日本顎口腔機能学会雑誌
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19 巻, 1 号
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特別講演
  • 能勢 博
    2012 年 19 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    ヒトの体力は20歳台をピークにその後10歳加齢するごとに5-10%ずつ低下する.そしてピーク時の25%以下になると要介護となり,自立した生活ができなくなる.この体力の低下は主に老人性筋委縮(サルコペニア)と呼ばれるもので,皮膚にしわが寄ったり,頭の毛が薄くなったりするのと同様,加齢遺伝子の仕業と考えられている.大切なことは,この体力の低下と医療費の増加との間に高い相関があることである.最近の運動生理学では,加齢による骨格筋の低下によって,全身の慢性炎症がおこり,その結果,高血圧,糖尿病,肥満などの生活習慣病だけではなく,うつ病やがんを引き起こすと考えられている.したがって,これらの疾患を予防するには,加齢によって失われる体力を「運動トレーニング」で防ぐことが最も効果的である.運動生理学における運動トレーニングの基本は,個人の最大体力の70%以上の運動を1日30分以上,週4日以上実施することである.しかし,そのためには専門の体育施設に通い,専門のスタッフの指導を受けなければならず,一般に普及しにくい.そこで,我々は,より安価で容易に中高年が体力向上を達成できる個別運動処方システムを開発した.この特徴は,1)インターバル速歩,2)携帯型カロリー計(熟大メイト),3)遠隔型個別運動処方システム(e-Health PromotionSystem)である.これによって,体力向上,生活習慣病症状改善,うつ指標の改善,医療費の削減などの効果のあることを5, 200名の中高年者で明らかにした.今後,同システムが歯科予防領域にも浸透することを期待している.
原著論文
  • 橋本 真, 志賀 博, 小林 義典
    2012 年 19 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,総義歯装着患者の咀嚼機能を客観的に評価する目的で,総義歯装着患者の治療前後における咀嚼能力と咬筋筋活動を分析した.
     被験者は,過去2~4年間にわたり総義歯を装着している患者10名を選択した.選択基準は,いずれも主咀嚼側を認識できることに加え,適切な床縁と咬合接触を付与した総義歯装着後3か月以上を経過していること,また主観的評価(審美性,会話,食事,安定性に関する総合評価)で新義歯に十分満足していること,さらに主観的評価で旧義歯よりも新義歯に十分満足していることとした.
     被験者にグミゼリーを主咀嚼側で20秒間咀嚼させた時の咀嚼能力と咬筋筋活動を記録した.グミゼリー咀嚼後のグルコースの溶出量を血糖測定器で測定し,咀嚼能力の指標とした.咬筋筋活動について,全サイクルの咬筋筋活動の積分値と1サイクル当りの積分値,咀嚼開始後の第5サイクルから第14サイクルまでの10サイクルのサイクルタイムの平均と変動係数をそれぞれ算出し,指標とした.得られた結果について,治療前と治療後との間で対応のあるt-検定により比較した.
     グルコースの溶出量,咬筋筋活動の全サイクルの積分値と1サイクル当りの積分値は,両者ともに治療後のほうが治療前よりも有意に大きかった.咬筋筋活動のサイクルタイムの平均と変動係数は,両者ともに治療後のほうが治療前よりも有意に小さかった.
     これらのことから,総義歯患者の咀嚼機能は,補綴治療後に有意に改善すること,またグミゼリー咀嚼時のグルコースの溶出量の測定による咀嚼機能の評価が臨床応用できることが示唆された.
  • 薩摩 登誉子, 重本 修伺, 石川 輝明, 松香 芳三, 松山 美和, 中野 雅徳, 坂東 永一, 藤村 哲也
    2012 年 19 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    我々は,顎運動データから「嚙みやすさ」を客観的に評価する方法について検討している.咀嚼時の食物粉砕に中心的役割を果たしている部位を評価する方法として主機能部位という概念がある.本研究では主機能部位でのストッピング嚙みしめ時において,運動論的顆頭点での顆頭運動の運動論的特徴について検討することを目的とした.
     研究の主旨に同意が得られた顎口腔機能に自覚的・他覚的に異常を認めず,個性正常咬合を有する本学の教職員ならびに学部学生5名(男性3名,女性2名,年齢29.1±9.0歳)を被験者とした.左右側でのストッピング一回嚙みしめ時の6自由度顎運動と咀嚼筋活動をそれぞれ5回ずつ同時測定した.全被験者の主機能部位は第一大臼歯であった.
     ストッピング嚙みしめにおいて,作業側咬筋活動開始時に作業側顆頭は平衡側顆頭よりも有意に咬頭嵌合位に近い位置に復位していた.作業側咬筋最大筋活動時には両側顆頭ともに咬頭嵌合位に近い位置に復位していたが,平衡側顆頭は上下的には,咬頭嵌合位の顆頭位より上方へ偏位していたことから,平衡側顆頭が作業側顆頭に比べて関節面に咀嚼力が加わっていると考えられる.
     今回の研究結果から,主機能部位でのストッピング嚙みしめ時の運動論的特徴は,これまでに報告された咀嚼時の下顎運動と同様の傾向を示しており,主機能部位での嚙みしめは咀嚼の評価を行うのに簡便で有効な手段であることが運動論的にも確認できた.
  • 松川 高明, 草野 寿之, 奥津 史子, 豊田 有美子, 根来 理沙, 頼近 繁, 濵坂 弘毅, 眞木 信太郎, 遠藤 舞, ...
    2012 年 19 巻 1 号 p. 28-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    本研究では有歯顎者と上下顎全部床義歯装着者を対象として,実験用口蓋床が[n]持続発音時の下顎位に及ぼす影響について検討するとともに,[n]持続発音時の下顎位(以下,[n]持続発音位)の垂直的顎間関係の記録方法についても併せて検討した.実験1として,20名の有歯顎者を対象に実験用口蓋床が[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.実験2として上下顎全部床義歯装着者15名を対象に実験用口蓋床が[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.実験3として,上下顎全部床義歯装着者5名を対象に[n]持続発音を応用した垂直的顎間関係記録法について検討した.計測には下顎運動測定装置を用いた.
     その結果,以下の結論を得た.1.有歯顎者の[n]持続発音時の垂直的開口距離は,コントロール(実験用口蓋床非装着時)と比較して有意差は認められなかった.2.全部床義歯装着者の[n]持続発音時の垂直的開口距離は,コントロールと比較して有意差は認められなかった.3.全部床義歯装着者の[n]持続発音位を応用して垂直顎間距離を決定した場合の垂直的開口距離は正中部で0.8±0.6 mm となり,有歯顎者の値(0.4±0.4 mm)に近似した値を示した.
     以上より,[n]持続発音位は垂直顎間距離決定における基準下顎位として有用であることが示された.
学術大会抄録
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