環境科学会誌
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5 巻, 1 号
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  • 中村 邦彦
    1992 年 5 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     海洋の水銀汚染とその環境に生息する細菌の相互作用を,濃厚な水銀汚染の起こった水俣湾での研究を中心に総括した。 水俣湾の底質では,塩化第二水銀や,塩化メチル水銀,塩化エチル水銀,酢酸フェニール水銀,チメロサール,パラクロロ安息香酸水銀およびフルオレセイン酢酸水銀の有機水銀化合物に耐性のある水銀耐性菌の割合やこれらの水銀化合物を分解できる水銀分解細菌の出現頻度が,水銀汚染のない対照地点に比べて、かなり高いことが明らかになった。 また,水俣湾と対照地点の底質より,Bacillus属,Pseudomonas属,Corynebacterium属の細菌をそれぞれ分離し,これらの細菌の水銀化合物に対する耐性を比較したところ,水俣湾底質中では,水銀に耐性のあるPseudomonas属の細菌ばかりでなく,一般に水銀に耐性が低いBacillus属の細菌のなかにも,水銀濃度に比例して水銀化合物に対する耐性菌が出現していることが明らかになった。特に,水俣湾の底質から分離した1428株の細菌のうち,19株(1.3%)の水銀分解細菌は,上記の全ての水銀化合物を分解したが,水銀汚染のない対照地点の3176株では,この様な分解パターンを示すものはなかった。 更に,この水俣湾のBacillus属の有機水銀分解細菌について,水銀分解遺伝子の位置を,サザンプロットハイブリダイゼーション法で検討した結果,それらの遺伝子は,細菌の染色体DNA上に位置していることが判明した。 以上のことから,水銀に汚染された海洋環境においては,多くの種類の有機水銀化合物に耐性であり,これらの水銀化合物を分解できる能力を持った細菌が,自衛的進化を遂げて,出現して来ていることが明らかになった。また,これらの水銀分解細菌が,環境中の水銀化合物を分解することにより,自然界の水銀循環に深く関与しているものと推測された。
  • フェライト化廃液処理における有機物の影響
    来田村 實信, 渡辺 信久, 本田 由治, 高月 紘
    1992 年 5 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     湿式フェライト化処理法における有機化合物の影響を検討するため,クエン酸,メタノールおよびクエン酸にニッケルを混合した模擬廃液のフェライト化処理を行ない,得られたスラッジ(反応生成物)の飽和磁化(σ)を測定することにより,σ と希釈倍率(f)との関係を調べた。 有機物質含有廃液のσ-f曲線は重金属廃液のそれとは異なり,低f側で緩やかな傾きをもち,高f側でfの増加とともに四酸化三鉄(Fe3O4)の値92emu/gに徐々に漸近する。クエン酸は鉄イオンとともに液相に溶解しているため,飽和磁化にはあまり影響を及ぼさず,重金属廃液などの場合のようにσ の急激な低下は示さない。メタノールの場合は不純物の形成などが非常に少ないために,そのσ-f曲線はクエン酸のそれより水平軸に沿って低f側へ大きく移動する。 フェライトスラッジを有効利用する際に必要となるσ(=60emu/g)に対応する濃度はクエン酸の場合590mg/l,メタノールの場合286g/lであり,メタノールの廃液への混入はクエン酸に比べて,処理に対しほとんど影響を及ぼさないといえる。クエン酸とNiSO4のσ-f曲線の比較から,フェライトスラッジの有効利用を考えた場合,ニッケルよりもクエン酸含有廃液の方が処理困難であることがわかった。しかし,処理時の磁気による固液分離の容易さを考えた場合,逆にクエン酸よりもニッケル含有廃液の方が処理困難であるといえる。すなわち,クエン酸含有廃液からの生成スラッジは有効利用が困難であるが,磁気分離は含有濃度2200mg/lでも可能である。
  • 前田 滋, 大木 章, 中 建介, 吉福 功美, 有馬 裕之
    1992 年 5 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     九州地方でかつてヒ素に汚染されたことのある地域から採集した微生物群からスクリーニングしたヒ素耐性淡水産藻類を用いて,ヒ素汚染淡水の浄化を目的として,藻類の生育条件とヒ素生体濃縮の関係を研究した。 単離した藻類のうち,らん藻のヒドロコリウム属とミクロケーテ属について培養温度・培地成分と生育およびヒ素生体濃縮の関係を調べた結果,培養温度は両者とも35℃ が最適であり,培地成分は前者は貧栄養,後者は濃厚栄養の培地でそれぞれ生育が良かった。一方,水相からのヒ素生体濃縮に及ぼす培養条件は,生育の良否と一致せず,水相ヒ素の除去のためには生育量と生体濃縮の積を大きくする培養条件の設定が必要である。 藻類の生育およびヒ素生体濃縮は,単Jの純粋培養よりも複数の藻類が混在する系の方がいずれも大きいことを見いだした。 また供試藻類はヒ素を取り込むと同時にヒ素排出の挙動があることをつきとめ,緑藻クロレラ属に関して,生育曲線の各生育期における細胞内ヒ素濃度,水相ヒ素濃度の経時変化を表す半理論曲線式を導入した。この式によって,水相ヒ素濃度を最低にする生育条件を設定・制御できることが分かった。
  • 吉田 喜久雄, 茂岡 忠義
    1992 年 5 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    神奈川県東部地域を10km×10kmのエリアに分割し,開発した数学的モデル(MAC)により各エリア内の下層大気と表層土壌中の1,4-ジクロロベンゼン(DCB)の月別の濃度と挙動を評価した。 MACは大気相と土壌相から成る環境中の有機化学物質の月別の濃度と挙動を物質の物理化学的特性,地域の環境条件,月平均気象条件及び月別環境放出速度から評価する数学的モデルである。 モデルで評価された横浜市内の大気中DCB濃度は測定値とよく一致し,MACは有機化学物質の地域レベルの濃度と環境中挙動評価に有用と考えられた。定常状態時の月別の物質収支から,神奈川県東部地域の各エリアでのDCBの一般的な挙動は以下のように推定された。1)大気中に放出及び流入するDCBの大部分は年間を通じて移流と大気上層への拡散によりエリア外へ輸送される。2)大気から土壌への相間移動には拡散プロセスが年間を通じて大きく寄与し,降雨の寄与は少ない。3)土壌に移動したDCBの大部分は再び大気中に揮発し,微生物分解,表面流出及びリーチングの寄与は少ないが,夏場において微生物分解の寄与が若干大きくなる。 DCBの環境中の年平均濃度から人体への曝露量を推定した結果,大気からの吸入が主要な曝露経路であると判断された。
  • 矢澤 則彦, 金本 良嗣
    1992 年 5 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     近隣環境の価値をヘドニック・アプローチによって評価する場合,環境変数としてかなり広範囲の地域・区域を対象とした平均値(あるいは代表値)のデータを用いることが多かった。環境要因として局地的な効果が重要であることが多いので,このようなデータを用いた推定では近隣効果を正確に計測することは困難である。ところが,昨今の地図情報データシステムの開発により,きめ細やかなデータが利用可能となり,この面での障害がとり除かれつつある。また,騒音,大気汚染等の物理的な近隣環境変数(客観変数)間には一般的にかなりの相関が存在するので,多重共線性の問題が発生する。多重共線性の問題を解決する方法としては,物理的環境変数を比較的少数の環境要因に集計した主観的環境評価のデータを用いることが考えられる。 本稿の目的は,地図情報データシステムによる局地的な環境データとアンケート調査による主観的環境評価データをヘドニック・アプローチに導入することによって,推定結果がどのように改善されるかを検討することである。 川崎市を例にとった推定結果では,緑地面積のように狭い範囲の環境特性が有意となる変数が存在する一方で,商業施設面積のようにある程度広い範囲内の状況が有意となる変数も存在することがわかった。この結果は,変数によって良好な推定結果を与えるための適正な空間に差があることを示唆している。また,主観変数が客観変数より有意であるかについても変数の性質に依存する。
  • ―電子顕微鏡による観察と分析―
    田崎 和江, 石田 秀樹, 森山 清, 森 忠洋
    1992 年 5 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 1992/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     下水処理場における活性汚泥中のバクテリアが重金属を蓄積している姿を,電子顕微鏡で直接捕らえた。活性汚泥中の球菌及びかん菌の細胞壁は,Cu,P,Zn,Fe,A1の組成を含む50-300nmの厚い被膜で被われている。重金属により自然染色された細胞壁の周囲には,結晶性の物質が生成している。X線粉末回折分析の結果,この物質は,Cu(Al,Fe)6 (OH)8 (PO4 )4 4H2 0,または(Zn,Cu)Al6 (PO4 )4 (OH)8 5H2 0の組成をもっTurquoiseまたはFaustite様のリン酸塩鉱物である。室内実験により,一次処理水に亜鉛を添加し,活性汚泥中の亜鉛量とSRT(汚泥滞留時間)の関係を検討した。亜鉛を加えないコントロールに対し,0.5-5mg/1の亜鉛を加えた場合は,SRTを15日に制御した活性汚泥中に蓄積されたZnの量が最大となった。これらの結果は,バクテリアによる生体鉱物化作用が一次処理水中の重金属を取り込み,濃縮する能力のあることを示した。
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