目的:本研究の仮説は,同じCO
2レーザーでも波長が異なれば,歯質の無機成分に対するエネルギーの吸収程度が同じでも歯質の表面に異なる性状変化が起こるということである.そこで,CO
2レーザーの象牙質に対する吸収の程度の違いが象牙質の表面改質に及ぼす影響を検索するため,波長9.3μmおよび波長10.6μmのCO
2レーザーを種々のエネルギー密度を設定して象牙質に照射し,象牙質表面の性状変化について比較検討した.材料と方法:ヒト抜去大臼歯から調製した象牙質に,9.3μmの波長をもつ試作CO
2レーザー(タカラベルモント)と10.6μmの波長をもつCO
2レーザー(ベル・ラクサー,タカラベルモント)をおのおの照射し,象牙質の形態変化を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し,結晶学的変化を赤外分光分析装置(FT-IR)および微小部X線回折装置(XRD)により分析した.また,原子吸光分光光度計を用いて測定した溶出Ca量の変動から耐酸性変化を検討した.結果:波長9.3μmのCO
2レーザーを照射した象牙質には照射野に限局した亀裂が認められたが,波長10.6μmのCO
2レーザーを照射した象牙質には,照射野外に及ぶ亀裂が認められた.また,波長93μmのCO
2レーザーを照射した象牙質において,波長10.6μmの場合に比べ多くの熔融物の生成と象牙細管の閉鎖が観察され(SEM),高い結晶性が認められた(XRDおよびFT-IR).また,耐酸性が向上していることも明らかとなった.結論:波長9.3μmのCO
2レーザーを照射した象牙質においては,波長10.6μmとエネルギーの吸収程度が同じでも異なる性状変化が生じることが示唆された.これは象牙質に対するレーザーの吸収程度,すなわちエネルギーの取り込み効率の違いが影響していると思われる.
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