ロシア,シホテアリン山地は,その北部を中心に砂金採集実績が2000トン以上もあり,北東ロシアにおける3大砂金地帯の一つである.初生金鉱床の定量的情報はこれまで未公表であったが,当地地域には巨大規模(金100トン以上)1,中規模(10-50トン)4,小規模(1-10トン)12の初生金鉱床が存在する.これらはペルム紀の1鉱床を除き,白亜紀後期―古第三紀の火成岩類に関連して,火山岩類・貫入岩類,一部堆積岩類に胚胎する.鉱床は主に石英脈・石英細脈型で,一部は断層破砕帯に鉱染する.最大のMnogovershinnoe鉱床では数条の鉱脈一鉱染帯が10km以上にわたって分布する.鉱床は浅~中の2群に分けられ,中熱水性鉱床は白亜紀小貫入岩類,浅熱水性鉱床は古第三紀火山岩類と成因的に関係する.母岩は珪化・絹雲母化・炭酸塩鉱物化・緑泥石化を受ける.脈石鉱物は石英が主体で,氷長石は半数の鉱床で,ごく稀に電気石・蛍石が見られる.鉱石鉱物は自然金・エレクトラム・方鉛鉱・閃亜鉛鉱・黄銅鉱・黄鉄鉱・硫砒鉄鉱・少量の銀鉱物が一般的で,磁硫鉄鉱も一部の鉱床から産出する.銀硫化物は浅熱水性鉱床において,その種類と量が多い傾向がある,以上からシホテアリンには高硫化型金鉱床は存在せず,低硫化型でかつ比較的還元的なものが分布すると言える.
黄鉄鉱を主体とする各種硫化物のδ
34Sは-9.3から5.1パーミルの幅を持つが,一般に負の値が多い.δ
34S値は浅熱水性鉱床よりも中熱水性鉱床でばらつく.また浅熱水性のMnogovershinnoe鉱床ではAu含有量鉱石(平均-5.4パーミル)がAuを含まぬ鉱石よりも3.6パーミル低いδ
34S値を持つ,硫黄同位体比からシホテアリンにはチタン鉄鉱系花崗岩類が卓越することが予想される.東シホテアリン火山岩帯に正のδ
34S値が密集しないために正/負の帯状配列が認められず,帯状分布が見事な西南日本内帯の山陰帯/山陽帯とは明らかに異なっている.後期白亜紀のみを見れば,チタン鉄鉱系花崗岩と負の鉱石硫黄同位体比が卓越する点で,シホテアリンは山陽帯と似ており,韓国の慶尚盆地や中国の福建沿岸の火成活動とは異なる.
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