日本顎口腔機能学会雑誌
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5 巻, 2 号
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  • ―主成分分析の応用―
    坂口 究, 川崎 貴生
    1999 年 5 巻 2 号 p. 101-114
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究は, 咀嚼時の口唇周囲軟組織皮膚表面上の15測定点の運動 (45自由度をもつ時系列データ) から, 咀嚼運動を代表する総合的指標 (主成分) を多変量統計解析の一一手法である主成分分析法を応用して抽出し, より低い自由度に還元することが可能であるかを検討するとともに, この解析法が咀嚼運動, そして顎口腔機能の評価法として有効であるかを検討することを目的として行った.
    被験者には, 健常有歯顎者15名と上下総義歯装着者4名を選択した.また, 被験食品には, 十分軟化したチューインガムを用いた.
    45自由度の時系列データに対して, 主成分分析法を応用して解析した結果, 健常有歯顎者の咀嚼時の口唇周囲軟組織皮膚表面の運動は, 第3主成分まで求めれば, その運動 (45自由度の時系列データ) の97%以上が表現できた.つまり, 健常有歯顎者の咀嚼時の口唇周囲軟組織皮膚表面の運動は, 3自由度 (3次元変量) の運動として十分表現可能であることが示された.同様に, 上下総義歯装着者の運動は, 4自由度 (4次元変量) の運動として十分表現可能であることが示された.また, 還元された主成分を主成分得点の時系列変化として捉えることにより, 咀嚼時の口唇周囲軟組織皮膚表面の運動を時間的にも定量的に解析することができた.
    以上のことから, 咀嚼時の口唇周囲軟組織皮膚表面の運動は, 多変量統計解析法の一手法である主成分分析法により, 空間的, かつ時間的にも定量的に解析可能であることが示され, 咀嚼運動および顎口腔機能の評価法として, 本解析方法の有効性が示唆された.
  • 井上 則子, 今井 徹, 山本 隆昭, 中村 進治
    1999 年 5 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は顎関節症患者の噛みしめ負荷試験前後での安静時咬筋筋活動における筋電図学的変化を調べ, 顎関節症の治療前後, および健常者のそれと比較するることである.
    被験者は咬筋に筋症状を有する者のうち, 症状惻と習慣性咀嚼側 (PCS) とが一致している顎関節症患者8名 (以下, TMD群) , および顎口腔系に異常を認めない正常咬合者8名 (以下, 健常群) である.顎関節症患者の治療前後の咬筋の安静時筋活動を分析対象とし, 噛みしめ負荷試験前後の咬筋筋活動を多チャンネル筋電図計を用いて記録・分析し, 健常群と比較した.
    研究結果は以下の通りである.
    1.両側咬筋18部位のうち, 負荷試験前に比べ試験後に安静時筋活動が増加した者は健常群で4名, 9部位であった.TMD群の初診時では7名で18部位の全てに認められたのに対し, 症状改善時では4名, 7部位であった.両群での咬筋における左右差および部位による違いは認められなかった.
    2.安静時咬筋筋活動量の負荷試験前後の比較では, 健常群において負荷試験前5分時に比べPCSでは負荷試験後2分時から, 非習慣性咀嚼側 (NPCS) では負荷試験後3分時から5%水準で有意な減少が認められた.TMD群の初診時では, 負荷試験前5分時に比べ負荷試験後1分時にPCS, NPCSとも5%水準で有意な増加が認められ, その後は徐々に減少していたものの, 負荷試験後5分時においても負荷試験前のレベルまでは低下していなかった.TMD群の症状改善時では, 健常群と類似した経時変化を示していた.
    3.健常群とTMD群の初診時とでは負荷試験前の平均咬筋筋活動量に有意差はなかったが, 負荷試験後では健常群に比べTMD群の初診時の方が有意に高かった.健常群とTMD群の症状改善時とでは負荷試験前後とも有意差はなかった.
    4.TMD群の初診時と症状改善時との比較では, 負荷試験前のNPCSおよび負荷試験後のPCSとNPCSで症状改善時の平均咬筋筋活動量は有意に低かった.
    5.TMD群の噛みしめ負荷試験による安静時筋活動の亢進と筋症状の強さとの間には関連は認められなかった.
    以上より, 顎関節症患者では噛みしめ負荷を加えることによって安静時筋活動が亢進することが明らかとなった.さらに, 顎関節症患者の安静時筋活動量と症状側や習慣性咀嚼側との間に関連は少ないことが示唆された.
  • 加藤 均, 長谷川 成男, 吉田 恵一, 岡田 大蔵
    1999 年 5 巻 2 号 p. 125-133
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    食片圧入を訴えて受診した3名の患者について, ストッピングの小片を噛みしめさせて, 主機能部位を求めた.その結果, 食片圧入のあった歯間部とは関わりのない上下顎第一大臼歯の各機能咬頭内斜面間での咬頭嵌合位における緊密な咬合の欠如が, 主機能部位を歯間部へと移動させ, 食片圧入を惹起したものと考えられた.そこで, 緊密な咬合が欠如していた機能咬頭内斜面間の咬合を改善し, 主機能部位を歯間部から同部位へ移動させたところ, 食片圧入は改善された.
    以上のことから, 食片圧入が従来考えられていた原因に加えて, 歯間部以外の部位での咬合不良によっても惹起されることが明らかとなった.また, 圧入されていた食品の性状から主機能部位は硬い食品破砕時に加えて, 線維性の食品の咀嚼時にも中心的役割をもって機能しているものと考えられた.
  • 澤田 宏二, 河野 正司, メディナ ラウル, 花田 晃治
    1999 年 5 巻 2 号 p. 135-145
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究は開咬症例の顎機能状態を多面的に観察することにより, アンテリアガイダンスの意義を明らかにすることを目的とする.
    被験者は新潟大学歯学部附属病院矯正科外来を受診した, 前歯部開咬を主訴とする女性13名 (年齢15-27歳, 平均20.5歳) であり, 次の検査を行った.1) 咬合接触状態の確認, 2) 側面セファログラムによる顎顔面形態分析, 3) 顎関節症症状の有無, 4) プレスケールによる咬合力分析, 5) 6自由度顎運動測定装置TRIMETを用いた下顎運動の記録.
    これらの検査から以下のような結果を得た.開咬症例は咬頭嵌合位での咬合接触状態により大臼歯のみが接触するM型と大臼歯と小臼歯が接触するMP型の2群に分類でき, M型には骨格的にII級傾向, MP型には骨格的にI級, III級傾向のものが多かった.顎関節症症状はM型, 特にII級の症例に認められた.MP型に比べて, M型では咬頭嵌合位でのクレンチング, タッピング運動時に顎位が不安定であり, 側方グラインディング運動時の作業側顆頭は大きく変位した.以上の結果より, 顎位, 及び顆頭の安定のためにアンテリアガイダンスは歯列のできるだけ前方にあることが重要であることが明らかとなった.
  • ―基本的な咀嚼運動範囲―
    志賀 博, 小林 義典, 栗山 聡, 三橋 博之, 鷹橋 真弓
    1999 年 5 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    MKGの機械的特性の改善の可能性を検討する目的で, はじめに, MKG Analyzerの補正式を用いてMKGの出力データ (一次データ) を補正し, 補正後のデータを二次データとし, 次いで, 各位置座標の二次データに対して補正用座標 (null positionから上方向に12.5mm, 下方向に22.5mm, 左右方向に各12.5mm, 後方向に22.5mmの範囲) のデータを用いて補正し, さらにそのデータを三次データとして求めた.これらの各データについて, それぞれの誤差率を算出し, 各データ間で比較した結果, 以下の結論を得た.
    1.一次データの各位置座標は, 原点付近では実際の位置座標に近似し, 比較的良好な直線性を示したが, 原点から離れるに従って, 実際の位置座標と異なり, 非直線性を示した.
    2.二次データの各位置座標は, 一次データに比較すると, 非直線性が改善されたが, 原点から離れるに従って, 実際の位置座標とは異なる非直線性を示した.
    3.三次データの各位置座標は, 二次データよりもさらに非直線性が改善され, 直線性を示した.
    4.一次データ, 二次データ, 三次データの各位置座標の誤差率の平均は, それぞれ29.5%, 8.7%, 1.6%であり, 一次データが著明に大きく, 以下二次データ, 三次データの順に小さくなり, 各2群間に高度な有意差がそれぞれ認められた.
    5.これらの結果から, MKGの非直線性を示す機械的特性は, 適切な補正を加えることにより, 他の一般に市販されている下顎運動記録装置と同等, もしくはそれ以上の直線性に改善できることが示唆された.
  • 田中 誠也, 柏木 宏介, 田中 昌博, 糸田 昌隆, 岡崎 全宏, 川添 堯彬
    1999 年 5 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 1999/03/30
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    わが国は, 世界中でいままで経験をしたことのないスピードで高齢化しつつあり, 高齢者における咀嚼機能の保全は, QOLの観点からも非常に重要な意味を持つことが報告されてきている.本研究では, 咀嚼機能把握にあたり, 正規化筋電図包絡線が, 高齢者の咀嚼時筋活動を若年者との比較検討からとらえる上で, 有用であるかどうか検討することを目的とし, 口腔内状況も異なる両者を選択し, 正規化筋電図包絡線を応用した.被験者として高齢全部床義歯装着者4名 (高齢全部床義歯群) , 健常有歯顎若年者8名 (若年有歯群) を選んだ.被験運動は, 習慣性咀嚼側における90秒間の片側ガムチューイングとした.両側咬筋, 側頭筋前部の筋活動ならびに, 切歯点の運動を同時記録した.MKGの波形から安定した10ストロークを選択し, 選択されたストロークの筋電位原波形をRMS値に変換し, さらに移動平均幅前後10ポイントで加重移動平均法にて平滑化し包絡線化処理を行った.これをMKGの垂直成分およびその微分波形から各ストロークを閉口相, 咬合相, 開口相の3相に分割し, 3相をそれぞれ100ポイント, 計300ポイントに時間軸を正規化した.さらに筋電位振幅を, 平均筋活動パターンの平均電位を100%に正規化した.個々のストロークを加算平均処理し, 平均筋活動パターンを作成し, 以下の結果を得た.
    1.高齢全部床義歯群では咀嚼側, 非咀嚼側とも咬筋, 側頭筋前部のピークがはっきりせず, ピーク時における筋活動量の低い, デュレーションのやや長いなだらかな波形が認められた.
    2.若年有歯群においては, 咀嚼側では咬筋, 側頭筋前部とも100ポイント付近をピークとする立ち上がりの鋭い波形を示し, 非咀嚼側ではなだらかな波形を示した.
    3.両群で筋放電区間中の咀嚼筋筋活動様相が異なることが分かった.
    以上から, 両群の筋放電区間の振幅値の時間的変化の様相を比較検討できる正規化筋電図包絡線は, 高齢者の咀嚼時筋活動の機能特性を若年者との比較検討からとらえる上で, 有用な手法であることが確かめられた.
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