環境科学会誌
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34 巻, 6 号
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総合論文
  • 白井 信雄, 西村 武司, 中村 洋, 田中 充
    2021 年 34 巻 6 号 p. 231-246
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    気候変動の地域への影響評価と適応策の検討において,自然科学的アプローチとともに,社会科学的アプローチが必要である。社会科学的アプローチには,自然科学的アプローチだけでは不十分な次の4点,すなわち,(1)社会経済面も含めた影響の全体解明,(2)弱者の視点での影響評価,(3)構造的適応策(感受性の改善)の検討,(4)住民や事業者の参加と学習の促進(適応能力の向上)について,補完し,強化する役割があるためである。

    この社会科学的アプローチの有効性を明らかにすることを目的として,本稿では,日本において関連する社会科学的アプローチのうち,「地域主体とともに影響構造の把握から適応策の立案を図る研究」として位置づけられる2つの研究を報告した。1つは,既存論文で報告している長野県高森町における市田柿に関する適応策のアクション・リサーチである。もう1つが岡山県備前市日生地区における水産業への気候変動の影響に関する研究である。

    これらの2つの研究は,気候変動の影響を受ける生産者(農業従事者あるいは漁業者)に対するインタビュー調査及びアンケート調査を実施し,地域の特殊な状況を反映した気候変動の影響構造を明らかにした。また,その特殊な状況に対応する,経営面に踏み込んだ地域ぐるみの適応策の可能性を提示した。

    本稿が社会科学的アプローチによるアクション・リサーチが各地で展開される際の一助になることを願っている。

一般論文
  • 丸本 倍美, 丸本 幸治, 野田 和俊
    2021 年 34 巻 6 号 p. 247-255
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    人力小規模金採掘(Artisanal and Small Scale Gold Mining,以下ASGM)は,地球上での人為起源の水銀の最大の排出源である。現在までに,安価で容易に気中水銀濃度をモニタリングするため,水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance,以下QCM)法を利用した気中水銀の簡易測定装置(QCM-Hg)の開発が進んでいる。本QCM-Hgを用いてはWHOが規定する作業環境基準である1 µg/m3程度における有効性の検討がなされてきた。しかしながら,実際のASGMでは基準値を上回る気中水銀濃度下で作業することが多く,健康被害につながる可能性が大きい。そのため,個人の曝露量や生体蓄積量を把握できる個人曝露モニターの開発が急務である。QCM-Hgは小型かつ軽量のため,そのモニターへの応用が期待されているが,QCM-Hgの測定値が実際の生体への曝露量を反映しているのかは明らかになっていない。そこで,個人曝露モニターとしての有効性を,ラットを用いた動物実験により検討した。併せて,QCM-Hgの1 µg/m3以上における有効性を検討した。その結果,ラットにアクティブ方式のQCM-Hgを装着し,水銀蒸気曝露実験を行ったところ,QCM-Hgの振動数および素子への水銀吸着量と,曝露後のラットの諸臓器中の総水銀濃度との間に相関がみられた。ラットにパッシブ方式で実験を行うと,QCM-Hgの振動数はラットの動きや呼吸による水蒸気により変動することが分かった。今回の研究により,QCM-Hgを個人曝露モニターとして利用する際にはパッシブ方式は適さず,アクティブ方式に適していることが示唆された。

  • 棟居 洋介, 増井 利彦, 金森 有子
    2021 年 34 巻 6 号 p. 256-269
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    わが国では2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行され,2030年度までに食品ロス発生量を2000年度レベルから半減させることが目標となっている。しかしながら,食品ロスの発生が環境,経済,社会に与える影響については定量的な知見が少なく,削減対策を効果的に実施するために,食品ロス発生による影響が大きいサプライチェーンの段階,品目を明らかにすることが喫緊の課題となっている。そこで本研究では,食品ロスの発生による環境と経済への影響に焦点を当て,食品製造業,食品卸売業,食品小売業,外食産業,および一般家庭において扱われる食品(食用農林水産物19品目,加工食品29品目)を対象として,食品ロスの発生に起因する温室効果ガス排出量,土地・水資源の損失量,および食品の経済的価値の損失額を推定した。2015年を対象に分析した結果,同年のわが国の食品ロスの総発生量は646万tであったが,上位10品目で総発生量の75.6%を占めていることが示された。また,食品ロスの発生によりサプライチェーンを通して直接的,間接的に発生した温室効果ガスは1,566万t CO2 eqと推計され,同年のわが国の温室効果ガス発生量の1.2%に相当することがわかった。天然資源については,国内外において農業生産時に111万haの土地資源と,4億3,870万m3の水資源が食べられずに廃棄された食品の生産に利用された。さらに,食品の経済的価値の損失は年間4兆5,870億円と推定され,国民一人当たり年間3万6,000円相当となった。本研究から得られた基礎的な知見を考慮して削減対策の優先順位を設定することにより,より効果的な食品ロスの削減対策の遂行が期待される。

  • エムデイ ナズマル ハサン, 中井 智司, 西嶋 渉, 後藤 健彦, 末永 俊和
    2021 年 34 巻 6 号 p. 270-280
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,ポリエチレン(PE),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリ塩化ビニル(PVC)に吸着した2,4,5-トリクロロフェノール(TriCP)の光分解に対するプラスチックのエイジングの効果を評価した。ガラスやこれらバージンプラスチック上での光分解速度を比較した結果,バージンPE上ではTriCPの光分解は促進されるが,PETやPVC上では光分解が抑制されることが明らかとなった。また,エイジングしたPE, PET, PVC上ではガラスや各々のバージン試料よりも分解が遅かった。これより,プラスチックのエイジングは吸着したTriCPの光分解の速度に影響することが確認された。エイジングしたプラスチックの表面を分析した結果,プラスチック表面には隆起が多く認められた。また,UVに対する透過性も低下しており,TriCPに作用するUV強度の低下がエイジングによる分解抑制の一因であることが示された。その一方で,プラスチックのメタノール抽出物はTriCPの光分解を抑制した。プラスチックの構造や光の透過性,プラスチック添加物の放出は実環境でも生じうることから,吸着した有機汚染物質の運命の評価の際には,こうしたエイジングによる効果を考慮する必要がある。

研究資料
  • 森島 隆宏, 栗栖 聖, 中谷 隼, 青木 えり, 森口 祐一
    2021 年 34 巻 6 号 p. 281-288
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    日本では現在,低所得層の割合が増加し,特に子どもの貧困率が上がっている。まだ食べられる食品を収集し低所得世帯に提供するフードバンクは食品廃棄物と貧困の双方の問題解決に貢献しうるが,提供される食品は乾物類が中心となり野菜が不足する点が指摘されている。本研究では市民農園の野菜をフードバンクなどの食料支援団体を通じて低所得層に提供するシステムを将来的に構築できないかと考え,その第一段階として野菜の受け取り手である食料支援団体の現状および市民農園との連携可能性に関して明らかにすることを目的とし,日本全国のフードバンクおよびこども食堂に対し2019年12月にアンケート調査を実施した。フードバンク38団体およびこども食堂94団体より回答を得た。

    食料支援団体は当初想定した以上に農家から野菜提供を受けていた。しかし,フードバンクはこども食堂よりその割合は少なかった。市民農園との連携に関しては,こども食堂の9割近くが連携に積極的な回答であったのに対し,フードバンクおよび特にこれまで野菜を取り扱っていない団体は連携に消極的だった。既往の野菜取り扱い経験に加えフードバンクでは提供時期および品質・種類への懸念が,連携可能性に有意に負の影響を与えていた。

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