった。

    温室効果ガス排出量は,慣行システムでは396 kg CO2-eq/頭/年だった。一方,乾式システムにおける温室効果ガス総排出量は437 kg CO2-eq/頭/年と慣行システムより高ったものの,メタン発酵で生成したバイオガスを再生可能エネルギーとして場内外で利用することで正味298 kg CO2-eq/頭/年となった。

    以上より,養豚において乾式メタン発酵と多収米水田を組み込むことによる環境への優位性を示すことができたと考えられる。

研究資料
  • 苗村 晶彦, 初山 守, 奥田 知明
    2021 年 34 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2021/01/31
    公開日: 2021/01/31
    ジャーナル フリー

    降水中のNO3濃度が低く,基盤岩が四万十帯の主に砂岩・泥岩・礫岩である渓流水質を調査した。具体的な調査地は和歌山県南部の古座川水系源流域で標高35~410 mの9地点で,平水時に渓流水を採取し,渓流水中のCl濃度,NO3濃度および硬度を調べた。結果,古座川水系源流域の渓流水中のCl濃度は平均90.7 μM,NO3濃度は平均4.27 μM,硬度は平均9.19 mg L−1となった。Cl濃度は採取標高地点と指数近似すると標高依存性が確かめられた。また,NO3濃度は非常に低く,夏調査において七川ダム上流の源流域では検出限界値以下であり,越境汚染の影響調査をする際にコントロールとなる清流であることも分かった。

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