建物やトンネルでの火災時に発生する煙や,トンネル掘削時の発破による粉じんに対する対策の一つとして,放電線を利用して消煙あるいは集じんする方式が考えられている.この方法は,室あるいはトンネル内に設けた放電線からのコロナ放電によって荷電した粒子を,室あるいはトンネルの内壁面に直接集じんしようとするものである.ここでは,その最も簡単な場合として,廊下あるいはトンネルを模擬した長方形断面をもった二次元形状に対して,中央部天井近くに放電線を配した場合について消煙実験を行い,簡単な仮定によって導出したモデルによる計算結果と比較した.実験用チャンバは,幅90cm,高さ180cm,長さ270cmの木製の箱で,天井部分の中央に長さ220cm,直径0.5mmのステンレス鋼線を配置し,放電線とした.ハエ取り線香の煙をチャンバ内の濁度が0.92m^<-1>になるまで満たした後,負の直流高圧を印加し,濁度の減少と放電電流の時間変化を測定した.実験は,放電線の天井からの距離が15cm,30cm,45cmの3通り,設定電流(無負荷時の放電電流)が10μA,35μA,120μAの3通りの計9通りの条件で行った.その結果,次のようなことが明らかとなった.1) チャンバ内の煙は,電圧印加後数分の間に完全に消煙される.2) 設定電流が大きいほど消煙速度は大きいが,放電線位置を変えても消煙速度はほとんど変化しない.したがって,放電線位置を天井に近づけたほうが,低い印加電圧で同じ消煙効果が得られる.次に,消煙機構の理論的な検討を行った.室内を完全混合と仮定して,煙濃度の減少速度と煙粒子の荷電速度を表す微分方程式を導き,次の2通りの仮定に基づいた計算を行った.(1) チャンバ内の煙粒子電荷密度を一定とした計算煙粒子への荷電が進行してチャンバ内の電荷密度が上昇すると,放電電流が抑制されるので電荷密度には最大値が存在する.この値は,境界条件を近似的に満たすポアソン方程式の解を得ることによって解析的に求められる.消煙の全過程を通して,チャンバ内の電荷密度がこの最大値に一致するものと仮定すれば,消煙速度は一定になり,煙濃度の変化は時間の一次式で表される.煙濃度が初期値の1/2になるのに要する時間をこの仮定の下で計算し,実測値と比較した.計算値と実測値には2倍程度の差があるが,消煙速度が設定電流のみに依存し,放電線位置に関係しないという特徴は正確に表現されている.(2) 荷電速度を考慮した計算消煙過程をより正確に記述するためには,荷電速度の式をも考慮して,煙粒子の電荷密度を時間の関数として表した解析が必要となる.ここでは,煙粒子電荷密度が0の場合のチャンバ内の電界とイオン濃度を,ポアソン方程式とイオン流の連続式とから数値計算によって求め,前述の煙粒子電荷密度が最大値をとり,イオン濃度が0となる場合の解との間で線型補間することによって,任意の電荷密度における消煙速度と荷電速度を与えた,この方法によって,煙濃度と放電電流の時間変化曲線が実測値に近い形で再現できた.また,煙粒子電荷密度の時間変化の計算値は実測値とほぼ一致したものが得られた.最後に,チャンバ内の空気の混合強さが消煙速度に与える影響を実験的に検討した結果,混合度が大きいほうが設定電流の影響が強く現れ,設定電流が大きい場合は消煙速度はより大きく,設定電流が小さい場合は消煙速度はより小さくなる傾向がみられた.
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