歯科医学
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55 巻, 5 号
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  • 山賀 まり子, 小出 武
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. 403-418
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    タンニン・フッ化物合剤 (以下HY剤と略す) を0, 1.5, 5.0および10.0wt%配合したグラスアイオノマーセメント (以下HY0, HY1.5, HY5およびHY10と略す) からのF, ZnおよびSrの蒸留水への溶出傾向とウシ象牙質への層別の取り込み量を調べ, 以下のような結果を得た.
    1. Fの溶出は, 多量で継続的であった. 一方, ZnおよびSrは初期のboostが顕著であった.
    2. 3元素の各溶出量は, いずれもHY剤の配合割合が高くなるにつれて増加し, HY10ではとくに多かった.
    3. ウシ象牙質への取り込みでは, FとZnの量が多く, Fでは浸透も深かった. Srの量は, 最少でごく表層にのみ確認された. また, 3元素とも配合割合が高いほど初期に取り込まれる量が多かった.
    4. Fの取り込み量は, 配合割合が高いものほど多く, 経時的に増加した. これはFの蒸留水中への溶出傾向とおおむね一致していた.
    5. HY1.5でZnの取り込み量は経時的に増加し, 浸透も深くなった. HY5およびHY10では, 表層部に初期に多量に取り込まれるが, 経時的に減少した. しかし, 浸透は経時的に深くなった.
    6. Srは, HY1.5およびHY5ではごく表層部で取り込まれ, 経時的に増加した. HY10ではあまり取り込まれなかった.
    したがって, Fは最も溶出しやすく, 象牙質に取り込まれやすいことが, Srは最も溶出しにくく, 象牙質に取り込まれにくいことがそれぞれわかった. また, FおよびZnの象牙質への取り込みは, HY剤の配合割合が高いほど優れ, Srの取り込みではHY5が優れていることがわかった.
  • 高原 俊之, 河原 茂
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. 419-434
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    成長発育を考慮した診断, 治療を行うという立場にある小児歯科臨床において, 側貌軟組織の外形線における経年的な平均値のデータは非常に重要であり, 同時に, その理想値は治療目標の確立に必要欠くべからざるものである. そこで, わたしたちは, 側貌軟組織外形線の分析にPowell分析法を採用し, 小児歯科の臨床の場で機動的に使用できるように日本人小児の側貌軟組織外形線の平均値ならびに理想値を求める目的で下記の研究を行った.
    6歳から17歳までの日本人の1,518枚の側貌顔面写真について, Powell分析に基づく各計測項目を測定した. また, 16歳および17歳の側貌顔面写真276枚について, 審美的に優れた外形線を抽出し, このデータから側貌の理想値を求めた. そして, 以下のような結果を得た.
    1) 日本人のPowell分析における各計測項目における6歳から17歳までの年齢別の平均値のデータを求めることができた.
    2) Aesthetic triangleに関する4つの計測項目とNasolabial angleならびにSubnasale-StomionとStomion-Mentonの比は, 年齢による変化が認められなかった. Base to dorsum ratioと上顔面, 下顔面比を表わすNasion-SubnasaleとSubnasale-Mentonには, 経年的な変化が認められた.
    3) 審美的に優れたと評価された顔貌を抽出し, 理想値を設定した.
    これらのデータは, 咬合誘導ならびに矯正治療を行う際に, 日本人の側貌軟組織の治療目標の設定において重要な参考資料になると考える.
  • 田村 功
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. 435-450
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    癌組織の増殖過程における細胞外マトリックスの役割を明らかにする目的で, ヒト歯肉癌ヌードマウス移植系 (GK-1) に含まれるコラーゲンとテネイシンの質的, 量的変動および局在を生化学的, 免疫組織化学的に検索した.
    移植癌の容積は経週的に増加し, その増加は総コラーゲン量の増加と相関していた. 癌組織に含まれるコラーゲンは, 組織免疫反応とSDS-PAGEにより, I型, III型, IV型およびV型の4分子種から構成されていることが判明した. これらの分子種の構成比率は, I型コラーゲンでは経週的変化を示さなかったが, IV型およびV型コラーゲンでは移植後5週目よりゆるやかな上昇, III型コラーゲンでは5週目まで上昇, それ以後は低下した. また, IV型コラーゲンは, 胞巣周囲の基底膜および血管壁に局在し, とくに基底膜では不連続的な染色性を示した. テネイシンは, 間質および基底膜の一部に局在し, 移植後5週目から減少傾向を示した. また, その分子はS-S結合還元下で220 kDaと130 kDaのサブユニットに分かれ, 臨床的健全歯肉組織に含まれる分子とは異なっていた.
    以上の結果から, コラーゲンは, 癌細胞の増殖に対して足場を提供するかたわら宿主に対しては防御的に機能し, テネイシンは癌細胞の刺激によって付加的に間質に発現し, 癌組織の増殖に適した環境を維持するように機能することが示唆された.
  • 浅井 敏男, 西川 泰央
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. 451-465
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いて, 視床髄板内核侵害受容ニューロンの活動に対する中脳中心灰白質腹内側部あるいは背側縫線核電気刺激の影響について調べた.
    視床髄板内核に属する外側中心核および束傍核から合計115個の単一侵害受容ニューロンを検出した. そして, それらのニューロンの大内臓神経, 大後頭神経および犬歯歯髄への試験刺激に対する反応を指標として, 中脳中心灰白質腹内側部あるいは背側縫線核への条件刺激の影響について検討を加えた.
    その結果, 外側中心核ニューロン13個および束傍核ニューロン11個において, 中脳条件刺激による末梢神経刺激に対する反応の抑制が観察された. 最大の抑制が認められた条件刺激—試験刺激間隔は, 外側中心核ニューロンおよび束傍核ニューロンの両者とも, 30 msecであり, 抑制の持続時間は両ニューロンとも100 msecを超えた.
    末梢神経試験刺激に対する反応が条件刺激によって抑制された侵害受容ニューロンにおいて, 中脳網様体試験刺激に対する反応はすべて抑制された. 抑制の割合および時間経過は, 末梢神経試験刺激に対する反応の抑制のものと同様であった.
    外側中心核ニューロン14個および束傍核ニューロン6個が1 mA以下の強さの中脳条件電気刺激によって興奮した.
    なお, 外側中心核ニューロン39個および束傍核ニューロン32個は, 中脳条件刺激による影響を受けなかった.
    以上の成績から, 中脳中心灰白質腹内側部あるいは背側縫線核から視床髄板内核に向かう上行性疼痛抑制系の存在が示唆された.
  • 吉田 謙一
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. 466-481
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    成長発育期のラットの上顎歯列に側方拡大力を加え, 拡大力がその後の頭蓋顔面の成長発育に及ぼす影響について形態学的および組織学的に検討した.
    4週齢のウイスター系雄性ラット60匹を用いた. 0.01インチの矯正線でヘリカルループを作製し, 上顎切歯間に歯科用レジンにて固定し, 上顎歯列の側方拡大を1週間行った. 矯正力を除去した直後, 3週, 6週, 9週後に屠殺し, 上下および側方方向の頭部軟エックス線規格写真撮影を行った. 撮影されたエックス線フィルムを5倍に拡大して形態分析を行い, 対照群と実験群とを比較検討した. また, ボーンマーカーとして実験期間中にテトラサイクリンとカルセインの2種類の硬組織ラベリング剤を用いて組織学的に検索した. なお, 対照群には75匹を用いた.
    その結果, 上顎切歯間の拡大は正中口蓋縫合を離開させ, 頭蓋顔面にも広範囲に影響を与えていた. 実験群の頭蓋の幅径は対照群より増大したが, 高径および長径では減少する傾向が認められた.
    成長発育期における上顎歯列の側方拡大は, その後の頭蓋顔面の成長方向に変化をもたらすことが示唆された.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 田中 利一
    原稿種別: 本文
    1992 年 55 巻 5 号 p. g29-g30
    発行日: 1992/10/25
    公開日: 2017/02/27
    ジャーナル フリー
    ヒ卜の歯は, 人類学的, 系統発生学上退化器官に属し, 進化とともに数の減少と, 形態縮小や単純化に移行する傾向にある. とくに, 第三大臼歯は他の歯より, これらの傾向が著しく, 日常臨床においてたいへん興味深いものがある. しかし, 発育や発生時期が他の大臼歯よりはるかに遅れていることや, 発育期間がきわめて長く, かつ変異に富んでおり, 先天的欠如や, 石灰化しても顎骨内に止まり萌出にいたらない個体が多い. そのうえ, 第三大臼歯の発育についての研究は, デンタル型エックス線, オルソパントモグラムによる先人の観察例がいくつかあるが, その数はきわめて少なく, 第三大臼歯の発育状態を正しく把握されていない. そこで, 著者は, オルソパントモグラムを用いて, 第三大臼歯の石灰化時期ならびに成人初期における第三大臼歯の存在傾向などについて臨床的観察を行い, 第三大臼歯の発育状態を把握することを目的として本研究に着手した. 研究材料としては, 大阪歯科大学附属病院小児歯科外来に来院した患者 (1980年4月1日〜1990年3月31日まで), および1974年〜1990年に大阪歯科大学歯科放射線学講座の学生相互実習 (第5学年) で撮影したオルソパントモグラムを用いた. そのうち, 無歯症, 全身疾患などの障害を認める症例, エックス線写真像上で第三大臼歯を抜歯したと判定された症例, 1例も石灰化を認められなかった7歳未満の小児をさらに除外し, 小児9,111名 (男子4,646名, 女子4,465名) と学生2,769名 (男子2,312名, 女子457名) を調査した. なお, これらのオルソパントモグラムは, すべてORTHOPANTOMOGRAPH OP3, OP5 (PALOMEX-SIEMENS社製) を用いて大阪歯科大学附属病院歯科放射線科で撮影されたものである. 研究方法としては, 小児のオルソパントモグラムを月齢別に分類して, 第三大臼歯の石灰化開始時期, 歯冠完成時期および各年齢における石灰化の有無と発育 (石灰化) 段階について調査した. なお, 歯の発育 (石灰化) 段階の判定は, Moorrees et al. の判定基準に従って14段階に分類し, それぞれを0〜14点までの数値に置き換えて示した. 一方, 学生のオルソパントモグラムでは, 第三大臼歯の存在型, 萌出方向を1) 垂直型, 2) 近心型, 3) 水平型, 4) 遠心型および5) 頬側あるいは舌側方向型に分類した. その結果, 次のような結論を得た. 1) 第三大臼歯の石灰化の開始は, 男女子とも上顎歯では7歳6か月, 下顎歯では7歳0か月に認められた. その平均年齢は, 上顎歯で男子 : 9歳4か月, 女子 : 9歳2か月, 下顎歯で男子 : 9歳1か月, 女子 : 8歳9か月であった. 2) 第三大臼歯の歯冠完成時期の平均年齢は, 上顎歯では男子 : 11歳8か月, 女子 : 11歳5か月, 下顎歯では男子 : 12歳4か月, 女子 : 12歳3か月であった. 3) 13歳以上での第三大臼歯の歯胚の存在率は, 男子では上顎歯 : 約70%, 下顎歯 : 約75%, 女子では上顎歯 : 約65%, 下顎歯 : 約80%であった. 4) 第三大臼歯の4歯存在型は, 男子 : 約52%, 女子 : 約41%, また4歯すべての欠如型は, 男子 : 約10%, 女子 : 約12%であった. 5) 第三大臼歯の萌出方向は, 垂直型が最も多く, 男子では上顎歯 : 約70%, 下顎歯 : 約45%, 女子においては, 上顎歯 : 約50%, 下顎歯 : 約40%を占めた, 6) 第三大臼歯の矮小歯は, 上顎歯のみに出現した. 7) 第三大臼歯の欠如は, 男子よりも女子に, 下顎歯よりも上顎歯に多かった. 以上の結果を先人の報告と比較検討すると, 石灰化時期はやや早くなっており, 先天欠如歯が多い上顎側切歯や下顎第二小臼歯がより多く認められ退化傾向がより著しいことを認めた. また, 近年小児の顎骨の発育不良により, 例え石灰化が起こっていても正しく萌出しない傾向が強かった. これらのことから, 第三大臼歯の現状が把握でき, 小児歯科学臨床における咬合誘導などの指針の一助となることが明らかになった.
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