日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
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51 巻 , 4 号
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原著
  • 市村 崇, 堀田 正人, 小竹 宏朋, 山本 宏治
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 379-395
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    ボンディング材が口腔内で安定して接着していくためには十分な強度が求められる.特に,臼歯部でもコンポジットレジンが多く用いられるようになったため,今まで以上にその強度が求められるようになっている.ボンディング材は基本的にフィラー,レジンモノマー,触媒,その他からなる.しかし,ボンディング材の組成は製品により異なっており,その組成の詳細は公表されていないため,組成と強度との関係について相互に比較検討することは困難で,ボンディング材の機械的性質を評価する方法も確立されていない.そこで,ボンディング材の機械的性質を検討するために本研究を行った.すなわち,本実験では市販のボンディング材15種類についてエナメル質,象牙質に対する引張り接着強さとその破壊形式の観察を行い,それに加えて同じ接着システムのボンディング材の無機質フィラーの含有量と組成分析,微小押込み硬さ,薄膜密着強度について測定し,その関連性について検討した.その結果,ボンディング材のエナメル質,象牙質に対する接着強さはそれぞれ4.5〜13.2,5.8〜13.2MPaであった.無機質フィラーの含有量は,ほとんど検出されなかったものから,43.5Wt%とかなり多いものがあった.また,無機質フィラーの元素分析結果からSi,P,Alをメインピークとするものが多く認められたが,各種ボンディング材によって無機質フィラーの元素は異なっており,原子番号の大きいもの,小さいものさまざまであった.押込み硬さは2.6〜20.7の値を示し,エナメル質は83.8,象牙質は44.8であった.薄膜密着強度は1.4〜4.3Nを示した.また,ボンディング材の無機質フィラー含有量と象牙質に対する接着強さ(r=0.51),薄膜密着強度とエナメル質(r=0.58),象牙質(r=0.49)に対する接着強さとの間に弱い順相関が認められた.以上のことから,ボンディング材の機械的強度を向上させることは接着強さを向上させるうえで重要であることが示唆された.
  • 中島 正俊, 谷口 玄, Kunawarote SITTHIKORN, 保坂 啓一, 高橋 真広, 岩本 奈々子, 岸川 隆蔵, 田上 順次
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 396-402
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA®,クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル®(サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA®の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル®にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.
  • 古澤 成博, 小貫 瑞穂, 細川 壮平, 大迫 美穂, 早川 裕記, 根本 詩子, 関根 珠里亜, 吉田 隆, 渡部 光弘
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 403-410
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    近年,意図的歯牙再植法は外傷による脱臼歯の処置法として有用であるのみならず,パーフォレーションなどの偶発症に対する処置や,慢性化膿性根尖性歯周炎と診断され,通法の根管処置では治癒が望めない,いわゆる難治性根尖性歯周炎に対する処置法としても注目されている.今回われわれは,通常の根管処置を行ったにもかかわらず症状の改善が認められない症例に対して,意図的歯牙再植法を実施し,症状の推移について検討した.被験歯としては,東京歯科大学千葉病院ならびに水道橋病院保存科,水道橋病院総合歯科を訪れた年齢13歳から68歳までの患者(平均41歳)で,いずれも慢性化膿性根尖性歯周炎と診断され,通法の感染根管処置を行った後も症状の改善が認められなかった症例30例である.これらに対して患者の十分な同意の下に,根尖(歯根端)切除術を併用した意図的歯牙再植法を実施した.その結果,すべての症例で術前・術中に咬合時痛,打診痛,根尖部違和感を認めていたが,処置後に症状が改善され,修復物の装着にいたり,現在歯根吸収などを含め全く症状が認められないものが28例であった.2例は術前・術後の症状に変化がなく,症状発現の原因が根尖部に存在せず,いわゆる神経因性疼痛の疑いがあるものと考えられた.以上のことから,慢性化膿性根尖性歯周炎と診断され,根尖部に疼痛発現の原因が存在し,これが通常の根管処置では改善されないいわゆる難治性根尖性歯周炎の場合,その処置法の選択肢として意図的歯牙再植法は,有用性が高いものと思われた.
  • 大場 志保, 福嶋 千春, 森 俊幸, 神谷 直孝, 岩井 啓寿, 小里 達也, 三田 肇, 池見 宅司
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 411-418
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    審美修復にオペークレジンの必要性が認識されるようになった今日では,多種類のオペークレジンが市販されるようになった.しかし,オペークレジンの色の種類が多く,積層するコンポジットレジンとの組合せで多様な色となり,臨床の場で即時にそれらの組合せを判断して修復することは困難と考えられる.そこで,著者らはできるだけ少ない色の種類のオペークレジンを開発することで,その困難性を回避できるものと考え,TP値を背景色遮蔽と透過性の指標として研究を行ってきた.本実験では,まずオペークレジンのスタンダード色を求めるために,生活歯の全部被覆冠の支台歯を測色し,スタンダード色となるシェードを調べた.そして,ジルコニアフィラーの充填率を変化させたコンポジットレジンに,3種類の顔料を調合してスタンダード色のオペークレジンを作製した.それらのオペークレジンの上にシェードA1,A2,A3,A3.5,A4,B1,B2,B3,B4,C2,C3のコンポジットレジン試料を設置して接触型三刺激値直読式の測色器にてTP値を調べ,できるだけ少ないジルコニアフィラーの充填率で背景色遮蔽可能な少ない種類のオペークレジンを得ることを目的として実験を行った.その結果,以下の結論を得た.1. 生活歯象牙質の色は被験歯7歯のうち4歯がVitaシェードにおけるA3.5を示した.2. オペークレジン試料の背景色遮蔽効果は,ジルコニアフィラー充填率が高くなるに従って高い背景色遮蔽効果を示した.3. 積層試料の背景色遮蔽効果はジルコニアフィラー充填率が6%でA3.5シェードのオペークレジン試料であれば,積層したすべてのコンポジットレジンにおいてTP値2.0以下を示した.4. 積層試料のTP値予測に関しては,オペークレジン試料とコンポジットレジン試料のTP値から積層時のTP値を予測できる可能性が示唆された.
  • 福嶋 千春, 大場 志保, 藤田(中島) 光, 水野 恭子, 鈴木 英明, 平山 聡司, 池見 宅司
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 419-425
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    今日,歯科臨床で行われている生活歯漂白法はオフィスブリーチング,コンビネーションブリーチングそしてホームブリーチングに分けることができる.本実験は,一般的に臨床で行われているそれぞれの手法に基づいた漂白効果を,褐色鶏卵卵殻にて比較するとともに,ヒトエナメル質表面に与える影響を調べることを目的とした.漂白効果に関しては,接触型の三刺激値直読式測色器を使用して,漂白前と任意の漂白過程で得られたL*値からΔL*を算出して比較した.また,同様にして得られたL*a*b*値からΔE*abを求めてΔE*abとΔL*の相関について検討し,漂白効果を簡易に表す方法について検証した.エナメル質表面に与える影響は,ヒト抜去歯のエナメル質を用いて,漂白前と漂白後の表面粗さをScanning Probe Microscopeにて調べ,得られたΔRaからそれぞれの漂白法がエナメル質表面に与える影響を調べた.その結果,以下の結論を得た.1. 漂白効果は,オフィスブリーチングにおいて最も著明であり,次いでコンビネーションブリーチング,ホームブリーチングの順であることが明瞭に観察された.2. おのおのの漂白法によるΔL*に関しては,オフィスブリーチングの1処理(3回)で約17.7のΔL*を示し,3処理(9回)で約24.9を示した.コンビネーションブリーチングでは1処理(3回)でオフィスブリーチングと同程度の約17.6のΔL*を示し,5,10,14回とホームブリーチングの回数が増えるに従って上昇し,14回でΔL*は約19.4を示した.ホームブリーチングでは回数が増えるに従って増加したが,14回においてもΔL*は約6.5であった.3. 漂白処理あるいは回数を基にしたΔL*とΔE*abの相関はすべての漂白法において0.90以上の値が得られた.4. ヒト抜去歯を用いて表面粗さをΔRaで調べた結果,オフィスブリーチングはコンビネーションブリーチング,ホームブリーチングよりも有意に表面粗さが大きな値を示し,コンビネーションブリーチングとホームブリーチングでは有意差を認めなかった.
  • 小西 秀和, 高瀬 浩造, 砂川 光宏, 荒木 孝二, 加藤 熈
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 426-434
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    近年,一般開業歯科診療所や病院歯科において,血液媒介感染症等に対する院内感染予防対策が重要な医療安全上の課題となってきている.著者らはこの現状を踏まえ,歯科医師会会員を対象に院内感染予防対策に関する調査的研究を行ってきた.本論では,歯科医師会への新入会員の歯科医師のデータを前報のデータに加えて,感染予防対策の重要なキーワードである「スタンダードプリコーション」(以下,SP)の,アンケートの各回答グループ間における理解度の相違を,分散共分散行列主成分分析(PCA)と一元配置分散分析(ANOVA),および平均値の差の検定(t検定)により統計学的に比較解析を行い,評価した.院内感染予防対策のアンケート調査結果(調査対象者総数:760名,回答者総数:194名,回収率:25.5%)のPCAとANOVAの解析により,説明変数にSPの具体的方法の基本に関する4変数,血液媒介感染症等に対する理解に関する4変数,患者使用後の歯科用器材の滅菌・消毒方法に関する4変数,および歯科診療室の管理運営方法に関する4変数を選択した場合は,SPの理解度に対して各グループ間で有意差が認められた(p<0.05)が,感染予防対策のその他の事項に関する4変数を選択した場合は,SPの理解度に対して各グループ間で有意差が認められなかった(p≧0.05).さらにPCAとt検定の解析により,上記と同一の説明変数の組み合わせ,計5組を選択した場合に,PCAの第一主成分で最高のスコアを示した「グローブの着用交換」,「エイズ・結核患者来院時の対応」,「印象トレー・石膏模型・ワックスバイトの消毒方法」,「院内感染予防対策の教育方法」および「歯科医師の年齢層」の各変数において,その実践度の高いグループまたは若年齢層のグループでは,他のグループに比較してSPの理解度が有意に高かった(p<0.05).以上のことから,歯科医療従事者のSPの理解度と院内感染予防対策の実践との間には密接な関係があり,SPの理解度が高いグループでは,日常的な歯科臨床および歯科診療室の管理において十分な院内感染予防対策が行われている可能性が高いことが示唆された.
  • 久保 貞夫, 亀田 寧久
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 435-447
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    歯に外的な力が加わると歪みが生じるが,部位により歪みの形や大きさはそれぞれ異なる.特に歯頸部の歯面では歪みの値が大きくなることが知られている.本研究では,ヒト抜去上顎犬歯の歯頸部に規格化した箱型の窩洞を形成し,その歪みを測定した.窩洞は切端側歯肉側幅3.0mm,近遠心幅5.0mmで深さは2.0mmとした.同じ大きさで歯冠部に形成した窩洞を歯冠部窩洞,歯根部に形成した窩洞を歯根部窩洞,セメント-エナメル境に形成した窩洞を歯頸部窩洞とした.被験歯の歯根は,解剖学的歯頸線から歯根尖寄り6.5mmの位置で常温重合型レジンを用いて固定用リングに埋入し,固定した.窩洞には,光硬化型グラスアイオノマーセメントを充填し,バーニッシュ材をセメントの表面に1層塗布した.ストレインゲージは,窩洞の近心側,遠心側,歯肉側,切端側の4カ所に貼り付けた.荷重方向は歯軸に対して90°および45°の2方向で,3kgf時の歪みを測定した.歪みは,窩洞形成前後およびグラスアイオノマーセメント修復後に測定した.結論を以下に示す.1. 荷重方向による歪みの差は,荷重方向90°より45°のほうが大きかった.2. 歯質による歪みの差は,エナメル質よりも象牙質のほうが有意に大きかった.3. 窩洞形成前の測定では,すべての歯で圧縮歪みが認められた.4. 歯冠部窩洞の歯肉側壁では,窩洞形成後およびグラスアイオノマーセメント修復後に荷重方向90°および45°において引張り歪みが認められた.5. 歯頸部窩洞の歯肉側壁では,窩洞形成後に荷重方向90°および45°において引張り歪みが認められた.6. 歯肉側壁と切端側壁では,窩洞形成前に比べて窩洞形成後の歪み値が小さくなった.グラスアイオノマーセメント修復後の歪みは形成前の数値に近似していた.7. 遠心側壁と近心側壁では,窩洞形成前に比べて窩洞形成後に歪み値は大きくなった.グラスアイオノマーセメント修復後の歪みは形成前の値に近似していた.
  • 木下 直人, 本田 公亮, 長谷川 誠実, 阿部 徹也, 清水 明彦
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 448-456
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    兵庫医科大学歯科口腔外科では,歯科部門と口腔外科部門の2つの外来を設置し,それぞれの専門医を中心として,診療活動を行っている.今回,歯科部門の現状把握の一助とするため,2006年度に院外より診療情報提供書にて紹介された患者88名を対象に臨床統計学的観察を行い,以下の結論を得た.1.歯科診療を行う二次医療機関の整備,充実が急務であると思われた.2.調査した1年間の紹介新患数は88名で,男性33名(37.5%),女性55名(62.5%)であった.3.紹介患者の大部分が開業歯科医院からの紹介で63名(71.6%)であった.4.全身的になんらかの疾患を有する患者の診察依頼が36名(40.9%)であった.5.治療内容として歯内療法学的難症例,原因不明の疼痛の診査が多かった.6.男性の場合50歳以上,女性の場合60歳以上になると,対象者1名当たりの現疾患を含む既往疾患数の増加を認めた.7.男女ともに,50歳以上になると有病者率100%となった.8.全身疾患としては,アレルギー疾患30例(17.4%),循環器疾患27例(15.7%),消化器疾患18例(10.5%)の順で既往歴の上位3位を占めた.9.循環器疾患を有する患者では,全27例中14例(53.1%)が70歳以上であった.
  • 中野 生和子, 川島 伸之, 須田 英明
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 457-463
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    上顎大臼歯の近心頬側第二根管は,解剖学的には高い頻度で存在すると報告されているが,日常臨床においてそれが同定される割合は決して高いとはいえない.今回,裸眼による上顎大臼歯の近心頬側第二根管の確認が,非常に難しかった症例を報告する.本症例では,歯科用実体顕微鏡と超音波チップを併用することで,近心頬側根の根管口よりも深部にある近心頬側第二根管を発見することが可能であった.発見した近心頬側第二根管を化学的・機械的に清掃することにより,ただちに瘻孔の消失を認めた.すなわち,根管からの細菌の排除が,治癒を導くうえできわめて重要であることを確認した.また,術者の経験あるいは手指感覚に頼る,裸眼での根管処置には限界があることを本症例は示唆している.十分な光源の下で視野を拡大することが可能な歯科用実体顕微鏡や,石灰化した歯質を有効に除去することが可能な超音波チップといった適切な器具を使用することが,確実な根管処置を行うためには不可欠である.
  • 美原(和田) 智恵, 板東 美香, 片岡 正俊, 久保田 健彦, 板垣 真奈美, 島田 靖子, 田井 秀明, 吉江 弘正, 西村 英紀, 曽 ...
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 464-471
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    薬物誘発性歯肉増殖症は,カルシウム拮抗剤,抗てんかん剤あるいは免疫抑制剤の服用者の一部に認められる副作用である.歯肉増殖症の発症機構についてこれまでにさまざまな報告がなされてきたが,近年,歯肉増殖症は歯肉線維芽細胞におけるα2インテグリン発現の抑制とコラーゲンファゴサイトーシスの抑制を介したコラーゲン線維の蓄積により発症することが示された.しかしながら,歯肉増殖症の発症率が報告により異なっている原因については不明である.いくつかの疾患において,その発症に関与する遺伝的素因として一塩基多型が知られている.筆者らは,α2インテグリン+807C/T遺伝子多型が歯肉増殖症の発症と関連することを示したが,この遺伝子多型はアミノ酸変異を生じないため発症との直接の関与は考えられず,+807の近傍のほかの一塩基多型との協調関与の可能性が考えられた.そこで本研究では,歯肉増殖症の発症と+807遺伝子多型と連鎖不平衡の関係にあるα2インテグリン+1648G/A遺伝子多型との関連について検討を行った.被験者は,徳島大学病院および新潟大学病院に通院するカルシウム拮抗剤,フェニトイン,あるいはサイクロスポリン服用患者98名を対象とした.歯肉増殖はMcGawらの基準に基づき判定した.末梢血サンプルは増殖症患者45名(増殖症群)と非増殖症患者53名(非増殖症群)から採取した.血液からゲノムDNAを抽出し,α2インテグリン+1648遺伝子部位についてシークエンス分析を行った.その結果,α2インテグリン+1648G/Aの遺伝子型分布は,GGが増殖症群と非増殖症群でそれぞれ95.6%と88.7%と著しく高く,GAはそれぞれ4.4%と9.4%,そしてAAは非増殖症群の1例のみであった.また,アレル頻度については+1646Gアレルが増殖症群と非増殖症群でそれぞれ97.8%と94.7%で,+1648Aアレルがそれぞれ2.2%と5.3%であり,両群間には有意な差は認められなかった.これらの結果は,薬物誘発性歯肉増殖症の発症はヒトα2インテグリン+1648G/A遺伝子多型と相関しないことを示している.しかしながら,歯肉増殖症はα2インテグリン+807C/T遺伝子多型と+1648G/A以外のその他の遺伝子多型との協調を介して発症することも考えられる.
  • 長谷川 徹, 山本 俊郎, 梅村 星子, 足立 圭司, 西垣 勝, 大迫 文重, 雨宮 傑, 金村 成智
    原稿種別: 原著
    2008 年 51 巻 4 号 p. 472-477
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    【目的】近年,口腔疾患と全身疾患(たとえば,歯周疾患と虚血性心疾患,細菌性心内膜炎,早産,低体重児出産,肺炎など)との関連性についての報告が散見される.そこで,われわれは日常の臨床で一般的に用いられる医療情報を基に,口腔内の病態を数値化したパノラマインデックス(Panorama Index : P.I.)を作成,これを用いて口腔内の病態と心疾患との関連性について検討を加えたので報告する.【方法】2003年1月から2007年12月までの5年間に京都府立医科大学附属病院歯科を受診した初診患者のうち,40〜80歳で初診時に「心疾患の既往を有するもの」と「全身疾患を有しないもの」に対してパノラマX線撮影および口腔内診査を施行した204名を対象とした.そして,初診の問診の時点で「心疾患の既往を有するもの」を患者群とし,対照群は「全身疾患を有しないもの」とした.P.I.はパノラマX線撮影で得られた医療情報から,う蝕,根尖病巣,智歯歯冠周囲炎,残根状態を診査し,その病態をスコア化したものと,歯周疾患の病態をCPIコードを用いてスコア化したものから算出し,口腔内の病態と心疾患との関連性について検討を加えた.なお得られたデータは,Mann-WhitneyのU-testを用いて統計学的検討を加えた.【結果】患者群は88名で平均年齢は64.7±9.2歳であった.また対照群は116名で平均年齢は56.0±10.2歳であった.P.I.の平均値は患者群で6.8±0.2,対照群で6.0±0.2であり,対照群と比べて患者群は有意に高値を示した(p<0.05).次に年代別では,50歳代はP.I.が対照群と比べて患者群で有意に高値を示した(p<0.05).【結論】心疾患を有する患者群のP.I.と全身疾患を有しない患者群のP.I.は有意差を認めたことから,P.I.は歯科受診患者が心疾患に罹患する危険性の評価法となる可能性が考えられた.
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