現代の社会病理
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最新号
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巻頭言
特集
  • 中村 正
    2021 年 36 巻 p. 1-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • −社会病理学と大阪社会学研究会調査を中心に−
    川野 英二
    2021 年 36 巻 p. 5-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

     現在の社会調査をめぐる状況は、大規模な量的調査のデータを収集したアーカイブが構築され、先端的な計量モデルが適用される二次分析が普及している一方で、数少ない当事者の主観的な経験を再構成する質的調査の両極端に分かれているようにみえる。そこでは、かつて農村・地域調査でおこなわれていたような、ある地域をつぶさに調査してまわり、実態を明らかにしようとする「実態調査」は目立たないものとなっている。しかし、各大学が立地する地域にねざした社会調査はいまでも地道におこなわれていることはあまり知られていない。大阪では、工業化の時代から大阪を対象とした自治体社会調査が実施され、それは戦後の社会病理学調査に引き継がれてきた。とくに関西の社会学者たちは、共同研究として大阪社会学研究会を組織し、大阪を拠点とした社会調査を実施してきた。大阪の社会病理学研究には時代的な限界があったが、これまで現代の都市・社会問題を課題とする様々な実態調査が積み重ねられてきた。

     本稿では、主に研究会メンバーであった故土田英雄が残した【土田英雄資料】 をもとに、大阪社会学研究会のおこなった調査を再構成し、戦後から現代にいたるまで大阪の社会調査がどのようにおこなわれてきたのか、そして今後の展開について考えたい。

  • −はじきだされる場/やりなおす場としての地域・都市−
    掛川 直之
    2021 年 36 巻 p. 21-36
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、再犯防止を主とする日本の刑事政策の潮流は、出所者/( 元)犯罪者に対してはもちろん、かれらを受入れるわたしたちにも変わることを求めている。他方、出所者支援に専門性が付与されていく過程のなかで、ますます出所者は地域のなかで(元)犯罪者である、という位置づけがより強固なものにされていく危険性を帯びている、とも考えられる。罪を犯すことによって失う最たるものが「信頼」であるとすれば、支援者はその「信頼」を一時的に補填し、かれらと地域の住民との関係性に働きかけつつ、かれらが地域社会において再び「はじきだされる」ことなく「やりなおす」ことを支えていく存在になることが求められる。地域・都市に、異端者としてはじきだされてきた「犯罪者」として、再度、地域のなかでやりなおしを強いられる「出所者」として、そして、いずれにしても社会から排除される存在としてのかれらが、わたしたちとともに暮らす一人の隣人として生きていくためには、わたしたちの側もかれらとともに変わっていかなければならない。

  • −移動性の観点から−
    阪口 毅
    2021 年 36 巻 p. 37-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は、都市社会学における「移動性(mobility)」の観点から「地域/コミュニティ」概念について再検討を加えつつ、これらの概念を用いることの方法論的な意義について論じるものである。

    「コミュニティ」概念の扱いの難しさは、規範概念としての側面を持ちながら、空間を記述するためにも使用されることに起因する。さらにこれらの二つの側面が、ネットワーク論や構築主義などの重要な理論的知見と接合されていないことも問題である。

    本稿では、既存のコミュニティ研究のレビューを踏まえて、コミュニティを三つの位相―関係的、制度的、象徴的位相―の複合的な社会過程として捉える分析枠組を提示する。そして「コミュニティ」概念が、親密な紐帯、集団の想像、象徴的な境界、帰属の経験といった現象を、包括的に捉える上で有用であることを示す。

論文
  • −機会構造/選択モデルにおける危険因子の実証分析−
    齊藤 知範, 山根 由子
    2021 年 36 巻 p. 51-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    詐欺とサイバー犯罪の被害に関する海外の実証研究では、日常活動、防護性の不在と被害との関連が明らかにされてきた。本稿では、詐欺の既遂群と詐欺被害に至らなかった未遂群に対して行われた調査データを用いて、機会構造/ 選択モデルにもとづき、日本における詐欺の既遂被害の危険因子を分析した。固定電話への犯罪機会に対する近接性、自宅外での日常活動の少なさ、防護性の不在が被害の危険因子であることが明らかになった。さらに、これらの危険因子を組み合わせた2つの分析モデルの結果から、3つの危険因子が重なる場合に被害リスクが最も高いものの、少なくとも1つの危険因子の改善により被害リスクが低減することが示された。知見にもとづき、理論的含意についても論じる。

  • −「性的指向」概念に適合しないセクシュアリティの語られ方に注目して−
    松浦 優
    2021 年 36 巻 p. 67-83
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    日常生活の自明性によってクレイムが予め締め出される事態について、ジュディス・バトラーの「予めの排除」概念とアセクシュアルの「抹消」に関する議論をもとに考察する。事例として、架空のキャラクターへの性的惹かれに関わる造語「フィクトセクシュアル」をめぐるウェブ上の投稿を分析する。

    当事者の一部からは、性的マジョリティを名指す概念として「対人性愛」という造語を用いることで、性的表現を愛好する立場から性愛規範や恋愛伴侶規範を批判するという投稿が見られた。他方、フィクトセクシュアル・カテゴリーの正当性を疑問視する投稿では、性的・恋愛的な対人関係に関わる生得的な「性的指向」ではないという理由が持ち出されていた。さらに、フィクトセクシュアルを「オタク」あるいは「恋愛」という枠組みに回収することによって、性に関する従来の解釈図式を維持する、という「マジョリティへの回収による抹消」が確認された。

  • −高校進学希望者に着目して−
    大江 將貴
    2021 年 36 巻 p. 85-102
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    これまでに犯罪・非行からの離脱を促進する要因として、就労が注目されてきた。他方で、少年院出院者の修学への関心が高まっている。しかし、非行からの離脱過程における修学に着目した研究は多くない。そこで本稿は、少年院入院経験者の少年院での経験と、進路希望の形成過程を明らかにすることを目的とした。本稿では、少年院入院経験者に対して半構造化インタビューを実施した。

    分析の結果、以下の2点が明らかになった。1点目に、少年たちは少年院への入院経験を肯定的にも否定的にも解釈していたということである。語りからは、少年院を自身が成長するための転機の場と意味づける一方で、少年院内で緊張が生じる場面もあることが示唆された。そして2点目に、少年たちは少年院に入院後の早い時期から、自身の希望進路を明確にしていたということである。しかしながら、少年院内で自身の進路希望を保持し続けることで生じる緊張があることも示唆された。

  • −1970~80年代における遠山啓と八杉晴実の所論を通して−
    香川 七海
    2021 年 36 巻 p. 103-118
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/01
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    本稿は、1970~80年代を対象として、同時代に展開された数学者の遠山啓と私塾教師の八杉晴実の所論を検討することで、フリースクール運動台頭以前のオルタナティブ教育史における私塾の位置づけを明らかにするものである。

    戦後日本における青少年の教育機会は、公教育と私教育に大別できる。私教育のうち、家庭教育を除外すれば、学校外の教育機関である学習塾が教育機会の大きな比重を占める。学習塾のなかで、補習塾は、1960年代に登場した。また、1970年代に、補習塾から分岐した私塾の一部では、学校教育とは異なる価値観が志向され、これらの私塾は、学校教育から離脱する青少年の受け皿となった。先行研究では、ほとんど言及されていないが、フリースクール運動台頭以前において、私塾の存在はオルタナティブ教育の萌芽として評価することができる。本稿では、遠山と八杉による所論を手がかりに、学習支援を中心とする私塾の役割をオルタナティブ教育史の側面から考察した。

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