歯科医学
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55 巻, 6 号
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  • 高石 佳知, 宮崎 健
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 493-506
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    近年, 生活の多様化と食生活の変化によって増加しつつあると考えられるものに, 歯列不正, 咬合不正, 顎関節不全などの問題がある. そこで, 日本人小児における乳歯列の配列, とくに歯間空隙の実態を知る目的で, 縦断的に観察のできた幼稚園児520名について, 1987年から3年間にわたり, 毎年1回定期的に診査し, 霊長空隙 (PS), 発育空隙 (DS) および上顎乳犬歯と上顎第一乳臼歯間に存在する歯間空隙 (CD) の発現率ならびに空隙量についてそれぞれ計測し, 次のような結果を得た.
    1) 有隙型歯列の発現率は, 加齢的に減少した.
    2) PSの発現率は, 上顎が下顎より発現率が高く, 加齢的に減少した.
    3) CDの発現率は, 男女ともに4歳から5歳で増加し, 5歳から6歳で減少する傾向を示した.
    4) DSの発現率は, PS (+) 歯列のほうが, PS(-) 歯列より高かった.
    5) PS, CDおよびDSの経年的変化は, いずれも無変化型が最も高い発現率を示した.
    以上の結果から, 日本人小児の正常な永久歯列の構成に必要な乳歯列における各歯間空隙の発現率ならびに空隙量の消長を明らかにすることができた.
    また, 過去の数値と比較して, 各歯間空隙の発現率ならびに空隙量の減少傾向の顕著なことが明らかになった. これらのことから, 乳歯列における早期の予防矯正的な対策の必要性が認められる.
  • 崗本 建澤, 河原 茂
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 507-524
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    Jarabak分析法の特徴は, 分析項目を骨格系と歯牙系に大別し, 骨格系において成長方向を詳しく解析している点である. この分析法では, 頭蓋顎顔面に関する計測項目を数多く設けているため, 頭蓋顎顔面全体の成長に伴う形態変化を把握できるという長所を有している.
    そのため, 小児歯科臨床において頭部エックス線規格写真を用いて小児の顎顔面系の成長変化を追跡する分析法としては最適のものと考えられる. そこで, このJarabak分析法における各計測項目の経年的なデータを求めると同時に, この分析の骨格系の計測項目を経年的に分析することにより, 小児から成人へと成長する際の頭蓋顎顔面の変化について調査した. その結果,
    1) 10歳から15歳までの日本人のJarabak分析各計測項目における平均値および年間成長量を求めることができた.
    2) 本研究により得られた日本人の資料による顔面の成長パターンは, 前下方への成長を示すJarabakのいうstraight downward typeではなく, わずかではあるがcounterclockwise growth typeの成長パターンを示す傾向があることがわかった.
    これらのデータは, 小児歯科臨床において頭蓋顎顔面の成長を考慮した咬合誘導を行う際に, 重要な参考資料になると考える.
  • 藤井 由希
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 525-539
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    被検者に各種濃度のショ糖溶液 (1.0%, 2.0%, 4.0%, 8.0%, 16.0%, 32.0%および48.0%) の甘さの強弱と好き嫌いとを判断させ, 甘すぎて嫌いであると判定した最低ショ糖濃度をもって甘味嗜好度とする甘味嗜好度測定方法を開発した. なお, 甘味嗜好度測定条件を検討し, 溶液の温度は室温とし, 測定時間は喫煙直後を避けて昼食前とした.
    甘味嗜好度の測定方法は, 甘味の認知閾および最も好ましい甘さを選択させる測定方法に比較して, 各被検者の特性を明確に表わしており, また再現性にすぐれていた.
    甘味嗜好度には性差は認められず, 年齢による甘味嗜好度の表われ方に特徴が認められた. また, 甘味嗜好度は, 食習慣調査のなかで, 甘いものの好き嫌い, 甘いものの摂取頻度および甘い味付けの嗜好との関連が強く認められた. さらに, 甘味嗜好度の高い群の永久歯う蝕経験歯が多くなる傾向を認めた.
    以上のことから, 著者が考案した甘味嗜好度測定方法は, 幅広い年齢層にも応用可能であり, しかもこれまでとかくその相関性の有無を明確にできなかった甘味嗜好とう蝕発生との関連性などを検討するうえにおいて, 甘味嗜好の評価法としての信頼度が高いことを明らかにした.
  • 紅露 政利, 親里 嘉健
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 540-548
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    主として唾液由来のグリコプロテインからなるペリクルは, エナメル質に直接付着している無細胞, 無構造の細菌の存在しない有機質被膜である. 本研究では, グリコプロテイン (α1-acid-glycoprotein) の標品を用い, リン脂質のうちホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルセリンによるグリコプロテイン層の物理化学特性, とくに疎水性および表面電位を検討し, またdiffusion chamberを用いて, リン脂質がグリコプロテイン層の水素イオン透過性に与える影響を検討した.
    グリコプロテイン層の疎水性と水素イオンの透過性について, ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルセリンそれぞれの脂質において, その含有量が多くなると, 疎水性が高くなり, 水素イオンの透過係数は低下したが, ホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルセリンの異なる脂質において, グリコプロテイン層の疎水性が高いことと, 水素イオンの透過係数が低いこととは一致しなかった.
    グリコプロテイン層における表面電位の高低と水素イオンの透過係数の高低は一致した. グリコプロテイン層の表面電位は, グリコプロテイン層の疎水性よりも水素イオンの透過阻止に大いに関連のあることを示唆している.
    以上の結果から, ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルセリンはグリコプロテイン層の物理化学特性を変え, グリコプロテイン層の水素イオンの透過性に影響を及ぼすことが明らかになった.
  • 華山 拓明, 金林 卓哉
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 549-570
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    床下組織の義歯装着に対する適応様式を理解する目的で, アルカリ・水浸軟・走査電顕法をラット口蓋粘膜に応用し, 生後3週齢から90週齢までの加齢に伴う固有層表面の膠原線維構築の変化を観察した.
    低倍率の観察では, 口蓋前方および後方の横口蓋ヒダ部の結合組織乳頭は, 10週齢までは加齢とともに大型化し, 形態も複雑化したが, 32週齢以降では単純化する傾向が認められた. また, 平坦部には加齢に伴う変化はほとんど認められなかった.
    高倍率の観察では, すべての週齢において線維網表面から上皮方向へ突出した微細な隆起構造 (microridge ; 以下MRと略す) が無数に認められた. これらのMRには, 線維網が上皮方向に突出したヒダ状のものと, それよりもさらに小型で一部の線維が集束・隆起した線維束状のものとが認められ, これらは相互に移行していた. MRは, すべての週齢において口蓋前方の横口蓋ヒダ部で最も多く, それらの形態も複雑であった. 一方, 口蓋後方の平坦部のMRは, 他の部位と比較して数が少なく, 形態も単純であった. また, MRは10週齢までは, 加齢とともにいずれの部位においても増加し, 形態的には上皮方向への伸展と複雑化が認められた. しかし, 32週齢ではMRの形態の複雑化は認められるものの, 上皮方向への伸展は認められず, 90週齢では, いずれの部位においてもMRは減少し, 小型化していた. また, 固有層表面の膠原線維網は, いずれの部位においても, 32週齢までは加齢とともにより緊密性を増し, 個々の線維あるいは線維束の捻れや蛇行も加齢とともに強まった. しかし, 90週齢では, これらは, いずれも低下した.
    以上の結果から, ラットにおける口蓋粘膜の膠原線維構築には部位による差異が存在し, また, 加齢により変化することが明らかとなった.
  • 荻野 茂
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. 571-584
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    歯根膜の血流を非観血的かつ連続的に測定することを目的に, 歯根膜の血流測定にレーザードップラー血流計測法 (以降LDV法と略す.) を応用した. 同時に, 水素クリアランス血流測定法を用いて, 同部位の歯根膜血流を測定し, LDV法による出力値が測定部位の血流を反映していることを確かめた.
    実験には成ネコ9匹を用い, 上顎犬歯に窩壁が一層残るまで窩洞を形成し, 歯質を通してレーザー光を歯根膜に照射し, LDV法による血流計測を行った. 同時に水素クリアランス血流計の電極 (φ80μm) を歯根膜内に刺入し, 血流計測を行った. 次に0.001%アドレナリンを粘膜下に注入し, 歯根膜の血流変動を記録した.
    その結果を以下に示す.
    1) LDV法によって, 心拍に同期した振動が記録され, 同時に長い周期をもつ律動的な変動が観察された.
    2) 水素クリアランス法によって求めた歯根膜血流の絶対量は, initial slope法で50.2±1.7 ml/min/100 g, two compartmental analysis法で46.2±2.3 ml/min/100 g (mean±S. E.) であった.
    3) アドレナリンの局所投与により, 血流量の減少が, 水素クリアランス法と, LDV法でともに観察された.
    4) 水素クリアランス法とLDV法における歯根膜血流量の変動率は高い相関を示し, LDV法による値が血流の変動を良く反映していることがわかった.
    以上のことから, LDV法は水素クリアランス法のように血流の絶対量を計測することはできないが, 歯根膜の血流の変動を連続的に捉え得ることがわかった. それゆえ, LDV法は歯根膜に加えられた矯正力, 薬物などの各種刺激がもたらす歯根膜血液循環の変動を知る有効な手段となることが示唆された.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 堀 晋作
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. g31-g32
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    扁平上皮癌 (SCC) は, 口腔悪性腫瘍の約80%を占めており, そのうち, ほぼ40%が舌に発生している. 口腔癌発見率の向上によりその治療成績はいちだんとあがっているが, 必ずしも十分な早期発見が行われているとは言い難い状況にある. こうした点を考慮して, 舌癌マーカーを開発するために電気細胞融合 (E) 法を導入するモノクローナル抗体 (MoAb) の作製を検討した. 実験材料および方法 ヒト舌癌由来のTca8113培養細胞およびヒト舌癌組織ホモジネート (パラフィン切片を免疫染色できるようなMoAbを開発するために, ホルマリン固定のパラフィン包埋ブロックより調製したもの) を抗原として使用し, ポリエチレングリコール (PEG) 法およびE法によりMoAbの作製を行った. 感作脾細胞とミエローマ細胞P3U1を混合し等量に分けたのち, それぞれを融合に使用した. E法では, 1MHz, 300V/cmのパールチェーン形成および2kV/cm, 30μsによる2回のパルスを用いた. スクリーニングおよびクローニング時のハイブリドーマ分析は, ELISAあるいは間接免疫ペルオキシダーゼ法により行った. MoAbの免疫組織化学的特性は, ヒトとサルの組織を使用して標識ストレプトアビジン-ビオチン法により検索した. また, 対応抗原の性状は, 組織切片上の固定剤, 熱, 加水分解酵素, 過ヨウ素酸, 界面活性剤などの処理やSDS-PAGEとWestern blottingにより検討した. すべての分析コントロールとして, サイトケラチンに対する市販のMoAbs (KL1, PKK1およびPKK2) を使用した. 結果 1. PEG法とE法における細胞融合の成績では, それぞれハイブリドーマ形成率が94%と100%, wellあたりの平均コロニー数が1.2個と10.5個, 融合率が1.8×10^<-5>と20.2×10^<-5>, ELISAによる抗Tca8113細胞MoAbと抗原との反応率が25%と29%および抗舌癌組織MoAbと抗原との反応が6%と10 %であった. したがって, E法による細胞融合はPEG法と比較してすべての面で優れていた. 2. PEG法により作製し, 今回使用したP53およびP54ならびにE法により作製したE8抗体のクラスは, いずれもIgMで, L鎖はk鎖であった. 3. E8による免疫染色が過ヨウ素酸酸化により阻止されたことから, E8認識の抗原決定基は糖鎖であることが明らかとなった. P53およびP54の対応抗原は, 過ヨウ素酸やペプシンあるいはトリプシン処理に抵抗性があり, むしろ顕著なunmasking効果を示した. 4. 正常舌上皮では, P53はほぼ全上皮層の細胞質を, P54は舌の下部上皮層の細胞膜を, そしてE8は角質層を除く上部上皮層の細胞膜をそれぞれ認識していた. いずれの抗体も原発あるいは転移の高分化型SCCと強く反応した. 5. P53は, 分子量が40〜68kDaの範囲の多重バンドを認識し, そのいくつかは抗サイトケラチン抗体の認識するバンドと一致した. このことからP53対応抗原が, サイトケラチンであることが推察された. 結論 SCCに対するMoAbの作製にE法が有用であり, また, ホルマリン固定のパラフィンブロックを抗原に使用することによりパラフィン切片の免疫染色を可能にするMoAbが作製できることが明らかとなった. さらに, 今回, 分離した3種のMoAbsは, いずれも舌上皮やSCCの異なった細胞層の細胞をそれぞれ認識しており, これらの対応抗原は, 上皮細胞の成熟や分化あるいは腫瘍分類のマーカーとして有益な情報を提供できるものと考える.
  • 松下 順一
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. g33-g34
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    ライオン (Panthera leo) を含め大型ネコ科動物の形態学に関する報告は極めて少なく, その動脈系については, Tandler (1899) のトラとヒョウ, ライオンではLin and Takemura (1990) の顔面動脈の報告がみられるにすぎない. Takemura et al. (1991) はライオン咬筋の層構造について調査し, ライオンの巨大化した咬筋は家ネコ以上に複雑な層構造を呈していることを報告した. 本論文はTakemura et al. の咬筋の層構造の観察結果に従い, 各層の動脈分布を詳細に観察し, その所見を家ネコのものと比較解剖学的考察を試みた. 材料と方法 ライオン3頭の頭部を用い, アクリル樹脂脈管注入法 (1952, 1955) により総頚動脈からアクリル樹脂を注入した. 5側は頚動脈系の鋳型標本を, 1側は10% formalinに浸漬固定して部検標本を作製した. これら6側について観察と計測を行った. また, ライオンのさらし頭蓋骨1個を用いた. 観察結果 咬筋枝の動脈源として, 1) 顔面動脈, 2) 浅側頭動脈, 3) 頬動脈, 4) 咬筋動脈, 5) 後耳介動脈, 6) 顎動脈, 7) 外頚動脈が認められた. 1)〜5) は全観察6側で, また, 6) と7) はおのおの1側について認められた. 顔面動脈の起始付近で派出する咬筋枝は太く, 下顎骨内側に回り込んだ表層第一層のpart Iの後内側縁から筋中に入り, 下顎骨下縁を越えてその外側に達し, 第一層のpart II, III, 同層第二層の表面を貫いて中間層に達していた. 顔面部で派出する頬枝は上記の咬筋枝より細く, 派出して浅枝と深枝に分かれていた. 前者は第一層のpart Iならびに咬筋筋膜に分布し, 後者はpart Iの前縁から深層前部と同後部第二層に分布していた. 浅側頭動脈は前方へ3本の咬筋枝と顔面横動脈を派出し, さらに遠位で後方あるいは下方へ4〜6本の頬骨下顎筋枝を派出していた. 前者のうち最も近位で派出する咬筋枝は細く, 浅層第一層のpart Iの下部に, 次に派出する咬筋枝は浅層第一層のpart Iを貫いて咬筋窩下方に達し, 深層前部, 同後部第一層と第二層に分布していた. 3番目に派出する咬筋枝は浅層第一層のpart I, II, IIIと中間層に分布し, また, 顔面動脈や頬動脈の咬筋枝と吻合していた. 顔面横動脈は浅層第一層のpart I, 咬筋筋膜ならびに耳下腺管に枝を与えていた. 頬動脈は頬骨下顎筋枝, 次いで上顎下顎筋枝を派出したのち分岐して中間層, 浅層第二層, さらに同層第一層のpart I, II, III, ならびに上顎下顎筋, 深層前部および同層後部第二層に分布していた. 咬筋動脈は下顎切痕を越えるとき上方への枝と前下方への枝に2分し, 前者は上顎下顎筋と頬骨下顎筋に分布し, 後者は咬筋神経とともに下顎切痕を越えて浅層第二層, 中間層, 深層前部と後部第二層に分布していた. 後耳介動脈は頬骨下顎筋後部の起始部に分布する2〜3本の頬骨下顎筋枝を派出していた. 顎動脈からの咬筋枝は浅層第一層のpart I, II, IIIと同層第二層に分布していた. 外頚動脈からの咬筋枝は前方へ派出し, 浅層第一層のpart Iの後縁に分布していた. 結論と考察 ライオン咬筋各層の動脈分布をネコのものと比較すると, 顔面動脈, 頬動脈, 咬筋動脈, 後耳介動脈それぞれの分布域についての相違は認められなかった. しかし, 浅側頭動脈の分布域はネコでは浅層の第一・第二層と頬骨下顎筋に限られていたが, ライオンではさらに中間層, 深層前部と同後部第一・第二層にまで分布域が広がっていた.
  • 中村 雅彦
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. g35-g36
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    口腔領域諸器官の微細形態は食性・咀嚼様式・摂食方法によって多様性がみられ, とくに舌乳頭については著しい動物種差を認める. 著者らはニホンザル舌乳頭の微細血管鋳型を作製し, 走査電顕で立体的に微細血管構築を観察し, 舌乳頭の形態との相関について考察を試みた. 本研究は8頭の成ニホンザルを用い, 5頭については微細血管構築を観察するために, 脱血殺後, 両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入した. 10%NaOHで軟組織を除去, 乾燥後, 金蒸着を行い, 走査電顕で観察を行った. 残り3頭は2.5%グルタール・アルデヒド溶液で灌流固定後, 細切し, 1%オスミウム酸溶液で後固定を行った. うち2頭は2N臭化ナトリウムによって舌背上皮を剥離し, t-ブチル・アルコールにより凍結乾燥後, 走査電顕で観察した. 残り1頭は超薄切片を作製し, 透過電顕で観察を行った. 舌深動脈から舌背に向かって派出された細動脈は固有舌筋に枝を派出しながら上行し, 舌腱膜を貫いて舌背粘膜固有層で, 細静脈とともに同一平面上に細動脈および細静脈網を形成していた. 動静脈吻合は舌尖部において少数認められたが, 舌体部と舌根部では認められなかった. この細動脈網から各乳頭に向かって毛細血管が派出され, 乳頭内に毛細血管ループまたは網を形成していた. 舌背での部位差の大きい糸状乳頭 (三井, 1990) は, 舌尖部では環状集合糸状乳頭となっていて, 毛細血管は乳頭基底部で5〜8本に分岐し, 各糸状乳頭内に1個の毛細血管ループが分布していた. その毛細血管の先端は口径が太く, 不規則であった. 舌体部糸状乳頭は単独の長円錐形で, 毛細血管は乳頭内を上行して乳頭内毛細血管網を形成して, その先端に背の高い毛細血管ループを認めた. 舌根部は集合糸状乳頭となっていて舌背の上皮隆起内に毛細血管網が形成され, その上面に集合している糸状乳頭に毛細血管ループが分布していた. 茸状乳頭は舌尖部では球状で, 乳頭内中央を上行する毛細血管は周囲へ放射状に分岐し, 上面と側面にループを形成し, 1例に配列していた. 舌体部茸状乳頭は円筒状で, 毛細血管は乳頭内を上行して乳頭内毛細血管網を形成し, 上面に背の高いループを認めた. 有郭乳頭では2または3本の動脈性毛細血管が乳頭内を上行し, 分岐を繰り返して球状の乳頭内毛細血管網を形成していた. 乳頭上面には規則正しい毛細血管ループを認めた. 葉状乳頭では細動・静脈は柱状の乳頭葉長軸に沿って走行し, 乳頭内に毛細血管を派出していた. 毛細血管ループは乳頭葉上面に4または5列前頭面に規則正しく配列していた. ニホンザル各舌乳頭の微細血管構築は, 微細形態と同様にそれぞれ特徴ある形態を呈していることが明らかになった. 神経乳頭に分布する乳頭内毛細血管網の基本的血管構築は, 側面の二次乳頭の発達していない部位では毛細血管網を形成しているので, 味蕾の存在と毛細血管網の網目とは相関性は認められなかった.
  • 山賀 まり子
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. g37-g38
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    タンニン・フッ化物合剤 (以下HY剤と略す) の組成は, フッ化亜鉛50%, フッ化ストロンチウム25%, タンニン酸20%, pH調節剤 (酸化亜鉛) 5%で, これらが歯質の成分と結合して, 歯質の無機質ばかりでなく有機質をも強化するために開発されたものである. 抗菌性, プラーク抑制および抗酵素性を有し, 無機質の耐溶解性, 石灰化, 象牙細管封鎖, 軟化牙質の再石灰化およびセメントの接着性などを向上させる基礎的効果があるために, 種々の歯科材料に配合されて使用され, う蝕予防, う蝕の進行抑制, 二次う蝕抑制, 根管治療, 歯髄保護および知覚鈍麻などの臨床的効果が認められている. 本研究は, HY剤を各種割合で配合したグラスアイオノマーセメント (以下GIセメントと略す) について. どの配合割合が歯質を強化するのに効果的であるかを知るために, その基礎的研究として, 上述の効果を発揮するF, ZnおよびSrのGIセメント硬化体からの溶出量を測定するとともに, 同GIセメントをウシ象牙質に作用させた場合の各元素の取り込み状況と経時的な変化をWeatherellらのabrasive micro-sampling法を用いて調べた. HY剤を0, 1.5, 5.0および10.0wt%配合したGIセメント (以下HY0, HY1.5, HY5およびHY10と略す) からのF, ZnおよびSrの蒸留水への溶出傾向およびそれらと接するウシ象牙質への層別の取り込み量を調べた結果, 次の特徴が明らかになった. 1. Fは溶出が多量で継続的であった. 一方, ZnおよびSrは初期のboostが顕著であった. 2. HY剤の配合割合が高くなるにつれて, 各元素の溶出量は増加したが, HY10ではとくに多くなっていた. 3. ウシ象牙質への取り込み量は, FとZnが多く, Fでは浸透も深かった. Srは最少でごく表層にのみ確認された. また, 3元素とも配合割合が高いほど初期に取り込まれる量が多かった. 4. Fの取り込み量は配合割合が高いものほど多く, 経時的に増加した. この傾向はFの蒸留水中への溶出傾向とおおむね一致していた. 5. ZnはHY1.5では経時的取り込み量は増加し, 浸透も深くなった. HY5および10では表層部に初期に多量に取り込まれていたのが経時的に減少した. しかし, 浸透は経時的に深くなった. 6. SrはHY1.5および5では経時的にごく表層部で取り込まれ増加した. HY10ではあまり取り込まれなかった. したがって, Fは最も溶出しやすく象牙質に取り込まれやすく, Srは最も溶出しにくく取り込まれにくいことがわかった. また, FおよびZnの取り込みは, HY剤の配合割合が高いほど優れ, Srの取り込みはHY5が優れていた.
  • 西村 健
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 6 号 p. g39-g40
    発行日: 1992/12/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    霊長目の歯に分布する動脈については詳細な報告がみられない. 著者らはアクリル樹脂脈管注入法によって成カニクイザル15頭について上顎の歯に分布する上歯枝のうち, 歯根尖孔または関連の小孔から歯髄に入り分布する歯髄枝を主眼におき, その起始源となる多数の動脈について観察し, さらに各歯の歯根数と根それぞれに分布する上顎枝との関係を調査した. カニクイザルはヒトと同じ歯式であるが, 上顎小臼歯は頬側近心根, 頬側遠心根, 口蓋根の3根であった. 上歯枝は, 後上歯槽動脈, 眼窩下動脈, 下行口蓋動脈, 大口蓋動脈, 蝶口蓋動脈それぞれから分岐していた. カニクイザルの顎動脈は翼口蓋窩で蝶口蓋動脈と下行口蓋動脈の共通幹を派出したのち, 細い眼窩下動脈と, 顎動脈と同じ太さの後上歯槽動脈に分岐していた. 後上歯槽動脈は上顎洞下外側壁内の歯槽管を前走し, 途中2〜5本の大臼歯枝と1〜4本の小臼枝を派出したのち, 上顎洞の前下外側, 犬歯歯根尖の下後外側方で犬歯枝となっていた. 大臼歯枝は大臼歯歯根と, ときには第一小臼歯にも分布していた. 小臼歯枝は小臼歯歯根と, ときには第一大臼歯にも分布していた. 犬歯枝は後上歯槽動脈の終枝で, 犬歯歯根尖で数本に分岐して犬歯に分布したのち, 同歯槽壁に分布していた. また眼窩下動脈は数本の犬歯枝を派出し, 後上歯槽動脈の犬歯枝とともに犬歯に分布する例を多く認めた. 下行口蓋動脈の大臼歯枝は大臼歯口蓋根に分布していた. 蝶口蓋動脈の上歯枝は大臼歯口蓋根と, ときに第二小臼歯口蓋根にも達していた. 大口蓋動脈の小臼歯枝は小臼歯口蓋根と第一大臼歯口蓋根に分布し, さらに本動脈の末梢が切歯枝として切歯孔外側の小孔から骨内に入り, 切歯歯根尖孔にむかい中切歯と側切歯に分布する形態であった. 各歯別にみると, 中切歯と側切歯には大口蓋動脈が分布し, 犬歯には後上歯槽動脈単独, または後上歯槽動脈と眼窩下動脈の両者が同時に分布し, まれに眼窩下動脈が単独で分布していた. 小臼歯の3根にはおもに後上歯槽動脈が分布するが, P_1の口蓋根やまれに遠心頬側根には大口蓋動脈が, P_2の口蓋根にはまれに大口蓋動脈または蝶口蓋動脈がそれぞれ分布していた. 大臼歯の頬側2根には後上歯槽動脈のみが分布していた. 大臼歯口蓋根にも後上歯槽動脈が分布していたが, M_1の口蓋根にはまれに下行口蓋動脈, 大口蓋動脈, または蝶口蓋動脈が, M_2の口蓋根には下行口蓋動脈や, 蝶口蓋動脈まれに眼窩下動脈が, M_3の口蓋根には下行口蓋動脈または蝶口蓋動脈まれに眼窩下動脈が後上歯槽動脈に代わって分布していた. カニクイザルの上歯枝の主源は後上歯槽動脈と大口蓋動脈で, 前上歯槽動脈は認められなかった. 犬歯, 小臼歯と大臼歯には後上歯槽動脈が分布していたが, まれに下行口蓋動脈, 蝶口蓋動脈または眼窩下動脈が分布していた. 本種における特徴は, ヒ卜の前上歯槽動脈に代わって中切歯と側切歯には大口蓋動脈が分布していたことであった.
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