日本顎口腔機能学会雑誌
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5 巻, 1 号
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  • 山口 由紀子, 菊池 雅彦, 奥川 博司, 渡辺 誠
    1998 年 5 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究は, 口蓋粘膜への荷重負荷が血流量に及ぼす影響を, レーザードップラー血流計を用いて検索することを目的に行った.実験は5名の健常者 (平均年齢26.4歳) を被験者とし, レーザードップラー血流計を用いて, 口蓋後側方部および口蓋正中部 (口蓋ヒダ部) に直径4mmのプローブを介して, 荷重量400gf, 40秒間の加圧を行ったときの血流量を測定した.さらに, 口蓋後側方部において, 同じく荷重量400gfで加圧時間を10, 20, 30秒と変化させた場合, および加圧時間40秒で荷重量を100, 200, 400gfと変化させた場合の血流量を測定した.その結果, 以下の結論を得た.
    1.加圧部位の相違による血流変化については, 口蓋後側方部の左右側粘膜では加圧終了直後に反応性の充血がほとんどの場合で出現したが, 口蓋正中部では反応性充血が出現しないか明確でない場合が多かった.
    2.加圧時間の相違による血流量変化については, 加圧時間が増加した場合, 加圧前の血流レベルに戻るまでの回復時間は延長する傾向がみられた.これに対して, 加圧時の血流減少量ならびに加圧後の血流増加量は加圧時間に関係なく, ほぼ一定となる傾向を示した.
    3.荷重量の相違による血流量変化については, 荷重量が増加した場合には, 回復時間は延長する傾向がみられた.また, 加圧時の血流減少量も荷重量増加に伴って増大する傾向を示した.一方, 加圧後の血流増加量については, 荷重量の変化によって一定の傾向は認められなかった.
    4.以上のことから, 加圧時間と回復時間, 荷重量と回復時間, および荷重量と加圧時血流減少量との間にはそれぞれ一定の関係が認められ, 顎粘膜の性状や特性を評価する指標として有効であることが示唆された.
  • 廣松 伸一, 鶴田 正彦, 脇本 康夫, 福井 只美, 常盤 肇, 桑原 洋助
    1998 年 5 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    顎口腔機能異常の無い正常咬合者14名 (男子7名, 女子7名) について, 最大開閉口運動の測定を行ない, 下顎切歯および下顎頭の運動解析を行った.測定には, 顎口腔機能総合解析システム (ナソヘキサグラフ) を用い, 以下の項目を解析した.
    (1) 最大移動量, (2) 最大速度, (3) 最大速度発現時の移動量および最大移動量に対する比率, (4) 速度曲線パターン.
    切歯点の最大移動量は, 50.2±3.9mm, 開口相での最大速度は289.6±93.1mm/s, 閉口相では330.6±75.2mm/sであった.また, 最大速度発現時の移動量は, 開口相で16.1±0.2mm, 閉口相では25.5±0.3mmであった.最大速度発現時移動量の最大移動量に対する比率は, 開口相で32.1±2.0%, 閉口相では50.9±3.7%であった.
    一方, 下顎頭点の最大移動量は, 15.5±4.1mm.開口相での最大速度は90.8±33.6mm/s, 閉口相では160.6±58.2mm/sであった.また, 最大速度発現時の移動量は, 開口相で9.5±3.9mm, 閉口相では8.1±2.6mmであった.最大速度発現時移動量の最大移動量に対する比率は, 開口相で59.0±16.6%, 閉口相では52.0±8.1%であった.
    切歯点および下顎頭点の速度曲線には, 速度ピークが1つのもの (1相性) , 速度ピークが2つのもの (2相性) , 速度ピークが3つ以上あるいは明確な速度ピークが確認できないもの (多相性) が認められた.本研究結果から, 最大開閉口運動における, 切歯点ならびに下顎頭点の最大移動量, 最大速度ならびに速度曲線パターン分類は, 顎運動解析のパラメータとなり得ることが示唆された.
  • 吉田 教明, 古賀 義之, Paul-Georg Jost-Brinkmann, 阿部 理砂子, 小林 和英, 山田 好秋
    1998 年 5 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    荷重時の歯の移動様式は回転運動として, 中心点, 半径, 角度で表現することができる.したがって, 特定の力系に対する歯の回転中心を求めることは, 歯の移動様式を予測することと等価である.本研究では, 新たに開発した磁気センサを応用した3次元変位測定システムを用いて, 矯正力作用時の上顎中切歯の変位量を実測し, 荷重位置と回転中心の関係について検討した.被験者は27歳の成人女性1名で, 被験歯は上顎左側中切歯とした.被験歯に負荷する荷重量は150gとした.得られた結論を以下に述べる.
    1.ホール素子と磁石を組み合わせることで, 歯の微小変位を非接触で3次元的に測定できるシステムを開発し, 口腔内への応用を試みた.変位測定システムの基本性能を検討したところ, 1μm以内の分解能をもち, 測定誤差は±300μmの範囲で0.7%以下であった.以上より, 本システムは歯の微小変位を定量的に測定するための十分な特性を有することが確認できた.
    2.舌側方向の矯正力を上顎中切歯のブラケット位置に負荷した時に, 回転中心は歯槽頂より歯根長の44%根尖側寄りの位置に観察された.上顎前歯の舌側牽引時に単力のみを負荷すると, 歯冠は舌側へ移動するものの, 歯根が荷重方向と反対の唇側へ移動する傾向が示された.
    3.荷重位置を歯頚側方向へ移動すると, 回転中心は根尖に向かって移動した.ブラケットから5mmほど歯頚側寄りの位置に荷重を負荷すると, 回転中心は根尖に観察された.
    4.荷重位置をさらに根尖方向へ移動すると, ブラケットから歯頚側寄りに6mmから8mmの間で, 回転方向が逆転し, 歯冠舌側傾斜から歯根舌側傾斜へ変化した.
  • 西山 雄一郎, 大貫 昌理, 細井 紀雄, 東條 敏明
    1998 年 5 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    咬合力の三次元的測定を目的として, 三次元咬合力測定装置を開発し, 装置の較正実験ならびに装置の回転, 傾斜による出力値への影響を検討した.その結果,
    1.三次元咬合力測定装置は, 1kgfから50kgfまでの実荷重に対し, 各ロードセルに1つの較正係数を設定すると出力誤差は2%以下であり, 高い測定精度が認められた.
    2.装置の水平軸方向の回転が, 各ロードセルの出力値に及ぼす影響は最大2%であり, 装置の回転は測定精度に影響しないことが判明した.
    3.装置を前後, 左右方向に傾斜させ, 各ロードセルの出力値に対する影響を検討した結果, 実荷重の増加に対する各ロードセルの出力値は1kgfから50kgfの荷重範囲で直線的に変化した.また装置の傾斜が5°の範囲で最大24%の出力誤差を生じることから, 装置の設置に際し, 設定した基準平面に可及的に水平に取り付ける必要性が認められた.
    以上の結果から本装置は, 咬合力の三次元的測定を行うのに十分な精度を有していることが示された.
  • 大村 なつ子, 龍田 光弘, 佐藤 正樹, 古市 英史, 土佐 淳一, 田中 昌博, 川添 堯彬
    1998 年 5 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    顎機能の成立における咬合の育成の重要性が注目されている.しかし, 成長, 発育に伴う咬合接触の変化に関する研究はほとんど行われていない.われわれは, 咬合接触面積およびその位置を客観的に評価できるadd画像システムを開発してきた.本研究では, add画像システムを用いて成長, 発育における咬合接触および咬頭嵌合位の安定性について横断的に研究を行った.
    被験児として25名の小児を選択し, 4つのグループ, すなわち乳歯咬合完成期, 第一大臼歯萌出完了期, 側方歯群交換期および第二大臼歯萌出完了期に分類した.各被験者の咬頭嵌合位における咬合記録をブラックシリコーンを用いて採得し, add画像システムを用いて咬合接触面積および位置を求めた.そのうえで, 左右の咬合接触面積比として咬合接触面積の非対称性指数 (AIOA) および歯列における咬合接触位置の評価として咬合の安定性指数 (SI) を求め検討を行った.
    肉眼的観察の結果, 歯列内の咬合接触部位および面積は, 成長, 発育のステージにおいて変化した.AIOAは各ステージにおいて比較的安定していた.SIは乳歯列咬合完成期, 第一大臼歯萌出完了期および第二大臼歯萌出完了期では低値を示し安定した様相を示した.しかし, 側方歯群交換期では統計学的に有意に不安定な様相を示した.
    その結果, 成長, 発育過程における咬頭嵌合位における咬合接触は側方歯群交換期を除いては安定していた.
  • 河野 世佳, 土田 幸弘, 河野 正司, 荒井 良明, 湊 修, 蔵本 誠, 松山 剛士
    1998 年 5 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    我々はこれまで下顎の咀嚼運動時やタッピング運動時に頭部が下顎と協調してリズミカルに運動することを報告してきた.しかしいずれの報告も上下顎の切歯点を分析対象としたものであり, 頭部全体の運動を説明するには至っていない.
    そこで著者らは矢状面内におけるタッピング運動時の頭部の運動様相を把握する目的で頭部に複数の分析点を設け, それらの点の運動方向, 運動距離を計測することによって, 頭部運動の解析を試みた.
    測定には6自由度顎運動測定装置を用い, 頭部を固定することなく行った.被験者として自覚, 他覚的に顎口腔系に異常を認めない26~27歳の本学男子大学院生4名を選択しタッピング運動を負荷した.
    その結果を以下に示す.
    1.タッピング運動の際, 矢状面観で, 頭部は下顎開口時に上顎切歯点が下顎切歯点と離れるよう後屈方向に, 閉口時にはこれらが近づくように前屈方向にと回転運動を行っていることが明らかとなった.
    2.頻度1Hzのタッピングでは頻度3Hzのタッピングより各分析点の運動距離は有意に大きいが, 運動方向に有意差は見られなかった.
    3.頭部回転運動の中心探索の結果, タッピング運動の開口相において頭部運動の回転中心は, 頸椎の上方の体軸上に分布しており, この位置はタッピング頻度と関係のあることが示唆された.
  • 中野 雅徳, 安陪 晋, 坂東 永一, 佐藤 裕, 山内 英嗣, 竹内 久裕, 西川 啓介, 池田 隆志, 鈴木 温
    1998 年 5 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    咬合に関する診断や治療を客観化するために, 咬合面形態の定量的評価方法を確立することは重要である.咬合面形態のなかでもっとも重要なのは咬合小面であり, われわれはこの咬合小面を定量的に評価するための新しい方法ならびにパラメータを開発してきた.今回, この新しい評価方法についてその有効性を検討したので報告する.
    研究方法: 3名の個性正常咬合を有する被験者の歯列模型をCNC3次元測定器 (マイクロコードFN503, ミツトヨ社製) で測定するとともに, 下顎滑走運動を6自由度顎運動測定器にて測定した.これらのデータを基に, 各咬合小面について咬合参照面を設定し, この咬合参照面について咬合小面評価用パラメータの値を計算した.
    パラメータ: 咬合小面傾斜角および咬合小面の法線ベクトルの方向余弦x成分 (以下AP値) を, 定量評価のために使用した.また咬合小面の向きを定性的に表すため4種類に分類した.
    結果および考察:
    1.AP値は咬合時の下顎の前後的変位に対する抵抗の度合いを表すことができるパラメータである.咬合小面傾斜角とAP値を用いることで, 咬合小面を数学的にだけでなく, 機能的に評価することが可能となった.
    2.歯列の3次元測定と数値解析から, 咬合小面の方向を分類することが可能となった.各咬合小面はその機能的特徴から, 作業側M型, 作業側D型, 非作業側M型, 非作業側D型とした.
    3.咬合参照面より求められた咬合小面傾斜角とAP値は歯列上の部位によって規則的な変化を示した.さらにこれらの変化は, 各被験者の下顎運動を反映していた.
    以上の結果より, これらのパラメータと新たに開発した評価法は, 咬合面形態の定量的評価に用いることが可能であることが示された.
  • 土田 幸弘, 大竹 博之, 河野 正司, 河野 世佳, 林 豊彦, 山本 修吾, 石塚 貴博, 森谷 眞也
    1998 年 5 巻 1 号 p. 71-77
    発行日: 1998/09/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    咬合機能の回復を目的とする補綴学において顎運動を知ることは大変重要なことである.そのため数多くの顎運動測定装置が考案され, 6自由度で下顎任意点の運動を精密に計測できる装置が開発されている.しかし, これらの装置では顎を剛体とみなし測定用クラッチを歯列を介して顎骨に強固に固定することが不可欠である.その結果, 十分な固定源が得られない義歯装着症例への適応は困難であり, 顎運動に関して不明な点が多い.
    今回我々は, 義歯装着者に適用可能な6自由度顎運動測定装置を開発することを目的として, 赤外線反射光を利用した顎運動解析システムを構築した.装着する測定用クラッチは上顎用49, 下顎用29と非常に軽量であり, 装着した状態が義歯の維持を可及的に損なわないこと, 頭部無拘束にて生理的な運動を阻害しないことを条件とした.
    以上の条件下にて測定対象空間を一辺200mmの立方体と設定し, 電動パルスステージを用いてその性能を検討した.
    その結果実用上の位置分解能は, 前後方向で, およそ0.3mm以下, 左右および上下方向では, 0.2mm以下であった.
    今後の課題として, 測定精度の向上, 下顎任意点の入力方法の検討, 機能運動時の義歯の動揺の把握が挙げられる.これらの課題を解決し, 今回構築したシステムにフィードバックすることによって, これまで困難であった義歯装着者の顎運動計測が可能になると考えられる.
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