歯科医学
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53 巻, 3 号
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  • 笹木 充, 福島 久典
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. 273-287
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    口腔内から分離したB. intermediusと, 分離時にlactose発酵性を示したB. intermediusに類似した菌株37株を, DNA-DNA hybridization法を用いて同定した. 定性的なdot hybridization法では, ラベルしたB. intermedius ATCC 15032のDNAとすべてのB. intermedius ATCC株のDNAとが相同性を示した. しかし, ラベルしたDNAとB. intermedius以外の黒色色素産生性Bacteroides (BPB) のDNAとの間には相同性は認められなかった. また, ラベルしたDNAとすべての臨床分離株のDNAとは, B. intermedius ATCC株と同程度の相同性を示した. これらの結果は, 供試したすべての臨床分離株がB. intermediusであることを示している. したがって, 臨床からBPBを分離する際にはlactose発酵性のB. intermediusについても考慮する必要がある. 定量的なマイクロプレート法では, 臨床分離のB. intermediusの中にDNA相同性が異なる2つのホモロジーグループが認められた. すなわち, 28株がATCC 25611のDNAと強い相同性を示し (68〜88%), 9株がATCC 33563のDNAと強い相同性を示した (68〜87%). 口腔感染症由来のB. intermediusは, ATCC 25611グループの菌株が圧倒的に優勢であった. 一方, 33563グループの9株のうち, 7株が小児の唾液由来であった. 臨床分離のB. intermediusには, lactose発酵性, 粘性物質産生性あるいはβ-lactamase産生性などの表現形質や, 溶原性あるいはplasmidなどの保有性を2つのグループ間で区別することはできなかった. しかし, SDS-PAGEによる可溶性タンパクの泳動パターンでは, 明確に2つのグループが区別できた. したがって, JohnsonとHoldemanが指摘しているように, この2つのグループは将来的には異なる菌種に分けられる可能性が示唆される.
  • 齊藤 尚宏, 尾上 孝利
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. 288-298
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究では, Bacteroides intermedius strain17の線毛の性状をウサギ赤血球凝集活性を指標にして検討した. 免疫学的に均一な精製線毛を本実験に供試した.
    精製した線毛にはウサギ赤血球に対して強い凝集活性が認められた. 赤血球凝集活性は, 抗線毛血清 (力価1:8) の16倍希釈液で抑制された. この事実は, 線毛が赤血球凝集原としての働きをもつことを示している.
    精製線毛の赤血球凝集活性は60〜70℃, 10分間処理では50%, 100℃, 10分間処理では94%抑制され, また, trypsinでは88%, protease type NIVとproteinaseでは, それぞれ50%抑制された. 精製線毛をpH2.0〜7.0のbufferで透析後, 生じた沈殿を遠心で上清と沈渣とに分け, それぞれを再度pH7.0のbufferに透析した. 透析後, 蛋白量と赤血球凝集活性を測定した結果, pH値が7.0から小さくなるにともない, 沈渣の蛋白量は増加し, 赤血球凝集活性も, pH4.5まで上昇 (512AU) した. その後, pH値が小さくなるにともない. この活性は低下し, pH3.0以下では認められなかった. 一方, 上清の蛋白量と赤血球凝集活性はpH値が7.0から小さくなるにともなって減少し, 蛋白はpH4.5〜2.5ではほとんど検出されなかったが, pH2.0では750μg/mlの蛋白が再び検出された. 赤血球凝集活性はpH4.0以下では検出されず, また, この活性の回復も認められなかった.
    以上の結果から, 本線毛は, 等電点がpH4.0〜4.5付近にあり, 酸によって赤血球凝集活性は失われるが, 熱に比較的安定した蛋白であると考えられる. また, 供試した22種の糖のうち, D-glucosamineのみが精製線毛による赤血球凝集活性の94%を抑制したことは, この線毛に対するレセプターにD-glucosamineが関与していることを示唆している.
  • 西川 文男, 尾上 孝利
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. 299-312
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    重度歯周疾患患者の歯周ポケットから高頻度に分離される黒色色素産生性Bacteroides (BPB) の種の同定と薬剤感受性および耐性化の動向を解析する目的で, 121株のBPBを用いて実験を行った. 供試菌は42株のB. intermediusと76株のB. gingivalisに同定された. 残りの3株はDNAの相同性によりB. endodontalisと同定された. B. intermediusに対してはミデカマイシンが, B. gingivalisに対してはペニシリンG, アンピシリン, アモキシシリン, セファロチン, セフォペラゾン, ドキシサイクリン, ミノサイクリン, ミデカマイシンおよびクリンダマイシンが, B. endodontalisに対してはペニシリンG, アンピシリン, アモキシシリン, セファロチン, セファマンドール, セフォペラゾン, ラタモキセフ, フロモキセフ, ドキシサイクリン, ミノサイクリン, エリスロマイシン, ミデカマイシンおよびクリンダマイシンがそれぞれ高い抗菌力を示した. 耐性菌はB. intermediusのみで検出され, その分離頻度はペニシリン系では19〜36%, セフェム系では5〜26%, テトサイクリン系では17%およびマクロライド系では2〜5%であった. β-ラクタマーゼ活性は, B. intermediusで1株検出された. これらの結果から, B. intermediusは他のBPBと同様に, 元来, 薬剤感受性は高いが, 耐性化しやすい傾向を示しており, 歯周疾患の治療において, その動向を十分に知る必要がある.
  • 李 賛榮
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. 313-324
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    UDMAをベースレジンとするMETAFIL Iと4-META methyl-methacrylateボンディング剤は, 象牙質に接着させることを目的として試作されたものである. 臨床に応用するにあたり, in vitroの象牙質接着性試験およびin vivoにおける歯髄刺激試験を行った. 使用したのは5種の酸処理剤, すなわち20%リン酸 (20-P), 25%リン酸 (25-P), 40%リン酸ゲル (40-P), 10%クエン酸-3%塩化第二鉄 (10-3), pH7.4に調整した0.5MのEDTAである. GLUMA (10% Glutaraldehyde-35% hydroxy-ethyl-methacrylate) を酸処理後のプライマーとして使用した. 4-META MMAボンディング剤の対照としてClearfil New Bondを用いた. 使用したレジンはClearfil New Bondには化学重合型コンポジットレジンのClearfil Posterior, 4-META MMAには光重合型のMETAFIL Iである. In vivoにおける歯髄刺激性試験のために, 4-META MMAボンディング剤を含有したMETAFIL Iをニホンザルの歯に填塞した. 同時にMETAFIL Iに対するコントロールとして, 同じサルに他の充填材を填入して試験を行った. 歯髄刺激性試験の評価基準として, ADA, FDI/ISOの診断法を用いた. 結果は, 以下の通りである. 1) 4-META MMAボンディング剤の象牙質に対する接着強さは, 一般的にClearfil New Bondと同等か, またはそれ以上の値を示した. 2) 酸処理剤としては40-Pと10-3が適していることが判明した. 3) プライマーとしてのGLUMAの使用は特に効果を示さなかった. 4) METAFIL I, 4-META MMA系の歯髄刺激性は, 考えられる修復象牙質の添加が, 対照に比較してやや多いようであったが, 重篤な為害作用も認められないことから, このシステムを臨床に応用しても問題はないものと考える.
  • 布川 隆三, 川本 達雄
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. 325-338
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    矯正歯科臨床分野において, 成長発育期の患者に対して, より効果的な顎の垂直的な成長コントロールを行うのに, ヘッドギアーと併用して嚥下時舌圧を利用したパラタルバーが使用されている. そのパラタルバーが上顎骨に及ぼす作用を調べるために, 成人および小児乾燥頭蓋骨各1体を試料とし, ストレインゲージ法を用いて力学的実験を行った. その結果, ストレートとカーブの2つのタイプのパラタルバーに荷重を加えた場合, 以下に示すような結論を得た.
    1) 上顎骨の歯槽骨頬側板における歪分布は, パラタルバーのタイプによって異なるが, 成人および小児頭蓋を問わず, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨頬側板において, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも小さい値を示した.
    2) 歯槽骨舌側板での歪分布は, 成人および小児頭蓋において, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨舌側板で, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも大きい値を示した.
    3) 小児頭蓋ではパラタルバーのタイプを問わず, ヘッドギアーの後上方牽引時のような反時計まわりの回転に近い上顎骨の変形が認められた.
    4) 成人および小児頭蓋ではパラタルバーのタイプを問わず, 上顎骨に隣接する周囲骨にも歪が及んでいた.
    以上の結果から, パラタルバーは成長発育期のII級I類不正咬合および下顎下縁平面角の大きい不正咬合の患者に対してヘッドギアーと併用することによって, 上顎第一大臼歯を中心とする側方歯群の歯槽骨の垂直的な成長コントロールが行える. また, 成人に使用した場合も, 顎間ゴムなどの矯正力による上顎第一大臼歯の提出および近心移動などに抵抗する固定源の加強として役立つことが示唆された.
大阪歯科学会例会抄録
学位論文の内容要旨および論文審査の結果要旨
  • 木村 明祐
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g87-g88
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    咬合力に対する歯および上下顎骨の変形と力学的反応機構に関する研究は, 従来より光弾性試験法, ストレインゲージ法, ホログラフィー干渉法などの手法により研究がなされてきている. しかし, 咬合力が顎関節に及ぼす影響を生体力学的見地から検討を行った報告は認められないのが現状である. そこで著者は, 近年歯学領域で用いられるようになったコンピューターシミュレーション数値実験である有限要素法を用い, 噛みしめ時における顎関節, とくに下顎頭, 関節円板および側頭骨下顎窩における力学的挙動を検討した. 実験材料と方法 : 実験の対象として歯, 下顎骨, 関節円板および側頭骨下顎窩をとりあげ, おのおのの解剖学的平均値にもとづく寸法を設定し, これらを一体としたラーメン構造物と考え作図後, 250個の節点と, 394個の三角形要素に分割し2次元有限要素モデルを作製した. モデルは顎関節の力学的挙動を考慮し, より解析が必要と考えられる断面, すなわち下顎頭, 下顎角, および下顎切歯を結んだ面に投影された断面を選定した. また先人たちの報告を参考に解析に要するモデルの各組織の物理的諸性質を設定した. モデルの拘束は, 歯の切端および咬頭と側頭骨を想定したモデルの両端とを固定支持とした. なお噛みしめ時を想定した荷重は後の換算を容易にするためすべて単位静止集中荷重 (1kg) とした. 荷重条件として, 咬筋, 内側翼突筋および側頭筋を想定した荷重をモデルの下顎角部と筋突起部にそれぞれ荷重の比率を変化させて負荷した. また対合歯の欠損 (以下, 歯の欠損とする) にともなう噛みしめ時の顎関節における力学的挙動を検討する目的で歯の切端および咬頭における拘束部位を変化させたモデルを作製し, 同様の荷重条件で解析した. 有限要素法の解析にあたっては, プログラムとして平面応力解析プログラムSTRS-2Dの一部を改変したものを用い, パーソナルコンピューターPC-9801により演算処理を行った. 各支持条件下, および荷重条件下での変位図, 等応力線図および主応力分布図を作成し, 比較検討した. 結果 : 噛みしめ時を想定した負荷力に対する下顎骨の力学的反応は下顎体では反時計回りに, 下顎枝部では時計回りに, 下顎角部では前上方にたわむような挙動を示した. さらに顎関節部では下顎頭の前方斜面, 関節円板の後方肥厚部および関節結節の後方斜面に相当する部分に最も高い応力値がみられ, この部分が生体力学的見地から咬合時における顎関節の緩衝部位であることが示唆された. 荷重条件の変化にともなう顎関節における力学的挙動については, 下顎角部での荷重の優位の場合に比較して, 筋突起部での荷重が優位な場合に関節円板の変位量の増大がみられた. 支持条件の変化にともなう顎関節の力学的挙動については, 後方歯欠損を想定した場合に変位量は増加し, 下顎頭は下前方に回転しながら変位した. また関節円板では応力の増加がみられ, その増加の程度も後方肥厚部から後部結合組織にかけて大きかった. しかし, 中間歯欠損や前方歯欠損を想定した拘束条件の結果は欠損歯のない場合を想定した拘束条件の結果と類似していた. 結論 : 有限要素法を用いて噛みしめ時を想定した静的荷重下での顎関節の応力解析を行った結果, 咬合力の顎関節における緩衝部位は関節結節後方斜面と下顎頭前方斜面にはさまれた関節円板後方肥厚部に相当する部分であることが示唆された.
  • 小野 哲嗣
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g89-g90
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    臨床診断を進める過程においては数多くの情報が必要である. また, 異常所見をとらえる最初の情報は視診によるもので, そのなかでも色調の変化は重要な指標である. とくに, 粘膜病変や粘膜下病変の病態, 病期, 経過についてはさらに詳細な観察が必要となる. 口腔領域においてこれらの病変についての色調の研究は, その診断における必要性から行われてきたが, 口腔粘膜全般について測色したものは少ない. 色を客観的に定量化する方法として, 分光光度計を用いる分光測光測色法は, 色を光のエネルギー波形 (スペクトル) として測定記録することができる. 組織の色は種々の生体色素が関与して構成されたものであり, それらの生物学的な変化は色の変化として反映される. これをスペクトルによって観察すれば, このような変化に関与する色素の増減や, その性状の分析を行うことができる. すでに組織反射スペクトル解析法は種々の病変の診断に応用されているが, 口腔領域においては歯肉を対象としたものだけである. そこで著者は, 口腔粘膜各部の分光測光を行うことにより, その色調やスペクトルの特徴を調べ, あわせてスペクトル解析の応用について検討を行い, 以下の結論を得た. 1) 各測定部のスペクトルには, 500〜600nmにかけてW字型のパターンがみられ, 血液中のヘモグロビンの関与が強いことが認められた. 2) 各測定部位のスペクトルの形状は, その特徴により4つのタイプに分けられた. 3) 各測定部位の表色値は, L^*値34〜46, a^*値-0.1〜6.9, b^*値-1.3〜7の範囲で, 彩度の低い色であった. 4) 頬粘膜から得られたHb指数と一般血液検査から求めた末梢血中のHb量, Ht値との間には高い相関がみられた. 5) 各測定部位のスペクトル, 表色値, Hb指数はいずれも男女の血液性状の違いを反映していた. 6) 各測定部位のスペクトル, 表色値, Hb指数はいずれも組織構造との関連を反映していた. 以上の結果, 口腔粘膜各部の色調およびスペクトルの特徴がとらえられ, 組織反射スペクトル解析法の応用の可能性が示唆された. さらに, 病変部の分光測光を行うことにより, 臨床診断への導入が可能になるものと考えられる.
  • 橋本 浩史
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g91-g92
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 歯の表面に用いた微小パルス波電流が効率的な歯槽骨のリモデリングを起こし, さらに歯の移動量を増加させることができるかどうかを検討することである. 28頭のネコを用い, 上顎左右犬歯に60gの遠心方向への力を加え, 左側犬歯は, 実験歯として, 6V, 10μA, 1Hzの電圧を歯の表面に1日-14日間加えた. 一方, 右側上顎犬歯は対照歯として, 電圧はかけなかった. 歯の移動量および歯周組織の変化について検索し, 以下の結論を得た. 1) 歯の表面に加えた電圧は, その歯周組織にまで影響をおよぼした. 2) 歯の表面に微小パルス波電流を適用して歯を移動すると, 移動は促進した. 3) 微小パルス波電流を用いて歯を移動することにより, 矯正力を単独で使用したときよりも, 牽引側に添加される骨の出現範囲は広く, またその骨の量も多くなり, それは時間の経過とともに増加した. 4) 微小パルス波電流は, 牽引側において歯槽骨付近の造骨細胞の数を増加させた. 5) 微小パルス波電流は, 圧迫側において歯根膜領域の酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ染色陽性の単核および多核細胞の出現を促進した. 以上の結果より微小パルス波電流は, 歯槽骨の効率的なリモデリングを起こす要因のひとつになり得ることが判明し, さらに, 歯の移動量を増加させることが示唆された. 骨の改造機構に関与する物理的要因の一つに電流の作用があげられる. 著者は, これらの要因に着目して, マイクロパルス波電流が歯の移動に際して, とくに歯槽骨の改造機構に効果があるかどうかを検索する目的で本実験を行い, 歯槽骨の効果的な変化を明らかにしている. 実験に微小パルス波電流を用いた理由は, 人体の動態はすべて持続的なものではなく, 断続的なリズムで行われていることによる. 微小パルス波電流を与えて歯の移動を行い, 実験群と対照群を比較検討した結果, 歯の移動距離の測定では, 実験群には対照群に比較して明らかに差が認められ, とくに7日目以降に有意差を認めている. 新生骨面積の測定においても, 7日目以降に著しい差を認め, 牽引側の組織変化では, 4日目から造骨細胞数の増加がみられ, 7日目, 14日目と著明に増加して新生骨の区分の増加が顕著になることを明らかにしている. また, 圧迫側の組織変化についても, 実験群の方が多核および単核細胞が多数出現し, 活発な骨吸収が起こることを認め, 歯槽骨の効果的な改造機構を明らかにした. 以上の結果から, 歯の表面に加えた微小パルス波電流はその歯周組織にまで影響を及ぼし, 電気環境を変化させて歯の移動に対する効果的な歯槽骨の改造機構を促進させることを証明した点において, 本論文は歯学博士の学位を授与するに値すると判定した.
  • 細見 環
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g93-g94
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    近年, 根管充填用シーラーに生物学的特性をもたせようと, 水酸化カルシウム, ハイドロキシアパタイトおよび種々のリン酸カルシウムなどを用いてさまざまな研究が進められている. 本研究では, ハイドロキシアパタイトの前駆体であるα-リン酸三カルシウム (α-TCP) と骨性瘢痕治癒を促進させるといわれる水酸化カルシウム (Ca (OH)_2) をとりあげ, これらの材料を実験動物の抜髄創面に応用し, 被験材との接触面付近における組織の反応を病理組織学的および酵素組織化学的に検索した. 実験材料および方法 体重200gのWistar系雄性ラット120匹の下顎左右側第一臼歯を被験歯として用いた. 被験歯を抜髄後, α-TCP, Ca (OH)_2およびCa (OH)_2を1.5%添加したα-TCPのそれぞれの粉末を滅菌生理食塩水で練和し, 根管内に充塞し髄室を封鎖した. なお, 抜髄後に髄室の封鎖のみを行ったものを対照とした. 術後1週, 2週, 4週, 6週, 8週および10週の各期間経過後に, 実験動物を断頭屠殺し, 下顎骨を摘出して4℃にて0.5M中性EDTA-4Na溶液を用いて脱灰を行った. 脱灰終了後, 摘出下顎骨を水洗し, 凍結させて-20℃のクリオスタット内で20μmの連続切片を作製した. 切片はH-E染色による病理組織学的検索および酵素組織化学的検索に供した. 証明した酵素は, non-specific alkaline phosphatase (ALP), non-specific acid phosphatase (ACP), succinate dehydrogenase (SDH) およびlactate dehydrogenase (LDH) である. 実験結果 1) 対照群 : 2週までは, 抜髄創面付近にALPおよびACPに弱ないし中等度陽性反応を示す肉芽組織が存在し, その肉芽組織は経週的に線維化が著明になって中等度のALP陽性反応とSDHおよびLDHの弱から中等度陽性反応を示した. また, ACPに強陽性反応を示すmacrophage様細胞がわずかに認められた. 2) α-TCP群 : 2週までは被験材との接触面付近に, ACP強陽性反応を示すmacrophage様細胞を含む幼若肉芽組織が認められた. この肉芽組織は経週的に線維化傾向が進み, ALP, SDHおよびLDHの弱ないし中等度陽性反応を示した. 3) Ca (OH)_2群 : 2週までは被験材と接触する付近に炎症性細胞の浸潤と壊死組織が認められた. その周囲の肉芽組織内には, 8週までACPに強陽性反応を示す多数のmacrophage様細胞が認められた. しかし, 4週以降の数例においては根尖孔付近に硬組織様構造物が認められ, その表面はALPに強陽性反応を示した. しかし, 多くは肉芽組織由来の中等度ALP陽性反応を示すのみであった. 4) Ca (OH)_2を1.5%添加したα-TCP群 : 2週までは被験材との接触面直下に壊死組織がわずかに認められ, この周囲にALP弱陽性反応を示す幼若肉芽組織が存在していた. また, 10週を経過しても明瞭な硬組織様構造物は認められないものの, 8週以降, 被験材に近接した肉芽組織に線維化傾向を示す肉芽組織よりも強いALP陽性反応と, macrophage様細胞由来とは考えられないACPの中等度陽性反応が認められた. 結論 以上の結果から, Ca (OH)_2を1.5%添加したα-TCPを根管充填用シーラーとして応用した場合, 根尖部付近の線維化の進んだ肉芽組織にALPの強陽性反応が認められたことから, 将来, 被験材に接して硬組織が形成される徴候がうかがえ, Ca (OH)_2を1.5%添加したα-TCPは臨床的に有効な材料となり得ることが示唆された.
  • 吉田 新平
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g95-g96
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯周組織の弱体化した残存歯や支台歯を欠損補綴に組み込み, 口腔機能を果たしながらこれらを保護しようとするために, とくにCSCテレスコープクラウン (以下CSCと称す) を応用した補綴修復法が, 臨床において好結果を得ている. しかしながら, この設計, 維持装置の有効性について力学的にその機構を詳細に検討した研究はほとんど見当たらない. 著者は, CSCの荷重下における力学的メカニズムを明らかにするために有限要素法を用いて応力解析を行い, 荷重条件の変化に伴う支台歯および歯周組織の変化について検討した. さらに修復物の歯冠部のみを他種テレスコープクラウンであるコーヌスクローネに置き換えた場合についても同様に解析を試み, CSCとの力学的挙動の違いについて検討を加えた. 実験方法 有限要素解析にあたっては, 解析1として単独歯モデル, 解析2として大臼歯欠損における矢状断面モデル, 解析3として上顎歯を固定連結した前頭断面モデルの3パートに分けて行った. なおモデル作製にあたっては, テレスコープクラウンでは外冠と内冠は非連続体であり接触や分離, 相対的なスライドが生じることから内冠と外冠の接触面には2次元接触要素を導入し, 2次元平面問題として弾性解析を行った. この接触要素は面に垂直な方向の圧縮力のみを伝達し, 接線方向には摩擦なしである. 実験結果 1) 単独歯モデルにおける解析では, 荷重方向によって外冠, 支台歯および歯周組織に生じた変位量および応力は著明に変化し, いずれも水平荷重において最大値を示した. またCSCでは内冠の咬合面側に, コーヌスクローネでは内冠の頬舌側面中央部にそれぞれ応力集中を生じ, 歯根膜および歯槽骨内に発現した応力はCSCの方がわずかに小さいものの大差は認められなかった. 2) <&mid;67>^^^-欠損に<&mid;45>^^^-を支台歯とするテレスコープクラウンを応用した矢状断面モデルでは, 垂直荷重を負荷した場合でも荷重部位によっては支台歯に対し側方傾斜荷重が負荷されたような挙動を呈し, とくに支台歯, 人工歯部に荷重が均等に負荷されなかった場合には, 支台歯は傾斜したり義歯床の沈下が著しく支台歯歯根膜や歯槽骨内に発現した応力も大きくなった. また, 支台歯根尖部付近ではCSCの方がコーヌスクローネより相当応力値は増大したものの, 変位状態から考慮してCSCでは垂直成分の方が水平成分より大きく, 支台歯や歯周組織に対してはより好ましい傾向であることが示唆された. 3) 前頭断面モデルにおいて, CSCおよびコーヌスクローネともに両側性荷重時より片側性荷重時の荷重側支台歯, 歯周組織の方が変位量は大きく, しかも荷重側での変位量は総じてCSCの方が小さく, その方向もほぼ根尖方向へ向かうのに対して, コーヌスクローネでは内上方へ変位する傾向があった. さらに, 歯根膜および歯槽骨内各参照エリアでの相当応力値は, 荷重側では総じてCSCの方が小さく, 非荷重側では荷重側に比較してかなり少ないものの, CSCの方が大きくなった. またパラタルバーとの連結部およびバーの中央部での相当応力値はCSCの方が大きくなった. 結論 CSCは支台歯および歯周組織に対する変位, 応力状態さらには力の伝達様相から判断して, 歯周補綴領域において優れた修復処置法であることが確認された.
  • 林 瑞庭
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g97-g98
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    ネコ科の動物の形態系の報告は, ほとんどが家ネコ (Felis domestica) に関するもので, 巨大なネコ科の動物 (Panthera) の報告はきわめて少ない. 脈管系とくに動脈系の報告は, Tandler (1899) のトラとヒョウのものがみられるが, ライオン (Panthera s. Felis leo) の動脈系を主体とした報告はほとんどみあたらない. 実験動物として多用するイヌやネコの顔面に分布する動脈については, 総括的記載から, 近年, イヌ, カイウサギ, ヤギ, ネコ, ラットについては詳細な報告をみ, 顔面に分布する諸動脈の発達の程度は, ヒトを含めて種差が大きいことが知られてきた. 著者は, ライオンの顔面動脈の起始, 分枝および分布状況を詳細に観察し, その所見を食肉目のものと比較解剖学的考察を試みた. 大阪歯科大学解剖学講座保存のライオン3頭, 両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入した頭頚部動脈系の鋳型標本 (5側) ならびに剖検標本 (1側) を用いた. 顔面動脈は外頚動脈が鼓室胞の前で外側方へ曲がるとき, 茎突舌筋と顎二腹筋との間で, 5側では舌動脈の起始と後耳介動脈の起始の間, 1側では後耳介動脈の起始の高さで外頚動脈の前下壁から前方へ単独で起始していた. 顔面動脈本幹は起始後直ちに下顎腺枝を派出したのち, 咬筋停止部内側を顎二腹筋の上縁に沿って前走し咬筋枝を上方へ派出していた. 咬筋枝は太く, 多数の枝を咬筋に送りながら前走し咬筋前縁にまで達していた. ついで顔面動脈は前下方へ向きを変え, 舌下腺枝を派出したのち顎舌骨筋後縁に達し, ここで下壁からオトガイ下動脈を前下方へ派出していた. オトガイ下動脈は下顎骨下縁に沿って前走し, 途中, 顎二腹筋枝と顎舌骨筋枝を派出し, 下顎間正中軟骨結合の後下端に達し, 反対側のオトガイ下動脈と吻合していた. オトガイ下動脈派出後の顔面動脈本幹は, 下顎骨の顔面血管切痕をまわって顔面に出て, 頬筋と咬筋に分布する頬枝, 臼歯腺ならびにその周辺の皮膚に分布する下顎縁枝を派出したのち, 咬筋前縁に沿って前上方に走り, 咬筋下部からオトガイ下部の皮下に分布する皮枝を派出していた. 1側では下顎縁枝はよく発達していて, 下唇下方を前走したのち中オトガイ動脈と吻合していた. ついで顔面動脈は口角の後方で, 下唇動脈の2終枝に分岐していた. 下唇動脈は発達がよく, 臼歯腺に多数の小枝を送り, 臼歯腺の上縁, ついで口角下方から下唇中を前走し, 下唇の皮膚ならびに口輪筋に分布したのち, 正中で反対側のものと吻合し下唇動脈網を形成していた. 後上唇動脈は顔面動脈の走行方向の続きで, 口角枝や眼窩下内側縁周辺の皮膚に分布する上方への枝を派出したのち, 上唇後方で前方へ向きを変えていた. 1側の後上唇動脈は太く, 眼窩下動脈からの枝と吻合したのちそのまま前上唇動脈となって, 正中に達したのち上方へ向きを転じ, 両外鼻孔の間を上行する鼻中隔枝となって終わっていた. ライオンの顔面動脈は, その起始と分枝が家ネコのものときわめて類似していた. 相違点は, 下唇動脈が正中で反対側のものと吻合することと, 舌下部ならびに前歯部舌側粘膜へは, オトガイ下動脈からの枝が分布するcarnivora typeではなく, 舌動脈からの枝が分布するhuman typeであったことである.
  • 鎌田 愛子
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g99-g100
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    基底膜構成成分のヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) は, 膜の構築に不可欠なうえに, HS鎖の多価陰性荷電によるcharge barrierが血中タンパク質の選択的濾過に関与することから, 近年その機能が注目されるようになってきた. しかし, 糖尿病下におけるHSPGの変化は, 糖尿病合併症に伴う腎糸球体や網膜毛細血管の基底膜肥厚の発症機序に深く関わることが考えられるものの, それを立証する化学的知見はわずかしか得られていない. 本実験では, 糖尿病下におけるHS糖鎖構造の変化を明らかにするため, ラット腎を用いて生化学的な検討を加えた. 実験には, 9週齢のSD系雄ラットにストレプトゾトシン (65mg/kg体重) を投与し, 4週経過後, 高血糖を維持しているものを実験群, また, 同週齢の無処置ラットを対照群とし, 両群ラットから腎臓を摘出して脱脂乾燥試料とした. 脱脂乾燥試料からグリコサミノグリカン (GAG) を抽出し, さらにコンドロイチナーゼABC消化とCPC沈でんでHS試料を精製し, その糖鎖構造をカラムクロマトグラフィーおよびHPLCで検討した. その結果, 1) 対照群に比べて, 実験群では腎乾燥重量が増加し, 組織乾燥重量あたりのタンパク量およびDNA量は減少したが, 両群のGAG量とHyp量には差がなかった. これらの結果は, 実験群では細胞外成分が増加することを示しており, 糖尿病下で発現する腎糸球体基底膜の肥厚を反映したものと考えられる. 2) セルロースアセテート膜二次元電気泳動では, 腎GAGとしてHSのほかにヒアルロン酸, デルマタン硫酸および微量のコンドロイチン硫酸が認められた. また, コンドロイチナーゼABC消化により, HS試料の精製が確認された (以下, HS試料をHSとする). 3) 両群の組織乾燥重量あたりのHS量には差がみられなかったが, Sephacryl S-300 HRカラムクロマトグラフィーで分子量分布を比較すると, 実験群のHSピークは対照群のものより高分子側にやや偏位し, またベースの幅も広く, 腎HSの分子量分布は糖尿病による影響を受けることが示唆された. 4) HSの亜硝酸分解 (pH1.5) 生成物をSephadex G-50カラムで分析すると, 実験群ではN-硫酸化ヘキソサミンの割合が減少した. 5) HSの塩酸加水分解試料をHPLCで分析すると, 実験群のイズロン酸に対するグルクロン酸のピーク高さ比は対照群よりやや低値を示し, ウロン酸のエピ化 (epimerization) は糖尿病下で亢進する傾向にあることが示された. 以上の結果から, HSの糖鎖は糖尿病の影響をうけて構造に変化をきたすことが明らかになり, その変化はHSPGをはじめ糸球体基底膜の機能にも影響を及ぼすことが示唆された.
  • 土井 英暉
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g101-g102
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    バイオマテリアル用金属材料の腐食挙動をin vitroで研究するために, 純Ni, 純Ti, NiTi合金および316Lステンレス鋼からの各組成元素, Ni, Ti, FeおよびCrの溶出に関して, 浸漬条件, pH, 浸漬期間および濾過の影響についてしらべた. 浸漬液はpH3.5, 7.0および9.5に調整した. また, 浸漬は静置条件と160rpm, 200rpmと230rpmの旋回条件下で3日間および7日間行った. その結果, 静置条件下ではpH3.5で純NiとNiTi合金からのNiの溶出が, 316Lステンレス鋼からはわずかなNiとFeの溶出が認められた. 一方, 旋回および浸漬期間の延長とともに各組成元素の溶出量は増加した. pH値の影響はpH3.5で最も多い溶出量を示したが, とくに, Niで顕著であった. また, 濾過によって各金属元素量は減少したが, 純TiあるいはNiTi合金からのTiは濾液中には検出されなかった. ところが, Ni量は濾過中にも相当量が認められ, Niの溶出はイオンなどの可溶性物質として溶出しやすいものと考えられた. とくに, pH3.5でその傾向は顕著であった. 今回の結果から, 動的条件下での合金の溶出は単なる静置条件下でのそれと明らかに異なっていた. また, その存在状態も溶出元素によって異なっていた. 今後, in vitroで金属材料を評価する場合, 動的因子下での試験および溶出元素の存在状態を知ることの重要性を示唆している. ステンレス鋼からはわずかなNiとFeの溶出が認められた. 一方, 旋回および浸漬期間の延長とともに各組成元素の溶出量は増加した. pH値の影響はpH3.5で最も多い溶出量を示したが, とくに, Niで顕著であったことを明らかにしている. また, 濾過によって各金属元素量は減少したが, 純TiあるいはNiTi合金からのTiは濾液中には検出されなかった. ところが, Ni量は濾液中にも相当量が認められ, Niの溶出はイオンなどの可溶性物質として溶出しやすく, とくに, pH3.5でその傾向は顕著であったことを明らかにしている. 以上の結果から, 生体用金属材料がin vitroにおける動的浸漬条件下で溶出することを明らかにするとともに, 有効な溶出試験法について証明した点において, 本論文は歯学博士の学位を授与するに値すると判定した. なお, 外国語2か国語 (英および独) について試問を行った結果, 合格と認定した.
  • 香川 正之
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g103-g104
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯科矯正学の分野では, 出生前, 出生後の成長発育は重要な課題の一つである. 今回, 顎関節の形成および軟骨性関節突起の微細構造に関する研究の一環として, 外的刺激の環境的要因を受けない, マウス胎仔を試料として選び, 胎生下における生理的な環境のもとで成長発育を行う下顎頭に注目し, 胎生期関節軟骨の線維層 (F層) と線維下層 (SF層) および軟骨組織にみられる細胞と基質線維の発生と成長について経時的に組織的検索を行うことを目的として研究を行った. 胎生13日から20日までのJCL-ICR系マウス400匹を用いて顎関節を含む周辺組織をとり出し, 試料を2% paraformaldehydeと2.5% glutaraldehydeの混合液に4〜8時間浸漬した. これらの試料をその後, 1〜4時間, osmium tetroxide液に浸漬し, 固定を行ったのち, 通法に従って脱水し, Epon 812に包埋した. ガラスナイフを用いて準超薄前頭断切片を作製し, triple-chrome stainingにより染色を施し, 光学顕微鏡にて観察を行った. また, TEM観察用試料として, 超薄切片を作製し, 二重電子染色を行い, H-800形透過電子顕微鏡を用いて125kVで観察を行った. 下顎頭を周辺組織とともに胎生20日目のマウスから採取し, Tomy-ss-autoclave (121℃, 1.5kg/cm^2, 2〜6時間) で処理した. これを脱水後, 日立HCP-1で臨界点乾燥を行い, Eiko-1B-3型ion coaterを用いて金を蒸着し, S-570形走査電子顕微鏡を用いて観察を行った. また, 下顎頭をおおう関節軟組織を採取し, これを前述と同様に処理し, TEM用試料とした. 13日目の胎仔における下顎骨後端部には, 軟骨組織の分化と成長が観察された. 間葉性組織由来の第二軟骨は後方, 上方, 外側へと成長を続け, 側頭鱗との間に一定の関節の位置関係が保たれていた. 胎生17日目からは, 軟骨性関節軟骨突起と関節円板における細胞層は規則正しく配列し, 線維下層 (SF層) から関節腔および軟骨細胞層の二方向に向かって分化することが分かった. これへの毛細血管の侵入, およびSF層深部における骨芽細胞の分化によって軟骨膜下の骨化が始まり, 下顎骨関節突起の遠心端から次第に軟骨組織の肥大化および軟骨内骨化現象が観察された. また, SF層より, コラーゲンおよび弾性線維が二方向に成長することが認められた. また, 透過および走査電顕による観察から弾性線維の複雑な構造が究明された. 以上の連続的観察の結果, 次のようにまとめることができた. 1) 軟骨基質に存在するproteoglycanと同様に, 下顎関節軟骨における線維成分は弾力性に富み, 周辺組織からの牽引, 圧迫に耐えられる. これによって下顎関節軟骨の成長発育に適した環境が保たれている. 2) 蝶番関節としての顎関節の初期発生の観察では, 軟骨性細胞の分化と変性が起こり, また線維層の細胞間結合が分離し, さらにSF層から関節表面への連続的分化へと連係し, 線維層の線維要素が関節円板に分化することが明らかになった. 3) 成長期軟骨組織においては咀嚼筋の圧迫力に反応して, 線維層には旺盛な組織分化が認められ, 血管系の侵入は骨の形成と改造に深く関係していることが分かった. 以上の研究結果から, 下顎関節の成長に周囲組織の機能が大きく関与することが明らかとなり, 出生後の下顎発育においても機能的要因の配慮が必要であることが示唆された.
  • 武田 安弘
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g105-g106
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    顔面に分布する主要動脈の1つである顔面動脈の走行と分枝の発達は動物種によって異なっている. 霊長類の顔面動脈については, ヒトを除いては極めて少数の報告をみるにすぎない. 著者はコモンマーモセット (Callithrix jacchus) の顔面動脈と分枝ならびに分布域について詳細に観察し, 霊長類のものと比較解剖学的に考察した. 本研究には, コモンマーモセット成体7頭を用い, アクリル樹脂脈管注入法によって両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入し, うち6体は頭頚部血管系の鋳型標本, 残る1体は10%ホルマリン固定剖検標本として観察に供した. 顔面動脈は起始から顔面での分布まで長い走行をとるので, これを顎下部と顔面部にわけて観察した. 1) 顎下部 : 顔面動脈は環椎中央の高さ, 顎二腹筋後腹ならびに茎突舌筋筋腹中央, かつ舌下神経の内側で外頚動脈の前壁から舌顔面動脈幹 (全観察7体, 14側中10側) または単独 (4側) で起始していた. この動脈幹からは常に上甲状腺動脈が起始していた. 舌顔面動脈幹または単独起始の顔面動脈は顎二腹筋後腹の内側を前上方へ, 同幹は本筋上縁で舌動脈と顔面動脈に2分していた. 顔面動脈は茎突舌筋と顎二腹筋中間腱の間を前外側方へ通過し, 途中, 茎突舌筋枝と顎下腺枝を派出していた. 本幹は内側翼突筋と顎二腹筋中間腱の間を前下方へつづき, 同翼突筋停止前縁でオトガイ下動脈を前上方へ, 咬筋枝を前下外側方へ派出していた. さらに本幹は皮下にでて咬筋と顎二腹筋前腹の間を前走し, 咬筋停止と顎二腹筋停止の後縁の間で前上外側方へ曲がって顔面に出ていた. オトガイ下動脈は内側翼突筋枝, 皮枝, 舌下腺枝, 顎二腹筋枝と顎舌骨筋枝を派出しつつ下顎骨内面を正中まで前走し, オトガイ舌筋の起始に分布して終わっていた. 2) 顔面部 : 顔面動脈本幹は6体の両側では咬筋前縁に接して前上方へ向かっていた. 残る1体の両側では同縁から前方へ離れて走行し, その片側では咬筋前枝の派出を認めた. 本幹は下顎体中央の高さで皮枝, 下顎縁枝, 頬枝を派出し, 頬筋下顎起始の下縁で下唇動脈を前方へ派出したのち, 頬筋外面を上行して頬筋枝を後内側方へ派出していた. さらに本幹は頬骨側頭突起の基部下縁の高さで頬骨動脈との吻合枝を派出したのち, 前方へ曲がり鼻孔外側動脈と上唇動脈に2分して終わっていた. 2体の両側では鼻孔外側動脈を欠如していて上唇動脈が終枝となり, また眼窩下動脈が発達していた. 下唇動脈は下顎縁枝, 唇縁枝, 下唇腺枝を派出し, オトガイ動脈と吻合して終わっていた. 上唇動脈は浅枝と深枝となり, 対側相互間で吻合して鼻中隔枝となっていた. コモンマーモセットの顔面動脈の起始は甲状舌顔面動脈幹が全観察例の2/3に, 単独起始が1/3に認められた. 起始様相について霊長類のツパイからヒトまでを総括すると, 単独起始, 甲状舌顔面動脈幹形成という順に変化し, 高等霊長類ではこのような起始変化が種別に独自の出現率を示している. 顔面動脈顎下部の形態については他種についての所見と変わらない. 顔面動脈は咬筋前縁に接して走行しており, これは頬嚢を有するカニクイザルやアカゲザルと異なっていた. 顔面動脈の終枝は鼻孔外側動脈と上唇動脈であって, カニクイザルやアカゲザルにみられる眼角動脈は認められなかった. したがって, 顔面動脈の分布は鼻背にとどまっていた.
  • 西原 五郎
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g107-g108
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    永久歯の成長発育に関する報告は, Hellman, Schour・Massler, Nolla, Moorrees et al.およびHaavikkoたちの研究報告がみられる. これら先人のなかには, 歯牙発育図表を作成し, 臨床上有用されている. しかし, 歯の発育は, 人類, 地理, 社会環境, 遺伝, 個体差などによって左右されるほか, 近年, 発達加速現象による生歯の前傾が指摘されている. 一方, 永久歯をとりまく生歯環境は決して好ましいものではなく, 食生活の変化による咀嚼や栄養の問題, 先行乳歯の齲蝕をはじめ, 早期喪失や歯周組織などの状態によっても永久歯自体の発育状態や萌出時期は大きく左右される. 小児歯科臨床において, 乳歯列から永久歯列への咬合の移行, とくに, その根幹をなす歯の発育, 石灰化段階を十分把握することによって咬合誘導治療の成果を期待し得るものと考えられる. しかしながら, 現在わが国で用いられている資料は, 前述の欧米白人小児による資料が主であり, それらは比較的少数の被験者や, 限られた屍体から得られたものが含まれ, 必ずしもわが国の小児における歯の成長発育の実態と合致しないものがある. そこで, 著者は, 1回の撮影で上, 下顎歯を同時に総覧することができるオルソパントモグラフィが最も適した方法であると考え, 2歳0か月〜14歳11か月児4,143名 (男児2,205名, 女児1,938名) のオルソパントモグラム11,167枚 (男児5,759枚, 女児5,408枚) を資料とし, Moorrees et aI.の歯の発育段階の分類法にしたがって13段階に分類し, 本邦小児における永久前歯の発育 (石灰化) 段階を調査分析し, 小児歯科臨床で直接役に立つ, 日本人小児の永久前歯の標準発育図表を作成することを目的として本研究を行った. その結果, 次の結論を得た. 1) 永久前歯の各発育 (石灰化) 段階は, 女児のほうが, 男児よりも発育が早く, とくに発育中期においてその傾向が強かった. 2) 永久前歯の各発育 (石灰化) 段階の左右側間の比較では, 男, 女児ならびに上, 下顎歯とも同名歯間に発育の差を認めなかった. 3) 永久前歯の上, 下顎歯間における発育の比較では, 男, 女児とも切歯群において, 下顎歯のほうが発育が早いが, 犬歯においては差を認めなかった. 4) 日本人の永久前歯の各発育 (石灰化) をNolla, Moorrees et al., Haavikkoたちの白人の成績と比較すると, a) 切歯群においては, 白人に比べて日本人の発育年齢はかなり遅れた. b) 犬歯においては, 歯冠完成期などの発育初期の段階での形成年齢は白人が早く, 歯根2/3形成期から根尖完成期までの発育後期では日本人の発育年齢が早かった. c) 各永久前歯の発育期間を比較すると, 日本人の切歯群は, 長くかかり, 犬歯では逆に短いことがわかった. 5) 以上の調査結果をもとに, 日本人小児の永久前歯の標準発育図表を作成し, 日常臨床に応用できるようにした.
  • 三井 博晶
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g109-g110
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    ヒトを含め哺乳動物の舌乳頭の形態に関する研究は古くから行われてきたが, 最近では走査電子顕微鏡を用いて舌乳頭の微細形態が調査されている. しかし, 霊長目の舌乳頭の微細形態に関する業績はほとんどみられず, 肉眼的観察にとどまっている. 著者はニホンザルの舌乳頭の微細形態を観察し, 霊長目について系統進化的ならびに哺乳動物について比較解剖学的考察を行った. 本研究には5頭の成ニホンザル (Macaca fuscata fuscata) を用い, グルタルアルデヒド溶液の灌流固定後, 舌乳頭の微細形態を観察する試料とし, 走査電子顕微鏡下で観察を行い, 一方, 組織学的検索には連続組織切片を作製した. ニホンザルの舌乳頭には, 糸状乳頭, 茸状乳頭, 有郭乳頭, 葉状乳頭の4種類が認められ, 糸状乳頭と茸状乳頭には存在部位による形態差が認められた. 糸状乳頭 : 舌尖部の糸状乳頭は環状に集合した環状集合糸状乳頭 (circlearranged filiform papillae) で, 多数の茸状乳頭の間に存在していた. 個々の乳頭の先端は鋭く円錐形で, 5〜8個が環状に集合し, その中心に小型の糸状乳頭が1個存在していた. この形態はリスザルに類似する. 舌体部の糸状乳頭は集合することなく, 単独で存在し長円錐形を呈し, 同乳頭のなかで最大であった. 糸状乳頭には内外両側に1本づつ棘 (高さ100μm) が付着していた. 上皮角化層は乳頭の前・後両面で厚く, 棘は上皮層のみで構成され, 結合織乳頭は認められなかった. この形態は食肉目のものに類似している. 舌根部の糸状乳頭はすべての同乳頭の中で最も細く小型, 芝の葉状で5〜7個の糸状乳頭が短円筒形の1個の上皮性隆起上端にたがいに近接して存在し, 舌尖部の糸状乳頭と同様の集合糸状乳頭 (aggregated filiform papillae) であった. このような特徴ある形態は本研究で初めて明示され, ニホンザルの糸状乳頭は存在部位による形態の相違が極めて大きいことが判明した. 茸状乳頭 : 舌尖部の茸状乳頭は舌尖から舌縁にかけて多数存在し, 乳頭基底部が強くくびれた球状で, 乳頭上面の上皮層は薄く, 2または3個の味蕾を認めた. 舌体部の茸状乳頭は高く, 円筒状で乳頭上面では2次乳頭が発達し, 1または2個の味蕾を認めた. このような形態も本研究で初めて明示報告された. 有郭乳頭 : 有郭乳頭は舌正中溝の両側に1対, さらにその前外側方に1個づつ計4個が舌分界溝の前に逆V字形に存在していた. 乳頭上面には味蕾がなく, 側面と乳頭溝に対向する上皮層には多数の味蕾が認められた. 4個の有郭乳頭を有するニホンザルは生活圏を森林と草原に広げているサル類と言及できる. またヒトやニホンザルの円形の有郭乳頭は, マンドリル, シマウマ, タテガミヒツジのものと形態が類似する. 葉状乳頭 : 葉状乳頭は舌縁後方に位置し, 15〜20個の乳頭葉からなり, 各葉は柱状で, 垂直に舌下面方向に長く, 乳頭溝は深い. 乳頭葉上面には味蕾はなく, 2次乳頭は大きく, 側面は2次乳頭の発達が悪いが, 多数の味蕾が認められた. ニホンザルの葉状乳頭は舌自体の大きさからみてもよく発達していた. 霊長目の糸状乳頭は基本的には集合型であるが, 食性などの環境適応形態として2次的に変化したものであると考えられた. 本来, 神経乳頭といわれる有郭乳頭と葉状乳頭には部位的形態の相違を認めないが, 茸状乳頭は発生過程中の味蕾野の数の差によって形態が異なると考えられた.
  • 川崎 靖典
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g111-g112
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    頭頚部領域の悪性腫瘍の治療においては, 形態および機能をできるだけ保存する目的で, 外科療法よりも, むしろ放射線療法と化学療法の併用が第一選択とされる傾向にある. 放射線と併用される化学療法剤として, 近年ではcis-diamminedichloroplatinum (以下, CDDPと略す) が注目されている. これまでにも, in vitro, in vivoでの放射線とCDDP併用療法については多数の報告がなされているが, その投与方法, 投与量には一致した見解がみられない. また, それらの研究も, 主として口腔以外の細胞や腫瘍を用いたもので, ヒト口腔癌を対象としたin vivoでの実験は皆無である. そこで本研究では, ヒト口腔癌由来のKB細胞をヌードマウスに固形腫瘍として発育させたものを用い, X線とCDDPの同時併用による抗腫瘍効果について検討を行った. 実験動物にはヌードマウスを1群5匹として用いた. X線照射は, 島津信愛号改良型を用い, 無麻酔下にて行った. CDDPはランダ^<[○!R]>注を5倍希釈し, 腹腔内投与した. 抗腫瘍効果の判定は, 治療群 (T) と対照群 (C : 無治療群) の相対平均腫瘍重量によりT/C比 [T/C of relative mean tumor weights, T_<RW>/C_<RW>=(T_<Wn>/T_<Wo>)/(C_<Wn>/C_<Wo>), day nとday 0] を基に検討した. 副作用の検討は, 治療群 (T) と対照群 (C : 無担癌群) の相対平均体重によるT/C比 [T/C of relative mean body weights, T_<RBW>/C_<RBW>=(T_<BWn>/T_<BWo>)/(C_<BWn>C_<BWo>)] に基づいた. なお, 測定された体重 (MW) から推定腫瘍重量 (W) を差し引いたものをヌードマウス自身の体重 (BW=MW-W) とした. 同時併用に先だって, X線単独投与群, CDDP単独投与群について, その抗腫瘍効果, 副作用を検討し, 同時併用群の投与量をX線2Gy, 4Gy, 6Gy, CDDP 1mg/kg, 2mg/kgのそれぞれの組み合わせとした. なお, CDDPの投与は照射30分〜1時間後に行った. 同時併用効果の検討は, 同時併用群の観察終了時のT_<RW>/C_<RW>値と, 各単独投与群の観察終了時のT_<RW>/C_<RW>値の積とを比較して行った, また, 単独投与群の観察終了時のT_<RW>/C_<RW>値を用いて, X線とCDDPの等効果値を算定した. さらに, この等効果値を用いてCDDP単独投与群および同時併用群の投与量をX線線量に換算し, それぞれの観察終了時のT_<RW>/C_<RW>値を比較し, 等効果値の検定を行った. 結果ならびに結論は以下の通りである. 1) X線とCDDPの同時併用効果は, ほぼ相加効果であった. 2) CDDP5日間連日投与における1mg/kgは, X線2Gy, 5日間連日投与における4.56Gyと抗腫瘍効果において等効果値をもつと考えられた. 3) 同時併用群における体重減少は, 単独投与群より大きいものの, その程度は小さく, また回復傾向も十分みられた. 以上より, X線とCDDPの同時併用療法は抗腫瘍効果が高く, 副作用の比較的少ない治療法という結論を得た.
  • 武田 恵世
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g113-g114
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    近年, 食細胞の貧食および殺菌能が歯周疾患をはじめとする口腔感染症の成立に密接に関係を有すると考えられ, 食細胞の貧食, 殺菌に関する報告が多くなされてきている. しかし, こうした食細胞の貧食能に関する実験の多くは, ラテックスなどの人工粒子やC. albicans, およびS. aureusのような特定の微生物のみを用いてなされており, 口腔常在菌についての報告はほとんどない. また食細胞の貧食能や殺菌能が各種の口腔常在菌の菌種によって差があるか, また接触時間によって好中球の負食がどのように変化するかについての報告もほとんどない. そこで本実験では, ヒト好中球の貧食能におよぼす新鮮自家血清および非働化ウシ胎仔血清 (FCS) の影響を検討するとともに, S. mutans ATCC 25175, S. mitis ATCC 33399, S. sarivalius ATCC 13419, S. anguis ATCC 10556, S. faecalis ATCC 19433, S. faecium ATCC 19434, S. pyogenes ATCC 16308, S. aureus ATCC 25923, A. viscosus ATCC 19246, H. actinomycetemcomitans Y-4, およびC. ochracea ATCC 33596の口腔常在菌をはじめとした11種の細菌に対する貧食能および殺菌能の違いを健康な12人の好中球を用いて検討し, 以下の結果を得た. 1) 12人から得た好中球の貧食能におよぼす新鮮自家血清および非働化FCSの影響をS. aureusを用いて検討したところ, Hanks' balanced salt solution (HBSS) に自家血清を添加した場合, 平均的な貧食細菌数は多かったが, 個体間での貧食細菌数にばらつきが多かった. HBSSに非働化FCSを添加した場合は, 貧食細菌数は自家血清を添加した場合ほど多くはなかったが, 個体差は少なかった. 2) 好中球が最も多く貧食した細菌はS. aureusで, ついでS. pyogenesであった. これらの細菌に比較して, S. salivarius, S. mitis, S. sanguis, S. mutans, A. viscosus, S. faecalis, およびS. faeciumは有意 (P<0.05) に少なかった. また, 若年性歯周炎の関連細菌として注目されているH. actinomycetemcomitansとC. ochraceaを好中球はほとんど貧食しなかった. 3) 好中球と細菌を混合後120分以内で好中球による殺菌が認められたのは, S. aureus, S. pyogenes, S. sanguisの場合のみであった. これらのなかでS. aureusに対する殺菌能は他の細菌に比べ有意 (p<0.05) に高かった. 4) 時間経過にともなう貧食細菌数の変化を検討したところ, どの細菌においても時間の経過とともに増加する傾向が認められた. S. mutansにおいては, 時間の経過にともなって細菌を貧食した好中球1個あたりの貧食細菌数も, 貧食に参加する好中球数もともに増加した. S. mutans以外の細菌では, 細菌を貧食した好中球1個あたりの貧食細菌数は実験開始15分以後はほとんど増加しなかったが, 細菌を貧食した好中球の数は増加した. 以上のことから, ヒト好中球は細菌の種類によって貧食や殺菌のしかたが異なっており, これが感染症成立時に大きな影響を及ぼすことが考えられる.
  • 山内 一成
    原稿種別: 本文
    1990 年 53 巻 3 号 p. g115-g116
    発行日: 1990/06/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    ベース用セメントとしてのグラスアイオノマーセメントの有用性は, 臨床的にも既に論を待たない. しかし, エックス線造影性の不足や間接引張強度の不安が指摘されている. 今日, 銀融着グラスアイオノマーセメントが市販されており, グラスアイオノマーセメントにアマルガム用アロイを混入する方法を臨床的に応用しているという報告もある. 今回私はこれら銀含有グラスアイオノマーセメントがベース材としてどのような性状を具備しているかという点について, ベース材の所要性質のうち, 象牙質代替層としての強度, とくに比例限界強度とその範囲内で成立するヤング率, 粘り強さの指標としての間接引張強度をCompressive Propertiesとして求めた. さらに象牙質との接着強度を検討すると同時にジスク径についても検討した. また, エックス線造影性についての検討も併せて行った. 実験材料は, アロイ混入セメントとして松風社製Glas Ionomer FにSpherical Dアロイをセメント粉末重量の5, 10, 20, 30, 40, 60, 80, 100重量%追加混入したセメントについて行った. 銀融着セメントとしてChelon Silver (ESPE), 対照は同社のKetac Bondである. 粉液比は業者指定を含め, さらに粉量を3〜4段階増加させて行った. 実験方法は, Compressive Propertiesの測定において, ADAS No. 9に準拠して圧縮強度を測定し, LVDTを用いて応力-歪み曲線を求め算出した. CHSは0.5mm/minとした. 接着試験の被着歯は抜去後3〜6か月間4℃生理食塩水中に保存したヒト臼歯とし, #600耐水ペーパーで面出しした咬合面部象牙質を被着体とした. 被着面は直径4mmで, 荷重200gで接着しCHS 0.5mm/minで引張試験を行った. 測定は何れの実験もセメント練和後30分と24時間に行った. ジスク径の測定はADAS No. 9に準拠して行った. エックス線造影性に関する結果は, 今後詳細な実験を待たねばならないが, ヒト臼歯の象牙質, エナメル質とアロイ混入セメントのデンシティーの差を同一厚さの試料において検討し, 臨床的に応用した咬翼法エックス線写真より判断を試みた. 上記の材料, 方法によって銀含有グラスアイオノマーセメントのベース材としての諸性質を検討した結果, 以下の結論を得た. 1) アロイ混入によるCompressive Propertiesへの影響は, 圧縮強度については認められなかったが, ヤング率において, 30重量%以上のアロイ混入セメントで, 高高粉液比の場合にその効果が認められた. 間接引張強度は60%アロイ混入セメントにおいて効果が認められたが, 他の%では一定の傾向はなかった. 2) 全試料について, 30分後と24時間後のCompressive Propertiesには大きな差が認められた. 3) アロイ混入セメントのヒト象牙質への接着強度は, Glas Ionomer Fのみの場合とほぼ同一で, 30分後と24時間後との間にも差は認められなかった. 4) アロイ混入セメントのエックス線造影性は, 20重量%の混入があれば, 臨床的に必要かつ十分であると思われる. 5) ジスク径はアロイが混入されると増加し始めるが, 30重量%以上混入されると逆に減少傾向を示した.
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