本報では,大都市の中でも住宅地住民の持っている公害を含む生活上の迷惑・被害にかかわる意識を,公害等の範囲も種別もまた分類をもあらかじめ限定せず,住民の意識そのものに従って調査し把握しようとする。そのとき特に,住宅地を通過する幹線道路の沿道住民の意識と非沿道住民の意識とを対比して幹線道路の影響を明らかにする。 調査対象者として,住宅地内を通過する幹線道路の直近20m以内の沿道居住者とその幹線道路から300m以上離れた非沿道居住者をとった。調査法には,住民に対して生活の場の中で受けている迷惑・被害についての自由な記述を求める自由記述法を用いた。分析は,得られた回答を単語に分解し,単語の出現頻度について考察を加えるとともに,回答者群の記述した単語集合について,回答者によって同時に数多く記述された単語同士は関連性が高くなるような類似度を定義してクラスタ分析を行った。 単語の頻度分析の結果から,(1)音や自動車交通による被害・迷惑感は幹線沿道に固有の特徴ではなく,非沿道でもそれらは上位に見られること,(2)沿道に特徴的な語は「排気ガス」と「震動」であり,特に「震動」が「騒音」,「排気ガス」と同程度にかつ一体的に語られること,(3)音の認知の表現として,従来注目されにくかった「ひどい」が沿道では「うるさい」よりはるかに高い頻度で使われること,等が明らかになった。 クラスタ分析の結果からは,非沿道では都市計画,土地政策,道路政策,住宅政策にかかわる問題が指摘されるほか,住民や通行者のモラル,生活様式にかかわる問題が見いだされた。このことは,都市・生活型公害を解決するためには,物理的な環境整備だけでは目的を達成しえないことを示している。一方,沿道での主クラスタは,i)間近の幹線道路の交通公害を記述する語で構成され,ii幹線道路公害の主要3要素の「騒音,震動,排気ガス」とともに,当該の幹線道路名称が見いだされる,さらにiii)主クラスタ以外の語クラスタはほとんどが主クラスタの付属的描写や言い換えであり,その中には,主クラスタが概念的かつ対象に心理的距離をおいた表現であるのに対し,状況を感覚的かつリアルに述べるものも見いだされる,iv)幹線道路に由来する圧倒的に多い迷惑・被害感が非沿道の住宅地で見られる類の迷惑・被害感を覆い隠している,等が明らかになった。
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