前報に引き続いて,廊下あるいはトンネルを模擬した長方形断面をもった二次元空間に対して,中央部天井近くに放電線を置いた場合の消煙性能を,理論と実験とから検討した.まず,煙濃度変化を表す基礎式として,煙発生,荷電による非荷電粒子から荷電粒子への移行,空間での荷電粒子と非荷電粒子の凝集,静電拡散による荷電粒子の壁への沈着を考慮した,荷電粒子および非荷電粒子に対する収支式を導いた.基礎式中に表れた凝集定数については,荷電粒子と非荷電粒子の間に作用する影像力と,空間電荷電界によって生ずる両者の間の相対運動を考慮することにより,その大きさを簡単な近似式で与えた.また,空間内に新たな煙の発生がなく,凝集効果が無視し得る場合についての消煙速度の近似解を,基礎式を簡単化することによって求め,高濃度領域では消煙速度が一定となり,低濃度領域では消煙速度が濃度に比例することを示した.さらに,消煙速度を積分することによって煙濃度の半減時間(煙濃度が初期値の1/2となるまでの時間)を与える式を求め,初期濃度が高いとき半減時間が初期濃度に比例し,初期濃度が低いとき半減時間が一定となることを示した.次に,平均体積径0.3〜0.5μmの煙粒子および平均体積径0.8μmのDOP粒子に対する実験によって,理論の妥当性を検討した.実験装置は前報で用いたものとほぼ同様である.まず,前報で理論的に導出した,消煙特性を決定する基本量の一つである粒子電荷密度の最大値を実測した結果,DOP粒子に対しては全領域で理論がよく適合し,煙粒子に対しては,燃焼排ガスによる放電開始電圧低下の影響によって,実験範囲の一部で理論値との間に差が生じることがわかった.また,DOP粒子に対する荷電粒子と非荷電粒子の間の凝集速度を,非荷電粒子を満たしたチャンバに荷電粒子を供給したときの濃度減衰を測定することによって求めた結果,実験値は2倍以内の誤差で理論値と一致し,本報で導出した凝集定数の近似式が妥当であることがわかった.また,煙粒子およびDOP粒子に対して行われた消煙実験との比較により,発生項がない場合に対して導出された消煙速度の濃度依存性を与える式および半減時間の初期濃度依存性を与える式が,ともに実験結果をよく説明し得ることがわかった.さらに,煙発生がある場合についての実験結果を,凝集効果と非荷電粒子から荷電粒子への移行の項を含む基礎式に対する数値計算結果と比較した結果,数値計算結果がそれらを無視した解析解よりも実験結果によく一致することがわかった.高濃度領域で凝集効果が強く作用する結果,強い強度の煙発生がある場合にも,濃度はある一定の値以上に高くならない傾向があることも明らかになった.最後に,発生項がある場合について,壁面上での粒子沈着速度の分布を実測し,本報で行った静電拡散効果を沈着の基本的メカニズムであるとした解析がほぼ妥当であることを確認した.本報で得られた結果を利用することによって,システムの幾何形状,煙粒子の物性などが与えられたときの放電線による消煙性能の理論的予測が可能となった.
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