日本歯科保存学雑誌
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57 巻, 5 号
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ミニレビュー
原著
  • 渡辺 久, 石原 章弘, 和泉 雄一
    2014 年 57 巻 5 号 p. 391-397
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 長期のプラークコントロールにおいて, 摩耗性の強い歯磨剤の使用や間違ったブラッシング法による歯面への傷害, 歯肉退縮, 楔状欠損や知覚過敏症が懸念される. 今回, マスティックエッセンシャルオイル (MEO) 配合歯磨剤の長期使用における歯面に対する摩耗性について検討した.
     材料および方法 : ウシ歯エナメル質の研磨標本を作製し試片とした. 試験検体を歯磨剤4種類 (MEOペースト, MEOジェル, ポジティブコントロールとして市販品A, 市販品B) とした. 中等度の硬さのナイロン毛歯ブラシを柄の部分からカットし, 歯ブラシ摩耗試験機に取り付け, 水槽には各被験歯磨剤100gを700mlの蒸留水に希釈し実験に供した. 歯ブラシ摩耗試験機の駆動条件は, 移動速度 : 3.16mm/sec, ブラッシング圧 : 150gとした. 1日3回, 1年間のブラッシングを想定して, 10,000サイクルに設定した. 実験終了後, 表面粗さ測定装置を用いて各試片の中心線平均粗さRa値 (μm) を測定し, 表面性状を走査電子顕微鏡 (SEM) にて観察した. 統計処理は二元配置分散分析およびTukey HSD testを用いた.
     結果および考察 : MEOペースト, MEOジェル, 市販品A, 市販品BのRa値はそれぞれ0.1248μm, 0.1916μm, 0.2848μm, 0.3346μmであり, 4群間ではそれぞれ統計学的に有意差が認められた (p<0.01). SEM観察ではRa値が大きいほど, 歯面の表面粗さが高まっていたことが認められた. 本実験の結果は, 研磨成分の炭酸カルシウム, 無水ケイ酸, 含水ケイ酸および軽質ケイ酸の含有量を反映していると考えられるが, MEOの潤滑作用はそれをマスキングするものと考えられた.
     結論 : MEO配合歯磨剤は長期使用でも摩耗性が少ないことが示唆された.
  • 天野 亮子, 勝海 一郎
    2014 年 57 巻 5 号 p. 398-406
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 上顎側切歯は, 前歯の単根管歯であるにもかかわらず, 根管充塡後の予後が劣り治療の難しい歯種とされている. 近年, 試料を破壊することなく三次元的に観察が可能なマイクロCTが, 内部構造の観察に多用されている. 本研究ではマイクロCTを用いて, 複雑な根管形態を有し治療が難しいとされる上顎側切歯の観察と分析を行った.
     材料と方法 : 齲蝕のないヒト上顎側切歯抜去歯50本に対し, マイクロCTで連続的に断層撮影を行い, 三次元構築した画像から, 根管の湾曲度や扁平度, 副根管および形態異常の観察を行った. また, 根管扁平度については, 同条件で断層撮影・三次元構築した, 齲蝕のないヒト上顎中切歯抜去歯50本と比較した.
     結果 : 46歯に遠心方向, 35歯に舌側方向への根管の湾曲がみられ, なかには二重, 三重の湾曲も認められた. また, 湾曲の多くは根尖側1/4でみられた. 盲孔は5歯, 根面溝は3歯にみられ, 1歯は根面溝の影響を受け, 根管が複雑な形態を呈していた. 根管扁平度は, 根尖から2~6mmの位置で中切歯に比べて強く圧平されていた. 根尖分岐は26歯, 根管側枝は7歯に認められ, 根尖分岐の形態は, 単純なものから複雑なものまでさまざまだった.
     結論 : 今回の実験で, 上顎側切歯の解剖学的複雑さ, 治療の難しさが示された. 特に根尖側における根管の湾曲・屈曲や扁平化は, ファイルのコントロールが困難な部位であり, 上顎側切歯の治療の難しさを裏付けるものである. 上顎側切歯の根管は変異に富むため, 治療時には十分な解剖学的知識が必要である.
  • 永吉 雅人, 吉居 慎二, 角舘 直樹, 福泉 隆喜, 末松 美希, 平田-土屋 志津, 鷲尾 絢子, 西野 宇信, 矢野 淳也, 諸冨 孝 ...
    2014 年 57 巻 5 号 p. 407-413
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究の目的は, 歯内治療における拡大法の違いが術後疼痛の発症に影響するかを検討することである.
     材料と方法 : 九州歯科大学附属病院保存治療科を受診した105名の慢性根尖性歯周炎患者を対象として, 5年以上の経験をもつ歯科医師8名が, 根尖狭窄部を保存する拡大方法 (従来法) と根尖狭窄部を意図的に拡大する方法 (意図的拡大法) をそれぞれ53, 52名に対して実施した. 従来法と意図的拡大法における術後疼痛の発症割合の差および根管治療における術後疼痛発症要因について, 解析を行った.
     成績 : 従来法と意図的拡大法の2つの術式による術後疼痛の発症割合は, 両群ともに13名 (25%) と差は認められなかった. 年齢による術後疼痛の発症割合は50歳未満で15名 (42%), 50歳以上で11名 (16%) であり, 術前の根管充塡材の有無による術後疼痛の発症割合は根管充塡材ありの場合で20名 (42%), 根管充塡材なしの場合では6名 (11%) であった. また, 従来法群と意図的拡大法群の治療回数の平均の差についてt検定を実施した結果, 従来法群に比べ意図的拡大法群のほうが有意に治療回数が増加した. 術後疼痛の発症要因についてロジスティック回帰分析を実施した結果, 「患者年齢が50歳未満であること」および「術前の根管充塡材の存在」が, それぞれOdds比で3.9 (95%信頼区間 : 1.269~11.662), 7.9 (95%信頼区間 : 2.469~25.412) であり, これらの要因により術後疼痛の発症頻度が高くなることが示唆された.
     結論 : 本研究では意図的拡大法群は従来法群に比べ治療回数が有意に増加したが, 根管拡大法の違いと術後疼痛の発症との関連には統計学的な有意差は認められなかった. しかし, 1) 患者の年齢が50歳未満であること, および2) 根管充塡材が術前に存在することにより, 術後疼痛の発症頻度が高くなることが示唆された. これらの2つの要因は, 術前の状態での術後疼痛の起こるリスクを予測する臨床上の指標となる可能性が示唆された.
  • 倉持 江里香, 富山 潔, 熊田 秀文, 椎谷 亨, 飯塚 純子, 長谷川 晴彦, 渡邉 清子, 浜田 信城, 寺中 敏夫, 向井 義晴
    2014 年 57 巻 5 号 p. 414-420
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 口腔バイオフィルムの除去は, 歯科疾患のみならず全身疾患の予防にも繋がることから近年注目されている. 特に災害時など口腔清掃が困難な環境においては, バイオフィルムが肺炎などの感染症の原因になりやすく, 簡便でより有効な口腔ケアが必要である. 本研究では, 唾液より作製したポリマイクロバイアルバイオフィルムモデルを用いて, フッ化物・ストロンチウムおよびホウ酸などのイオンを含有するsurface pre-reacted glass ionomer (S-PRG) フィラー溶出液の, バイオフィルムに対する抗菌効果を検討した.
     材料と方法 : S-PRGフィラーを蒸留水に懸濁して各種イオンを溶出させた上清を用いて作製したbuffered McBain 2005培養液をS-PRGフィラー溶出液含有培養群 (S群) とし, 脱イオン水で作製したbuffered McBain 2005培養液を用いて2倍および10倍希釈した0.5S群, 0.1S群を作製した. また, S-PRGフィラー溶出液と同濃度のフッ化物を含むフッ化ナトリウム含有培養液をF群, それを2倍および10倍希釈した群を0.5F, 0.1Fとした計6群を試験培養液群とした. 対照群には, buffered McBain 2005培養液 (Cont群) を使用した. ポリマイクロバイアルバイオフィルムモデルは健康な被験者1名の刺激唾液を用い, buffered McBain 2005培養液中にカバーグラスを懸架, 37°Cで10時間嫌気培養後, 新鮮培養液に交換し, 継続して24時間まで嫌気培養することにより作製した. その後, S-PRG溶出液の影響を検討するため実験開始24時間後から48時間後まで各種試験培養液を用いて嫌気培養した. 各実験群において, 各種培養液の24, 34, 48時間後のpHおよび48時間後の生菌数を測定し, 実験群間の比較はOne-way ANOVAおよびGames-Howell検定により有意水準5%で行った.
     結果 : 培養液のpHは, 34時間培養後でS群がpH 6.8, 0.5S群がpH 6.4で, 48時間培養時においてもS群はpH 6.8であり, S群はほかの実験群に対して有意に高い値を示した. 48時間後の生菌数は, Cont群 (5.8×108CFU/ml) に比較してS群 (1.7×107CFU/ml), 0.5S群 (1.2×108CFU/ml), F群 (8.6×107CFU/ml) および0.5F群 (2.3×108CFU/ml) は有意に低い値を示し, またS群はF群に比較して有意に低い値であった.
     結論 : S-PRG溶出液に含有される多種のイオンはバイオフィルムの成熟を抑制し, 生菌数を減じる可能性が示唆された.
  • 王 鋭, 下西 充, 高橋 健, 菊池 雅彦
    2014 年 57 巻 5 号 p. 421-428
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : われわれは, 上皮細胞-線維芽細胞間相互作用によってエナメルマトリックスタンパク質およびそれらを分解するプロテアーゼがマラッセの上皮遺残細胞に強く発現し, セメント質の石灰化に関与する可能性を示唆してきた. これまで, マラッセの上皮遺残が歯根膜中でアポトーシスを起こしているという報告がなされてきたが, セメント質形成におけるマラッセの上皮遺残の細胞増殖とアポトーシスの関係についてはいまだ不明な点が多い.
     材料と方法 : 本研究では, マラッセの上皮遺残由来上皮細胞と歯根膜由来線維芽細胞を同一シャーレ内で共培養し, その細胞間相互作用による細胞増殖とアポトーシスの発現に関する検討を行った. 抜歯した第三大臼歯より歯根膜組織片を採取し, 無血清混合培地により同一組織片から上皮細胞および線維芽細胞を培養した. 上皮細胞および線維芽細胞を回収し, 同じディッシュ内に混培養した後, サンプルとして実験に用いた. 細胞は, アポトーシスに関するBcl-2ファミリータンパクのBax (アポトーシス誘導タンパク) とBcl-2 (アポトーシス抑制タンパク) の発現を, 免疫染色法およびPCR法で解析した. さらに, BrdU (5-bromo-2'-deoxy-uridine) の核内取り込みによって細胞増殖を起こす細胞を確認するとともに, TUNEL (Terminal deoxynucleotidyl Transferase-mediated dUTP Nick End Labeling) 法にてアポトーシスを起こす細胞も確認した.
     結果 : 免疫染色による解析では, アポトーシス抑制性タンパクのBcl-2は上皮細胞および線維芽細胞で弱く発現した. アポトーシス促進性タンパクBaxは上皮細胞で強く発現し, 線維芽細胞で発現はみられなかった. PCR法による解析では, Bax mRNAの発現は上皮細胞のみ培養したコントロールと比較して混培養したサンプルで有意に高かった (p<0.01). その一方で, Bcl-2 mRNAの発現については有意な差は認められなかった. 混培養したサンプルの上皮細胞は線維芽細胞に比べBrdUの取り込みが多くみられ, 上皮細胞が強く増殖していることが確認された. 混培養したサンプルの上皮細胞は, TUNEL陽性核を示す細胞が観察された. 一方, 線維芽細胞にTUNEL陽性核を示す細胞は観察されなかった.
     結論 : これらの結果から, マラッセの上皮遺残は細胞増殖とともにアポトーシスを起こすことによって, ある一定の細胞集団を維持しつつセメント質の恒常性に関与することが示唆された.
  • 丸山 沙絵子, 柵木 寿男, 奈良 陽一郎
    2014 年 57 巻 5 号 p. 429-441
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 歯頸部は歯科疾患, 齲蝕症や摩耗症の好発部位の一つとして知られている. 近年, フロアブルレジンがユニバーサルレジンに代わる操作性の良い審美性修復材として広く用いられている. 本研究の目的は, 口腔内環境想定の温度機械的繰返しストレス条件下における歯頸部修復応用のフロアブルレジンとユニバーサルレジン間の接着差違を明らかにすることであった.
     材料と方法 : 本研究に先立ち, 適切な実験条件, すなわち温度機械的繰返しストレスの回数やレジン接着システムの種類を検討した. まず, 規格化V字状窩洞を30本のヒト抜去下顎小臼歯の頬側歯頸部に形成した. 窩洞は, 製造者の取り扱い説明に従ったエッチアンドリンス接着システムのAdper Single Bond Plus (3M ESPE, USA) によって前処理を行った. 次いで, フロアブルレジンのFiltek Supreme Ultra Flowable Restorative (F : 3M ESPE) またはユニバーサルレジンのFiltek Supreme Ultra Universal Restorative (U : 3M ESPE) を前処理後の窩洞に充塡し, その後, 光重合した. 修復試料は, サーマルサイクリング (5°C/55°C×200セット) と繰返し荷重 (118 N×104回) の同時負荷による口腔内環境想定の複合ストレスに供試した. 次いで, 厚さ1.0mmの2片の板状試片を各試料から得て, 修復窩洞の歯肉側象牙質窩壁上の被接着面を有する規格化ダンベル状試料に調整と形状設定を行った. その後, ダンベル状試料の微小引張接着強さ (μ-TBS) の測定を行い, 得られたデータ (n=30) は, t検定およびワイブル分析によって解析した.
     成績 : 規格化ダンベル状試料のMPa単位による平均μ-TBS値/ワイブル係数 (m値) は, Fが30.1/2.9, Uが24.4/1.2であった. FとUのμ-TBS値間に有意差は認められなかった. しかし, Fのm値は, Uの値より危険率1%で有意に大きかった. さらに, 累積破壊確率10%におけるFのμ-TBS値 (15.4MPa) は, U値 (4.5MPa) より危険率1%で有意に大きかった. また, 累積破壊確率90%におけるFのμ-TBS値 (45.1MPa) は, U値 (56.3MPa) と統計学的に同様であった.
     結論 : 歯頸部修復に応用したFの接着は, Uよりも接着信頼性において有意に優れていた. 特に, 臨床的に意義ある条件として考えられる累積破壊確率10%において, Fによる歯頸部修復は, Uによる修復と比較して, 接着離断させるためにはより大きな外部応力が必要と考えられた.
  • 神尾 直人, 室町 幸一郎, 葉山 朋美, 岡部 達, 神尾 素代, 諸橋 利朗, 松島 潔
    2014 年 57 巻 5 号 p. 442-451
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : Plasminは細胞外基質成分の消化だけでなく前駆体MMPsの活性化にも関与し, 線維素溶解・炎症・組織修復にかかわる生理学的・病理学的にも重要なセリンプロテアーゼである. また近年, plasminは細胞膜上に存在するprotease activated receptors (PARs) を介して炎症シグナルを伝達する報告がある. 著者らはそれが歯髄炎の進行にも関与していると考え, ヒト歯髄培養細胞を用いて, plasminによるcalcineurinの活性化を介したCOX-2発現およびPGE2産生について検討した.
     材料と方法 : 抜去歯よりout growthした細胞をヒト歯髄培養細胞とし, 10% FCS添加α-MEMにて培養した. 培養上清中にplasmin (100nmol/l) を添加し, COX-2 mRNA発現量をRT-PCR法, COX-2タンパク質量および転写因子NFATの核内移行をWestern Blot法, 培養上清中に放出されたPGE2量をenzyme immunoassay kitにて検討した.
     結果 : Plasminの添加により時間依存的に培養上清中のPGE2量は増加した. また, plasminはCOX-2 mRNA発現量を時間依存的に促進し, その効果はcalcineurin阻害薬であるFK506で抑制された. Plasminの添加により核タンパク質画分中の転写因子NFATc1量が増加し, COX-2タンパク質発現量も増加したが, いずれもFK506で抑制された. PAR-1活性化剤であるSFLLRNでもほぼ同様の結果が得られた.
     結論 : PlasminはPAR-1を介してCOX-2, PGE2を産生することで歯髄炎の進行に関与する可能性があり, またその細胞内シグナル伝達経路においてcalcineurin/NFATc1経路が関与することが示唆された.
  • 福田 隆光, 山本 敦彦, 小竹 宏朋, 堀田 正人
    2014 年 57 巻 5 号 p. 452-462
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : Er : YAGレーザーはレーザーを用いたほうが有用な場合に特化して臨床応用されているが, 象牙質に照射されたエネルギーは照射部において熱変換され, 象牙質表層に変性層が生じ, 接着修復物の接着強さの低下の原因とされている. また, この変性層の詳細についても十分に明らかにされておらず, 接着修復治療への臨床応用に際しての明確な照射条件や手技のプロトコールが必要である. そこで, Er : YAGレーザーの各種照射条件が象牙質表層とレジンとの接着強さに及ぼす影響について検討した.
     材料と方法 : ヒト新鮮抜去臼歯を歯軸に対して垂直と水平の2種類の方向で切断して調整した象牙質を用い, これら象牙質へのEr : YAGレーザー照射の照射出力・チップ径を変えることでエネルギー密度を変化させ, 蒸散深度と変性層の厚さ・硬さ・照射象牙質表面温度にどのような変化を及ぼすか検討した. また, レーザー照射の各種条件下で形成された象牙質変性層とコンポジットレジン接着システムとの接着を試み, 変性層の厚さと接着強さとの関係を詳細に検討し, さらに, 変性層に対して薬液処理を施し, より優れた接着特性が得られる条件についても検討した.
     成績 : エネルギー密度が大きく, 象牙細管の開口方向に照射したほうが蒸散深度と変性層の厚さの有意な増加を示し, また, エネルギー密度が大きいほうが有意に高い象牙質表面温度上昇と低い押し込み硬さを示した. さらに, エネルギー密度が小さく, 変性層を10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液, 還元剤としてエタノール水溶液/芳香族スルフィン酸塩, あるいはマイルドな酸である10%クエン酸/3%塩化第二鉄水溶液による処理を行ったものは接着強さが増加した.
     考察および結論 : Er : YAGレーザーの照射エネルギー密度と象牙細管の走向が, 蒸散深度と変性層の厚み・硬さに影響した. また, コンポジットレジン接着修復を行う際にはエネルギー密度の低いものを選択し, 変性層を10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいはエタノール水溶液/芳香族スルフィン酸塩で薬液処理することで, 回転切削用器具により切削された象牙質と同程度の接着強さが得られることが示唆された.
  • 石原 容子
    2014 年 57 巻 5 号 p. 463-471
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/31
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究の目的は, 12~13歳時とその3年後の15~16歳時の2度, 同一対象者に対してう蝕のリスク要因の調査, 比較を試みることである. 特に, リアルタイムPCR法を用いてう蝕原因菌のStreptococcus mutansStreptococcus sobrinusの詳細な細菌数の変化を調査することにより, この時期のう蝕に与えるS. mutansS. sobrinus菌数の影響を検討し, 青年期のう蝕予防の手がかりを得ようと試みた.
     方法 : 2010年に中学1年生 (12~13歳) で, 2013年に高校1年生 (15~16歳) に進学した合計88名を対象とした. 口腔内検査に先立ち刺激唾液を採取して, リアルタイムPCR法によって唾液中のS. mutansS. sobrinusの菌数を測定した. 事前に手技を統一した歯科医師によって, DMFTが調査された.
     結果 : 12~13歳の段階でS. mutansS. sobrinusが非検出 (103cells/ml未満) だった者が32名 (36.4%) で, その内の75%にあたる24名は, 3年後でもこれらの細菌は非検出だった. また, 15~16歳時のみこれらの細菌が検出 (103cells/ml以上) された者は9.1%, 12~13歳時のみに検出された者は5.7%だった. 12~13歳時とその3年後の15~16歳時ともにこれらの細菌が検出された者は, 57.9%だった. 両年ともに検出された者は, その他の者たちに比べてDMFT値が高い傾向にあった.
     結論 : 本研究から, 27.3%の者において, 12~13歳時にS. mutansS. sobrinusが定着しておらず, その後3年間非定着のままで経過することが確認された. また両年ともにS. mutansS. sobrinusが検出された者においては, 両菌の定着が強く疑われた. S. mutansS. sobrinusが定着した者たちは, 非定着の者に比べより重度なう蝕が多い傾向にあり, う蝕予防やう蝕を重症化させないためには, 両菌を定着させないことが重要であることが示された. また本研究から, 細菌の定着を確認するには2回以上の細菌検査が必要であり, これが学校健診などの場で実施されることが望ましいことが示唆された.
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