本研究では, 咀嚼筋の疲労特性を明らかにすることを目的とした.正常男性5名の咀嚼筋と四肢筋を被験筋とし, 最大咬みしめ, 随意最大肘関節屈曲, 随意最大膝関節伸展を行わせた時の筋力を, デンタルプレスケールシステムとウェイングインジケータとロードセルからなる装置で記録した.同時に, 運動中の咬筋, 側頭筋, 上腕二頭筋, 大腿直筋の筋活動をマルチテレメーターシステムにより記録した.記録の採取は, コントロールとして, 実験開始時に5秒間の各々の運動を行わせ, 1回目の記録を採取した (Cont) .この10秒後に30秒間の疲労負荷のための各々の運動を行わせ, その10秒後に, 2回目の5秒間の各々の運動中の記録を採取した (F1) .さらに, 同様の過程で, 3回目 (F2) , 4回目 (F3) の記録を採取した.その後, 10秒経過後 (R1) , 30秒経過後 (R2) , 1分経過後 (R3) , 3分経過後 (R4) , 5分経過後 (R5) に, 5秒間の各々の運動を行わせ, 記録を採取した.筋電図記録の分析には, 筋電図積分値とピーク周波数を用いた.また, 筋活動電位を機械的仕事に変換する効率を示すパラメータとして, 筋力/筋活動量比を用いた.
得られた結果は, 以下の通りである.
1) 最大咬合力, 随意最大肘関節屈曲筋力, 随意最大膝関節伸展筋力は, 繰り返し試行により, 徐々に低下し, 疲労回復過程においては, 徐々に増加した.
2) 咀嚼筋における疲労とその回復の発現は, 上腕二頭筋, 大腿直筋のそれらよりも早かった.
3) すべての筋において, 疲労に伴うピーク周波数の低周波帯域へのシフトと回復による高周波帯域へのシフトが認められた.
4) 咀嚼筋においては, 疲労に伴う筋活動量の減少傾向が認められた.
5) 咀嚼筋における筋力/筋活動量比は上腕二頭筋, 大腿直筋のそれよりも高値を示した.
これらの結果から, 咀嚼筋の疲労特性は, 上腕二頭筋, 大腿直筋のそれと異なることが示唆された.
抄録全体を表示