目的 : 本研究では, 刺激唾液より培養したポリマイクロバイアルバイオフィルム (多種細菌から構成されるバイオフィルム) を用いて, Surface pre-reacted grass ionomer (S-PRG) フィラーから溶出されたフッ化物, ストロンチウムおよびホウ酸などのイオンが含まれているS-PRGフィラー溶出液の, バイオフィルムに対する抗菌効果を検討した.
材料と方法 : S-PRGフィラーを蒸留水に懸濁して各種イオンを溶出させた上清を作製した (110.5ppm F). 本溶液を添加して作製したbuffered McBain 2005培養液をS-PRGフィラー溶出液含有培養群 (PRG群), また, S-PRGフィラー溶出液と同濃度のフッ化物を含むフッ化ナトリウム含有培養群 (NaF群) を作製し, これら2群を試験培養液群とした. 対照群にはbuffered McBain 2005培養液 (Cont群) を使用した. ポリマイクロバイアルバイオフィルムモデルは健康な被験者1名の刺激唾液を用い, 培養液中にカバーグラスを懸架, 37℃で10時間嫌気培養後, 新鮮培養液に交換, 継続して24時間まで嫌気培養することにより作製した. その後, 実験開始24時間から48時間後まで各種試験培養液を用いて嫌気培養した. 各実験群における48時間後の生菌数を測定し, 実験群間生菌数の比較は, one-way ANOVAおよびGames-Howell検定によりSPSS-PC. Ver. 10.1を用い有意水準5%で行った. また, 48時間後に形成されたポリマイクロバイアルバイオフィルムの全細菌数, ならびに, Streptococcus属, Actinomyces属およびVeillonella属の遺伝子コピー数を推定し, 各群のデータを比較, 検討した.
結果 : 培養48時間後の総生菌数 ; PRG群は, Cont群およびNaF群に比較し, 顕著に総生菌数を抑制した. 細菌叢への影響 ; 全細菌コピー数は, PRG群が他群に比べて抑制されており, Cont群とNaF群は同等であった (Cont群 : 8.24×109, NaF群 : 4.68×109, PRG群 : 8.30×108). また, Streptococcus属およびActinomyces属についても, PRG群が他群に比べて強い抑制を示し (Streptococcus属 : Cont群 ; 2.10×109, NaF群 ; 1.19×109, PRG群 ; 3.83×108, Actinomyces属 : Cont群 ; 8.69×106, NaF群 ; 3.27×106, PRG群 ; 4.23×105), 特にVeillonella属に対する抑制が顕著であった (Cont群 : 2.06×109, NaF群 : 1.90×109, PRG群 : 7.58×107).
結論 : S-PRG溶出液が含む多種のイオンは, バイオフィルムの成熟を抑制し生菌数を減じるだけでなくバイオフィルムのinitial colonyzerである菌属を抑制することが示された.
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