日本歯科保存学雑誌
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総説
誌上シンポジウム「保存修復学領域における臨床研究の最前線」
原著
  • 附田 孝仁, 山崎 詩織, 林 玲緒奈, 山根 雅仁, 石井 信之, 武藤 徳子
    2024 年 67 巻 5 号 p. 269-275
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:本研究は,Ni–Tiファイルの自己制御機能を有する駆動モーターX–Smart Pro+を使用し,WaveOne Gold(WOG)による湾曲根管形成時の根管壁変位量を改良前のX–Smart Plusと比較しWOGの切削特性を評価した.X–Smart Pro+のNi–Tiファイル自己制御機能(Responsible control(RC))は,ファイルの低いトルクにより常に安定した速度制御と根管長測定機能を有する.さらに,根尖到達時にリバース機能が作動することで根管形成時の過剰切削が防止される.WOGによる根管形成では,X–Smart Pro+とX–Smart Plusによる根管切削量と根管形成時間を比較検討し,さらにX–Smart Pro+の根管長測定機能精度を解析することを研究目的とした.

     材料と方法:J型エポキシレジン製透明湾曲根管模型40本を使用し,WOG Gliderによるグライドパス形成後にWOG Primaryによる根管形成を行った.根管形成は,X–Smart Pro+とX–Smart PlusをWOG Glider群(n=20)とWOG Primary群(n=20)の2群で実施し根管形成時間を比較した.さらに,根管形成量と中央値変位量はJ型根管模型を実体顕微鏡とデジタルカメラを使用し,根管形成前後の根管壁切削量と根管形成前後の根管中央値変位量を計測して統計処理を行った.根管長測定機能は,Apex設定位置と根管形成後のファイル先端位置との相関関係を解析した.

     結果:根管形成時間は,X–Smart Plus群で平均21.8±1.2秒,X–Smart Pro+群で平均15.3±0.8秒であった.根管形成量と中央値変位量は,計測箇所すべてにおいて両群間で有意差は認められなかった.根管長測定機能解析の結果,Apex+1設定群がApex設定群より生理学的根尖孔に近接していた.

     結論:X–Smart Pro+は,回転速度制御機能によってWOGファイルのスクリュー効果が制御され,根管形成時間が30%短縮した.根管形成量と中央値変位量はX–Smart Pro+群とX–Smart Plus群で有意差がなく,ともに解剖学的根管形態を維持した.根管長測定機能は,Apex+1設定群が生理学的根尖孔に近接することが示された.

  • 湯本 浩通, 舞田 健夫, 河野 豊, 植原 治, 安彦 善裕, 青田 桂子, 高山 哲治, 四柳 宏
    2024 年 67 巻 5 号 p. 276-287
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:歯科診療において,歯科医療従事者は,患者の唾液や血液などの体液に曝露されることが多く,肝炎ウイルスからの感染予防として標準予防策の徹底は肝要である.しかしながら,肝炎ウイルスに関する知識や標準予防策が十分でないと,肝炎患者の診療に影響をもたらす可能性がある.われわれは,肝炎ウイルスや標準予防策に対する教育,および肝炎患者への配慮に関する啓発を目的とした歯科医療従事者向けの動画を作成し,本動画の有用性を検証するためのアンケート調査を実施し,解析した.

     材料と方法:「歯科医療従事者に知ってほしいB型肝炎,C型肝炎のこと」という約20分の動画を作成して,歯科医師に視聴してもらった後に,内容に関するアンケート調査を行った.

     成績:アンケート調査に同意が得られた計343名の歯科医師のアンケート調査を解析した結果,動画の構成についてはおおむね良好な意見が多かった.「B型肝炎ワクチンの定期接種」「B型肝炎ウイルスの体外の感染可能持続期間」「肝炎検査の助成」「HCV抗体が中和抗体でないこと」を知っていた歯科医師は半数以下であった.若い歯科医師で「C型肝炎が近年治癒できる」ことを知らない割合が多かった.体液が環境面に付着した際の消毒薬は,次亜塩素酸ナトリウム,アルコール,クロルヘキシジンの順に回答していたが,若い歯科医師でアルコールを消毒薬として使用する割合が多かった.約45%の開業医(クリニック)は針刺しなどの刺傷時に対応できる内科への連携ができておらず,その理由として「連携方法が分からない」「近くに連携先がない」が大半であった.肝炎医療コーディネーターについては,7割近くの歯科医師(コメディカル含む)が資格取得を検討していたが,取得の必要性を感じない年配の歯科医師の割合も多かった.

     結論:本動画のアンケート調査結果から,肝炎ウイルスや標準予防策に関する継続的な学習の必要性が確認された.今後は,肝炎患者に対する安全な歯科治療と配慮を担えるような問診のあり方などをさらに改善して完成させる予定である.

  • 藤巻 龍治, 鈴木 二郎, 石井 信之
    2024 年 67 巻 5 号 p. 288-294
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:ニッケルチタン(Ni–Ti)ファイルは,加熱処理によって柔軟性と破折抵抗性が向上し疲労耐性が改善された.Ni–Tiファイルの破折軽減のためにファイル材質が改良されているが,駆動モーターに対してもさまざまな改良が実施されている.トライオートZX2+はOptimum Glide Path2(OGP2)機能が搭載され,時計回りと反時計回りの往復運動を繰り返す回転駆動で,ファイル破折軽減効果が期待されている.本研究は,Ni–Tiファイルを供試して疲労破折に対するOGP2回転駆動の有効性を検証するために,ねじれ疲労破折耐性と周期疲労破折耐性を各種Ni–Tiファイルの破折所要時間を測定し解析した.

     方法:ねじれ疲労破折耐性試験はファイル尖端から3mmの位置を固定し,最終根管形成に使用されるNi–Tiファイル3群,ProTaper Next X2(PTN),WaveOne Gold Primary(WOG),ProTaper Ultimate F2(PTU)を供試し,破折所要時間を計測した.周期疲労破折耐性試験はステンレス製人工根管を用いて,各種Ni–Tiファイル3群(PTN,WOG,PTU)の破折所要時間を計測した.根管形成に供試した駆動モーターは,正規回転駆動にはX Smart Plus,OGP2回転駆動にはトライオートZX2+を用いた.

     結果:ねじれ疲労破折耐性試験では,正規回転駆動に比べOGP2ではPTN(4.09±0.49秒),WOG(29.87±2.18秒),PTU(38.15±3.86秒)の順で耐性が増強し,WOG,PTUの2群において破折所要時間の有意な延長効果が示された.周期疲労破折耐性試験では,正規回転駆動に比べOGP2ではPTN,PTUで破折所要時間に有意な延長が認められた.

     結論:OGP2機能とG–wire素材のWOGとPTUファイルを使用することでファイル破折の軽減効果が示された.

  • 山田 理絵, 湊 華絵, 清水 公太, 鎗田 将史, 新井 恭子, 佐藤 友則, 五十嵐 勝, 北島 佳代子, 両⻆ 俊哉
    2024 年 67 巻 5 号 p. 295-303
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:歯髄組織に含まれる未分化間葉系幹細胞は,多分化能を有することが知られている.本研究の目的は,歯髄由来細胞が象牙芽細胞や歯根膜細胞へ分化する可能性を検討することである.

     材料と方法:全身麻酔下の5週齢のWistar系雄性ラットから切歯を抜去後,根尖部の歯髄組織を採取し,Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)に10%ウシ胎児血清(FBS)を混合し調整した培養液で初代培養を行った.抜去歯の歯根膜組織を替刃メス(No. 15)で取り除き,約2×2mmの大きさの象牙質片を作製し,移植実験までPenicillin/Streptomycin含有4℃リン酸緩衝液(PBS)中に保存した.歯髄由来細胞を含有したコラーゲンゲルを作製後,象牙質片をゲル内部に埋入させ被包体を作製した.実験1;全身麻酔を施した6週齢の雄性ヌードマウスの背部皮膚に切開を加え,被包体を移植したものを実験群,細胞を含まないコラーゲンゲルで象牙質片を被包し,移植したものを対照群とし,実験期間を6週間とした.実験2;8週齢のWistar系雄性ラットに全身麻酔を施し,上顎第一臼歯を抜去して近心根に逆根管充塡を行った.歯根膜組織を可及的に取り除いた後,抜歯窩に歯髄由来細胞含有コラーゲンゲルを注入し,再植(復位・固定)した.実験期間は2週間とした.両実験とも,期間終了後に被験動物を安楽死させ,通法に従い連続パラフィン切片を作製後,組織染色および免疫組織化学染色を行い,光学顕微鏡にて観察した.

     結果:【実験1】ヌードマウスに移植した実験群では,血管新生と象牙芽細胞様細胞が観察された.免疫組織化学染色所見では象牙芽細胞様細胞にDMP–1の発現がみられ,また一部でNestinの発現が観察された.【実験2】ラットに意図的再植した実験では,歯頸部付近で歯根膜様組織からセメント質に埋入するシャーピー線維様のコラーゲン線維が観察され,根尖部付近では骨様組織の形成が観察された.一方,炎症性細胞浸潤が観察された部位では歯根の吸収がみられた.

     結論:歯髄由来細胞含有コラーゲンゲルに被包された象牙質片を背部皮下に移植すると,未分化細胞の一部が象牙芽細胞様細胞へ誘導される可能性が示された.一方,意図的再植を行うと歯根膜様組織および骨様組織に分化することが示唆された.

  • 藤原 千春, 北垣 次郎太, 松本 昌大, 桝本 梨沙, 島袋 善夫, 村上 伸也
    2024 年 67 巻 5 号 p. 304-314
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:ゲノムワイドアプローチを用いた遺伝子多型解析の結果,侵襲性歯周炎疾患関連候補遺伝子として同定されたClaspinCLSPN)の一塩基多型(SNP)rs115197921の侵襲性歯周炎との関連性を明らかにすること,ならびに,CLSPNが歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化に及ぼす影響を検討することを目的として研究を行った.

     材料と方法:侵襲性歯周炎患者44名と日本人健常者データベース(HGVD)に登録された1,209名を対象に,CLSPN遺伝子のSNP rs115197921の遺伝子型の保有率を検討した.また,侵襲性歯周炎におけるCLSPN遺伝子型と臨床的特徴との関連性を検討した.さらに,ヒト歯根膜細胞(HPDL)におけるCLSPNタンパクの発現を,ウエスタンブロット法にて検討した.HPDLを石灰化誘導培地を用いて分化誘導した際のCLSPN遺伝子の発現変化をreal–time PCR法にて検討した.加えて,siRNA法を用いてCLSPN遺伝子をノックダウンしたHPDLを硬組織形成細胞へと分化誘導し,石灰化関連遺伝子の発現ならびにアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した.

     成績:侵襲性歯周炎患者におけるCLSPN SNP rs115197921のヘテロ型(C/T)保有者は,健常者に比べて有意に高い割合であった.さらに,CLSPN SNP rs115197921保有者は,重度歯周炎に関連する臨床的特徴を示した.また,HPDLはCLSPNを恒常的に発現しており,CLSPN遺伝子の発現はHPDLの分化に伴い上昇することが明らかとなった.加えて,CLSPN遺伝子をノックダウンしたHPDLでは,アルカリホスファターゼの遺伝子発現および活性が有意に抑制されることが明らかとなった.

     結論:CLSPN SNP rs115197921は侵襲性歯周炎のリスクと関連しており,同変異は疾患の重症度と関連していることが示唆された.また,CLSPNはHPDLの硬組織形成細胞への分化に影響を与えることから,歯周組織の恒常性維持や再生に重要な役割を担うことが明らかとなった.これらの結果は,侵襲性歯周炎の診断と治療における新たなバイオマーカーとしてのCLSPNの可能性を示唆している.

  • 木方 一貴, 河野 哲
    2024 年 67 巻 5 号 p. 315-326
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:オーステナイト相のニッケルチタンロータリーファイル(以下,Ni–Ti RF)とマルテンサイト相を有するNi–Ti RFの2種類の金属性質を有するファイルで,360°連続回転と反復回転の2つの回転方式,合計4種類の器具を用いて歯学部5学年の学生が根管模型の形成を行い,トレーニング前後での根管形成時間や変位量,レッジの形成頻度,ファイルにかかる負担やファイル破折の要因を比較し,検討した.

     方法:根管形成術者は,朝日大学歯学部5学年の学生40名とした.根管形成には湾曲度30°のJ型エポキシレジン製透明根管模型を使用し,ステンレススチールKファイル(SSK)およびオーステナイト相のNi–Ti RFである,NEX NiTiファイル(NE),RECIPROC(RE),マルテンサイト相を含むNi–Ti RFである,NEX NiTiファイルMs(NM),ソフトRECIPROC(RB)の4種類を用い,各群10名をランダムに配置した.なお,術者はSSKと指定されたNi–Ti RFの2種類の器具により根管形成を行った.SSKは1根管,Ni–Ti RFはトレーニングの前後でそれぞれ3根管の形成を行った.根管形成に要した時間と根尖から1~10mmの位置における根管変位量を測定し,トレーニング前後はWilcoxon signed–rank test,トレーニング後はKruskal–Wallis test後にBonferroni補正Mann–Whitney U testにより群間比較を行った(p<0.05).さらに,使用後のNi–Ti RFの状態の確認と,電子顕微鏡による表面性状の確認,およびレッジ形成の有無を確認した.

     結果:根管形成時間は,NE,NM,RB群ではトレーニング前後で有意に減少した.SSKは,すべてのNi–Ti RFより有意に長かった.根管変位量は,トレーニング前後での比較ではNE,NM群は根尖に近い位置で,RE,RB群は湾曲の中央から歯冠側で有意差を認めた.トレーニング後のNE,RE群は根尖に近い位置で外湾方向を形成する傾向を,NM群は湾曲中央部より歯冠側の位置の根管変位量が有意に少ないことが確認された.ファイル破折はSSKでは7名,トレーニング前のNi–Ti RFでは各群数名認めたが,トレーニング後はRE群の4名のみであった.その破折様式は,トレーニング前のRE,RB群はねじれ疲労破折のみであったが,NE,NM群ではねじれ疲労破折と周期疲労破折が混在していた.レッジの形成は,SSKで31名,トレーニング前のRE群で1名認めた.ファイルののびは,トレーニング前のNM,RB群および,トレーニング後のNE,RBで確認された.NE群以外の使用後のNi–Ti RFの一部で,マイクロクラックが確認された.

     結論:歯学部生であっても,適切な使用方法を学び,マルテンサイト相を有するNi–Ti RFを用いることにより,短時間で,安全に正確な根管形成が可能であると推察した.

  • 市川 清香, 野村 玲奈, 久世 恵里子, 土藏 明奈, 堀 十月, 長屋 優里菜, 西口 梨紗, 高橋 明里, 渡邉 友美, 日下部 修介 ...
    2024 年 67 巻 5 号 p. 327-331
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル フリー

     目的:在宅歯科訪問診療における歯科衛生士の業務内容について調査する.

     対象と方法:朝日大学医科歯科医療センターにて歯科訪問診療を実施する,介護認定を受けた50歳以上の在宅患者458名(男性234名,女性224名,平均年齢76.3歳)を対象とした.患者の診療録と口腔ケア業務記録から,患者情報(年齢,性別,介護度,残存歯数,認知症の有無)と歯科衛生士の業務内容について調査した.

     成績:対象患者の残存歯数は20本以下が56%を占めた.また,要支援・要介護度のレベルは,要介護度4以上が半数以上を占め,認知症患者は全体の29%であった.業務内容は,歯面清掃(31.8%),粘膜ケア(26.9%),口腔機能訓練(17.7%),義歯管理指導(15.2%),歯周処置(4.4%),摂食機能療法(2.3%),嚥下内視鏡検査補助(1.0%),口腔機能精密検査(0.4%),ミールラウンド(0.3%)であった.

     結論:在宅歯科訪問診療における対象患者の半数以上が残存歯数20歯以下であり,半数以上が要介護度4以上,認知症の割合が全体の約1/3であった.歯科衛生士業務は,口腔環境の維持・管理が中心であった.

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