本研究では模型実験を用いた解析により,アトリウム空間内の熱・空気流動性状の構造的な解明を行うとともに,その結果を空調設計へ応用する手法を開発することを目的としている.前報では室内に対流熱伝達される熱流を既知として,冷房時の模型実験を行った.本報では,室内壁面から室内への流入熱を既知としこれが放射および対流によりどのように分配され熱伝達されるかを解析し,さらにその結果としての壁面対流熱伝達が室内の温熱環境形成にどう影響するかを解析・検討する.模型実験および放射解析の結論は以下のとおりである.(1)模型縮率および熱量の縮率を大きくし,断熱性も向上させた新実験模型を用い,熱収支誤差が約10%以下の極めて精度の良い実験を実現した.(2)模型内壁全面を放射率が既知の黒色面とし,実験期間中を通して表面の汚れ,酸化などによる放射率変化が抑えられ,放射熱伝達量を正確に求めることができる.これにより各壁面の対流・放射伝達熱の出入りの構造を精度よく明らかにした.(3)天井面での発熱量のほぼ全量は放射により下方の壁面や床面に熱伝達され,対流により天井付近の空気に熱伝達される量は1%未満と極めて少ない.(4)床面での発熱は,そのほぼ7割以上が空気に対流熱伝達する.また,発熱のない床面においても,天井面,壁面上部からの放射熱(室内総流入熱量の約4割弱)を受熱し,空気に対流熱伝達する.(5)鉛直壁面からの流入熱は,上部ではほぼ2割が空気に対流熱伝達され,下部ではほぼ8割弱が空気に対流熱伝達される.
抄録全体を表示