日本歯科保存学雑誌
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最新号
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総説
  • 宮崎 真至, 辻本 暁正
    2026 年69 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー
  • ―各世代における歯科口腔保健の課題と方向性―
    宮崎 真至, 沼部 幸博, 髙柴 正悟, 島田 康史, 辻本 暁正
    2026 年69 巻1 号 p. 6-11
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー

     人口の高齢化とは,総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が高まる現象である.その要因として,出生率の低下とともに,平均寿命の伸長が挙げられる.高齢化の進展に伴って,高齢者のさまざまな健康問題に対応するための方策が考えられ,総合的な社会の変革が求められている.その変革のキーワードがHealthy Ageingであり,さまざまな取り組みが行われている.Healthy Ageingは,年齢を重ねるにつれて良好な身体的・精神的・社会的な健康および幸福を維持する過程と捉えることができる.すなわち,Healthy Ageingは高齢者だけのものではなく,あらゆる年齢から考慮する事項であり(Healthy Ageing at Any Age),それによって生涯を通じて健康な状態を保つことができるものと考えられている.特に,歯科疾患は単独で終わるものではなく,ドミノのように口腔内の疾患が連鎖的に進行し,やがて全身疾患へと波及するリスクがあることも忘れてはならない.こうしたドミノ現象を防ぐためには,早期の予防と管理が重要となる.そこで,各世代における歯科口腔保健の課題とその解決策,特に歯科疾患ドミノの予防とホームケアの重要性について考えたい.

     その際に強調されるべきものとして,「誰一人取り残さないユニバーサルな歯科口腔保健」の実現には,社会全体としてその取り組みを支援する組織が必要不可欠であるということがある.すなわち,健康日本21(第三次)に示されたライフコースアプローチ(胎児期から高齢期にいたるまでの人の生涯を経時的に捉えた健康づくり)に沿って,地域のすべての住民を対象とした地域包括ケアシステムを基盤とした歯科医療サービスの提供が重要である.さらに,個人が日常から行うべきセルフケアは,欠かすことはできないものである.

ミニレビュー
原著
  • 鈴木 魁, 鷲巣 太郎, 菅谷 勉
    2026 年69 巻1 号 p. 21-32
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー

     目的:側枝やフィンなどの狭小部位を封鎖するためには,シーラーが重要な役割を担っている.しかし,それらの部位にはペーパーポイントが到達せず乾燥が困難であるため,水潤状態で封鎖することが求められる.それにもかかわらず,水分がシーラーの硬化や封鎖性,生体親和性に及ぼす影響はほとんど検討されていない.メタクリル酸エステル系シーラーであるメタシールSoftペースト(以下,MSSP)は,4-methacryloxyethyl trimellitate anhydrideと2-hydroxyethylmethacrylateと水を主成分としており,親水性が高く水の影響を受けにくい可能性がある.そこで本研究では,水が混和した場合や水潤状態にある象牙質面への封鎖性および生体親和性への影響を評価した.

     材料と方法:MSSPに蒸留水を1:0または1:1(重量比)で混和して重合率を計測し,1:0または1:0.5で混和し溶解率を計測した.さらに,MSSP,AH Plus,キャナルスNに蒸留水を1:0,1:0.1,1:0.2,1:0.3で混和し,象牙質ブロックに塗布して硬化後に色素浸入試験を行った.加えて,水膜が表面を被覆している象牙質面に,水を混和していない各シーラーを塗布し,同様に色素浸入試験を行った.さらに,水を混和したシーラーをラット皮下結合組織に埋入し,炎症状態を組織学的に評価した.

     結果:MSSPは1:1で水を混和しても重合率に変化はなく,1:0.5で混和しても溶解率に変化はなかった.色素浸入試験では,MSSPは水の混和による影響が小さかったのに対し,AH PlusやキャナルスNは1:0.2で水を混入すると色素浸入率が著しく増加し,MSSPに比較して有意に高値を示した(p<0.05).また,MSSPは象牙質面上に水があっても色素浸入率に大きな影響がなく,AH PlusおよびキャナルスNに比較して有意(p<0.01)に色素浸入率が低かった.組織反応では,MSSPは水を混和して練和直後に結合組織内に移植した場合でも,AH PlusやキャナルスNに比較して炎症はきわめて軽微であった(p<0.01).

     結論:MSSPは水を混和しても重合率や溶解率にほとんど影響がなく,水を混和したり象牙質表面が水潤していたりしても高い封鎖性が得られた.また,水を混和しても生体親和性が高いことが明らかとなった.

症例報告
  • 坂井田 京佑, 大森 一弘, 河野 隆幸, 高柴 正悟
    2026 年69 巻1 号 p. 33-44
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー

     緒言:ホルモンバランスの変化は,歯周状態に影響を及ぼすことが知られている.今回,子宮全摘出および卵巣片側摘出後のホルモンバランスの変化に伴い歯周炎症が急性化したと考える重度慢性歯周炎患者に対して,歯周組織再生療法を含む専門的な歯周治療を行い,長期的に安定した歯周状態を獲得した.本症例の治療経過の報告および病態の考察を行う.

     症例:46歳,女性.初診:2017年9月.主訴:全顎的な歯肉腫脹と出血.現病歴:2017年8月に子宮全摘出と卵巣片側摘出術を受けた.その際,歯科医師による周術期の口腔内検査が実施されず,患者自身も口腔内の問題を自覚していなかった.手術直後から急激な歯肉腫脹と出血を自覚した.1カ月が経過しても改善しないため,9月上旬に専門科での治療を希望して当科を受診した.既往歴:子宮筋腫,左側卵巣囊腫.喫煙歴:なし.歯周検査所見:歯間乳頭部を中心に歯肉の発赤腫脹が全顎的に存在した.plaque control record(PCR):64.1%,4mm以上の歯周ポケットの割合:65.1%,bleeding on probing(BOP)陽性率:82.8%,歯周炎症表面積(periodontal inflamed surface area:PISA):3,498.7mm2であった.デンタルエックス線画像検査では,全顎的に歯根長1/2程度の水平性骨吸収像が,臼歯部には外傷性咬合による垂直性骨吸収像が存在した.その他:歯周ポケット内からPorphyromonas gingivalisAggregatibacter actinomycetemcomitansが検出されたが,歯周病原細菌に対する血清IgG抗体価は上昇していなかった.診断は,広汎型慢性歯周炎(Stage Ⅳ,Grade C),二次性咬合性外傷とした.治療計画は,①歯周基本治療(患者教育,内科へ対診による全身状態の評価),抗菌療法(全身・局所投与)併用スケーリング・ルートプレーニング,ナイトガード装着),②fibroblast growth factor-2(FGF-2)製剤を用いた歯周組織再生療法,③歯周病安定期治療(supportive periodontal therapy:SPT)とした.治療経過として,歯周基本治療に対する反応性は非常に良く,全顎的な歯肉腫脹と出血は改善した.垂直性骨欠損部に歯周組織再生療法を実施して,2019年4月からSPTに移行した(PISA:26.4mm2).

     考察および結論:感染除去を主体とした歯周治療を迅速に実施したことによって,歯周状態は著しく改善した.卵巣摘出に伴うホルモンバランスの一時的な異常が,歯周炎の急激な悪化に関与した可能性があると考える.婦人科疾患領域の手術においても,周術期管理としての歯科介入が必要である.

  • 成瀬 啓一, 宇田川 信之, 成瀬 雅哉, 中村 卓, 吉成 伸夫
    2026 年69 巻1 号 p. 45-58
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー

     緒言:歯周炎や外傷性歯根破折による歯の喪失は審美性・機能性の低下を招き,特に上顎前歯部では歯槽骨の水平的・垂直的吸収が生じやすい.固定性部分床義歯や可撤性部分床義歯では審美的再建に限界があるが,インプラント治療では再生療法の併用により欠損前に近い歯周組織の再生が可能であり,生活の質(QOL)の向上が期待される.しかし,隣在歯の唇側歯槽骨に裂開や開窓を伴う症例では,歯根露出を防ぐために唇側歯槽骨の再生が重要となる.本症例報告では,上顎前歯部において,隣在歯の唇側歯槽骨の吸収を伴う1歯欠損を認めた2症例に対し,インプラント埋入の前処置としてGuided Bone Regeneration(GBR)法を施行し,水平的および垂直的に歯槽骨の再生を獲得するとともに,隣在歯の唇側歯槽骨への再生療法を施行し,前歯部の良好な審美性と機能性を長期的に維持できた治療経過を報告する.

     症例:上顎中切歯部が1歯欠損し,隣在する側切歯の唇側歯槽骨に骨吸収を伴った2症例を対象とした.症例1は59歳の男性で,11の自然脱落による審美不調の解決を主訴に来院した.症例2は21歳の男性で,21抜歯後の義歯不適合の改善を主訴に来院した.

     治療方針:口腔内検査と歯科用コーンビームCT(CBCT)により,2症例ともに中切歯部に高度な垂直性骨欠損と水平性骨欠損および隣在側切歯の唇側歯槽骨の吸収を認めた.このため,両部位の骨組織再生を目的に中切歯部のGBR法と側切歯部の歯周組織再生療法を併用した手術を施行し,その後にインプラント埋入を行うこととした.

     治療経過:GBR法と歯周組織再生療法を施行した後にインプラントを埋入した.埋入手術時に隣在歯の歯槽骨を確認し,骨吸収が認められていた唇側歯槽骨部位において骨組織の再生が確認された.インプラント埋入部位の再生骨組織を採取し組織学的に評価したところ,骨補塡材から新生骨への置換が確認された.インプラント埋入,上部構造装着後,現在まで4年および5年にわたってインプラント周囲に炎症や骨吸収は認められず,咀嚼機能・審美性が良好に維持されている.

     結論:この2症例により,前歯部インプラント治療において欠損部への骨造成だけではなく,隣在歯の歯槽骨吸収に対する再生療法の併用を行うことで前歯部の審美性と機能性を良好に保たせ,長期安定を達成することができることが示された.

  • 島岡 毅, 前薗 葉月, 小野 舜佳, 鍵岡 琢実, 田中 亮祐, 阿部 拓人, 森田 真吉, 三宅 直子, 林 美加子
    2026 年69 巻1 号 p. 59-67
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/02
    ジャーナル フリー

     緒言:近年,接着技術と修復材料の進歩により,直接修復の適応は拡大し,接着性コンポジットレジンを用いた大臼歯部の複雑窩洞の修復において良好な予後が得られている.一方,間接修復でも,接着により垂直的咬合力および側方力に対し十分な抵抗性を発揮するオーバーレイ形態のセラミックアンレー修復が有用とされ,歯質を保存した治療が可能となった.本稿では,う蝕への対応と審美性改善を要した患者に対し,患歯に応じた修復法を選択し,良好な経過を得た症例を報告する.

     症例:患者は47歳男性.主訴は「右下の詰め物が取れた」であった.2022年5月に下顎右側大臼歯のメタルインレーが脱離し,かかりつけ歯科医院で再装着したが再び脱離したため,当院での治療を希望し来院した.口腔内およびエックス線検査にて,下顎右側第二大臼歯(#47)のメタルインレー脱離と象牙質う蝕,下顎および上顎右側第一大臼歯(#46,#16)のメタルインレーによる審美障害,上顎左側中切歯(#21)の変色歯と診断した.

     歯質保存と審美性の回復を念頭に,治療方針は,#47をセラミックアンレー修復,#46,#16をコンポジットレジン修復,#21を感染根管治療後にウォーキングブリーチを行い,コンポジットレジン修復することとした.#47から治療を開始し,仮封材を除去したところ,歯髄に近接するう蝕を認めたため,感染歯質を除去して接着システムとコンポジットレジンにより歯髄保護を行った.その1カ月後,歯髄反応が正常であることを確認し,オーバーレイ形態のジルコニアアンレーで修復した.続いて#46,#16はコンポジットレジンにて修復し,#21は感染根管治療後に漂白処置を施したうえで,コンポジットレジンで修復した.

     考察および結論:本症例では,最新の接着技術を適用することで,歯質の保存を重視しつつ,全顎的な審美性の改善とメタルフリー治療を達成できた.患者には咬耗症が認められ,夜間のパラファンクションおよび二次う蝕が,修復物脱離の一因と考えられた.残存歯質量や対合歯とのクリアランスを精査し,オーバーレイ形態で修復した結果,機能および審美の両面を回復できた.治療後2年が経過したが,ナイトガード装着により口腔全体が維持・管理されており,適切な修復形態および材料選択の重要性が示された.

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