目的 : 多種イオンの徐放が可能なS-PRG (Surface Pre-Reacted Glass-ionomer) フィラー含有バーニッシュ (PRGバーニッシュ) を3日間歯根象牙質面に塗布した後, 剝離し, 塗布面直下の脱灰抑制効果について, Transverse microradiography (TMR) を使用して同程度のフッ化物イオンを徐放するNaF含有バーニッシュと比較検討した.
材料と方法 : PRGバーニッシュならびにNaFの含有量を変化させたシリカフィラーバーニッシュからのフッ化物徐放量を測定したところ, PRGバーニッシュからの徐放量は1.0% NaF含有バーニッシュと近似していたため, 脱灰抑制実験グループは, コントロール (CONT) 群, 1.0%NaF含有バーニッシュ (1.0FV) 群, PRGバーニッシュ (PV) 群の3群 (n=6) とした. ウシ下顎切歯歯根を歯頸部直下およびそれより5mm根尖側の位置で水平断し円筒状象牙質歯片を作製後, ワイヤー式精密切断機にて歯軸方向に2分割し, 根面を研磨して平坦な象牙質面にしたものを試料とした. 象牙質面に対してCONT群は材料を塗布せず, 1.0FV群とPV群は材料を塗布した. 脱イオン水中に3日間浸漬後, 綿棒にて材料を剝離・除去した. 1×3mmの被験面以外を耐酸性バーニッシュで被覆し, 酢酸ゲル (pH 5.0) 中で1週間脱灰した後, 薄切片を作製し, TMR撮影後, 分析用ソフト (TMR 2006および2012) を用いてミネラルプロファイルの作成, ミネラル喪失量 (IML) および脱灰深度を計測した. 3群間の比較には, One-way ANOVAおよびGames-Howellの多重比較検定 (有意水準5%) を用いた.
成績 : 各群のTMR像および平均ミネラルプロファイルでは, 1.0FVおよびPV群はCONT群と比較して表層のエックス線不透過性が高く, ミネラル密度は27 vol%であった. また, PV群の病巣体部のエックス線不透過性ならびにミネラル密度もほかの2群に比較して高く維持されており, ミネラル密度は18 vol%を示した. 脱灰深度は3群間で有意差は認められなかったが, IML (vol%×μm) は, CONT群3,200±184, 1.0FV群2,817±149, PV群2,523±121であり, CONT群とPV群の間に有意差が認められた. PRGバーニッシュはフッ化物イオン以外にも緩衝作用を有するイオンなどを徐放することから, それらのイオンが歯根象牙質に浸透し, 材料が剝離・除去した後も塗布面直下象牙質の脱灰抑制効果が発揮されたものと考えられた.
結論 : S-PRGフィラー含有バーニッシュは, 材料が脱離した後も塗布面直下象牙質の脱灰を抑制する.
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