日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
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58 巻, 2 号
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原著
  • 臼井 エミ, 大島 朋子, 山崎 弘光, 井川 聡, 北野 勝久, 前田 伸子, 桃井 保子
    2015 年 58 巻 2 号 p. 101-108
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 大気圧低温プラズマ照射は, 生成された活性酸素種の環境を酸性条件にすること (低pH法) で, 各種口腔病原微生物の菌液とバイオフィルムに殺菌効果を示すことが報告されており, 医療において実用的な殺菌技術である可能性が期待されている. 本研究では, プラズマ低pH法がヒト感染象牙質モデル歯のう蝕感染象牙質を無菌化しうるか検討した.
     材料と方法 : ヒト大臼歯咬合面に直径3mm, 深さ3mmの窩洞を形成後, オートクレーブ滅菌した. 窩洞内を乳酸で2日間脱灰後Streptococcus mutans (ATCC25175株) の菌液 (106-7 CFU/30μl, trypticase soy broth with dextrose[TSBD], 5% carboxymethyl cellulose sodium salt[CMC]で調整) を7日間毎日接種し, 象牙質が極度に軟化しう蝕検知液で濃染する「う蝕象牙質外層」を作製した. 試験は, 試作モデルのLFジェット回路を使用しプラズマ未照射群 (ヘリウムのみ照射) と, プラズマ照射群 (ヘリウムプラズマ照射 : 30, 60, 120, 180秒群) の5群で, pH 3.5で評価した. 180秒群は, 中性付近 (pH 6.5) での実験も行った. プラズマ照射前後にラウンドバーで感染象牙質を採取し, brain heart infusion (BHI) 培地に懸濁し, 寒天培地上に塗抹後2日間培養し, CFU/round burを算出した. 統計解析にはWilcoxon検定を使用した (α=0.01).
     結果および考察 : 照射前の生菌数はすべて2.7±1.9×105で, 検出限界は2 CFU/round burである. 大気圧低温プラズマはpH 3.5の環境下で, 感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では感染象牙質をほぼ完全に無菌化した (検出限界以下). 一方, pH6.5の環境下では照射180秒後でも殺菌効果がみられず, プラズマ照射せず酸性環境下に置く条件では, 感染歯質は殺菌されなかった. 殺菌効果がpHおよび照射時間依存的であった理由は, プラズマ照射により活性種が発生し, これが低pHのバッファー内部に取り込まれ, バッファー中のO2ラジカルがHOOラジカルに変換されるためと考えられる. バッファー内で照射時間依存的に濃度の高まったHOOラジカルが高い殺菌効果を示すと思われる. pH 3.5については, 殺菌に必要な照射時間では生体為害が少ないと考えられ, 今後, 供給活性種の量を増やし無菌化に必要な時間を短くできる可能性がある.
     結論 : 大気圧低温プラズマは, pH 3.5の環境下で感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では無菌化した.
  • 久保田 健彦, 冨田 尊志, 濃野 要, 阿部 大輔, 清水 太郎, 杉田 典子, 金子 昇, 根津 新, 川島 昭浩, 坪井 洋, 佐々木 ...
    2015 年 58 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 超高齢社会の現代において, 咀嚼・会話・審美に不可欠な歯を喪失する最大の原因となっている歯周病を防ぎ健康増進を図ることは, 歯周病が糖尿病や直接死因につながる循環器・脳・呼吸器疾患などと密接に関係することからも国民にとって急務である. 本研究は, 抗炎症効果を有するホエイペプチド (WHP) 配合流動食摂取が臨床的歯周組織検査項目, 唾液および歯肉溝滲出液 (GCF) 中の生化学的マーカー・炎症性サイトカインレベルに及ぼす影響について調べたものである.
     材料と方法 : 本研究は新潟大学倫理審査委員会の承認を得て, 新潟大学医歯学総合病院にて実施した. インフォームドコンセントが得られた36名の慢性歯周炎患者 (男性24名, 女性12名, 66.8±11.7歳) を対象とし, WHP摂取群 (n=18), Control群として汎用流動食 (Control) 摂取群 (n=18) に無作為に振り分けた. 実施方法は評価者盲検法とし, 摂取前と摂取4週間後に臨床検査としてPlaque Control Record (PCR), Gingival Index (GI), Probing Pocket Depth (PPD), Bleeding on Probing (BOP), Clinical Attachment Level (CAL) の測定, さらに生化学的検査として最深歯周ポケット部位よりGCFを採取し, 炎症性サイトカイン (TNF-α, IL-6) 量, Alanine Transaminase (ALT) 量, Asparate Transaminase (AST) 量, 唾液中遊離ヘモグロビン (f-Hb) 量を測定した. 群間比較にはMann-WhitneyのU検定, 群内比較にはWilcoxonの符号付き順位検定, 相関分析はPearsonの積率相関分析を用い, 有意水準は5%に設定した.
     結果 : GCF中の生化学的パラメーターでは, TNF-α, IL-6はWHP群においてのみ有意に減少した. Control群では有意差は認められなかった. ALT, ASTは両群ともに有意差は認められなかった. 臨床パラメーターは両群ともにPCR, GI, BOPにおいて改善傾向が認められた. PCRの低下したControl群でのみ, 有意にGI, BOPが減少した. PPD, CALは両群ともに有意な変化はなかった. 唾液中のf-Hb量は両群ともに有意差は認められなかった.
     結論 : WHP群, Control群ともに, 4週間の摂取により歯周病臨床パラメーターが改善されることが示された. 特に, GCF中のTNF-α, IL-6がWHP群でのみ有意に減少したことより, WHPに含まれるホエイペプチドがGCF局所での炎症性サイトカインレベルに影響を与えた可能性が示された.
  • 天野 亮子, 勝海 一郎
    2015 年 58 巻 2 号 p. 117-123
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 上顎側切歯は, 根尖近くで遠心や舌側に湾曲しているため, 前歯の単根管歯であるにもかかわらず, 根管充塡後の予後が劣り治療の難しい歯種とされている. 近年, 試料を破壊することなく三次元的な観察が可能なマイクロCTが, 内部構造の観察に多用されている. 本研究ではマイクロCTを用いて, 上顎側切歯の観察と分析を行った.
     材料と方法 : 齲蝕のないヒト上顎側切歯抜去歯50本に対し, マイクロCTで連続的に断層撮影を行い, 三次元構築した画像から, 根尖孔と根尖狭窄部の形態, 根尖と歯髄腔の位置関係について観察を行った.
     結果 : 根尖から生理学的根尖孔までの距離は最大で1.9mm, 最小で0.2mm, 平均で0.7mmであった. 根尖と解剖学的根尖孔中央の距離の差は, 近遠心方向からの観察では0.55mm, 唇舌方向からの観察では0.37mmとなった. 根尖狭窄部の観察では, 明瞭な狭窄を示したものは, 近遠心方向からの観察では22歯, 唇舌方向からの観察では17歯となった. また, 根尖と歯髄腔上端, 歯冠切縁の位置関係は変異が大きかった. ファイルの挿入を容易にするようなアクセスラインは唇側で交差するものが43歯, 切縁が7歯であった.
     結論 : 今回の実験により, 上顎側切歯の根管拡大の際, ファイルの挿入が容易になるようなアクセスラインを確保する必要性が示された. また, 根尖部の形態の複雑さ, 根尖側におけるファイル操作の難しさが明らかになった. 上顎側切歯の根管は変異に富むため, 治療時には十分な解剖学的知識と慎重な器具操作が必要である.
  • 神山 智佳子, 河野 哲, 武田 進平, 吉田 隆一
    2015 年 58 巻 2 号 p. 124-142
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 根管充塡に用いるガッタパーチャポイントには壁着性がなく, 根管充塡用セメント (シーラー) が併用されている. しかし, 臨床で使用されているシーラーには, 組織為害性を有し, 根尖孔外へ溢出した場合, 根尖性歯周組織疾患を発症させるだけでなく, 根管充塡後の治癒を妨げるものもある. そこで本研究では, 生体組織に無刺激で, 親和性を有するα-TCP/Te-CPセメントに着目した. しかし, 本セメントにはシーラーとして具備すべき所要性質であるエックス線造影性がない. そこで, 造影成分として酸化ビスマスを配合したα-TCP/Te-CPセメントを作製し, 各種条件にて練和したセメントの理工学的性質, 硬化挙動を調べ, さらに色素浸透性および組織為害性について病理組織学的に検討し, シーラーとしての有用性を評価した.
     材料と方法 : 炭酸カルシウムと第二リン酸カルシウム二水塩を基材としてα-TCP/Te-CPセメントを作製した. 酸化ビスマスを30wt%配合したものがキャナルス (CaN) と同程度のエックス線造影性を示したため, 粒子径25μm以下に調整し配合した. 練和溶液は, リン酸二水素ナトリウム水溶液 (P) およびコンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液 (C) を用いた. 理工学的性質としてセメントの稠度, 被膜厚さ, 硬化時間を測定し, 練和泥のpH, エックス線回折解析, 走査電子顕微鏡観察により硬化に関与する固相の検討を行った. また, ヒト抜去歯を用いた色素浸透試験より根尖部封鎖性の確認, さらに, ラット頭蓋骨内にセメントを塡入し, 病理組織学的評価を行った.
     結果 : 稠度はすべての条件でJISを満たした. 被膜厚さではCの一部の条件がJISを満たした. 硬化時間は長いもので423分, 短いもので55分であった. pH挙動は練和液のpHに依存していた. Pの一部は硬化に伴いアパタイトの移行が認められた. 色素浸透試験では, 一部を除くすべてのセメントにおいてCaNと同程度の封鎖性を示した. 病理組織学的評価においては, CaNと比較しすべての試料において組織傷害は認めなかった.
     結論 : 造影剤として酸化ビスマスを配合したα-TCP/Te-CPセメントをコンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液で練和すると, 硬化に伴うアパタイト形成は認めないものの, 理工学的諸性質を満たし, かつCaNと同程度の根尖部封鎖性を有しており, またラットを用いた生体実験においても, 塡入14日後では骨様硬組織の形成を認めたことから, シーラーとしての有用性が示された.
  • 甕 富美子, 伊藤 修一, Nahid Al NOMANN, 斎藤 隆史
    2015 年 58 巻 2 号 p. 143-156
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 象牙質知覚過敏治療にはレジン系知覚過敏抑制材が広く用いられているが, その長期耐久性には問題がある. 樹脂含浸層にはナノスペースが存在し, 経時的に接着界面の崩壊が引き起こされることが報告されている. そこで, 新規に開発したシーリングコート材を用いて, 象牙質接着性および再石灰化誘導能について検討を行うことを目的とした.
     材料と方法 : 象牙質再石灰化誘導活性を有する接着性モノマー4 MET-Ca (calcium 4-methacryloxyethyl trimellitate, 以下, CMET) をハイブリッドコート (以下, HC) に1.5%配合したシーリングコート材 (以下, CMET-HC) を試作し, 微小引張試験および再石灰化誘導に関する実験を行った.
     結果 : CMETの構造を解析するために中和滴定を行った結果, CMETは4-METにカルシウムが分子内でイオン結合している場合と, カルシウムによるイオン結合で複数の4-METが分子間結合をしている場合とが混在することがわかった. 水中保管2年間の微小引張試験, 象牙質接着界面および破断面の観察では, HCにCMETを配合することにより良好な接着状態が得られた. また, CMET配合により複素粘度が上昇し, チキソトロピー性を示すことを確認した. CMET-HCの硬化体からはカルシウムイオンの溶出を確認し, この溶出液を用いることで, 象牙質再石灰化の促進が確認された.
     考察と結論 : CMETを配合することによる複素粘度の向上により, エアーブロー後の歯面へのボンディング材の残留量が上昇し, 接着強さが向上した可能性が考えられた. さらに, CMETをHCに溶解することにより高分子化して網目構造を形成し, ボンディング層自体の強度が上昇して良好な樹脂含浸層を形成することにより接着強さが向上したことが考えられた. また, CMET-HCの硬化体からの溶出液を用いることで象牙質再石灰化が促進された. これらにより, CMET-HCを用いることで樹脂含浸層の質に影響を与えることが示唆された. 以上の結果から, CMET配合コート材は象牙質接着界面での耐久性に優れ, 象牙質知覚過敏治療において有効であることが示唆された.
  • 髙橋 哲哉, 門倉 弘志, 井出 祐樹, 上田 堯之, 鈴木 瑛子, 中村 裕子, 横瀬 敏志
    2015 年 58 巻 2 号 p. 157-163
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 垂直加圧根管充塡を行った場合, 樋状根管や根管側枝への充塡が可能となりうる一方, 過剰根管充塡となりやすい. 根尖孔外に溢出してしまったこれらのガッタパーチャが, どのような組織反応を惹起し, どのような挙動を示すのかは, 明確にされていない. そこで今回, 垂直加圧充塡で使用される吸収性のガッタパーチャの骨組織内における変化を明らかにすることを目的として, 吸収性および従来の非吸収性のガッタパーチャをそれぞれラットの脛骨に移植することで, 周囲の骨組織の反応を観察し, 検討を試みた.
     材料と方法 : 実験は15匹の6週齢の雌SD系ラットの脛骨に対して行った. ステンレススチール製ラウンドバーを使用して皮質骨に穴を開け, 骨髄の中に直径1.0mm (±0.1mm) に丸めたガッタパーチャを移植した. 吸収性のガッタパーチャとしてオブチュレーションガッタNT (ヨシダ, 以下, AGとする) を, 非吸収性のガッタパーチャとしてガターパーチャポイント (ジーシー, 以下, NAGとする) を使用した. 術後1, 2, 4週のそれぞれ5匹のラットから脛骨を摘出して試料とした. 試料は10%中性緩衝ホルマリン液を使用して固定を行い, EDTAにて脱灰後, 通法に従いパラフィン包埋して連続切片を作製した. 各切片はヘマトキシリン-エオジン染色して組織学的に検索を行った.
     成績 : ラット脛骨の骨組織に移植したAGは, 移植後1週で周囲に細胞浸潤を伴う線維性の結合組織で覆われていた. 移植後2週目には材料の周囲に骨形成が認められた. 移植後4週目には線維性結合組織がガッタパーチャの内部に侵入し, 骨組織の形成が認められるようになった. 一方, NAGの周囲には細胞の浸潤はわずかであった. 移植後2週目にはAGと同様に材料周囲に骨組織が形成された. しかし, 骨組織の形成はAGと比較して限局的であった. また, 観察期間中では材料の吸収は全く確認されなかった.
     結論 : 吸収性のガッタパーチャは細胞浸潤を伴う線維性結合組織で覆われるが吸収されて, 線維性結合組織の増殖とともにやがて骨組織に置換されるという組織変化が明らかとなった.
  • 水上 英子, 後閑 由香, 山口 麻衣, 真鍋 厚史, 橋本 絵美, 荒木 和之, 宮﨑 隆
    2015 年 58 巻 2 号 p. 164-174
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/07
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究では, 9種類の市販歯面コート材を象牙質表面に塗布し, 試作光干渉断層装置 (Swept-source Optical Tomography, 以下, SS-OCT) を用いて象牙質表層の観察を行い, コート材の組成による違いが観察に影響するかを検討した.
     材料と方法 : SS-OCTによる観察には新鮮ヒト抜去大臼歯を用いた. ヒト抜去大臼歯隣接面部の象牙質面を平面に露出させ, 耐水研磨紙粒度#600にて研磨した. 次いで, イーライズコンディショナーを用いて歯面処理を行い水洗乾燥後, それぞれのメーカー指示に従ってコート材を塗布した. 光照射が必要なコート材はG-LightPrimaにて光照射した. 実験に使用したコート材はナノシール (以下, NS), MSコートOne (以下, MS), ティースメイトディセンシタイザー (以下, TD), シールドフォースプラス (以下, SF), PRGバリアコート (以下, BA), Gコート (以下, GC), ビスカバーLV (以下, LV), ビューティコート (以下, BC), ホワイトコート (以下, WC) の合計9種類である. 調整完了した試片はただちにSS-OCTを用いて塗布面の観察を行った. 加えて各コート材の塗布前と塗布後の, 反射強度の絶対値の差を求め, 統計学的分析を行った (Tukey-Kramer有意水準5%の条件下).
     結果 : 非レジン系コート材であるNS・MS・TDでは, 塗布前と塗布後を比較すると象牙質表層のどの部位においても大きな反射光の変化は観察されなかった. 一方でレジン系コート材であるSF・BA・GC・LV・BC・WCでは, 塗布後の象牙質表層に光の反射強度の減弱が確認された. これら9種の統計学的分析を行った結果, 塗布前と塗布後の反射強度の値の差を比較すると, 非レジン系のNS・MS・TDはレジン系のSF・GC・LV・BC・WCに対し有意差があった (p<0.05). しかし, レジン系のBAのみ非レジン系のNS・MS・TDに比較し, 有意差がなかった (p>0.05).
     結論 : レジン系のコート材は塗布後の象牙質表層に光の反射強度の減弱が確認され, また非レジン系のコート材よりも明確に被膜が観察されることが示唆された.
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