日本顎口腔機能学会雑誌
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1 巻, 2 号
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  • 木竜 徹
    1995 年 1 巻 2 号 p. 233-241
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    動的運動時の複雑な生体機能の変化を解析する方法は, 生理学, バイオメカニズム, 生体工学, リハビリテーション工学, スポーツ科学など幅広い分野に役立つ.しかし, 静的運動時で用いられた解析法をそのまま動的運動時の解析にあてはめることはできない.ここでは, 最初に, 動的運動時表面筋電図計測で問題となる神経支配帯の影響を避ける方法として, 多チャネルアレイ電極が適していることを述べる.次に筋張力から明らかにできない筋活動の生理的要因の解析を目指して, 時変性ARモデルパラメータおよび多次元評価指標のKL展開による解析法を説明する.
  • ―Angle I級叢生例―
    石川 晴夫, 中村 俊弘, 新井 一仁, 小林 慶介, 仲谷 豊
    1995 年 1 巻 2 号 p. 243-248
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 矯正治療の咀嚼運動への影響を検討することである.被験者として矯正治療前後のAngle I級叢生患者10名および正常者例として機能的にも形態的にも正常と考えられる個性正常咬合を有する20名を用いた.各被験者についてガム咀嚼時の咀嚼運動をMKGで記録し, その後咀嚼運動自動分析システムを用いて比較, 検討を加えた.咀嚼運動経路の評価指標には, 開口量, 運動経路の安定性を表す開口時側方成分, 閉口時側方成分, 垂直成分の各標準偏差を開口量で徐算する指標standard deviation/opening distance (SD/OD) を用いた.その結果, 矯正治療後の咀嚼運動は, 個性正常咬合者の正常域に近づく傾向を有し, 矯正治療前後の比較では, 開口量においては矯正治療後に高度に有意な増加が, 開口時側方成分のSD/ODにおいては, 矯正治療後に有意な減少が, そして垂直成分のSD/ODにおいては, 高度に有意な減少がそれぞれ認められた.
    本研究から矯正治療による形態的不正の改善が咀嚼運動経路の改善にも明らかに影響を与えているものと考えられた.
  • ―下顎運動と咀嚼筋筋活動―
    志賀 博, 小林 義典, 中島 邦久, 小林 延彦
    1995 年 1 巻 2 号 p. 249-260
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    ヒトの咀嚼運動における食品の大きさの影響を調べる目的で, 咀嚼中に硬さと大きさを保つチューインガムを被験食品として選択し, 正常者10名にチューインガム1枚 (1G) , 2枚 (2G) , 3枚 (3G) , 4枚 (4G) の4種類のガム咀嚼時における咀嚼開始後第5サイクルからの10サイクルの運動経路, 運動リズム, 運動速度, 咀嚼筋筋活動を分析した.結果は, 以下の通りである.
    1.開口量と咀嚼幅は, 食品の大きさが増大するに従って徐々に大きくなり, 開口量ではすべてのセッション間, 咀嚼幅ではIGと3Gとの間, IGと4Gとの間に有意差が認められた.
    2.運動リズム
    咬合相時間は, 食品の大きさが変化してもほぼ同じ値を示し, いずれのセッション間にも有意差が認められなかった.
    開口相時間, 閉口相時間, サイクルタイムは, 食品の大きさが増大するにつれてわずかに延長し, 1Gと4Gとの間, 2Gと4Gとの間に有意差が認められた.
    3.運動速度
    開口時最大速度と閉口時最大速度は, 食品の大きさが増大するに従って大きくなり, 開口時最大速度では1Gと他のセッションとの間, 2Gと4Gとの間, 閉口時最大速度では1Gと他のセッションとの間にそれぞれ有意差が認められた.
    4.咀嚼筋筋活動
    咬筋と側頭筋の積分値は, 食品の大きさが増大するに従って大きくなり, 咬筋では1Gと他のセッションとの問, 側頭筋では1Gと3Gとの間, 1Gと4Gとの間にそれぞれ有意差が認められた.
    5.以上のことから, 咀嚼時の食品の大きさが変化するに従って, 咀嚼運動を定量的に表わす運動経路, 運動リズム, 運動速度, ならびに咀嚼筋筋活動の各指標の一つあるいは総てが変化することが明らかになった.これは, 末梢からの感覚入力の変化が咀嚼運動に影響を及ぼすことを示すものと考えられる.
  • ―クリッキング音の大きさと音響スペクトルとの関係について―
    大井 啓司, 中野 雅徳, 坂東 永一, 郡 元治, 近藤 宏治, 山内 英嗣, 佐藤 裕
    1995 年 1 巻 2 号 p. 261-267
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的はクリッキング音の音響特性について検討することである.本論文ではその基礎的研究としてクリッキング音のピーク音圧レベルとMean Power Frequency (MPF値) について解析を行い, 両者の関係を検討した.研究の対象は復位を伴う関節円板前方転位に起因する片側性のクリッキング患者6名である.クリッキング音は顎機能診断システムにより6自由度顎運動と同時に測定された.以下に結果を示す.
    1.クリッキング音の大きさをピーク音圧レベルで表すと各被験者の平均値は78.2dB~103.2dBに分布した.
    2.各被験者のMPF値の平均値は428Hz~758Hzに分布した.
    3.クリッキング音のピーク音圧レベルの上昇に伴いMPF値が高域にシフトしたものが4名, 低域にシフトしたものが1名, 特別な変化を示さなかったものが1名であった.
  • 郡 元治, 上田 龍太郎, 竹内 久裕, 重本 修伺, 中野 雅徳, 坂東 永一
    1995 年 1 巻 2 号 p. 269-274
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では, 磁気位相空間を応用した試作6自由度顎運動測定器を用いて女性健常被験者について顎運動測定を行ない, 既に報告されている男性被験者における各種顎運動パラメータと比較するとともに, 顎運動測定器についても検討を行った.
    1.下顎限界運動範囲に関するパラメータでは男女間の体格差によると思われる有意差が認められるものが多かった.
    2.滑走運動に関するパラメータでは, ほとんど有意差は認められなかった.
    3.習慣性開閉口運動に関するパラメータの一部で, 性差が認められたが, これは測定誤差によると思われ, 顎運動測定器の精度の向上が必要と考えられた.
  • 今井 英一, 吉野 建二, 新谷 明幸, 古屋 良一, 川和 忠治
    1995 年 1 巻 2 号 p. 275-280
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    歯科臨床において, 顎口腔機能障害患者に対する咬合改善は顎口腔系の症状のみならず不定愁訴などの全身的な症状をも緩解することが報告されている.しかしながら, 咬合異常が全身に及ぼす影響について実験的に調べた研究は少ない.特に自律神経系に及ぼす影響についてはいまだ明らかにされていない.本研究は, 片側の咬合を挙上することにより実験的に咬合異常を引き起こし, これが自律神経系の調節を受けている血圧に及ぼす影響について検討した.実験には無麻酔のWistar系雄性ラットを用い, 血圧測定には非観血式血圧測定装置を用いて尾動脈から収縮期血圧を測定した.片側の咬合挙上は上顎右側を挙上側とした咬合挙上装置を歯科用セメントにて装着して行った.挙上量は1mm, 2mm, 3mmとし, 装着期間は20日間とした.1mm挙上群の血圧は装着前と比べ有意な変化は認められなかった.2mm挙上群では, 装置の装着後3日目を除いて装着後1日目から除去後1日目まで装着前の血圧との間に危険率5%で有意差があり, 血圧の上昇が認められた.3mm挙上群では装着前と比較した場合, 装置装着1日後から20日後まで危険率1%で有意差が認められ, 著明な血圧の上昇が観察された.また, 装置の除去により血圧は装着前のレベルまで回復し, 除去1日後ですでに装着前と比べ有意差は認められなくなった.
    片側咬合挙上装置の装着期間中, 実験動物には体重の減少が認められたことから, 摂食行動の制限が二次的に血圧の上昇をもたらす可能性が考えられた.そこで, 体重減少の影響を検討するため, 一定期間の絶食を行い, 血圧の変動を観察した.その結果, 体重は絶食にともなって有意に減少したが, 血圧には有意な変化はみられなかった.したがって, この血圧上昇は片側の咬合挙上が第一義的な原因となって引き起こされることが示唆された.さらに, この血圧上昇における交感神経系の関与を調べるために, α受容体の遮断剤であるprazosinとβ受容体の遮断剤であるpropranololを用い, 血圧と心拍数に対するそれらの効果を検討した.3mm片側挙上を行ったとき, 血圧は上昇したが, 心拍数には変化は認められなかった.prazosin投与により血圧は有意に低下し, 心拍数に増加の傾向が認められた.一方, propranolol投与では, 血圧は有意に低下し, 心拍数にも減少の傾向が認められた.
    本研究において, 咬合異常がラットの血圧に影響を及ぼすことが明らかとなった.そして, そのメカニズムには交感神経系の活動亢進が関与していることが示された.これらの結果から, 咬合異常が自律神経系を介して全身機能に変化をもたらすことが推察された.
  • ―正常被蓋と反対被蓋における応答性の比較―
    鎌田 茂, 藤田 幸弘, 相馬 邦道
    1995 年 1 巻 2 号 p. 281-287
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    ヒト咀嚼運動の閉口相終末期にみられる作業側から中心咬合位への側方運動に関し, 作業側上顎犬歯歯根膜の圧刺激により誘発される反対側側頭筋motor unitの興奮1生の応答が, 咬合状態の違いにより影響を受けるか否かを調べるため, 上顎犬歯が正常被蓋にあるものと反対被蓋にあるものを被験歯とし, 側頭筋motor unitの応答について比較検討した.被験者は個性正常咬合を有し, 上顎犬歯が正常被蓋にあるもの6名, 反対被蓋にあるもの2名とした.圧刺激の大きさは約100~800gfとし, 方向は舌唇 (D1) 方向および唇舌 (D2) 方向とした.被験筋は非作業側の側頭筋前部とし, 針電極により, 自発放電しているmotor unitを選択的に導出した.上顎犬歯に刺激を加えている間, 上下の歯は接触させず, 下顎の位置は切歯点で約2mm側方へ偏位させた状態を保ち, MKGを用いて被験者にフィードバックさせた.
    その結果, 正常被蓋にある作業側上顎犬歯に舌唇 (D1) 方向の圧刺激を加えたところ, 側頭筋motor unitに刺激に応じた興奮性の応答が認められた.唇舌 (D2) 方向の圧刺激に対しても同様の傾向が認められたもののその応答性は低かった.
    一方, 反対被蓋にあるものについては, 正常被蓋にあるものとは異なる応答性を示した.すなわち, 舌唇 (D1) 方向の圧刺激にはほとんど応答変化が認められなかったのに対し, 唇舌 (D2) 方向の圧刺激に対して刺激に応じた興奮性の応答変化が認められた.
    以上の結果より, 咬合状態が異なると同一方向の圧刺激を加えても側頭筋motor unitは異なる応答を示し, 作業側上顎犬歯と反対側側頭筋における反射性の応答は, 咬合の状態によって影響を受け, それを反映して異なる応答性を示す可能性が示唆された.
  • 津賀 一弘, 山内 順, 田中 秀司, 出崎 雅和, 日浅 恭, 西中 寿夫, 大川 周治, 赤川 安正
    1995 年 1 巻 2 号 p. 289-297
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では, 下顎支持要素 (Mandibular supPorting composite) を「頭蓋に対する下顎の3次元的位置付けに関与する弾性要素, 粘性要素および筋の収縮要素の集合体」として定義し, 筋群以外の組織も包括した下顎支持要素の受動的な運動特性を測定することにより, 顎口腔機能異常者における咀嚼筋群の自覚的症状の新しい客観的臨床評価手段を開発しようとした.成人男性2名の被験者に下顎全歯牙を被覆する荷重用レジンシーネを装着させた.安静位をとらせた後, 下顎歯列に瞬間的に荷重し, その際の下顎の動きと筋の活動電位を同時に記録した.また, 最大咬みしめを自覚的限界まで可及的に長時間行わせることにより疲労感を惹起した場合においても同様に荷重し, 下顎の動きと筋活動を同時に捉えることで受動的運動応答性を評価した.
    その結果, 荷重により開口する様相が明らかとなったのに加え, その時間的経過にはある程度の再現性があること, またその様相は被験者毎に各人の下顎支持要素の特性を反映している可能性などが示された.さらに筋の疲労感がある場合, 自覚的な疲労感に対応してこれらの運動応答性にも変化が見られた.
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