中国黄土高原における土壌侵食問題の特質を検討するため,おもに降雨による侵食性と土壌の受食性について検討を加えた。1988~90年において現地で観測した降雨により,USLEの降雨係数Rを算定した結果,平均で41.85(m
2・tf/ha・h)を得た。また,傾斜試験枠での流亡土量から得た土壌係数Kは,0.43(t・h/m
2・tf)と推定された。 一方,土質試験の結果からも,黄土は安定性が低く,水を含むと容易に流動化する性質を有することが確認された。これらの結果は,黄土高原のはげしい水食現象が,降雨条件より土壌の性質などの他の因子によるものであることを示唆している。 調査流域河川(黄家河,流域面積684km2,本流延長40km,河川密度0.439km/km2,平均河川勾配4%)の流量,ならびに浮流土砂濃度を調査した。観測期間中の河川流量はおおむね0.5m3/s以下であり,流域の規模からすれば非常に小さい。渇水期比流量は0.01~0.02m3/s・100km2程度と推定され,利水面での難しさが想定される。黄家河における流量Q(m3/s)と浮流土砂濃度C(mg/l)の間には,logC=2.757+4.208Q,(r=0.815**)の関係が成立し,渇水ないし平水時においても浮流土砂濃度は非常に高い。河川への土砂流亡現象については,斜面が土砂生産源というより,斜面で発生する表面流出水が集中流下することによるガリ谷頭や側壁,流出経路の洗掘,崩壊が大きいように思われる。したがって,流域全体の保全を考えるには,植生により降雨を遮断し表面流出を抑制するとともに,流出水を合理的に排除する流域排水システムの構築が必要であろう。
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