日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
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64 巻, 1 号
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総説
  • 三谷 章雄
    2021 年 64 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー
  • 牛田 圭亮, 平石 典子, 田上 順次
    2021 年 64 巻 1 号 p. 6-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     2019年12月に中国の武漢から蔓延した新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) により, 世界中の歯科医師はかつてない難局に直面した. COVID-19の感染拡大初期より, 歯科治療における院内感染リスクの高さが危惧されていたが, 感染予防手段について当初は暗中模索であった. 本稿では武漢が迎えた危機に関連する文献を展望しながら, 世界で初めてCOVID-19に遭遇した歯科医師たちが困難を克服するにいたるまでの経緯を紹介する.

     湖北省の省都, 武漢市は人口1121万人の中国中部を代表する巨大都市である. 2019年12月31日に原因不明の新型肺炎として報告されたCOVID-19は急速に感染を拡大し, 翌2020年の1月23日に武漢市は史上最大規模の全市的ロックダウンに追い込まれた. これに合わせ湖北省政府が, 省内での緊急性のない歯科治療の禁止を通達し, 武漢市内では武漢大学歯学部附属病院のみが歯科救急患者の受け入れを許可された. 武漢大学歯学部は歯学分野のランキングで世界32位, 中国大陸では北京大学に次ぐ2位であり, 中国を代表する歯学部の一つである. 武漢大学歯学部附属病院は迅速に疫病流行下での急患受け入れ体制を構築し, 電話とSNSを利用したオンライン診療も開始した. 感染防御の手法が現場の経験と知識の集約によって策定され, まとまった感染予防ガイドラインとして発信された. 同院にはロックダウン中に計2,025人の患者が来院し, 9人の病院スタッフにsevere acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) の感染が認められた. 歯科救急患者の総数は平時より著しく減少し, その半数以上を歯内療法分野の急患が占めた. このように人工的に封鎖された巨大都市の歯科救急患者が一つの病院に集められたことで, COVID-19の歯科医療への影響を分析するための貴重な疫学的データが収集された. ロックダウン解除後は, 慎重かつ体系的な段階を踏んで武漢大学歯学部附属病院での一般歯科治療が再開された.

     武漢大学歯学部の文献を中心に関連資料を総覧することにより, 武漢の歯科医師たちが苦労を重ねながらもCOVID-19の感染拡大を安全に乗り切ったことが明らかになった.

誌上シンポジウム「根尖部へのアプローチ:バイオフィルム解析,バイオマテリアルと再生療法開発,そして臨床研究の展開」
ミニレビュー
原著
  • 岩﨑 和恵, 保尾 謙三, 小正 玲子, 竹内 摂, 岩田 有弘, 吉川 一志, 山本 一世
    2021 年 64 巻 1 号 p. 39-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     目的 : 光硬化型コンポジットレジン (以下, CR) 修復では重合収縮応力や照射深度の問題から, 深い窩洞には積層充塡が推奨されているが, 大型窩洞に対して一括充塡できるbulk-fill CRが開発され臨床応用されている. 今回, 多結晶化ガラスブロックを用いた視覚的評価, せん断接着試験ならびに硬化後の残存体積の測定を行い, C-factorの大きな窩洞におけるbulk-fill CRの重合収縮応力の影響について検討を行った.

     材料と方法 : bulk-fill CRとしてBulk Base Hard (BH) とBeautifil Bulk Flow (BF) を, 従来型CRとしてGracefil Flow (GF) を, 接着システムとしてClearfil Mega Bond2 (MB) とCleafil Universal Bond Quick ER (ER) を用いた. 多結晶化ガラスブロックとして, Bioram-Mを使用した. MBで接着処理後, 各CRを充塡した群をMBH群, MBF群, MGF群とし, ERで接着処理後, 各CRを充塡した群をEBH群, EBF群, EGF群とした. Bioram-Mに直径4.5mm深さ4.0mmの円柱窩洞を形成し, 修復後, ギャップおよびクラックの発生状態を分類し, スコアリングを行った. また, ウシ歯前歯に象牙質平坦面を作製し, 修復後, 接着直後のせん断引張強さを測定した.

     直径4.5mm, 高さ4.0mmのゴムリング治具を作製し, 暗室にて各CRを充塡し, 円柱試料を作製した. 硬化後すぐアセトンに浸漬し, CRの未重合部分の除去を行った. 各試料の残存体積を測定した.

     結果 : 視覚的評価の結果, MBH・MBF群はMGF群と, EBH・EBF群はEGF群と比べて, ギャップやクラックの発生状態に有意な差が認められた (p<0.05). MGF・EGF群では窩底部にギャップが認められた. またMBF群の接着強さはMBH・MGF群より有意に高かった (p<0.05). EBF群とEGF群の接着強さはEBH群と比べて有意に高かった (p<0.05). BHとBFの残存体積はGFの残存体積よりも有意に大きかった (p<0.05) が, BHとBFの間に有意差は認められなかった.

     結論 : bulk-fill CRを用いた一括充塡は深い窩洞における接着には有効であるが, C-factorの大きな窩洞においては重合収縮応力による不快事項が完全には解消せず, 充塡操作に留意する必要があることが示唆された.

  • 関谷 美貴, 前田 宗宏, 西田 太郎, 五十嵐 勝
    2021 年 64 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     目的 : エンドモーターと連動させた根管長測定器の根尖指示精度に対する異なるファイルシステムと根管洗浄液の影響について, 根尖狭窄部付透明樹脂製根管模型を用いて評価した.

     材料と方法 : 根管模型は, 根管長が14.5mmで, 基底面の開孔部がφ0.2mm, 基底面から1mm歯冠寄りにφ0.15mmの根尖狭窄部があり, 0.02テーパーの直線根管が付与されている透明樹脂製ブロック (ホクシンエレクトロニクス) を用いた. 電気回路を確立したスタンド (ホクシンエレクトロニクス) に模型を植立させ, 根管内に3種の根管洗浄液 : ①生理食塩液 (テルモ), ②3%次亜塩素酸ナトリウム水溶液 (クロルシッドJ, ウルトラデントジャパン, 以下, NaClO), ③18%EDTA (ウルトラデントEDTA18%, ウルトラデントジャパン) のいずれかを満たし, Propex IQ根管長測定器 (Dentsply Sirona) と連動させたX-Smart IQエンドモーター (Dentsply Sirona) で根管形成を行った. 根管形成は3種のファイル : ①WaveOne Gold (Dentsply Sirona, 以下, WOG), ②ProTaper Gold (Dentsply Sirona, 以下, PTG), ③ステンレススチール製手用Kファイル (READYSTEELフレクソファイル, Dentsply Sirona, 以下, SSK) で, 各25サイズまで6個ずつランダムに行った. 最終拡大ファイル使用時にメーターが作業長基準点を示した位置でファイルの回転を停止させ, ラバーストッパーを模型上面に合わせて固定し, ファイル先端までの距離をファイル到達長さとして計測した. 模型の根管長からファイル到達長さを引いた値を, ファイル先端到達位置から模型基底面までの距離として算出した.

     成績 : 各ファイル間におけるファイル先端到達位置は, WOG群で最もバラツキが小さく安定していた. PTG群とSSK群は, 生理食塩液と18%EDTA浴下でファイル先端到達位置が根尖狭窄部よりも0.5mm程度基底面寄りであった. 各根管洗浄液間は, 3%NaClO浴下で最もファイル間に差がなく, ファイル先端位置が根尖狭窄部に近かった. すべての条件下で, ファイル先端到達位置は測定値の許容誤差範囲内にあった.

     結論 : X-Smart IQと連動させたPropex IQの根尖指示精度は, ファイルの種類やシステム, 根管洗浄液に大きな影響を受けず, 根管形成と同時に正確な根管長測定を行うことができた.

  • 堀田 正人, 村瀬 由起, 作 誠太郎, 中川 豪晴, 日下部 修介, 高垣 智博, 二階堂 徹
    2021 年 64 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     目的 : 本研究の目的はEr : YAGレーザー照射後の象牙質面に生成する熱変性層を改質しコンポジットレジンの接着強さを回復させるため, 低出力追照射および歯面処理の効果を検討することである.

     材料と方法 : ヒト抜去臼歯の象牙質面を露出させて, 耐水研磨紙#800にて注水下で研削した試料をXYZ軸フラットステージに固定し, 2種類のチップと照射エネルギーを設定 (C400F : パネル値150mJ, C800F : パネル値30mJ) し, パルス値は10 pps, 注水下で照射した. 歯面処理剤として6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液 (NaClO), p-トルエンスルフィン酸塩エタノール水溶液 (アクセル) および10%クエン酸/3%塩化第二鉄水溶液 (表面処理剤グリーン) を選択した. その後, Clearfil Mega Bond Systemを用い, Beautifil Flow F00にて接着した試料を湿度99%, 温度37°Cで24時間保存し, 引張接着強さを測定した. レーザー照射したものは6グループ (A1, A2, A3, B1, B2, B3) に分類し, レーザー照射していないコントロールグループは2グループ (Cont1, 2) に分類した. それぞれのグループは, 以下のとおりである〔Cont1 : レーザー照射なし, Cont2 : レーザー照射なし→アクセル処理→表面処理剤グリーン処理, A1 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJ), A2 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJ) →アクセル処理→表面処理剤グリーン処理, A3 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJ) →NaClO→アクセル処理→表面処理剤グリーン処理, B1 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJにC800F, パネル値30mJを追照射), B2 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJにC800F, パネル値30mJを追照射) →アクセル処理→表面処理剤グリーン処理, B3 : レーザー照射 (C400F, パネル値150mJにC800F, パネル値30mJを追照射) →NaClO→アクセル処理→表面処理剤グリーン処理〕. 接着試験後, 接着破断面を実体顕微鏡にて観察した. また, レーザー処理後の象牙質表面に各歯面処理材で前処理を行った各グループの試料を走査電子顕微鏡にて観察した.

     結果 : 各グループの接着強さ (平均値±標準偏差, MPa) は, 以下のとおりであった [A1 (10.5±3.5)<B1 (11.2±3.3)<A3 (13.1±2.4)<B3 (15.0±4.6)<A2 (16.7±5.5)<Cont1 (17.6±5.6)<B2 (19.2±5.9)<Cont2 (22.4±6.7) ]. Cont1, Cont2, A2, B2グループは有意にA1, B1グループより高い接着強さを示した (Fisher’s PLSD test, α=0.05) が, A1, B1, A3, B3グループ間には有意差はなかった. 接着試験後の破断面からCont2とB2グループは凝集破壊が多く存在し, 凝集破壊が多いものほど接着強さは高い傾向にあった. レーザー照射後の象牙質表面の各種歯面処理後のSEM像から, A2, B2グループの管間象牙質は亀裂があるものの, 滑沢であった. しかし, A3, B3グループでは粗糙な管間象牙質面が観察された.

     結論 : レーザー処理した象牙質をp-トルエンスルフィン酸塩エタノール水溶液と10%クエン酸/3%塩化第二鉄水溶液で処理すると, 接着強さが促進された.

  • 小林 鷹, 小倉 陽子, 宮下 葉月, 中山 竣太郎, 関谷 美貴, 西田 太郎, 前田 宗宏, 五十嵐 勝
    2021 年 64 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     目的 : レジン系シーラーは根管壁への接着性から, 再根管治療時の除去が困難とされている. 本研究は, メタシールSoft (以下, MSS) と, エックス線造影性向上のために次炭酸ビスマス含有量を増加したメタシールSoftペースト (以下, MSSP) およびその他の一般的なシーラーについて, 再根管治療時の充塡材除去における除去時間と根管内残存率について検討を行った.

     材料と方法 : 研究には, 30度の湾曲根管を有する透明樹脂製根管模型を48個用い, 作業長を12.5mmとした. EndoWaveとTriAutoZX2を用いて, 最終拡大30/06サイズまで根管を拡大形成した. 根管形成後, 4種類の根管充塡用シーラー : キャナルス (以下, CA), MSS, MSSP, AH Plus jet (以下, AP) を使用した. 根管充塡はシングルポイント群と, シーラーのみを充塡する群の2つに分けられた (n=24). 最終拡大ファイルと同サイズのファイルを用いて根管充塡材を除去した. 除去開始からファイルが作業長に到達するまでの時間を測定し, 除去時間とした. また, 各試料をMicro-CTで撮影し, 三次元画像処理ソフトを用いて根尖側3mmに残存した根管充塡材の体積を計測し, 割合を算出して統計学的分析を行った.

     結果 : シングルポイント充塡群の除去時間は, MSS群<MSSP群<CA群<AP群の順に短かった. MSS群とMSSP群間およびMSS群とCA群間では, MSS群が有意に短時間であった (p<0.05). CA群とMSSP群に差はなかった. シーラー充塡群では, MSS群<CA群<MSSP群の順に短く, 3群ともシングルポイント充塡群より短い時間で作業長まで到達した. また, すべての材料間で有意差が認められた (p<0.05). 根尖側3mmの範囲に残存する充塡材の量は, シングルポイント充塡群ではMSS群<MSSP群<CA群の順に少なかった. MSS群とCA群間およびMSSP群とCA群間に有意差が認められた (p<0.05). シーラー充塡群では, MSS群<CA群<MSSP群の順に少なかった. CA群とMSSP群間およびMSS群とMSSP群間に有意差が認められた (p<0.05).

     結論 : MSSとMSSPは, 次炭酸ビスマス含有量の影響を受けず, CAと同等または優位な除去性を示した.

症例報告
  • 菊池 毅, 三谷 章雄
    2021 年 64 巻 1 号 p. 74-81
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

     緒言 : 歯肉増殖は, 炎症や薬物, 遺伝, 腫瘍などの原因により誘発されるが, 臨床上高頻度に遭遇するものとして, 高血圧症に対する治療薬による歯肉増殖が挙げられる. また, 糖尿病と歯周病は双方向性の関係性が示されており, 発症頻度の高さを考えても, 両疾患をコントロールすることは国民の健康において最重要な課題である. 本稿では, 糖尿病患者における薬物性歯肉増殖を伴う慢性歯周炎患者に対して歯周基本治療を行い, 良好な予後を得た症例を報告する.

     症例 : 患者は44歳の男性, 歯ぐきが腫れていることを主訴に近在医より紹介来院した. 歯周ポケット検査の結果より, プロービングポケット深さ (PPD) 平均は4.9mmであり, 4mm以上のポケットを80.4%の部位に認めた. 広汎型中等度慢性歯周炎 (新分類 : ステージⅢグレードC) および薬物性歯肉増殖と診断した. 歯周基本治療にて, 炎症のコントロールを徹底的に行うことにより, 歯周ポケットは著しく減少 (PPD平均4.9mm→2.5mm) した. また, 薬物性歯肉増殖は炎症のコントロールとともに消失したため, 医科への薬剤変更照会は必要としなかった. 辺縁歯肉の腫脹が消失した後に, う蝕治療と補綴治療を行い, プラークリテンションファクターを除去した.

     成績 : 歯周ポケット炎症表面積 (Periodontal Inflamed Surface Area : PISA) 値は, 初診時2,291.0mm2から最新SPT時91.4mm2と低下した. HbA1c値は, 初診時7.9%であったのが, 最新SPT時に6.9%へと低下した. 歯周ポケット炎症表面積の顕著な減少は, 糖尿病のコントロール状況改善に寄与している可能性が考えられた.

     結論 : 今回, 糖尿病患者において薬物性歯肉増殖を伴う慢性歯周炎に対して, 歯周基本治療のみで, 薬物の変更を行うことなく良好な予後を得ることができた. 薬物や糖尿病, 喫煙といった歯周炎の進行に大きく寄与しうるリスクファクターのコントロールは, 患者の置かれている環境やパーソナリティーに大きく依存し, また実際のコントロールは医科との連携が重要となるケースが多い. 連携の際に, 病院・医院における基礎疾患コントロールに影響を与えるような依頼は可及的に避ける必要があるのと同時に, 歯科での徹底した歯周炎のコントロールで, 全身疾患コントロールへの良い影響を生み出すことを強く認識して歯科治療を行うことが重要である.

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