現代の社会病理
Online ISSN : 2436-2174
Print ISSN : 1342-470X
35 巻
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巻頭言
特集
  • 中村 正
    2020 年 35 巻 p. 1-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • -在日コリアン集住地域のコミュティケアから-
    魁生 由美子
    2020 年 35 巻 p. 5-20
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    まず官公庁が公表するデータを調べ、大阪市生野区が日本最大の在日コリアン集住地域であることを確認する。1990年代後半以降、在日コリアン2世が高齢化した在日コリアン1世を対象とするデイサービスの生活支援を開始した。年金保険から在日外国人を排除した結果、在日コリアン高齢者には無年金者が多い。また在日コリアン高齢者の日常生活を支援する地域福祉は未整備であった。これは地域福祉からの排除である。在日コリアンによるピア関係の相互扶助として始まったデイサービスの拠点は、行政や関係機関と連携を構築してきた。現在は、支援を必要とする地域の障がい者らにも開放され、地域になくてはならない居場所となっている。社会保障から排除されたために始まった社会事業が、コミュニティケアの萌芽を形成してきた。本稿は、その経緯と意義を明らかにする。

  • -制度利用者数の拡大と市民権の相克-
    中根 成寿
    2020 年 35 巻 p. 21-30
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は、2000年以降の障害政策が、障害当事者の地域での生活にどのような影響をもたらしたかを明らかにすることである。その目的のために、1)障害政策に関連する制度の変遷を整理し、2)障害当事者と社会との関係変容にいたった出来事を考察し、3)障害者総合支援法の利用者数と予算の推移を分析する。1)と2)の作業からは、2000年以降、労働力として人間を評価する「優生」的な流れが一貫して進む一方で、当事者による運動が市民権を獲得し、脱施設や地域移行などの成果が着実に社会に根づいてきていること、3)の作業からは介護保険法・障害者総合支援法などの法的・財政的基盤が確立し、社会ケアサービスの供給量が確実に増加してきたことが論証できる。この結果から本稿は、社会福祉法人やNPOによる社会ケアサービス供給の拡大によって、障害当事者がサービスのクライアントとして地域に存在することには成功したが、障害当事者が市民権を行使しながら市民として地域に参加するには未だ至っていないと結論づけた。

論文
  • -「HINOMARU」をめぐる炎上の事例研究-
    中谷 勇哉
    2020 年 35 巻 p. 31-45
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    2000年代以降、ネット右翼と呼ばれるヘイトスピーカーの台頭に代表される意見の先鋭化現象とその言説の拡散はたびたび議論となっている。そこで、本稿は「右翼的言説の拡散メカニズムを推論すること」を目的とし、ツイートの表現に焦点を当てて分析した。そのために、楽曲「HINOMARU」をめぐって起こった炎上現象に関するツイートを収集し、分析を行った。その結果、1) 炎上が4つの段階に分けられ、その段階後半では、 2) 多く共有されたウェブサイトがオンラインニュースサイトからまとめサイトに移行していること、3) その移行とともに、自分自身について用いられる中立的な表現は減少し、批判する他者を「左翼」や「在日」とする表現が増加していったことが示された。またこの分析を踏まえ、右翼的言説の拡散が、「人々が個人的な意見・信念を批判から保護する過程でネット右翼言説と接続されていく」というメカニズムによって引き起こされていると捉える。

  • -幼児雑誌の付録への分析を通して-
    桑畑 洋一郎
    2020 年 35 巻 p. 47-63
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    本稿は、幼児雑誌『幼稚園』の付録の経年比較分析から、付録における子ども像の表象の変遷と、その背景を明らかにすることを目的とする。

    分析と考察の結果、「教材」系付録と「玩具」系付録が併存・融合し“家庭でも遊びつつ学習する存在”としての子ども像が表象されていた1950年代まで、「玩具」系付録が独占状況となり“家庭外で学習する存在”としての子ども像が表象されていた1960年代、「にんきもの」系付録が増加し“メディアを通して遊び消費する存在”としての子ども像が表象されていた1970年代以降、「ほんもの」性を強調した付録と「コラボ付録」が登場し“複合体化した消費のターゲット”としての子ども像が表象されていた2010年代という、付録と子ども像の変遷が明らかとなった。また、こうした変遷の背景には、幼児教育における理念の変化、幼児の生活世界へのテレビの進出とメディアミックス状況、消費社会化の拡大があることが示唆された。

  • -仲介者としての新聞報道に注目して-
    小野田 美都江
    2020 年 35 巻 p. 65-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    本研究では、多くの人に身近な社会的課題である飲酒運転が厳罰化へと向かう議題設定において、新聞報道がいかなる役割を果たしたかを検討する。1999年の東名高速道路事故と2006年の福岡事故を契機として道路交通法と刑法の飲酒運転規定が厳罰化されていることから、1990年から2009年までの20年間における朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の飲酒運転に関する記事を対象とした。

    新聞データベースから検索した記事を11カテゴリーに分類し、さらに、法案成立を境に期間を2期に分けて報道内容の変遷を検討した。そして、YanovitzkyとWeber(2019)が提唱したニュースメディアにおける5つの知識媒介機能の内、Linkage機能とMobilization機能について、新聞報道の役割を整理した。その結果、第一期ではLinkage機能が、第二期ではMobilization機能が強く働くことが示唆された。

  • -大津いじめ事件の「自殺の練習」報道に着目して-
    今井 聖
    2020 年 35 巻 p. 81-96
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    本稿では、(1)「大津 いじめ事件」の報道を分析し、個別の事件の展開過程においても〈新たな概念〉の下での過去の再構成が起こり得ることを示し、(2) そのような事態がいじめの事実認定の実践にいかに影響するのかを、同級生の証言に基づいて明らかにする。

    「大津いじめ事件」に関する先行研究では、伝聞情報として確認されていたはずの「自殺の練習」がいかにして「問題」とされ、その「自殺の練習」の事実認定がいかに帰結したのかが十分に検証されていなかった。本稿では、テレビニュース場面の理解可能性に基づき、「重要な証言」としての「自殺の練習」情報の使用が「隠蔽」問題の構築につながったことを示す。その上で、Ian Hacking の議論を参照しながら、「自殺の練習」報道が、同級生たちにとって〈新たな概念〉の下での過去の再構成が可能な状況をもたらすものであったことを述べ、メディア報道と事実認定の実践との関係を捉えるための新たな視点を提示する。

  • -「非モテ」現象にかかわる男性のナラティブをとおして-
    西井 開
    2020 年 35 巻 p. 97-113
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    本稿は、周縁化された男性の生活体験を臨床社会学的に考察するために、性的な不満を意味する「非モテ」に苦悩する男性に焦点を当てる。語り合いグループで語られた内容を分析し、以下のことが明らかになった。

    まず「非モテ」男性は劣等感や疎外感を抱いており、周囲からいじめやパワハラを受けている。そのような状況下で、彼らは自分に関わってくれる女性を神聖視し始め、彼女と交際することで不遇な状況を挽回できるのではないかと考える。そのアプローチは一方的なものであり、相手を追いかけまわすなどのストーカー行為を繰り返し拒否された「非モテ」男性はさらに自己否定を深めることになる。

    以上の分析から「非モテ」男性の苦悩とは、被害経験を通じて抱いた劣等感や疎外感を満たすために女性に執着するようになり、その行為の罪悪感と拒否された挫折から更なる自己否定を深めていく一連のプロセスとして描き出すことが可能となった。

研究ノート
  • -地域若者サポートステーション事業の事例から-
    金本 佑太
    2020 年 35 巻 p. 115-130
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/01
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    本稿は、若者就労支援を行う地域若者サポートステーション(以下、サポステ)事業の支援者が、地域でどのように連携体制を構築しているかを検討した。その際、特定非営利活動法人X が運営する、大都市を対象とするサポステX1と地方都市を対象とするサポステX2を事例に、教育機関との連携に着目した。

    サポステX1、X2は、高校中退者情報の共有や関係会議の実施、アウトリーチにより、教育機関との連携を試みている。2サポステの比較から、地方都市にあるサポステX2で高校中退者情報の共有が効果的に行われ、中学校へのアウトリーチも開始するなど、連携がより進展していた。

    その要因としてX2地域では、地域に根差した経験やネットワークを持つサポステ職員がサポステと教育機関とつなぐ役割を果たしながら活動しており、その点がサポステと教育機関とのより効果的な連携につながっていることが示唆された。

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