環境科学会誌
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34 巻, 3 号
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総合論文
  • 川西 正人, 藤倉 良, 加藤 真, 森實 順子
    2021 年 34 巻 3 号 p. 124-138
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    パリ協定における透明性枠組み強化のための開発途上国との協力は,協定の実効性を高める上で不可欠な課題である。しかし,京都議定書の報告義務の下で先進国が経験した教訓に照らしながら,開発途上国の現状を理解し,望ましい協力のあり方を考察した先行研究は少ない。本稿では,日本の経験をレビューした上で,東南アジア3ヵ国(インドネシア,ベトナム,タイ)における国家温室効果ガス(GHG)インベントリの策定体制について比較研究を行った。日本では,京都議定書の下で定量的な排出削減義務を負ったことが,GHGインベントリの継続的な質の向上への強い動機付けとなり,さらには自国の研究基盤が質向上を可能とした。東南アジア3ヵ国では,GHGインベントリ算定における国内専門家の関与のあり方がそれぞれに異なり,それは研究基盤に関する各国間の相違に起因している。また,3ヵ国のいずれにおいても,関連研究の成果をGHGインベントリに取り込むための体系的な仕組みが構築されていない。開発途上国のGHGインベントリ策定をより持続可能で精度の高いものにするためには,当該国における研究者とそのネットワークを行政が支援し取り込んでいけるような仕組みづくりが有効である。

一般論文
  • 村上 一真
    2021 年 34 巻 3 号 p. 139-151
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    市民共同発電の外部性として,住民の街なかの市民共同発電に係る知覚・認知や他者との会話が,自宅での節電行動に影響を与えるか,さらに他の住民に節電行動を勧める行為に影響を与えるかを,湖南市と守山市それぞれの住民への質問紙調査データを用いた分析により明らかにした。その際,街なかの太陽光発電と緑のカーテンに係る知覚や他者との会話が与える影響との比較分析を行った。結果,湖南市でのみ,市民共同発電に係る知覚・認知が自宅での節電行動促進に影響を与えること,市民共同発電に関する会話が他の住民に節電行動を勧める行為に影響を与えることが明らかになった。また太陽光発電に関する会話は,両市ともに他の住民に節電行動を勧める行為に影響を与えること,緑のカーテンに関する会話は,両市ともに自宅での節電行動および他の住民に節電行動を勧める行為に影響を与えることが明らかになった。さらに両市ともに,市民共同発電に関する会話は,緑のカーテンに関する会話よりも,他の住民に節電行動を勧める行為に与える影響が小さいことが示された。

  • 山田 大地, 成田 大樹
    2021 年 34 巻 3 号 p. 152-161
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    メタンは重要な温室効果ガスの一つであり,気候変動政策として排出削減が求められている。本研究では日本における主要なメタン排出源の一つである廃棄物処理分野(一般・産業廃棄物,し尿・有機性汚泥,家畜糞尿を本研究では対象とする)に注目し,当該分野での日本の全国規模でのメタン排出削減可能量と限界削減費用(MAC)曲線を独自に推計した。日本の廃棄物処理分野の現状を反映するため,2015年の実際の廃棄物処理データや日本のインベントリ情報を用い,また日本の廃棄物処理施設規模が諸外国と比較して小さく,スケールメリットの働きにくい状況である点を考慮している。また既存の炭素税の議論を鑑み,社会的に許容可能な程度の費用で実行可能な排出削減量を議論する。分析結果としては,排出削減策によりMACは大きく異なるが,年間約63–92千t(CO2換算で約160–230万t)程度のメタンが,社会的に許容可能な炭素価格以下のMACで排出削減可能となった。また既存の施設整備補助金等を考慮すると,年間85千t(CO2換算で約200万t)程度の排出削減が,排出削減主体にとって負のMAC(既存技術よりも安価,あるいは電力・熱回収等廃棄物処理に伴う収益の発生による)で導入可能なこともわかった。加えて,一般廃棄物処理の広域化が現状よりも進展した場合,許容可能な炭素価格以下でのメタン排出削減可能量がさらに増加することもわかった。これらの排出削減は,政策目標の176千tのメタン排出削減の実現において重要になりうるものである。

2019年シンポジウム
  • 手嶋 進, 原科 幸彦
    2021 年 34 巻 3 号 p. 162-171
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    再生可能エネルギーが主力エネルギーの一翼を担うという期待が高まる中,再エネ100%を宣言する企業も増えてきた。しかしながら,再エネ100%の理想を掲げても実際に達成した事例数はまだ限られており,達成の手法もあまり公開されていない。千葉商科大学では,まず,教員有志が再エネ100%の可能性を2014年から検討し,2017年に「自然エネルギー100%大学」に向けたプロジェクトを正式に発足させた。照明のLED化などの省エネ施策と,キャンパスから離れた場所に大学が所有する太陽光発電所の設備を増設し,キャンパス内建物屋上に太陽光発電設備を設置する創エネ施策を実施した結果,2019年1月末までの1年間でキャンパスの年間電力使用量と同量以上の電気を作るという目標を達成することができた。本稿では,再エネ100%を目指す他大学や事業者の参考となるように,再エネ100%達成という理想と経済性などの制約との間でいかにバランスをとって施策実行したかを実行当事者としての立場で報告し,一定の成果を上げることができた要因について考察する。

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