現在,半導体や医薬品の先端産業で用いられているクリーンルームでは,その室内で発じん(塵)を生じており,発生した粉じんは室内の気流によって運ばれる.室内気流のパターンを把握し,気流制御を行うことで汚染防止を図る方法はすでに各方面で検討されている.近年,半導体業界においては,ウエハに欠陥を生じさせる微粒子の挙動とウエハ表面の汚染機構に注目が集まってきている.本研究では,ウエハ表面への粒子付着に大きく関与すると考えられている静電気力(クーロン力)の影響を解析するために,ウエハ近傍および表面での微粒子の挙動と付着の様子を,レーザ光を用いた可視化手法により明らかにした.実験は次の手順で行った.1)クリーンブース内に設置されたウエハにポリスチレンラテックス粒子を含んだ清浄空気を供給し,そこへレーザ光を照射して粒子の散乱光をビデオカメラで撮影する.2)そのビデオ画像から粒子の挙動とウエハ表面への付着数を観察および計数する.実験においては,以下に示す四つのパラメータを変化させて粒子沈着速度を測定し,粒子沈着速度に及ぼす静電気力の影響と,それ以外のブラウン拡散や重力,慣性力の影響について比較した.1)粒子の帯電状態(帯電,中和)2)ウエハ表面電位(0V〜4kV)3)粒径(0.3μm,1.0μm,3.0μm)4)ウエハの気流に対する向き(直角,平行)実験結果の概要は以下のようである.粒径0.3μmの粒子では,粒子沈着速度に及ぼす静電気力の影響がブラウン拡散の影響と比較して圧倒的に大きい.ブラウン拡散に起因する粒子沈着速度は静電気力に起因する粒子沈着速度の1/1000程度であった.また,粒径1.0μmと3.0μmの粒子では,重力や慣性力の粒子沈着速度に及ぼす影響が少しみられるものの,それらが原因の粒子沈着速度は静電気力に起因する粒子沈着速度の1/10から1/100程度であった.なお,ウエハ表面への粒子沈着に及ぼす静電熱気力の影響を実験により調べたDonovanらの報告によると,粒径が0.3μmと0.6μmと0.9μmの粒子では,ウエハの表面電位が4kVの場合,ブラウン拡散や重力,慣性力が原因の粒子沈着速度は静電気力に起因する粒子沈着速度の1/8〜1/7程度であり,著者らの実験結果と大きく異なった.著者らは,ウエハをクリーンブース内に設置し,実際のクリーンルーム内のウエハの設置状態と同等にして実験を行ったのに対して,Donovanらはウエハを,密閉容器内で激しくかくはん(攪拌)された空気中に設置して実験を行った.両者の実験において,ウエハ表面近傍の気流形状は大きく異なり,このため粒子沈着速度の測定値も大きく異なったと考えられる.著者らの実験結果によれば,ウエハ表面またはエアロゾル粒子を静電気的に中和して,エアロゾル粒子に作用する静電気力を0に近付ければ,ウエハ表面への粒子沈着を大きく減少させることができることが明らかになった.
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