目的: MRIを用いて嚥下機能評価を行うには, 超高速のパルス印加により極短時間で撮像可能なシーケンスが必要であり, steady-state free precession sequences (SSFPシーケンス) が適した撮像方法であると考える, SSFPシーケンスではflip angleの条件により種々の嚥下機能に関連する組織のコントラストやノイズ発生様相が変化し, 嚥下の動的観察における画質に影響する.そこで本研究では, SSFPシーケンスを用いた超高速撮像において, flip angleの条件が, 静止状態における嚥下関連組織の信号強度および視覚評価に及ぼす影響を明らかにし, 嚥下機能評価に適用できる至適flip angleの検討を行った.
方法: 顎口腔機能に異常を認めない有歯顎者7名 (平均年齢30.1歳) を被験者とし, 1.5Tesla超伝導MRI装置を用いてSSFPシーケンスにより撮像を行った.撮像条件は, 嚥下運動に対応できることが前提であるため, 繰り返し時間 (repetition time, TR) とエコー時間 (echo time, TE) をいずれも極めて短くした超高速撮像が不可欠であるが, 信号強度の測定精度を向上させる目的で, パルス印加を同条件にして頚部の静止状態を撮像した.本研究では, 撮像にあたり嚥下機能領域のコントラストの可変パラメータであるflip angleを10°から100°まで, 10°間隔の10条件と設定し, この各条件で得られた画像における嚥下関連組織 (軟口蓋, 舌筋, 喉頭蓋, 甲状軟骨, オトガイ舌骨筋, 下顎骨, 舌骨) の信号強度変化および視覚評価の検討を行った.
結果: 嚥下関連組織の信号強度はflip angleにより有意に変化した.得られた画像においてコントラストを形成する各嚥下関連組織の信号強度の差が最も多く出現したのは, flip angle10°であり, 次いでflip angle20°, 30°の順に多く, flip angle 40°~100°ではほぼ同数で少なかった.嚥下関連組織の信号雑音比 (signa1-to-noise ratio, SNR) を総じて高い値に維持する条件は, flip angle20°, 30°, 40°であった.視覚評価ではflip angle30°および40°が嚥下関連組織の識別および, 画像の明瞭さの点で優れていた.
結論: SSFPシーケンスによる超高速MRIを用いた嚥下関連組織の撮像条件は, 信号強度変化と視覚評価から検討した結果, flip angle 30°が至適撮像条件であり, 嚥下機能評価の動的観察における解剖学的形態描出の明瞭化においても有効であることが示唆された.
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