目的:ゲノムワイドアプローチを用いた遺伝子多型解析の結果,侵襲性歯周炎疾患関連候補遺伝子として同定されたClaspin(CLSPN)の一塩基多型(SNP)rs115197921の侵襲性歯周炎との関連性を明らかにすること,ならびに,CLSPNが歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化に及ぼす影響を検討することを目的として研究を行った.
材料と方法:侵襲性歯周炎患者44名と日本人健常者データベース(HGVD)に登録された1,209名を対象に,CLSPN遺伝子のSNP rs115197921の遺伝子型の保有率を検討した.また,侵襲性歯周炎におけるCLSPN遺伝子型と臨床的特徴との関連性を検討した.さらに,ヒト歯根膜細胞(HPDL)におけるCLSPNタンパクの発現を,ウエスタンブロット法にて検討した.HPDLを石灰化誘導培地を用いて分化誘導した際のCLSPN遺伝子の発現変化をreal–time PCR法にて検討した.加えて,siRNA法を用いてCLSPN遺伝子をノックダウンしたHPDLを硬組織形成細胞へと分化誘導し,石灰化関連遺伝子の発現ならびにアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した.
成績:侵襲性歯周炎患者におけるCLSPN SNP rs115197921のヘテロ型(C/T)保有者は,健常者に比べて有意に高い割合であった.さらに,CLSPN SNP rs115197921保有者は,重度歯周炎に関連する臨床的特徴を示した.また,HPDLはCLSPNを恒常的に発現しており,CLSPN遺伝子の発現はHPDLの分化に伴い上昇することが明らかとなった.加えて,CLSPN遺伝子をノックダウンしたHPDLでは,アルカリホスファターゼの遺伝子発現および活性が有意に抑制されることが明らかとなった.
結論:CLSPN SNP rs115197921は侵襲性歯周炎のリスクと関連しており,同変異は疾患の重症度と関連していることが示唆された.また,CLSPNはHPDLの硬組織形成細胞への分化に影響を与えることから,歯周組織の恒常性維持や再生に重要な役割を担うことが明らかとなった.これらの結果は,侵襲性歯周炎の診断と治療における新たなバイオマーカーとしてのCLSPNの可能性を示唆している.
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