環境科学会誌
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36 巻, 2 号
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一般論文
  • 棟居 洋介, 増井 利彦, 金森 有子
    2023 年 36 巻 2 号 p. 15-27
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    わが国では食品ロスの発生量を2030年度までに2000年度比で半減させることが目標となっているが,その国際食料市場を通した環境・経済・社会への影響については不明な点が多い。わが国は食料供給の多くを輸入に依存しているため,食品ロスの削減は国内外において食料生産を減少させ経済的な損失をもたらす可能性がある一方で,食品ロスに起因する天然資源の浪費や温室効果ガスの過剰な排出を抑制し,栄養不足人口の減少につながる可能性もある。そこで本研究では,2015年の社会・経済状況を前提として,わが国が主要な貿易品目について食品ロスの半減目標を達成し,結果として同年の食品ロス発生量646万tの10.1%を削減できた場合の影響について食料貿易モデルを用いて推定した。分析の結果,世界全体の食料生産額は国際価格換算で27.0億ドル減少すると推定された一方で,農業生産時の土地資源と水資源の利用量は,農作物の生産量の減少により世界全体で各々3万7,800 ha,7,870万m3抑制されると推定された。また,食料生産に起因する温室効果ガスの排出量も世界全体で94.0万t CO2eq減少することが示された。さらに,世界全体の食事エネルギー供給量は,わが国が削減した食品ロスの食事エネルギー換算量の43.9%に相当する8.62×1011 kcal増加し,これにより世界全体で栄養不足人口が59.1万人減少すると推定された。これらの結果から,わが国の食品ロスの削減対策は,国際食料市場を通して経済面では負の影響をもたらす可能性がある一方で,環境面と社会面における課題を同時に解決する可能性があることが示された。

  • 豊永 悟史, 小原 大翼, 宮崎 康平, 古澤 尚英
    2023 年 36 巻 2 号 p. 28-41
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    地方環境研究所(以下,「地環研」)は,都道府県及び指定都市(以下,「都道府県等」)の出先機関として環境行政を推進するための調査や研究を担っており,その研究成果は都道府県等の行政施策へ活用されること(以下,「行政活用」)が求められる。そこで,研究成果の行政活用の実態とそれに影響する要因を把握することを目的としたアンケート調査を行った。全国的な政策課題であるPM2.5に関する研究を対象として,関連業務を担当する地環研と行政部署に対して,それぞれ個別にアンケートを送付し回答を得た。個別の研究単位では,「活用有」と回答された研究は25%(n=36),「活用無」と回答された研究が72%(n=104),「無回答」が3%(n=5)であり,「活用無」の研究が大半を占めた。都道府県等単位では,「活用有」の研究がある地環研では,「活用有」の研究がない地環研に比べて実施した研究の数が多いという関係が認められた(p<0.05)。この結果から,研究の数が多く「活用有」の研究がある地環研(n=12),研究の数が多く「活用有」の研究がない地環研(n=13),研究の数が少なく「活用有」の研究がない地環研(n=22)の3タイプに地環研を分類することができた。個別の研究の行政活用の有無及び地環研のタイプごとに,各回答項目を集計した結果に統計検定を適用し,研究成果の行政活用に影響を与える主な要素を評価した。その結果,研究単位では研究の「立案・計画」及び「取組体制」の二つの要素が,都道府県等単位では「専門性」と「行政部署との連携」の二つの要素が影響していると推測された。これらの要素は相互に関連しており,行政活用を推進していくためにはバランスを維持しながら各要素を強化していくことが重要であると考えられた。

  • 島崎 洋一
    2023 年 36 巻 2 号 p. 42-52
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    農業分野において果樹の気候変動適応は最優先事項である。従来,果樹の気候変動適応の環境要因として,主に気温などの気象条件が考えられていたが,地形や土壌などの立地条件も考慮することは不可欠である。本研究では,気候変動適応の観点から,果樹特産地域における果樹栽培別の環境要因の特徴を定量的に明らかにすることを目的とする。対象地域は山梨県中北地域である。航空写真および農地区画単位を参照することにより,9種類(ブドウ・モモ・サクランボ・カキ・リンゴ・田・畑・その他・転用地)の栽培を識別した。地理情報システムを用いて,対象地域における栽培面積と土壌面積のオーバーレイ解析を適用して,果樹栽培と土壌(土壌分類・土性区分)の関連性を解析した。さらに,不定形な農地のポリゴンデータを定形のメッシュデータに分割するプログラムを作成して,土壌以外の環境要因について栽培別の加重平均値を算出した。解析の結果,対象地域における5つの果樹栽培の面積割合は15.1%である。果樹全体の土壌大群の割合は,黒ボク土が9.5%,低地土が53.1%,褐色森林土が35.2%である。ブドウやカキが褐色森林土,モモとサクランボが低地土,リンゴが黒ボク土の割合がそれぞれ最も高いことがわかった。地域全体の土性区分の割合と比較して,ブドウは表層および下層において強粘質の割合が高いことがわかった。これはブドウがモモに比べて耐湿性と耐乾性が強いため,土性区分が強粘質でも栽培が可能であることが考えられる。また,モモは壌質の割合が高いことがわかった。これはモモがブドウに比べて深根性であるため,土性区分は強粘質より壌質の方が望ましいことが考えられる。平均傾斜角度の加重平均値は,地域全体が3.8度に対して,サクランボが1.6度,ブドウが2.9度,モモが3.0度,カキが3.7度,リンゴが4.8度であり,果樹栽培別に違いが見られた。

2021年シンポジウム
  • 田崎 智宏, 亀山 康子, 増井 利彦, 高橋 潔, 鶴見 哲也, 原 圭史郎, 堀田 康彦, 小出 瑠
    2023 年 36 巻 2 号 p. 53-82
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    サステイナビリティ・サイエンスは21世紀の人類の存続にとっての重要な科学であり,2000年頃以降,その発展が行われるよう様々な試みが行われてきた。一方,2015年以降の環境政策は目指すべき社会ビジョンの更新を伴いつつ大きな展開を見せている。本稿では,そのような時代のニーズに適合したサステイナビリティ・サイエンスの展開を見据え,これまでのサイエンスの動向とサステイナビリティの概念の具体化の進展を確認したうえで,人間–地球環境システムの複雑性のもとでの理解と社会としての認知,社会目標の再考と将来継承性,人間–地球環境システムの転換の3つの観点から,人新世の時代におけるサステイナビリティ・サイエンスの展開を論じた。最終的にまとめた11の論点として,例えば,複雑な人間–地球環境システムのより包括的な理解は大幅に進められてきたが,研究の数が増えているからといって重要なサステイナビリティ問題が必ずしもカバーできているわけではなく,サブシステム間の相互作用を本格的に扱う研究は発展途上であること,社会目標の再考や高次のニーズのクライテリアの設定においてはトランス・サイエンスの観点から社会との対話を続けて民主性と科学性の両立を図ること,経済成長・GDPに変わる社会目標として幸福度の研究が進展しているが「人生の評価」としての幸福度の研究への展開や因果推論などに研究課題を残していること,世代間問題の解消・緩和という研究と実践が進展しはじめているが多くの研究課題を残していること,ビジョンの形成からスタートし試行検討を通じてシステム転換を図る創発型の政策アプローチは従来の環境政策アプローチとは大きく異なるという認識が必要で,共創や協働,ネットワーク型のガバナンス手法を採用しながら実践知を獲得すべきこと,上記のための人材育成やその教育効果の実証研究が求められることなどを指摘した。

  • 増井 利彦, 高橋 潔
    2023 年 36 巻 2 号 p. 83-93
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    2015年に採択されたパリ協定のもと,産業革命前からの世界平均気温を1.5°Cに抑える「1.5°C目標」の実現に向けて,国際社会や多くの国は排出削減目標や取り組みを公表している。そうした背景にあって理論的な支えとなっているのがモデルによる定量的な分析である。気候変動問題は世界全体,100年以上という超長期に及ぶとともに,様々な学問分野に関わる巨大な問題であり,その理解や対策の提示は容易ではない。こうした状況で,政策決定者をはじめとするステークホルダーと様々な学問分野の間に立ち,政策的な要望を受けて科学的な知見を提供するインターフェースとしての枠組みが統合評価であり,モデルというツールを用いて統合評価を定量化するツールが統合評価モデルである。本稿では,統合評価モデルが気候変動問題にどのように関わり,どのような研究成果を政策決定者等のステークホルダーに提供してきたかを,国立環境研究所を中心に開発してきたAIM(アジア太平洋統合評価モデル)を例に,世界規模の視点,国の視点でそれぞれ説明するとともに,今後の研究展望について説明を行う。

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