緒言:歯周炎や外傷性歯根破折による歯の喪失は審美性・機能性の低下を招き,特に上顎前歯部では歯槽骨の水平的・垂直的吸収が生じやすい.固定性部分床義歯や可撤性部分床義歯では審美的再建に限界があるが,インプラント治療では再生療法の併用により欠損前に近い歯周組織の再生が可能であり,生活の質(QOL)の向上が期待される.しかし,隣在歯の唇側歯槽骨に裂開や開窓を伴う症例では,歯根露出を防ぐために唇側歯槽骨の再生が重要となる.本症例報告では,上顎前歯部において,隣在歯の唇側歯槽骨の吸収を伴う1歯欠損を認めた2症例に対し,インプラント埋入の前処置としてGuided Bone Regeneration(GBR)法を施行し,水平的および垂直的に歯槽骨の再生を獲得するとともに,隣在歯の唇側歯槽骨への再生療法を施行し,前歯部の良好な審美性と機能性を長期的に維持できた治療経過を報告する.
症例:上顎中切歯部が1歯欠損し,隣在する側切歯の唇側歯槽骨に骨吸収を伴った2症例を対象とした.症例1は59歳の男性で,11の自然脱落による審美不調の解決を主訴に来院した.症例2は21歳の男性で,21抜歯後の義歯不適合の改善を主訴に来院した.
治療方針:口腔内検査と歯科用コーンビームCT(CBCT)により,2症例ともに中切歯部に高度な垂直性骨欠損と水平性骨欠損および隣在側切歯の唇側歯槽骨の吸収を認めた.このため,両部位の骨組織再生を目的に中切歯部のGBR法と側切歯部の歯周組織再生療法を併用した手術を施行し,その後にインプラント埋入を行うこととした.
治療経過:GBR法と歯周組織再生療法を施行した後にインプラントを埋入した.埋入手術時に隣在歯の歯槽骨を確認し,骨吸収が認められていた唇側歯槽骨部位において骨組織の再生が確認された.インプラント埋入部位の再生骨組織を採取し組織学的に評価したところ,骨補塡材から新生骨への置換が確認された.インプラント埋入,上部構造装着後,現在まで4年および5年にわたってインプラント周囲に炎症や骨吸収は認められず,咀嚼機能・審美性が良好に維持されている.
結論:この2症例により,前歯部インプラント治療において欠損部への骨造成だけではなく,隣在歯の歯槽骨吸収に対する再生療法の併用を行うことで前歯部の審美性と機能性を良好に保たせ,長期安定を達成することができることが示された.
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