日本歯科保存学雑誌
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56 巻 , 3 号
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原著
  • 吉羽 永子, 吉羽 邦彦, 大倉 直人, 重谷 佳見, 武井 絵梨花, 細矢 明宏, 中村 浩彰, 興地 隆史
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 161-168
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:細胞外基質fibrillin-1は,弾性線維の構成タンパクであると同時に,その分解によりtransforming growthfactor-β (TGF-β)を遊離させることが知られている.また,著者らはfibrillin-1がヒト歯髄直接覆髄後の創傷治癒過程で発現を消失させることを見いだしている.そこで本研究では,TGF-β制御活性を有する組胞外基質decorinとfibronectin,および創傷治癒と組織線維化に関与するtenascin-Cが,ヒト歯髄直接覆髄後の創傷治癒過程でfibrillin-1様の局在変化を示すか否かを検索した.さらに,スライス培養したヒト歯髄を用いて,fibrillin-1の発現消失へのmatrix metalloproteinase (MMP)の関与の実態を検索した.材料と方法:矯正治療により抜歯予定のヒト健全歯をmineral trioxide aggregate (MTA)で直接覆髄した後,2週および6週後に抜歯し,fibrillin-1, fibronectin, decorinおよびtenascin-Cに対する免疫組織化学的染色を行った.また,健全歯髄を組織培養し,fibrillin-1mRNA発現を定量RT-PCRで測定するとともに,MMP阻害剤であるNNGHを添加培養し,fibrillin-1タンパクの局在変化を免疫染色により解析した.結果:直接覆髄後2週および6週において,fibrillin-1に対する免疫陽性反応は,覆髄部直下の歯髄組織で局所的に消失していた.一方,fibronectin, decorinおよびtenascin-Cは同部で一様に陽性反応を示しており,明らかな局在変化は認められなかった.一方,培養歯髄組織ではfibrillin-1の染色性が減弱し,mRNAの発現も有意に低下したが,MMP-3mRNA発現は有意に亢進した.NNGHを添加培養するとfibrillin-1の染色性が向上した.結論:検索対象とした4種のタンパクのなかでfibrillin-1のみ直接覆髄後の創傷治癒過程で局在変化を示した.Fibrillin-1免疫反応性の消失には,MMPsによるタンパクの分解に加えて遺伝子発現の下方制御も関与するものと考えられた.
  • 坪田 圭司, 角野 奈津, 山路 歩, 高見澤 俊樹, 大藤 竜樹, 黒川 弘康, 升谷 滋行, 宮崎 真至, Mark A. LATTA
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 169-177
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:臼歯部咬合面修復に応用可能なコンポジットレジンを選択し,そのwear特性と機械的強度を,曲げ強さ試験を用いることによって検討した.材料と方法:実験には,Clearfil AP-X (Kuraray Noritake Dental), Estelite Σ Quick (Tokuyama Dental), Estelite P Quick (Tokuyama Dental), Solare(ジーシー)およびVenus Diamond (Hereaus Kulzer, Germany)の合計5製品を用いた.wear特性の評価には3体摩耗試験を用い,垂直負荷荷重80Nでステンレス製アンタゴニストを試片に接触させ400,000回繰り返した.試験後の試片について,非接触式レーザー測定装置を用いて,最大摩耗深さおよび摩耗量を求めた.機械的強度の評価としては,製作した試片について,万能試験機を用いて,支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minの条件で3点曲げ強さを測定するとともに,応力-ひずみ曲線から曲げ弾性率およびレジリエンスを算出した.また,得られたデータは,分散分析ならびにTukey HSD test (α=0.05)を用いて統計学的検定を行った.成績:供試したコンポジットレジンのwear深さは66.9〜134.1μm, wear体積は0.015〜0.074mm3と,製品によって有意に異なるものであった.曲げ強さは88.9〜186.6MPa,弾性率は4.7〜15.9GPa,およびレジリエンスは7.7〜9.7MJ/m3であり,レジリエンスのみが製品による差が認められなかった.結論:供試したコンポジットレジンのwear特性および曲げ特性は,材料によって異なるものであり,有機複合フィラーを含む製品に比較して,フィラー含有量が多くしかも微細なフィラーを用いている製品で良好な成績を示した.
  • 武田 進平, 河野 哲, 土井 豊, 吉田 隆一
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 178-192
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:水酸化カルシウム製剤は早期に被蓋硬組織を形成し,その形成量も多い.しかし強アルカリ性のため,場合によっては広範囲な歯髄壊死を生じることや,被蓋硬組織は裂隙を認め,多孔質であることなどの問題点も指摘されている.一方,リン酸カルシウム化合物からなるα-TCP/Te-CPセメントは,生体親和性が高く,硬組織を誘導する.そこでこのα-TCP/Te-CPセメントに注目し,まず理工学的諸性質を調べ,さらに,ラット臼歯露髄面に本セメントを応用し,病理組織学的に検討した.材料および方法:炭酸カルシウムと第二リン酸カルシウム二水塩を基材として,α-TCP/Te-CPセメント粉末を作製し,正リン酸水溶液,リン酸二水素ナトリウム水溶液およびクエン酸水溶液を練和液として種々の条件で実験に用いた.まず,各種条件で練和したセメントの硬化時間,圧縮強度,pH挙動を測定した.また,エックス線回折(XRD),走査電子顕微鏡(SEM)により硬化に関与する固相の検討を行った.さらに,Wistar系ラットの右側上顎第一臼歯に直接覆髄を行い,7日および14日後に全身麻酔下にて灌流固定後,被験歯を上顎骨ごと取り出し,中性脱灰後,通法に従いHE染色を行った.結果:硬化時間は長いもので約52分,短いもので約2分であった.圧縮強度は大きいもので約14.7MPa,小さいもので約0.3MPaであった.pH挙動は,約pH6.0〜9.8で推移した.正リン酸水溶液およびリン酸二水素ナトリウム水溶液で練和したものは,硬化に伴いアパタイトへの移行が認められた.病理組織学的評価においては,被蓋硬組織の形成を認めた.結論:α-TCP/Te-CPセメントは硬化に伴いアパタイトに移行し,水酸化カルシウム製剤に比べ質の高い被蓋硬組織を形成することにより,優れた露髄面の封鎖性を示すことから,直接覆髄剤として有用であると考えられた.
  • 田村 ゆきえ, 高橋 史典, 角野 奈津, 川本 諒, 辻本 暁正, 山路 歩, 坪田 圭司, 黒川 弘康, 宮崎 真至
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 193-199
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:間接修復法であるインレー等の仮封材として,レジン系仮封材が臨床応用されている.仮封材には,十分な機械的強度,良好な辺縁封鎖性,除去の容易性,あるいは簡便な操作性などの諸性質が望まれており,さらに改良が進められている.そこで,S-PRGフィラー含有仮封材を試作し,色素漏洩試験を用いることによって辺縁封鎖性ならびに熱膨張係数について検討を行った.材料と方法:供試した仮封材は,光重合型レジン系仮封材を3種類,化学重合型レジン系仮封材を4種類,および試作S-PRGフィラー含有化学重合型レジン系仮封材である.色素漏洩試験には,ウシ下顎前歯を用い,歯冠部唇面に直径4mm,深さ2mmの倒円錐台形の規格窩洞を形成し,水洗乾燥し窩洞内に仮封材を製造者指示条件に従って填塞した.その後,各試片を24時間37℃精製水中に保管(24h群),あるいは24時間保管後,5℃と55℃で各温度における係留時間を1分間としたサーマルサイクルを100回負荷(TC群)した後,0.5%塩基性フクシン液に24時間浸漬した.仮封材を歯科用探針で除去し,色素浸透状態をスコア化し判定を行った.また熱機械分析装置を用いて,各製品の30〜80℃間の平均熱膨張係数(×10-6/℃)を求めた.成績:色素漏洩試験の結果,24h群では化学重合型仮封材は色素浸透がほとんど認められず,光重合型仮封材では,エナメル質に色素浸透がわずかに認められた.TC群では,化学重合型仮封材は一部の製品を除いて24h群とほぼ同様の辺縁封鎖性を示したものの,光重合型レジン系仮封材では,辺縁封鎖性が低下した.熱膨張係数は各製品によって異なる値を示し,124.8〜177.4×10-6/℃であった.結論:本実験の結果から,試作S-PRGフィラー含有化学重合型レジン系仮封材は,光重合型の製品と比較して良好な辺縁封鎖性を有するとともに,低い熱膨張係数であったところから,臨床使用においても市販製品と同等以上の効果を有するものと示唆された.
  • 佐々木 重夫, 木村 裕一, 今井 啓全, 佐藤 穏子, 釜田 朗, 車田 文雄, 山崎 信夫, 山田 眞義, 天野 義和, 増田 宜子, ...
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 200-207
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,抜去歯を使用してMTA (mineral trioxide aggregate)の根尖部辺縁封鎖能と硬度におけるさまざまな汚染物の影響を評価することである.材料と方法:51本のヒト単根歯に対して,ガッタパーチャポイントとシーラーを用いて側方加圧根管充填を行った.歯根面をコーティングした後に,歯根尖切除法と根尖部において窩洞形成を行い,無作為に5群に分類した.1群は蒸留水(対照),2群は生理食塩液,3群はアドレナリン,4群は血液および5群はEDTA溶液で汚染させた.汚染物を混入したMTAで充填した後,浸漬し漏洩試験を行った.試料は2等分し,微小硬さ試験を行い,実体顕微鏡および走査電子顕微鏡による観察を行った.結果:1群は形態学的に密封された辺縁封鎖が観察された.しかし,2〜5群の一部には部分的な辺縁封鎖と象牙質とMTA間またはMTA中に空隙が観察された.1群はほかの群に比較して有意に漏洩は少なかったが,すべての実験群では有意差は認められなかった.5群の微小硬さは1群と比較すると有意に低かった.結論:MTAの硬化時における汚染物の混入は,辺縁封鎖能を低下させることが示唆された.
  • 吉川 孝子, 森上 誠, 趙 永哲, 田上 順次
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 208-214
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:著者らは,光重合型コンポジットレジンにおいて,初めは弱く次に強く光照射を行うSlow-start curing法により重合すると,窩底部レジンの重合促進効果が認められ,辺縁封鎖性ならびに適合性の向上に有効であることを報告している.本研究では,Slow-start curing法が自動的に行えるランプ電圧自動可変型光照射器(ジーシー)を用いて,各種のSlow-start curing法による窩底部レジンの重合促進効果について検討した.材料と方法:深さ2mmのモールドに,Clearfil Photo Bright(クラレノリタケデンタル)とPalfique Estelite(トクヤマデンタル)のVitaシェードのA3とB4に対応するおのおの2種類のシェードのレジンを填塞し,通常の照射法と2種のSlow-start curing法により重合硬化させた.すなわち,通常照射法として,1) 600mW/cm2 60秒,Slow-start curing法として2) 270mW/cm2から600mW/cm2にインターバルをおかずに出力を増す照射法,3) 270mW/cm2 10秒照射,インターバル5秒,600mW/cm2 50秒の照射法を用いた.硬化物をモールドから取り出し,その表面と底面のヌープ硬さを光照射開始直後の条件で測定を行い,底面の硬さを表面の硬さで割ったHardness ratioを求めた.成績:通常の光照射法である出力600mW/cm2にて60秒で光照射を行い光重合型コンポジットレジンを硬化すると,レジン材料,シェードにかかわらず,すべての群で重合直後のレジン試片の表面が底面に比べ有意にヌープ硬さが高くなった.Slow-start curing法の270mW/cm2 10秒照射,インターバル5秒,600mW/cm2 50秒照射で光照射を行い,光重合型コンポジットレジンを硬化すると,VitaシェードA3に対応するClearfil Photo Brightの重合直後のレジン底面が表面に比べ有意にヌープ硬さが高くなった.しかしながら,VitaシェードB4に対応するClearfil Photo Brightでは,270mW/cm2 10秒照射から600mW/cm2 50秒照射にインターバルをおかずに出力を増すSlow-start curing法のほうが,窩底部レジンの重合促進効果を示したが,Palfique Esteliteではその効果は少なかった.結論:低出力と通常出力の間にインターバルをおくSlow-start curing法のほうが,インターバルをおかないSlow-start curing法よりも,窩底部レジンの重合促進効果が高いことが明らかとなった.レジンの重合に伴いコントラスト比が増加する光重合型コンポジットレジンのほうが,コントラスト比が減少するレジンよりも窩底部レジンの重合促進効果が高く,重合収縮応力を緩和する可能性が示された.しかしながら,レジンの組成とシェードにより至適な照射法があり,シェードの濃いコンポジットレジンではSlow-start curing法において初めの低出力と通常出力の間にインターバルをおかないほうがよいことが示唆された.
  • 小泉 直也, 鈴木 英明
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 215-222
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:医療分野で頻用されているオゾンは,OHラジカルを生じさせ,その酸化分解作用により高い殺菌力をもっといわれ,しかも耐性菌を生じさせないという特徴を有している.歯科医療においても,殺菌・消炎・止血への効果が着目され,オゾン水を用いた義歯の洗浄・消毒や歯周ポケット,根管治療時の洗浄液としての可能性などが検討され,さらなる新しい用途の開発が期待されている物質である.しかしながら,オゾン水はオゾンの半減期が短いため,殺菌作用の持続時間が短く,その適用範囲が限定されるという問題点がある.そこで,殺菌力を長期間保存し,さらに適用範囲を拡大することを目的としたオゾンジェルが開発されている.著者らは齲蝕予防の可能性を検討する目的で,その抗菌作用についてin vitroにて実験を行った.材料と方法:実験には,Streptococcus mutans PS-14株,Streptococcus sobrinus 6715株,Actinomyces naeslundii ATCC 19246株を用い,2倍段階法にて最小発育阻止濃度の計測を行った.また,resting cellに対する殺菌作用の検討を濃度的変化ならびに経時的変化について行った.成績:1. S. mutansに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった. 2. S. sobyinusに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった. 3. A. naeslundiiに対する最小発育阻止濃度は100μg/mlであった. 4. オゾンジェルの抗菌作用はS. mutans, S. sobrinusおよびA. naeslundiiのresting cellに対して殺菌的であった.結論:以上のことよりオゾンジェルは,齲蝕原因菌に対して顕著な殺菌作用が認められ,抗齲蝕作用を有することが示唆された.
  • 渡部 平馬, 風間 龍之輔, 浅井 哲也, 石崎 裕子, 福島 正義, 興地 隆史
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 223-230
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,CAD/CAM用マシーナブルセラミック材を介して7種のデュアルキュア型レジンセメントに光照射を行い,光強度および照射時間がセメントの硬さに及ぼす影響を検討した.材料と方法:長石系マシーナブルセラミックブロック(Vitablocs Mark II: A2, Vita Zahnfabrik, Germany)より厚さ0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5mmおよび3.0mmのセラミック板を作製し,セラミック板介在下のLED照射器(Demi, Kerr, USA)の光強度を測定した.次いで,デュアルキュア型レジンセメントであるVariolink II (Ivoclar Vivadent, Liechtenstein), Panavia F2.0 (Kuraray Noritake Dental), Clearfil Esthetic Cement (Kuraray Noritake Dental), NX3 Nexus Third Generation (Kerr), RelyX Unicem 2 Automix (3M ESPE, USA), Maxcem Elite (Kerr)およびClearfil SA Cement Automix (Kuraray Noritake Dental)を内寸2.0×2.0×12.0mmのステンレス金型に填塞し,厚さ2.0mmのセラミック板非介在下で20秒(対照群),あるいは介在下で20秒または40秒光照射を行い重合させた.照射を行わずに硬化させたものを化学重合単独群とした.すべての試料は暗室中で37℃蒸留水に24時間浸漬保管後,ヌープ硬さを計測し,一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定により統計処理を行った(α=0.05).結果:セラミック板の介在により光強度は大きく減弱した.照射時間20秒では,Clearfil SA Cement Automixを除くセメントのヌープ硬さはセラミック板介在により有意に低下した(p<0.05).セラミック板介在下で照射時間を40秒とした場合は,全被験セメントで対照群と同等のヌープ硬さを示した(p>0.05).化学重合単独群は,全被験セメントでヌープ硬さは有意に低下した(p<0.05).結論:本実験条件においては,7種中6種のデュアルキュア型レジンセメントでセラミック板介在下において硬化度が低下すること,および照射時間の延長により硬化度の低下を回避できることが示された.
  • 門倉 弘志, 山崎 崇秀, 和田 康弘, 菊井 徹哉, 西村 翼, 廣瀬 公治, 天野 義和, 横瀬 敏志
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 231-238
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:歯髄組織が損傷を受けた場合には,歯髄組織に存在する未分化外胚葉性間葉細胞が象牙芽細胞に分化して修復象牙質を形成する.この未分化外胚葉性間葉細胞から象牙芽細胞への分化機構の解明は,歯科保存治療におけるvital pulp therapyのさらなる発展にきわめて有用であると考える.近年,歯髄の創傷治癒過程において,分泌型糖タンパク質であるWntファミリーが各種細胞の分化に重要な働きをしていることが注目され,歯の発生過程のみならず,修復象牙質の形成もWntによってコントロールされていることがわかった.Wntシグナルの伝達経路のcanonical経路は,その情報伝達の機構が詳細に解明されており,細胞に塩化リチウム(LiCl)を作用させるとGSK3βの活性が阻害されβ-cateninの核内へ集積が起こり,canonical経路の擬似的な活性化が生じることが報告されていることから,Wntの作用を調べるためにLiClは多くの細胞に応用されている.これらの背景から本研究では,LiClを歯髄培養細胞に応用し,未分化外胚葉性間葉細胞から象牙芽細胞への分化過程においてcanonical経路にどのような役割があるのかを調べることとした.材料と方法:歯髄培養細胞にLiClを作用させ象牙質様結節形成に対する影響を形態学的に解析し,象牙芽細胞の各種分化マーカーおよびectodinの発現についてリアルタイムPCR法にて解析した.また,β-cateninのリン酸化に対するLiClの作用をwestern blotにより解析した.成績:歯髄培養細胞にLiClを作用させるとβ-cateninのリン酸化が抑制され,象牙芽細胞分化ならびに象牙質様石灰化結節形成が抑制された.さらにLiClの添加によって,WntとBMPのアンタゴニストであるectodinの発現が亢進した.結論:以上の研究結果から,canonical経路は象牙芽細胞分化ならびに象牙質形成を調節し,そのメカニズムにはectodinがかかわっていることが示唆された.また,canonical経路にはectodinを介したnegative feedback機構が存在することが示唆された.
  • 佐藤 哲夫, 藤波 義明, 平岡 行博, 荒 敏昭, 窪川 恵太, 海瀬 聖仁, 武藤 昭紀, 三木 学, 岩井 由紀子, 王 宝禮, 吉成 ...
    原稿種別: 原著
    2013 年 56 巻 3 号 p. 239-251
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:通常の歯周病治療を施行しても病状が進行する治療抵抗性歯周炎が,わずかであるが存在する.このような歯周炎には,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)と抗菌療法との併用が,治療法の一つとして選択されてきたが,細菌検査法の確立・普及が不十分なこと,原因細菌が不明であるなどの理由から,根拠は乏しいのが現状である.本研究では,治療抵抗性歯周炎に対する抗菌療法の有効性を検証するために,臨床パラメーター,細菌数の変化を検討した.材料と方法:被験者は全身的に健康で,初診より6カ月以内に歯周病治療・抗菌薬服用の既往がなく,16歯以上の現在歯がある者とした.病態は,ブロービング深さ(PD)4mm以上の部位が20%以上,歯槽骨吸収率30%以上の中等度以上の歯周炎患者であった.初診時に歯周組織検査(PD,プロービングによる出血:BOP,歯肉炎指数:GI,歯の動揺度),および細菌検査の試料として唾液を採取した.細菌検査では,総細菌数Porphyromonas gingivalis菌数,Aggregatibacter actinomycetemcomitans菌数をreal-time PCR法にて測定した.歯周基本治療を7〜10日間隔で施行し,SRP終了後4週に再評価検査と唾液採取を施行した.PD 4mm以上の残存部位に対して再SRPを施行,再SRP後4週に再評価検査,唾液採取を施行した.この時点で,BOP部位率が初診時の30%以上残存している被験者を,治療抵抗性歯周炎被験者(アジスロマイシン投与群)として抗菌薬投与へ移行した.一方,BOP部位率が30%未満の被験者を治癒群とした.結果:31名の被験者のうち,5名がアジスロマイシン投与群となった.再SRP後4週までのPD, GI, BOPは,治癒群がアジスロマイシン投与群より良好な改善を示した.アジスロマイシン投与後は,BOPにおいて,アジスロマイシン投与群が治癒群より良好な改善を示した.さらに,アジスロマイシン投与群では,再SRP後4週以後でも総細菌数に対するP. gingivalis菌数の割合の減少が確認された.結論:以上の結果から,SRPに加えてアジスロマイシンを投与することは,治療抵抗性歯周炎の治療に対して有効である可能性が示唆された.
症例報告
  • 武藤 昭紀, 窪川 恵太, 海瀬 聖仁, 三木 学, 内山 真紀子, 内田 啓一, 山本 昭夫, 田口 明, 吉成 伸夫
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 56 巻 3 号 p. 252-263
    発行日: 2013/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    目的:歯の移植術は,非機能歯を活用でき,義歯を回避できるなどの利点がある.歯の移植術に関しては予後良好な症例報告が多いが,受容側の残存骨量から制限を受けるため下顎に移植した報告が多く,上顎への移植症例は少ない.そこで今回,上顎洞底と近接した両側第一大臼歯部に対して,下顎第三大臼歯を移植することにより義歯の装着を回避できた症例を報告する.症例と治療経過:患者は61歳の女性.上顎右側第一大臼歯の咬合痛,および上顎左側第一大臼歯の動揺を主訴に来院した.全身状態として,2型糖尿病に11年前より罹患しており,インシュリンの自己注射により維持・管理している(HbAlc: 6.5%, NGSP値).初診時に上顎右側第一大臼歯は高度の歯槽骨吸収により保存不可能と診断,抜歯処置を施行した.歯周組織検査の結果,上顎左側第一大臼歯は歯根破折のため保存不可能と判断したが,患者は義歯の使用に対して強い嫌悪感を示したため,インプラント治療を視野に入れたコーンビームCTによる検査を行った.その結果,上顎洞底までの距離が短く,かつ洞底粘膜の肥厚を認めたため,上顎洞底挙上術を伴うインプラント治療を断念し,上顎両側第一大臼歯部に下顎両側第三大臼歯の歯の移植術を施行することに計画を変更した.通常の歯周基本治療後,48歯を16歯部に上顎洞底までの距離と歯根形態を考慮して,近遠心の方向を逆に移植し,移植後3カ月で暫間被覆冠を作製した.上顎右側移植6カ月後に移植歯の安定を確認後,38歯を26歯部に移植し,移植後3カ月で暫間被覆冠を作製した.上顎右側部移植後2年5カ月,上顎左側部移植後1年10カ月に歯周組織の安定を確認後,最終補綴物を作製した.考察:本症例では高度の歯槽骨吸収部位への歯の移植のため,歯槽骨残存量の少なさが懸念されたが,コーンビームCTにより上顎洞底までの距離や歯槽骨の厚みを三次元的に正確に計測し,移植可能であると診断した.歯の移植にはさまざまな制限を伴うが,CTなどの形態計測機器を用いることにより,より安全に欠損部への適応が可能になると考えられる.結論:今回の症例により,コーンビームCTを用いて三次元的な歯槽骨量の検査を施行し,歯根膜を有する非機能歯を用いた歯の移植術を施行することにより,義歯による欠損補綴を回避することができる可能性を示した.
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