日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
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ISSN-L : 0387-2343
59 巻, 1 号
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原著
  • 恩田 康平, 初岡 昌憲, 保尾 謙三, 三浦 樹, 津谷 佳代, 井村 和希, 森川 裕仁, 岩佐 一弘, 吉川 一志, 山本 一世
    2016 年 59 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     緒言 : レジンセメントの歯質接着性の向上に伴い, 破折歯を保存することが可能となってきている. われわれは破折歯の「接着再建・再植法」の予後を知るために, 接着再建した歯根の強度と, 支台築造後の再建歯根の強度について検討を行ったので報告する.
     材料と方法 : 実験1 : 抜去後冷凍保存したウシ歯根を歯軸と平行に切断し, Superbond C & B (以後, SB) で接着し負荷をかけた後, 微小引張強さを測定し, 破断面の形態を走査電子顕微鏡で観察した. 実験2 : ウシ歯根にポスト孔を形成し, それに適合したメタルポストを作製し, ポスト孔に挿入した. メタルポストを歯軸と平行に加圧し, 初期破折強度を測定した. 破折した歯根をSBで再建を行い, 再度メタルポストもしくはレジンポストで加圧し, 再建歯根破折強度を測定した. 測定した再建歯根破折強度を初期破折強度と比較し, 算出した低下率をその試料の値 (以下, 比較値) とした. 同様に再建を行った後5-55°Cのサーマルサイクル負荷をかけ, 再建歯根破折強度を測定し, 比較値を算出した. 実験3 : 実験2と同様に初期破折強度を測定し, SBで再建を行った後, メタルポストを各種セメントで接着させ, 再建歯根破折強度を測定し比較値を算出した. またレジンポストを築盛し, 同様に比較値を算出した. 再破折後の歯根の破壊形態を観察した. 得られた結果は一元配置分散分析, およびTukeyのHSD法を用いて多重比較を行い, 統計学的に検討を行った (α=0.05).
     結果 : 実験1 : 引張接着強さにおいて, どの群にも有意差は認められなかった. 実験2 : TC負荷の有無により比較値に有意差が認められたが, ポストの材質の違いによる差は認められなかった. 実験3 : メタルポストはセメントにより高い比較値を示すが, 破壊形態は再破折であった. レジンポストはSBに比べて比較値は低いが, 再破折以外の破折形態を示した.
     結論 : 接着再建を行った歯根は健全歯根に比べ, 歯軸に平行な応力に対して25%以下の耐久力しかもたない. メタルポストの使用は再建部の再破折を起こす危険が高いが, 一方, レジンポストの再破折の危険性は低い.
  • —心拍変動解析を用いた自律神経機能評価—
    小田中 瞳, 下地 伸司, 竹生 寛恵, 大嶌 理紗, 菅谷 勉, 藤澤 俊明, 川浪 雅光
    2016 年 59 巻 1 号 p. 9-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 歯科治療に対して恐怖心を有している患者は多く, そのなかでも局所麻酔は全身的偶発症の発生頻度が高いため, 局所麻酔時の恐怖心や不安感を軽減させることは, 安心・安全な歯科治療を行うために重要である. そのための簡便な方法の一つとして音楽鎮静法があるが, 歯科領域ではまだ十分には検討されていない. 本研究の目的は, 健全な若年成人に対して局所麻酔を行った際の音楽鎮静法の効果について, 筆者らが開発したモニターシステムを用いて自律神経機能の変化によって評価することである.
     対象と方法 : 22名 (26.5±1.9歳) の健全な若年成人ボランティアを対象とした. 同一被験者に対して, 音楽鎮静法を行わない非音楽鎮静群と音楽鎮静法を行う音楽鎮静群を設けた. 非音楽鎮静群と音楽鎮静群の順序は, 中央割付法でランダム化して決定した. 最初に, 質問票 (DAS) を用いて歯科治療に対する恐怖心を評価した. 次に非音楽鎮静群では, 麻酔前座位 (5分間), 麻酔前仰臥位 (5分間), 局所麻酔 (1/80,000エピネフリン添加塩酸リドカイン, 2分間), 麻酔後仰臥位 (5分間) を順に行った際の血圧・心拍数および自律神経機能について, 本モニターシステムを用いて評価した. 音楽鎮静群では音楽鎮静開始後に同様の評価を行った. また, 麻酔前後の不安感についてVASによる評価を行った. 自律神経機能は, 心電図のR-R間隔を高周波成分 (HF) と低周波成分 (LF) に周波数解析することで, 交感神経機能 (LF/HF) を評価した. 統計学的分析は, Friedman test, Wilcoxon signed-rank testを用いて行った (p<0.05).
     結果 : 血圧, 心拍数およびVASは, 各段階でほとんど変化がなく, 有意な差は認められなかった. LF/HFは, 両群ともに局所麻酔薬注入時に麻酔前座位時よりも有意に低い値を示した. また, 麻酔前座位時および麻酔前仰臥位時に非音楽鎮静群よりも音楽鎮静群で有意に低い値を示した.
     結論 : 健全な若年成人では, 音楽鎮静法を行った際は, 音楽鎮静法を行わなかった際と比較して局所麻酔前の座位時および仰臥位時において交感神経機能が低下する.
  • 牧野 紗織, 川本 千春, 池田 考績, 吉原 久美子, 𠮷田 靖弘, 佐野 英彦
    2016 年 59 巻 1 号 p. 22-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 近年, 歯石の沈着防止やステイン除去の成分としてメタリン酸ナトリウムが注目されている. メタリン酸ナトリウムは安全性も担保されており, 食品添加物, 医薬品, 医薬部外品のほか, 歯磨剤やガムに添加されている. メタリン酸ナトリウムは, ハイドロキシアパタイト (HAp) と結合してステインを除去すると考えられるが, 詳細は明らかではない. 35%H2O2のオフィスブリーチング剤では, 24時間は色の濃い飲食物を控えることが推奨されている. 本研究では, メタリン酸ナトリウムのステイン除去効果に着目し, 漂白後の着色抑制効果を分光測色計で, 吸着をXRD・FTIRで評価した.
     材料と方法 : 松風のHi-Liteを用いて, 健全ヒト抜去上顎切歯の唇側に漂白を行った後, 分光測色計でCIE L*a*b*表色系により測色した. その後, 1) 処理を行っていない群 (Con), 2) メルサージュで研磨した群 (Mer), 3) フローデンフォームAを塗布した群 (Flu), 4) 1%メタリン酸ナトリウム溶液に35分浸漬した群 (SMP) に分け, 各処理後にCon, Mer, Fluは唾液に120分, SMPは85分浸漬して37°Cで保管した. その後, 37°Cのコーヒーに24, 48, 72時間保管し, コーヒー浸漬前後のΔE*, ΔL*, Δa*, Δb*を求めて, 着色抑制効果を評価した. 求めた値の比較はTukey testとGames-Howell testを用いて行った. メタリン酸ナトリウム水溶液に浸漬したエナメル質表面のSEM観察およびメタリン酸ナトリウム水溶液中で攪拌して作製したHApのXRDおよびFTIR分析を行った.
     結果 : 24, 48, 72時間後のΔE*では群間で有意差はなかった. 一方, 24時間後のΔL*ではSMP群が他群に対して有意に明度の低下が少なかったが, 48, 72時間では差がなかった. メタリン酸ナトリウム群のSEMではエナメル質が膜状の構造物に覆われており, XRD分析では, 未反応のHApと同じ回折ピークが観察された. FTIR分析では, 未反応のHApと同じスペクトルのほかに, メタリン酸ナトリウムに帰属される吸収ピークが確認された.
     結論 : メタリン酸ナトリウムはエナメル質表層に吸着されるが, 化学的な反応はないと考えられる. 着色抑制効果に関しては, 24時間まではコーヒーによる明度の低下を抑制したが, その効果は48, 72時間は持続しなかった.
  • 勝俣 愛一郎, 門脇 佳孝, 川野 晋平, 丁 世俊, 角田 晋一, 星加 修平, 池田 考績, 田中 享, 佐野 英彦
    2016 年 59 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 臨床において1ステップ接着システムが広く使用されている. その多くはセルフエッチモードでも, リン酸エッチングと併用するトータルエッチモードでも使用できるユニバーサルボンドである. しかし, 接着強さは従来型の接着システムと比較すると低いという報告もある. また, 脱灰象牙質へのレジンの浸透には処理面を完全に乾燥しないウェットボンディングが有効という報告もある. そこで, 象牙質湿潤状態がユニバーサルボンドCLEARFIL Universal Bond (CUB) のトータルエッチモードでの接着性能に与える影響を微小引張り試験, 走査電子顕微鏡 (SEM) および透過電子顕微鏡 (TEM) で検討した.
     材料と方法 : 接着材としてCUB, 充塡材としてCLEARFIL AP-X Shade A3 (AP-X), 表面処理材としてK-ETCHANT Syringe (Ech), 接着材の比較材料としてCLEARFIL Mega Bond (CMB) を用いた. 28本のヒト抜去大臼歯を歯軸に対して歯科技工用トリマーにて垂直に研削し, 象牙質面を露出させ耐水研磨紙#600で研削, 水洗したものを被着面とした. 歯面処理は以下4条件で行った. 1. MB : CMBプライマー20秒塗布, 乾燥, ボンド塗布, 乾燥, 10秒光照射. 2. NE : CUB10秒塗布, 5秒乾燥, 10秒光照射. 3. ED : Ech10秒塗布, 10秒水洗, 10秒エアーブロー後NEと同様に処理. 4. EW : Ech10秒塗布, 10秒水洗した後乾燥せず湿潤状態を保持しNEと同様に処理. 各処理後にAP-Xを約4mmの高さに積層充塡し, 37°Cの水中に保管した. 24時間後, 精密低速切断機Isometにより象牙質接着界面が1mm2となるスティック状の試料を作製し, 24時間後と6カ月後に小型卓上試験機EZ-testを用いて微小引張り試験を行い統計処理を行った. 破断面はSEMを用いて形態分類を行い, SEMとTEMを用いて接着界面の観察を行った.
     結果 : 24時間後と6カ月後の接着強さを比較すると, EDのみ有意差を認め, ウェットボンディングを行ったEWに有意差は認めなかった. 24時間後においても6カ月後においても各条件間に有意差は認めなかった.
     結論 : ユニバーサルボンドCUBは象牙質に対しセルフエッチモードでもトータルエッチモードでも良好な接着強さを示し, トータルエッチモードではウェットボンディングが有効である可能性を示した.
  • 吉居 慎二, 西野 宇信, 末松 美希, 諸冨 孝彦, 北村 知昭
    2016 年 59 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 口腔内で直接行うファイバーポストとコンポジットレジンによる支台築造時の根管内深部における未重合コンポジットレジンの存在が指摘されている. 今回, ファイバーポストの芯材として光ファイバーを用いたファイバーポスト・コンポジットレジン支台築造システムを用い, ファイバーポストの導光性や光照射角度の違いが根管内深部のコンポジットレジンの重合に与える影響を検討した.
     材料と方法 : 遮光した人工根管に光重合型レジンを充塡後, 光ファイバーあるいはステンレススチールを芯材とする2種類のファイバーポストを挿入し, 光照射器の角度がポスト軸方向に対して0, 30, 60, 90度の位置から光照射を30秒間行い, 各群におけるコンポジットレジンの重合深度と重量を測定した.
     成績 : 芯材が光ファイバーであるファイバーポストは, 芯材がステンレスワイヤーであるファイバーポストと比較して人工根管内での根尖側における十分なレジン重合量が観察された. また, 光ファイバーを芯材としているファイバーポストでは, 光照射角30度においても根管内深部におけるコンポジットレジンの十分な重合が認められた.
     結論 : 光ファイバーを芯材として用いたファイバーポストは, 根尖部ポスト周囲のコンポジットレジンの重合に効果的であることが示唆された.
  • —チップ損耗性についての検討—
    廣田 陽平, 岩田 有弘, 横田 啓太, 吉川 一志, 山本 一世
    2016 年 59 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 歯の硬組織切削では, Er : YAGレーザーは特に優れた効果を示し, 臨床応用されているが, 高速回転切削器具と比較し除去効率では到底及ばず, 治療時間の延長などが問題となっている. われわれの研究グループは切削効率を向上させるため, 注水機構を霧状に改良した試作チップを作製し, 実験を重ねてきた. 今回この試作チップが製品化され, CS600Fとして発売された. 本研究はCS600Fを用いてレーザー照射を行い, ヒト象牙質に対する切削体積量, チップ先端損耗体積, チップ先端損耗率および先端出力への影響について検討した.
     材料と方法 : 被験歯として健全ヒト大臼歯を用い, 象牙質までモデルトリマーにて面出しを行い, 耐水研磨紙にて#2000まで研磨を行った後, 0.5mm/sでムービングステージを移動させながら4×4mmの範囲に均一にレーザー照射を10回行った. レーザー照射は試料までの距離を0.5, 1.0mmおよび2.0mmに規定した. C600Fにてレーザー照射を行った群をコントロール群, CS600Fにてレーザー照射を行った群を霧状噴霧群とした. 各試料および各照射チップをレーザーマイクロスコープにて観察し, 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗体積量を計測し, チップ先端損耗率を算出した (n=3). また, 照射後の先端出力を計測し, 照射前に規定した先端出力と比較した.
     成績 : 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗率ではすべての条件でコントロール群と比べ霧状噴霧群が有意に高い値を示し, チップ先端損耗体積および先端出力ではコントロール群と霧状噴霧群間で有意な差は認められなかった (p=0.05).
     結論 : 象牙質切削において, 霧状噴霧注水は, チップの損耗状態は変わらずに象牙質切削体積量を向上させることが示唆された. また, 従来の注水機構と霧状噴霧注水ともに, 10回照射後も先端出力の変化は認められなかった.
  • 千葉 敏江, 浅田 由佳, 石川 美佐緒, 山本 雄嗣, 下田 信治, 桃井 保子
    2016 年 59 巻 1 号 p. 58-64
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究は, リン酸カルシウム系ペースト製剤を歯のエナメル質に応用し, 脱灰歯質の再石灰化効果について明らかにすることを目的とした. 脱灰エナメル質の結晶の観察とCa/P比の測定を行い, 1日3回リン酸カルシウム系ペーストを塗布し, 2週間継続後のエナメル質の結晶状態とCa/P比の測定を比較するとともに, エナメル質のアパタイトの結晶成長による再石灰化効果について検討した.
     材料と方法 : 試料としてヒト抜去永久歯を用いた. エナメル質へのリン酸カルシウム系ペースト製剤由来の成分の分布, 移行状態とエナメル質結晶の変化について, 電子線プローブマイクロアナライザー (EPMA) および透過型電子顕微鏡 (TEM) で観察を行った. エナメル質に開窓面を作製し, 50mmol/l酢酸で3日間脱灰後, 試験面に1日3回, 2週間連続してリン酸カルシウム系ペースト製剤を塗布した. その後, 試験片をエポキシ樹脂で包埋し, EPMAおよびTEMにより観察を行った.
     結果 : 脱灰処理後のエナメル質のCa/P比は1.38~1.42で, 塗布後2週間では1.57~1.65に変化した. また, 脱灰領域の結晶と塗布後の結晶では, 明らかなアパタイトの結晶成長も認められ, エナメル質の再石灰化が確認された.
     結論 : 本実験の結果から, APペースト含有成分であるTTCP, DCPAに由来するCaおよびPイオンは, エナメル質に浸透して, 既存のアパタイト結晶の成長を促進することが明らかとなり, リン酸カルシウム系ペーストによるエナメル質への応用の有用性が示唆された.
  • 枝並 直樹, 重谷 佳見, 吉羽 邦彦, 日向 剛, 吉羽 永子, 興地 隆史
    2016 年 59 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 近年注目されている接着性レジンシーラーは根管壁象牙質への接着性が謳われる一方で, 再根管治療時の除去が困難となることが懸念されている. そこで, 比較的容易に除去可能な4-META含有レジンシーラー (メタシールSoft) が開発されたが, その生体親和性についての知見は十分とはいえない. 本研究では, 同シーラーをラット背部皮下に埋入後, 局所に浸潤する炎症性細胞の分布密度を免疫組織化学的に定量することにより, 生体親和性を評価した.
     材料と方法 : 被験レジン系シーラーとしてメタシールSoft, 対照材料としてエポキシレジン系シーラー (AHプラス) および酸化亜鉛ユージノール系シーラー (キャナルス) を使用した. 滅菌PTFEチューブに練和したシーラーを塡入し, ただちに4週齢Wistar系雄性ラット (各観察期間ともn=5) の背部皮下組織内に埋入した. コントロールとしてシーラーを塡入していない滅菌PTFEチューブを用いた. 7, 14, 28日後に皮下組織を切り出し, 4%パラホルムアルデヒド溶液で24時間浸漬固定し, 凍結切片を作成後, H-E染色による組織学的観察を行うとともに, マクロファージ, 好中球の局在についてそれぞれCD68, CD43を一次抗体として酵素抗体染色を行い観察した. さらに, チューブ開口部と接する組織内における陽性細胞の密度を求め, 統計学的に分析した (一元配置分散分析およびBonferroni Dunn検定, α=0.05).
     結果 : H-E染色では, すべての実験群において, 7日経過例でチューブ開口部を中心とした炎症性細胞の浸潤が認められたが, 時間の経過とともに炎症性細胞は減少し, 線維組織による被包が観察された. メタシールSoft群ではシーラーの溢出がしばしば組織内に観察され, 28日経過例においてもその残存が認められた. 定量解析の結果, CD68陽性細胞については7日経過例でキャナルス群がコントロール群より有意に高い値を示したが, 14, 28日経過例においては各群間で有意差は認めなかった. CD43陽性細胞については, 7, 14日経過例でメタシールSoft群がキャナルス群より有意に低い値を示した. 28日経過例では, 各群間で有意差は認めなかった.
     結論 : ラット皮下結合組織においては, 4-META含有レジン系シーラーは酸化亜鉛ユージノール系シーラーと比較して, 軽微な好中球浸潤を誘発することが示された.
  • 永島 万理子, 天野 亮子, 勝海 一郎
    2016 年 59 巻 1 号 p. 74-84
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 単根管ではあるが根管形態が複雑な上顎側切歯に対し, エンジン用器具により根管の拡大形成を行い, 切削の様相の分析を目的に検討した.
     材料と方法 : 上顎側切歯20歯を4群に分け, エンジン用器具としてニッケルチタン製のWaveOne SmallファイルとRECIPROC R25ファイル, ステンレススチール製のERTファイル, 対照として手用のステンレススチール製Kファイルを用い拡大形成を行った. 切削に要した作業時間の測定のほかに, 拡大形成前後のマイクロCT画像から根管壁面の切削率, 根管壁の切削量の算出, 根管切削部位の様相の分析を行った. さらに走査電子顕微鏡により根管壁面を観察した.
     結果 : 作業時間は, WaveOneが34.3秒, RECIPROCが58.4秒, ERTファイルが250.0秒, 手用Kファイルが825.0秒を要した. 根管壁面の切削率はERTファイルが79.6%, RECIPROCが78.8%, WaveOneが78.4%, 手用Kファイルが58.1%で, 根管壁の切削量はERTファイルが2.7mm3, 手用Kファイルが2.5mm3, RECIPROCが2.3mm3, WaveOneが1.6mm3であった. なお, ニッケルチタン製器具では, 複雑な根管形態に器具が追従し, 局所的な壁面の過剰切削はみられなかった. 4種の器具すべてで, 根管の末端や根管壁の凹面に切削されない部位が残存したが, ニッケルチタン製器具では未切削部位に変性した歯髄と思われる残遺物が存在していた. なお, 4種の器具すべてで, 切削された根管壁面にスミヤー層が生じた.
     結論 : ニッケルチタン製のWaveOneとRECIPROCでは短時間で拡大形成が行え, また, エンジン用器具では手用器具よりも高い切削率が得られるなど, 効率的に切削できることが認められた. しかし, 短時間で切削が終了するWaveOneとRECIPROCでは, 切削されない壁面の有機質層除去のため, 次亜塩素酸ナトリウム剤による溶解, 除去が必要であることが示された.
  • 前田 宗宏, 勝海 一郎
    2016 年 59 巻 1 号 p. 85-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : ステンレススチール製の回転式切削器具を用いて, 樹脂製根管模型の回転切削を行っている間のトルク発生における洗浄剤の影響を比較した.
     材料と方法 : テーパー0.06で40号のエンジン用ステンレススチール製RTファイル (ERT) と規格化直線根管模型を使用した. コンピュータ制御のトルク測定装置は, この研究のために特別に設計されたものである. 根管口はテーパー0.12のERTファイルを用いてあらかじめ拡大した. 以下の物質を洗浄剤として用いた. ペーストタイプNaOCl (キャナルクリーナー, ビーブランドメディコデンタル), ペーストタイプEDTA (Glyde File Prep, Dentsply Maillefer, Switzerland), 蒸留水, コントロール (洗浄剤なし). 各洗浄剤は切削開始から30秒ごとに根管内へ適量注入した. 0.06テーパー回転式ファイルを根管へ8mmの深さまで進入させた. 各実験条件でのトルク発生を記録した. 各条件に5本の根管模型を使用した. 切削効果はトルク-侵入距離に従った解析を行い, トルク変化量を算出した.
     結果 : 拡大形成時における切削トルクは, いずれの条件においても器具が根尖方向に進入するとともに増加した. ΔTは, 洗浄剤の違いにより有意に影響を受け, コントロール>ペーストタイプEDTA>ペーストタイプNaOCl>蒸留水の順にΔTは減少した (p<0.05).
     結論 : ERT器具の使用時においては, ペーストタイプNaOClと蒸留水は良好な潤滑性を示した.
  • 柳田 学, 森 健太, 久保田 実木子, 長谷川 詩織, 三木 康史, 粟田 敏仁, 沢田 啓吾, 山下 元三, 野崎 剛徳, 山田 聡, ...
    2016 年 59 巻 1 号 p. 93-102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : TLR3はウイルス由来二本鎖RNAを認識して免疫担当細胞からのⅠ型Interferon (IFN) 産生を誘導し, 抗ウイルス免疫応答に関与すると考えられている. 歯肉上皮細胞においてもTLR3の発現が報告されているが, 歯周病原細菌のLPSのリガンドであるTLR2やTLR4と比較すると, その詳細はほとんど検討されていない. 本研究では, 歯肉上皮細胞に発現するTLR3を介した刺激に対して, タバコ煙主成分であるニコチンがどのような影響を及ぼすかの検討を行った.
     方法 : 当研究室で樹立した歯肉上皮細胞株epi4細胞におけるTLR3の発現を, RT-PCRおよびフローサイトメトリーにより検出した. また, ニコチン存在下でのTLR3の発現量の経時的変化をreal-time PCRにて検討した. ニコチン存在下・非存在下でのTLR3アゴニストPoly (I : C) 刺激による歯肉上皮細胞からのIFN-β産生量をELISA法にて, IFN-β発現に重要な転写因子であるIRF3のリン酸化をWestern blotting法にて検討した.
     結果 : 歯肉上皮細胞においてTLR3が発現しており, ニコチン存在下でTLR3発現は亢進した. また歯肉上皮細胞におけるTLR3誘導性のIFN-β産生およびIRF3のリン酸化はニコチン存在下で増加した.
     結論 : 歯肉上皮細胞に発現するTLR3を介して, IFN-βが産生誘導された. ニコチン存在下で増強したIFN-βの産生は, ニコチンがIRF3リン酸化を亢進することによる可能性が示唆された.
  • 平嶺 倫子, 鈴木 二郎, 藤巻 龍治, 岡田 周策, 石井 信之
    2016 年 59 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究は, 上下振動運動により駆動し, 根管形成と同時に根管洗浄を行うSelf-adjusting File (SAF) システムに, 組織刺激性が少ない弱アルカリ性EDTA溶液を根管洗浄液として使用し, 効果的な根管形成法であるかについて評価することを目的とした.
     材料と方法 : ヒト単根抜去歯30歯を6群 (各群n=5) に分類し, 歯冠切除後, K-fileを用いて#15にて穿通, 被験歯の作業長決定後#20までグライドパスを確認した. その後, SAFシステム3,000振動/分または5,000振動/分, 根管洗浄液として3%次亜塩素酸ナトリウム溶液あるいは弱アルカリ性3%EDTA溶液, 対照として蒸留水を用いた根管形成を行い, 脱灰象牙質の状態をナノインデンテーション法にて測定, さらに根尖部の根管象牙質スミヤー層除去効果を走査電子顕微鏡により評価した.
     成績 : 脱灰象牙質の押込み硬さ (HIT), マルテンス硬さ (HM) および押込み弾性率 (EIT) の各項目については, 各群間に統計学的有意差を認めなかった. また, SAFシステムは3,000振動/分にて5,000振動/分と同様にEDTA溶液群で, 次亜塩素酸ナトリウム溶液群および対照群よりも有意な根管象牙質スミヤー層除去効果を認めた.
     結論 : SAFシステムとEDTA溶液の組合せは, 根管内象牙質脱灰作用において対照群と有意差を認めなかった. また3,000振動/分または5,000振動/分いずれにおいても, 根管清掃が困難な根尖部根管の象牙質スミヤー層除去効果を有することが示された.
  • —G-wireとM-wire素材ファイルによる根管切削の比較—
    上田 剛史, 平嶺 倫子, 下島 かおり, 渡邊 亮一郎, 佐藤 生野, 武藤 徳子, 石井 信之
    2016 年 59 巻 1 号 p. 111-118
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : Ni-TiロータリーファイルシステムはM-wire素材 (以後, M-wire) によって破折抵抗性が向上し, さらに改良を加えたG-wire素材 (以後, G-wire) によって, 複雑湾曲根管の根管形成が容易になった. 本研究は, G-wireにより改良されたWaveOne Goldによる根管形成を評価することを目的とし, 根管切削時間と根管壁変位量との関係をWaveOneと比較検討した.
     材料と方法 : 実験にはJ型エポキシレジン製透明湾曲根管模型各70本を使用した. 各実験群は, ProGliderによるグライドパス形成後にWaveOne GoldおよびWaveOneによる根管形成を行った. 切削効率の比較はWaveOne GoldのSmall, Primary, Medium & Largeファイル群の3群に分類し, 各群においてWaveOneの同名ファイル (Small, Primary, Large) を対照として比較した. 切削効率の測定は, 根管形成前後の透明湾曲根管模型を重ね合わせ, その差異を実体顕微鏡Olympus SZX16およびデジタルカメラDP71を用いて撮影し, さらに計測用ソフトWinRoofを使用して計測を行い根管壁変位量とした. さらに, 根管形成所要時間についても比較した.
     結果 : WaveOne GoldとWaveOneの根管壁切削量を湾曲根管内湾側と外湾側で測定した結果, Small, Primary両ファイル群で有意差が認められなかった. さらに, WaveOne Gold Medium, LargeとWaveOne Largeファイルとを比較した結果においても有意差が認められなかった. WaveOne Goldの根管形成時間はWaveOne Goldよりも短縮されSmallで20%減少, Primaryで40%減少, MediumおよびLargeで30%減少することが示された.
     結論 : G-wireを用いたNi-TiシングルファイルWaveOne Goldによる根管形成は, M-wireのWaveOneと比較して迅速で正確な根管形成が可能であることが示された.
  • 鈴木 エリ, 武藤 徳子, 石井 信之
    2016 年 59 巻 1 号 p. 119-123
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 本研究は根管充塡用シーラーのセメント質誘導能を比較検討することを目的とする初期研究として, セメント芽細胞に対する細胞障害性を細胞増殖率より測定し, 継時的細胞形態の変化を形態学的に解析した.
     材料と方法 : ヒトセメント芽細胞 (HCEM) を1×105 cells/wellになるように6 well Culture Plateに播種した. キャナルスN (Canals N), ニシカキャナルシーラーN (CS-N), S-PRG含有シーラー (Surface Pre Reacted Glass-ionomer : SPRG) はあらかじめ円形ディスク枠 (直径2mm, 高さ1mm) で指示書に従い硬化させたものを添加して5% CO2条件下で共培養し, 培養24, 48, 72時間後に細胞数を測定した. 培養後のHCEMは位相差顕微鏡を用いて観察し, 形態学的変化を比較した.
     結果 : 根管充塡用シーラー刺激によるセメント芽細胞の生細胞数をコントロール群と比較した結果, 24時間後でCanals N 84.2±10.0%, CS-N 83.4±11.7%, SPRG 77.0±9.6%を示し, 統計学的有意差は認められなかった. また, すべての供試試料群における細胞増殖率は24時間後から72時間後においてもコントロール群との間に有意差は認められなかった. さらに, 供試試料間による細胞形態に変化はなく, 培養期間中に異常所見は認められなかった.
     結論 : 根管充塡用シーラーのHCEMに対する細胞障害性を生細胞数測定と形態学的変化によって解析した結果, 細胞障害性は認められなかった.
症例報告
  • 松﨑 英津子, 米田 雅裕, 廣藤 卓雄, 二階堂 美咲, 中山 英明, 松本 典祥, 畠山 純子, 水上 正彦, 松本 和磨, 稲永 晃子 ...
    2016 年 59 巻 1 号 p. 124-131
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
     目的 : 根分岐部病変を伴う歯内-歯周疾患は, 日常の臨床で比較的よく遭遇する疾患である. 本疾患は歯内・歯周領域の多様な要因で発症するが, 診断を誤ると原因因子が長期に残存し, 良好な予後を得ることが困難となる. 今回, 歯科治療に対して極度の不安感を訴えるうつ病患者の根分岐部病変を伴う歯内-歯周疾患に遭遇し, 根管内嫌気性菌培養試験を併用した感染根管治療を施すことにより, 破壊された根分岐部の骨組織は良好な治癒を示したため, その症例と治療経過について報告する.
     症例 : 患者 : 37歳, 女性. 主訴 : 下顎右側第二大臼歯の咬合痛および歯肉腫脹.
     全身既往歴 : うつ病, 不眠症.
     現病歴 : 2008年10月, 47の強い咬合痛のため近医を受診したところ, 47の根尖病変を指摘されたが, 急性炎症時は処置できないという説明を受け, 処置は施されなかった. その後痛みはやや減少したが, 2009年1月, 前医に47の歯肉腫脹を指摘され, 切開・排膿処置を受けた. その際, 47の分割あるいは抜歯の提案を受け, 同年2月9日, 47の精査・加療を希望し, 福岡歯科大学医科歯科総合病院を受診した.
     臨床所見 : 47は自発痛 (−), 打診痛 (+), 頰側歯肉腫脹 (+), 動揺 (−), 根尖部圧痛 (+), 瘻孔 (−). 頰側中央部にのみ6mmの歯周ポケットを認め, 根分岐部病変はLindhe & Nymanの分類で頰側から1度.
     診断 : 47慢性化膿性根尖性歯周炎, 歯内-歯周疾患Ⅰ型病変.
     治療経過 : 心療内科での治療により心的状態の改善は認められたが, 根管内の細菌感染に強い不安感を訴えたため, 根管内嫌気性菌培養試験を併用した感染根管治療を施した. 初回培養試験時, 根管内からは多数の嫌気性菌のコロニーが観察された. 数回の根管治療後, 歯周ポケットは3mm以下となり付着の回復が窺われた. また, 臨床症状は認められず, 根管からの細菌のコロニーもほとんど観察されなくなった. 初診から約3カ月後, 側方加圧根管充塡が施された. 根管充塡8カ月後, 47に臨床症状は認められず, エックス線上で歯根周囲の透過像の消失および骨組織の著明な回復が認められたため, 臨床的に経過良好と判断し全部鋳造冠を装着した. 現在まで予後良好に経過している.
     結論 : 歯内-歯周疾患の治療において, 的確な検査および診断の重要性が示唆された. また, 心的状態が不安定な患者のQOLの向上に歯科的貢献を果たすことができたと考えられた.
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