日本歯科保存学雑誌
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54 巻, 6 号
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ミニレビュー
原著
  • 山中 裕介, 金子 友厚, 吉羽 邦彦, 興地 隆史
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 368-374
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    Bcl-2(B-cell lymphoma 2 protein)は,血管新生およびアポトーシス関連タンパクとして知られているが,根尖性歯周炎の病変形成に果たす役割は不明である.そこで本研究では,ラット実験的根尖性歯周炎におけるBcl-2および関連タンパクであるBax (Bcl-2-associated X protein)のmRNA発現を経時的に検索した.実験には5週齢Wistar系雄性ラットの下顎第一臼歯を用い,露髄後14あるいは28日間開放のまま放置することにより根尖性歯周炎を誘発した.次いで,被験歯の根尖部歯周組織に対してCD31, Bcl-2およびBaxに対する免疫組織化学染色を施すとともに,免疫レーザーキャプチャーマイクロダイゼクション法にてCD31陽性血管内皮細胞およびその周囲のCD31陰性組織を採取し,おのおのにおけるBcl-2およびBax mRNAの発現をリアルタイムPCRで定量した.病変拡大期である14日経過例では,Bcl-2 mRNA発現は正常根尖部歯周組織および28日経過例と比較して有意に高く(p<0.05, Mann-Whitney U検定),また血管内皮細胞では周囲組織と比較して有意に高レベルであった(p<0.05, Paired t検定).一方,Bax mRNA発現には観察期間による有意差は認められなかった.以上より,ラット実験的根尖性歯周炎ではBcl-2が病変拡大期に血管内皮細胞で発現を亢進させることが明らかとなった.
  • 鵜飼 孝, 横山 美穂, 岸本 隆明, 吉永 泰周, 市村 育久, 押野 一志, 原 宜興
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 375-383
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    われわれはこれまでに,茶カテキンがマウスにおいて炎症性の歯槽骨吸収を抑制することを示してきた.茶カテキンは多種のカテキン類の複合物であり,その主成分はエピガロカテキンガレート(EGCG)である.EGCGは多様な生物学的活性を有しており,破骨細胞形成を抑制することも報告されている.しかし他のカテキン類と比較してその強さがどの程度のものなのかは不明である.またEGCGが破骨細胞形成にどのように影響を及ぼすのかは明らかになっていない.本研究の目的は,マウス骨髄マクロファージにmacrophage colony stimulating factor (M-CSF)存在下でreceptor activator of NFκB Ligand (RANKL)を添加することにより破骨細胞を形成させる系を用いて,破骨細胞形成に及ぼすカテキン類の影響を調べ,EGCGの影響の強さを検討すること,ならびに破骨細胞形成へのEGCGの作用を検討することである.まず骨髄マクロファージにRANKLと同時にカテキン類を添加し,72時間後の細胞の状態を確認した.次に前破骨細胞分化に及ぼすEGCGの影響を調べるためRANKLと同時にEGCGを添加し,48時間後の単核のTRAP陽性細胞の形成状態を確認した.また細胞にRANKL添加と同時または添加24, 48, 60時間後にEGCGを加え,RANKL添加72時間後の破骨細胞形成状態を確認した.さらに細胞をEGCGで24時間前処理後にEGCGを除去し,RANKL添加72時間後の破骨細胞形成状態を確認した.破骨細胞の同定には酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色を行い,3核以上の多核のTRAP陽性細胞を破骨細胞として評価した.その結果,RANKL添加72時間後には多くの破骨細胞が検出できたが,カテキン類添加により抑制された.EGCGはカテキン類のなかで,強い破骨細胞形成抑制作用を示すものの一つであった.EGCGはRANKL添加48時間後における破骨細胞前駆細胞から前破骨細胞への分化も強く抑制した.さらにEGCGはRANKLと同時ばかりでなく,RANKL添加24, 48, 60時間後に添加されても破骨細胞形成を抑制した.しかしEGCGの前処理はRANKL添加72時間後の破骨細胞形成に影響を及ぼさなかった.以上より,EGCGは破骨細胞形成抑制能が強いカテキン成分の一つであり,RANKL存在下での破骨細胞前駆細胞から前破骨細胞への分化ならびに成熟破骨細胞への分化を強く抑制することが示された.
  • 織田 洋武, 坪川 瑞樹, 玉澤 賢, 堀内 健次, 鴨井 久博, 中島 茂, 佐藤 聡
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 384-392
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    銀は一般家庭において除菌,抗菌,脱臭などの目的で高頻度に使用されている.銀コロイド溶液は,銀を電気分解して精製される無色透明の溶液であり,銀イオンよりも安定した状態で殺菌力をもつことで注目されている.また,銀コロイドは,特殊イオン交換体の相乗作用により殺菌,抗菌,脱臭の効果が増強することが報告され,食品の消毒や医療分野への転用が期待されている.本研究は銀コロイド溶液の口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびにヒト歯肉および歯根膜より分離培養した線維芽細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験は,Streptococcus mutans (ATCC25175), Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522), Poyphyromonas gingivalis (W83, ATCC33277), Prevotella intermedia (ATCC25611), Fusobacterium nucleatum (ATCC25586)の6菌種を使用した.各細菌を洗浄後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後A. actinomycetemcomitans, S. mutansは48時間, P. gingivalis, P. intermedia, F. nucleatumは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units (CFU)で行った.細胞毒性試験は,ヒト歯肉線維芽細胞とヒト歯根膜線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)を30秒,1, 2, 4分間それぞれ作用させた.その後,8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に対し,銀コロイド溶液を1〜100ppmに調整した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,30ppmの銀コロイド溶液はS. mutans (ATCC25175), A. actinomycetemcomitans (ATCC29522), P. gingivalis (W83, ATCC33277), P. intermedia (ATCC25611), F. nucleatum (ATCC25586)の6菌種に対して完全な殺菌効果を示し,1.5ppmと3ppmの濃度においても有意な細菌の殺菌力を示した.さらに銀コロイド溶液は30ppmの濃度において歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,20ppmにおいては抑制作用を認めなかった.細胞生存率は,100ppm以下の濃度において歯肉および歯根膜線維芽細胞のLD50値は観察されなかった.以上の結果から,銀コロイド溶液は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内病原細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.
  • 三宅 香, 大橋 桂, 二瓶 智太郎, 清水 統太, 山口 真一郎, 近藤 行成, 好野 則夫, 寺中 敏夫
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 393-398
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    われわれは歯質ならびに材料表面の表面自由エネルギーを低下させ,かつ耐酸「生を付与することができる表面改質剤を開発し,プラークの付着,形成ならびに歯質の脱灰を抑制して,齲蝕および歯周疾患を予防することを目的として研究を進めてきた.本研究では,材料表面への抗菌性の付与を目的として新規に合成した第4級アンモニウム塩の構造を有するシランカップリング剤N-allyl-N-decyl-N-methyl-N-trimethoxysilyl-propylammonium iodide (10-I),およびN-allyl-N-methyl-N-trimethoxysilylpropyl-N-octadecylammonium iodide (18-I)の生体為害作用の有無を細胞毒性試験により評価を行った.20mmol/lに調製した10-Iおよび18-Iで表面改質したガラス板を細胞培養液に浸漬し,37℃,5%CO2インキュベーター中で24時間抽出した.これを100%抽出液として培養液で段階希釈し,検体試験液を作製した.培養は組織培養用プラスチックプレートに100個/ml/wellに調製したチャイニーズハムスター肺由来線維芽細胞を0.5ml/well播種し,37℃,5%CO2インキュベーター中で6時間培養した.培養後,各濃度の検体試験液を0.5ml/wellずつ加え培養し,6日後に0.1%メチレンブルー溶液で染色して,細胞数50個以上のコロニーを計測した.細胞毒性評価は,50%コロニー形成阻害濃度(IC50)を求めた.その結果,18-1のIC50は18.8%であり,中程度の細胞毒性を有することが示された.10-1は100%抽出液においても細胞のコロニー形成を阻害せず,IC50は>100%であった.
  • 長谷川 哲也, 中野 健二郎, 杉尾 憲一, 林 真希, 山田 三良, 冨士谷 盛興, 千田 彰
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 399-405
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,ポスト孔における光重合型接着システムのデュアルキュア化の有用性を検索することを目的として,ポスト孔の深さおよび接着システムのデュアルキュア化が,根管象牙質とコア用レジンとの窩壁適合性に与える影響を中心に検討した.本実験は,ヒト抜去中切歯を用いて行った.抜去歯を歯冠と歯根に低速切断機を用いて分割し,得られた歯根部に通法に従い根管拡大形成を行った.その後,直径1.5mmのポスト形成用ドリルを用いて,深さ5mmおよび10mmのポスト孔を形成した.これらの歯根に対して,光重合型のG-ボンド(GB),試作デュアルキュア型接着システム(DC),およびデュアルキュア型のユニフィル^[○!R]コアセルフエッチングボンド(SE)の3種類の接着システムを用いて根管内象牙質に対して接着処理を行った.その後,デュアルキュア型のコア用レジンを填塞し,ファイバーポストを挿入した.余剰なレジンを除去後,光重合硬化させた.各試料を歯軸と水平に切断した後,根管象牙質とコア用レジンとの接着界面を,走査電子顕微鏡(SEM)および表面形状測定顕微鏡を用いて検索した.その結果,接着界面のSEM観察および表面形状測定顕微鏡観察から,GBを用いた試料の接着界面は5mm, 10mmのいずれもギャップが観察された.しかし,DCおよびSEを用いた試料の接着界面はともにギャップが認められなかった.以上より,根管象牙質とコア用レジンとの良好な窩壁適合性を得るためには,ポスト孔の深さにかかわらず,光重合型接着システムのデュアルキュア化が有用であることが示唆された.
  • 蔵田 和史, 鈴木 奈央, 笹本 実, 加治木 聡, 権藤 加那子, 鬼塚 得也, 森 智昌, 永井 淳, 加藤 熈, 坂上 竜資
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 406-412
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    口臭の原因物質としては,口腔内プラークに由来する揮発性硫黄化合物が特に重要である.現在,種々の口臭抑制剤が市販されているが,このなかでも特にポリフェノール化合物には口臭の抑制効果があることが報告されている.これまでわれわれは,カキノキDiospyros kaki Thunbergの果実より得られた抽出液にトレハロースを加えて作られた消臭剤「パンシルPS-SP®」に着目し,in vitroにおけるPorphyromonas gingivalisに対する静菌作用と消臭作用,さらにメルカプトエタノールに対する消臭作用を報告してきた.そこで今回われわれは,カキノキDiospyros kaki Thunbergの果実より得られた抽出液を限外濾過し,「パンシルPS-SP®」よりもさらにポリフェノール化合物の精製度を向上させたものにトレハロースを加えて作られた消臭剤「パンシルPS-M®」(以下,パンシルと略す)を用いて,口臭の抑制効果を検証することを目的として,被験者100名の口臭を「MS-Halimeter®」(以下,ハリメータと略す)を用いて測定した.まず,起床1時間後に口臭を測定し,この値を基準値(コントロール)とした.その後,蒸留水を嚥下2分後,1.0%パンシル溶液を嚥下2分後と10分後に同様にして口臭を測定した.実験の結果,コントロールと比べて,1.0%パンシル溶液嚥下2分後と10分後では,ハリメータによる口臭測定値において統計学的に有意な減少が認められた(p<0.05).以上のことから,パンシルはin vivoにおいて口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物に対し,消臭効果をもたらすことが明らかになった.
  • 青山 剛大
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 413-423
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    He-Neレーザー照射された培養骨髄由来細胞を用いた低レベルレーザー治療(Low Level Laser Therapy,以下,LLLTと略す)の効果に関する研究は,ほとんど見受けられない.そこで本研究は,He-Neレーザー照射が骨髄由来細胞に及ぼすLLLT効果を検索し,臨床応用することを目的として遂行された.SD系ラット大腿骨由来骨髄細胞を二度継代した細胞にHe-Neレーザー照射(1.20J/cm2)し,ポリスチレン上で培養して細胞増殖活性および分化活性を検討した.細胞増殖活性は吸光度より評価し,また分化活性はアルカリフォスファターゼ染色とReal-time定量PCR法により標的遺伝子[アルカリフォスファターゼ(以下,ALPと略す),オステオポンチン(以下,OPNと略す),あるいはオステオカルシン(以下,OCNと略す)]の発現を確認,評価した.また,He-Neレーザー照射がチタンプレート上の骨髄由来細胞に及ぼすLLLT効果も確認するため,チタンプレート上のレーザー照射骨髄由来細胞の増殖活性および分化活性も同様の方法で検討した.その結果,以下のような知見を得た.1.ポリスチレン上の培養骨髄由来細胞は,He-Neレーザー照射することで細胞増殖活性が上昇した.また,分化活性に関しても有意に高いALPの発現を認め(p<0.05),OPNの発現では高い傾向を示した.よって,He-Neレーザー照射されたポリスチレン上の骨髄由来細胞は,積極的に骨芽細胞へ増殖分化していることが判明し,LLLTの効果が確認された.2.チタンプレート上の培養骨髄由来細胞は,He-Neレーザー照射することで細胞増殖活性が上昇した.また,分化活性に関してもALPとOPNの発現が有意に増加し(p<0.05),チタンプレート上でも積極的に骨芽細胞へ増殖分化していることが判明し,LLLTの効果が認められた.以上のことから,He-Neレーザーは培養骨髄由来細胞に対しLLLTの効果を有することが判明し,この効果はチタンプレート上においても認められた.したがって,チタンインプラント体植立前の骨孔周囲におけるHe-Neレーザー照射にはLLLTの効果が期待でき,臨床応用の可能性が示唆された.
  • 臼井 通彦, 滝口 尚, 史 春, Enkhzaya GURUUDIVAA, 宮澤 康, 菅野 真莉加, 野瀬 冬樹, 斎藤 彰大, 菊池 ...
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 424-431
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    歯科医療において,超音波は歯石除去,プラーク除去,ルートプレーニングなどに応用されてきた.臨床の場において,歯周組織に存在するプラーク,歯石を除去するのに欠くことのできない存在である.歯周ポケット局所においては,超音波照射のキャビテーション効果によりプラークが除去されることが報告されているが,歯周組織に与える影響について詳細に検討した報告は少ない.そこで,本研究では,バイオフィルムの除去可能な超音波照射条件が歯肉上皮細胞に与える影響について検討した.24 wellプレートにStreptococcus mutans(GS-5株)のバイオフィルムを形成させ,超音波照射を行った.超音波発生装置はSonitron 2000 (Nepa Gene)を使用し,バイオフィルム除去に適した条件(発振子・超音波照射時間・Duty比)を検討した.また,ヒト歯肉上皮細胞株Ca9-22細胞を用いて,超音波照射後の細胞増殖,死細胞数,細胞障害性,およびIL-1β産生への影響を検討した.種々の超音波照射条件で刺激し,24時間後にサンプルを回収した.細胞増殖はWST assay,死細胞数はトリパンブルー染色,細胞障害性はLDH値,IL-1β産生量はELISA法にて評価した.バイオフィルムの除去効果は,1MHzの発振子を用いた場合,超音波照射時問3分,Duty比60%の条件で照射すると,最も効率が高かった.一方,3MHzの発振子を用いた場合,超音波照射時間3分,Duty比40%の条件で使用するとバイオフィルム除去率は高い値を示した.次に,歯肉上皮細胞に対する超音波照射の細胞障害性を評価するために,培養上清中のLDH値を測定した.3MHzの発振子を用いると,超音波照射時間にかかわらず,Duty比40〜90%でLDH値は上昇した.1MHzの発振子でも,超音波照射時間にかかわらず,Duty比50〜90%で高い細胞障害性を示した.超音波照射の細胞増殖への影響を検討するために,WST assayを行った.1MHz, 3MHz双方の発振子においても,超音波照射時間3分の条件で使用すると,Duty比80〜90%の条件で細胞増殖は有意に抑制された.さらに,バイオフィルム除去効率の高かった発振子1MHz,超音波照射時間1分間,Duty比40〜60%と超音波照射時間3分間,Duty比50〜90%の条件に着目し,トリパンブルー染色による死細胞数とIL-1β産生量を測定した.超音波照射3分間で,死細胞数・IL-1β産生量は有意に上昇した.以上の結果より,1MHz,超音波照射時間1分,Duty比40〜60%の条件がプラーク除去効果に優れ,歯肉上皮細胞に対する障害性が低いことが示唆された.今回の研究でバイオフィルムを除去するのに適した種々の条件のなかで,歯肉上皮細胞に与える影響が比較的少ない条件を見つけることができた.今後,細胞安全性のみならず,細胞機能においてもより広範な解析を要し,また異なる細胞種においても詳細な検討が必要である.
  • 江場 久哲, 庵原 耕一郎, 立花 克郎, 鈴木 一吉, 堀場 直樹, 中村 洋, 中島 美砂子
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 432-441
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    感染根管治療における無菌化は,治療の成否に大きく関与する.しかしながら,根管は閉塞・狭窄,湾曲,側枝・副根管の存在などにより,しばしば根管拡大・清掃が困難で貼薬剤が到達できず,完全無菌化が困難となり治療期間の延長を余儀なくされる.さらに根管拡大形成による歯質の損失は,歯の破折・抜歯の要因となり,予後に大きな影響を及ぼす.そこで本研究では,短時間で根管内を完全に無菌化する方法の開発を目的として,ナノバブルと超音波を併用することにより,根管内の薬剤を象牙細管深くまで浸透させるための最適な導入条件を検討した.粒径0.2〜0.3μmのピークを示すナノバブルを用いた場合,濃度5%は10%に比べて,また超音波の電圧30Vは31Vに比べて,イヌ抜去歯の象牙細管深部への薬剤導入が有意に多量に認められた.また,イヌ抜去歯の象牙細管内にgreen fluorescent protein (GFP)で標識されたEnteyococcus faecalisを感染させ,72時間後に処置を行い,さらに48時間培養後に150μmの厚みの切片を作製し,共焦点レーザー顕微鏡にて無菌化を検討した.その結果,薬剤アンピシリンを根管内に注入して5%ナノバブルと超音波電圧30Vを120秒間適用することにより,薬剤のみやナノバブルと超音波のみに比べて有意にGFP蛍光の減少がみられた.以上のことから,ナノバブルと超音波を併用することで,象牙細管内に薬剤を深く浸透させ,根管内を短時間に無菌化できる可能性が示唆された.
  • 吉川 孝子, Nipaporn WATTANAWONGPITAK, 趙 永哲, 田上 順次
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 442-447
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    レジンの接着強さは,平坦面の象牙質被着体に対して評価されることが多いが,残存象牙質厚さが少ないとレジンの象牙質への接着強さが低下することが報告されている.そこで本研究では,各種ボンディングシステムを使用したレジンの接着強さに及ぼす残存象牙質厚さの影響について検討した.ヒト抜去大臼歯の咬合面エナメル質を削除し,スチールバーで仕上げした象牙質平坦面を作製した.3種の接着システム;Clearfil Mega Bond(クラレメディカル),Single Bond (3M ESPE), Clearfil Tri-S Bond(クラレメディカル)を用い製造者指示に従い処理した後,Z100 (3M ESPE)のレジンを3×5×2mm (C-factor=0.3)に築盛し,実験用ハロゲンランプ電圧可変光照射器(ジーシー)を用い,出力600mW/cm^2で40秒間光照射を行い重合硬化させた.37℃暗所水中に24時間保管後,試料中央部から長軸方向に,レジン-象牙質界面の接着面積が約1mm^2の試片を切り出した.これら試片の残存象牙質厚さ(RDT)を測定した後,試片の両端を試験装置にシアノアクリレートで接着し,これをEZ test(島津製作所)に装着して,クロスヘッドスピード1mm/minで微小引張り接着強さ(μ-TBS)を測定した.接着強さはRDTにより,1 flat:RDT<2mm, 4flat:≧4mmの2群に分けた.測定値(n=10)は,Bonferroni testを用いて統計処理を行った.接着強さ(MPa)の結果は,Clearfil Mega Bond, 1 flat:59.1 (6.2), 4 flat:82.9 (7.0), Single Bond, 1 flat:63.6 (5.2), 4 flat:63.8 (7.0), Clearfil Tri-S Bond, 1 flat:39.0 (3.4), 4 flat:50.0 (4.7)であった.すべての群でClearfil Mega Bondが最も高い接着強さを示した.Clearfil Mega BondとClearfil Tri-S Bondの接着強さはRDTと相関があり,Single Bondの接着強さはRDTの影響を受けないことが明らかとなったレジンの象牙質接着強さへ及ぼすRDTの影響は,ボンディングシステムにより異なる傾向を示すことが判明した.
  • 森田 有香
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 448-465
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    レジンの歯質接着材が開発された1970年代半ば,レジンとエナメル質との接着は良好であったが,レジンと象牙質との接着は不十分であった.そのため,しばしば歯髄刺激が発生し,その対策としてグラスアイオノマーセメントによる裏層がなされた.また,深い窩洞でその容量が大きい場合,レジンの重合収縮量を制御するために,象牙質部分の代替材料としてグラスアイオノマーセメントが用いられ,いわゆる「サンドイッチテクニック」が提唱された.本法は,裏層材や歯質接着材が格段に進歩した現在においてもなされているが,裏層材とレジンとの接着に関する研究は,ほとんどなされていないのが現状である.本研究は,いわゆる「サンドイッチテクニック」において,最近の裏層材と接着システムを用いた場合のレジン接着について検討した.使用材料として,裏層材には,従来型グラスアイオノマーセメント(高強度型)であるFujilXGP(ジーシー),あるいは2種のレジン添加型グラスアイオノマーセメントであるFuji Lining LC(ジーシー),およびVitre Bond (3M ESPE)やフロアブルコンポジットレジンであるMI FIow(ジーシー)を用いた.接着システムには4種のセルフエッチングプライミングシステムを用いた.また,4種の接着システムにリン酸エッチング処理やシランカップリング処理を加えた場合の接着性も検討した.その結果,本研究の条件下では,従来型グラスアイオノマーセメント(高強度型),あるいはレジン添加型グラスアイオノマーセメントに対し,セルフエッチングプライミングシステムによる接着処理を施した場合,レジンは良好な接着性を呈することが明らかとなった.また,リン酸エッチング処理やシランカップリング処理は,レジンの接着を阻害するので注意を要することが明らかとなった.
  • 山口 人巳, 久保田 健彦, 濃野 要, 両角 俊哉, 飯山 真奈美, 川崎 健司, 吉江 弘正
    原稿種別: 原著
    2011 年 54 巻 6 号 p. 466-475
    発行日: 2011/12/31
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    【目的】Enteyococcus faecium (E. faecium)乳酸菌配合シュガーレスガムが,歯周組織の健康および口腔内細菌叢に与える影響について評価した.【材料および方法】本研究に対して,インフォームドコンセントが得られた慢性歯周炎患者30名(男性14名,女性16名,平均年齢57.3±8.4歳)を研究の被験者とした.二重盲検法を用い,被験者にはEnterococcus faecium配合シュガーレスガム(以下,乳酸菌ガム)および配合なしのPlaceboガム(以下,Placeboガム)のどちらかを喫食してもらい乳酸菌ガム群(15名),Placeboガム群(15名)を設定した.4週間の試験期間中1日4粒のガムを毎食後および就寝前に喫食してもらい,機械的プラークコントロールは停止しなかった.4週間の喫食期間前後に5分間ガムベース咀嚼刺激によって唾液を採取し,生化学的検索として,乳酸脱水素酵素(LDH), Alkaline phosphatase (ALP)活性,遊離ヘモグロビン(F-Hb)量,唾液pHを測定した.細菌学的検索として,全唾液中および残存歯の最深部歯周ポケットから採取した歯周病原細菌Poyphyromonas gingivalis (P. gingivalis), Treponema denticola (T. denticola), Tannerella forsythia (T. forsythia), Prevotella intermedia (P. inteymedia), Aggregatibacter actinornycetemcomitans (A. actinomycetemcomitans)および総細菌数のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による定量を行った.同時に,E. faecium菌の口腔内への定着の有無を調べるために,唾液試料と歯肉縁下プラークを培養法にて簡易定量した.臨床検査項目としてはRamfjordの6歯に対して,プラーク指数(PlI),プロービングポケット深さ(PPD),歯肉炎指数(GI),プロービング時の出血(BOP)を測定した.統計解析は,被験者特性の群間比較にはStudent's t検定を用いた.ガム摂取前後の各検査値の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた.いずれも有意水準は5%に設定した.【結果】全唾液中では,総菌数において両ガム群で減少した.歯周病原細菌では,Placeboガム群は個人間のばらつきがあるもののT. forsythiaのみ有意に減少した.一方,乳酸菌ガム群はT. forsythiaに加え,Red complex細菌として知られるP. gingivalisおよびT. denticolaにおいても有意に減少した(p<0.05).歯肉縁下プラーク中の細菌数においては,全体的に低下傾向を示したが,Placeboガム群でT. forsythiaのみ有意に減少した.被験者の各臨床検査項目において,4週間後改善傾向を示したが,両群間での有意差は認められなかった.唾液生化学的パラメーターの変動では,両ガム群においてLDHでは変化がなかったものの,ALPおよびF-Hbでは両群ともに減少傾向を示しPlaceboガム群では有意に減少した.E. faecium菌の定着およびpHの酸性化は30名すべての被験者から検出されなかった.【結論】乳酸菌配合シュガーレスガムの喫食は,唾液中の歯周病原細菌,特にRed complex菌群を減少させることにより,歯周組織破壊抑制にかかわる可能性が示唆された.
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