ヒトの咀嚼運動における食品の大きさの影響を調べる目的で, 咀嚼中に硬さと大きさを保つチューインガムを被験食品として選択し, 正常者10名にチューインガム1枚 (1G) , 2枚 (2G) , 3枚 (3G) , 4枚 (4G) の4種類のガム咀嚼時における咀嚼開始後第5サイクルからの10サイクルの運動経路, 運動リズム, 運動速度, 咀嚼筋筋活動を分析した.結果は, 以下の通りである.
1.開口量と咀嚼幅は, 食品の大きさが増大するに従って徐々に大きくなり, 開口量ではすべてのセッション間, 咀嚼幅ではIGと3Gとの間, IGと4Gとの間に有意差が認められた.
2.運動リズム
咬合相時間は, 食品の大きさが変化してもほぼ同じ値を示し, いずれのセッション間にも有意差が認められなかった.
開口相時間, 閉口相時間, サイクルタイムは, 食品の大きさが増大するにつれてわずかに延長し, 1Gと4Gとの間, 2Gと4Gとの間に有意差が認められた.
3.運動速度
開口時最大速度と閉口時最大速度は, 食品の大きさが増大するに従って大きくなり, 開口時最大速度では1Gと他のセッションとの間, 2Gと4Gとの間, 閉口時最大速度では1Gと他のセッションとの間にそれぞれ有意差が認められた.
4.咀嚼筋筋活動
咬筋と側頭筋の積分値は, 食品の大きさが増大するに従って大きくなり, 咬筋では1Gと他のセッションとの問, 側頭筋では1Gと3Gとの間, 1Gと4Gとの間にそれぞれ有意差が認められた.
5.以上のことから, 咀嚼時の食品の大きさが変化するに従って, 咀嚼運動を定量的に表わす運動経路, 運動リズム, 運動速度, ならびに咀嚼筋筋活動の各指標の一つあるいは総てが変化することが明らかになった.これは, 末梢からの感覚入力の変化が咀嚼運動に影響を及ぼすことを示すものと考えられる.
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