本研究は,総義歯装着患者の咀嚼機能を客観的に評価する目的で,総義歯装着患者の治療前後における咀嚼能力と咬筋筋活動を分析した.
被験者は,過去2~4年間にわたり総義歯を装着している患者10名を選択した.選択基準は,いずれも主咀嚼側を認識できることに加え,適切な床縁と咬合接触を付与した総義歯装着後3か月以上を経過していること,また主観的評価(審美性,会話,食事,安定性に関する総合評価)で新義歯に十分満足していること,さらに主観的評価で旧義歯よりも新義歯に十分満足していることとした.
被験者にグミゼリーを主咀嚼側で20秒間咀嚼させた時の咀嚼能力と咬筋筋活動を記録した.グミゼリー咀嚼後のグルコースの溶出量を血糖測定器で測定し,咀嚼能力の指標とした.咬筋筋活動について,全サイクルの咬筋筋活動の積分値と1サイクル当りの積分値,咀嚼開始後の第5サイクルから第14サイクルまでの10サイクルのサイクルタイムの平均と変動係数をそれぞれ算出し,指標とした.得られた結果について,治療前と治療後との間で対応のあるt-検定により比較した.
グルコースの溶出量,咬筋筋活動の全サイクルの積分値と1サイクル当りの積分値は,両者ともに治療後のほうが治療前よりも有意に大きかった.咬筋筋活動のサイクルタイムの平均と変動係数は,両者ともに治療後のほうが治療前よりも有意に小さかった.
これらのことから,総義歯患者の咀嚼機能は,補綴治療後に有意に改善すること,またグミゼリー咀嚼時のグルコースの溶出量の測定による咀嚼機能の評価が臨床応用できることが示唆された.
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