歯科医学
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56 巻, 4 号
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  • 江龍 多美子, 尾上 孝利
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. 309-320
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     β-Lactam 剤耐性の Prevotella intermedia における β-lactamase 活性をミクロヨード法で測定した。口腔由来 10 株の β-lactamase の比活性は、ampicillin では 24.0~70.2 mU/mg、cefazolin では 23.5~54.7 mU/mg であった。これらの β-lactamase は cephaloridine と cefuroxime を分解したが、imipenem、latamoxef および aztreonam の分解活性は菌株によって異なっていた。3 菌株を用いて penicillin G と cephalexin で β-lactamase を誘導すると、1 株で誘導の可能性が認められ、残り 2 株では誘導はみられなかった。
     以上の結果から、供試口腔由来 P. intermedia の β-lactam 耐剤性には、構成的に産生された β-lactamase が深く関与しているものと推定され、その活性は oxyiminocephalosporinase であると考えられる。
  • 由良 博, 尾上 孝利
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. 321-342
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     口腔感染症患者から分離した Prevotella intermedia 細胞を用いて、細菌細胞表層の走査電子顕微鏡試料作製法を検討した。本菌を酢酸ウラニルで処理すると、細胞の周辺にフリンジが存在した。グルタルアルデヒドと四酸化オスミウムの二重固定法では、多数のうろこ状構造(あるいは粒子状構造)を細胞表層に認め、その表面にけばだち構造を有する細胞も観察された。また、細胞周辺に多数みられる紐状構造によって細胞はアルミ箔上に付着していたが、赤血球表面に付着した細菌細胞では、このような構造は認められなかった。凍結置換の良好な細胞では、うろこ状構造は二重固定された細胞より少なく、細胞表層は粘性物質や培養時の分泌物で覆われ、けばだち構造はみられなかった。
     以上のことから、生きた細菌に近い表層構造を観察するには、凍結置換法が優れていると考えられる。
  • 諸井 英二, 川崎 靖典
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. 343-355
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     温熱療法は単独でも抗腫瘍効果が認められるが、一般には放射線療法および化学療法との集学的治療として用いられている。
    cis-Diamminedichloroplatinum(CDDP)は、頭頸部腫瘍において頻繁に用いられる薬剤で、種々の併用療法が行われている。CDDP 併用局所温熱化学療法もその一つであるが、in vivo における基礎的検討はほとんどなされていない。
     今回、著者らはヒト口腔癌由来の KB 細胞をヌードマウス(4 週齢、BALB/cA)上に固形腫瘍として発育させたものを用い、CDDP併用局所温熱化学療法による抗腫瘍効果および副作用について検討を行った。
     CDDP の投与については 1, 3, 5 および 7 mg/kg 腹腔内投与を、また加温については恒温槽を用い、39, 41, 43 および 45℃、30 分間加温を、それぞれ単独および併用にて 3 日間隔で 3 回行った。
     抗腫瘍効果の判定については相対平均腫瘍重量比(relative mean tumor weights, RWn=Wn/W0、day n と day 0)の比較で行った。
     副作用の検討は相対平均体重比(relative mean body weights, RBWn=BWn/BW0)により行った。
     併用効果の判定には相対平均腫瘍重量による T/C 比(T/C of the relative mean tumor weights, TRW/CRW、T:治療群、C:対照群)の値を、加温温度別増感率の算定にはRWn値の比をそれぞれ用いた。
     結果は以下のごとくである。
    1. CDDP 併用局所温熱化学療法は、相乗効果を示した。
    2. CDDP による抗腫瘍効果は、39℃ 加温に比べ 43℃ 加温で約 6 倍に増強した。
    3. CDDP 併用局所温熱化学療法群における体重減少は、CDDP 単独群と同程度で、回復傾向も十分みられた。
     以上より、CDDP 併用局所温熱化学療法は抗腫瘍効果が高く、副作用の少ない治療法と考えられた。
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 小北 一成
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g1-g2
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    4 種類の歯科用プラスチック材料, ポリメチルメタクリレート (PMMA), ポリエーテルサルホン (PES), ポリサルホン (PSF) およびポリカーボネート (PC) に対する細胞の接着強さをしらべるべく, マウス結合織由来の L-929 細胞を用い, 円錐円板型粘度計によって培養液を介して 0.74 Pa の定ずり応力を試料表面上の細胞に負荷することによって細胞を剥離し, 接着強さを数量的に求めた. その結果, ずり応力を負荷しない条件下では, PES, PSF および PC では対照の硬質ガラスに匹敵する良好な相対細胞接着率を示したが, PMMA ではわずかに低い傾向を示した. 一方, 定ずり応力を負荷すると細胞は材料表面から剥離され,定ずり応力の負荷時間の増加とともに細胞残留率は低下した. この傾向は PMMA と PC で顕著であった. つぎに血清の有無と培養時間の影響については, 血清無添加群で血清添加群より細胞接着率および定ずり応力を負荷した後の細胞残留率ともに低かった. また, 血清添加群において, 24 時間培養群よりも 4 時間培養群で, 細胞接着率および定ずり応力を負荷した後の細胞残留率ともに低下した.
    以上の結果から, 円錐円板型粘度計による細胞の材料に対する接着性の結果は, ずり応力を負荷しない静置条件下での結果と異なることが明らかとなった. したがって, 生体に用いられるバイオマテリアルに対する細胞の接着性を評価するにあたっては, 動的な測定手段をも加える必要性があるといえる. その際, 本法はその評価法の 1 つとして有効な方法であることがわかった.
  • 磯貝 知一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g3-g4
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    ヒトの咀嚼運動経路は, 吸啜から咀嚼行為へ転換ののち, 乳歯列, 混合歯列, 永久歯列への変遷につれて変化していく. 咀嚼運動経路についての報告は, 永久歯列では多くみられるが, 乳歯列, 混合歯列での研究は少なく, とくに同一被験者での成長発育に伴う, 経路の相違についてはほとんどみあたらない.
    そこで本研究では, 小児の咀嚼運動経路の計測を乳歯列期に行い, ついで, 同一被験者の混合歯列期にも測定し, 各個人の経路の相違を分析した. さらに, 乳歯列期小児群 (乳歯列期) および混合歯列期小児群 (混合歯列期) の咀嚼運動経路を, 成人正常有歯顎者群 (成人) と総括的に比較することによって, その特徴を検討した.
    被験者は, 個性正常咬合を有する乳歯列期小児10名で, そのうち6名は, 上下顎第一大臼歯萌出完了期にも実験を行った. また, コントロールとして成人10名についても測定を行った. 被験食品には, カマボコを, 計測には MKG-K6 システムを用いた.
    その結果
    1. 同一被験者における乳歯列期と混合歯列期との相違
    1) 時間的パラメータ 開口相時間, 閉口相時間, 咬みしめ時間およびサイクルタイムでは, 被験者のうちの約半数が, 混合歯列期のほうが長くなり, 他は短いか, 有意の差がなかった.
    2) 移動量パラメータ 最大開口距離および最大前後移動距離は, 半数の被験者で混合歯列期のほうが長くなり, 1 名は短く, それ以外は有意の差がなかった. 最大側方移動距離は, 混合歯列期のほうが長くなった 1 名および有意の差がなかった 1 名を除いて, 他の被験者では短くなった.
    3) 速度パラメータ 最大開口速度は, 半数の被験者は混合歯列期のほうが速くなり, 1 名は遅くなり, それ以外は有意の差がなかった. 最大閉口速度は, 2 名は混合歯列期のほうが速くなったが, 他は有意の差がなかった.
    2. 乳歯列期および混合歯列期の咀嚼運動の特徴
    1) 時間的パラメータ すべてのパラメータについて, 乳歯列期および混合歯列期の両者間, そして両者と成人との間に, 有意の差を認めなかった.
    2) 移動量パラメータ 最大開口距離および最大前後移動距離は, 乳歯列期から混合歯列期, 成人になるにつれて長くなった. このとき, 乳歯列期と混合歯列期との間には有意の差はなかったが, 乳歯列期と成人および混合歯列期と成人, の間には有意の差が認められた. 最大側方移動距離は, 混合歯列期と成人とではほとんど変わらなかったが, 乳歯列期では, 混合歯列期および成人よりも有意に長かった.
    3) 速度パラメータ 最大開口速度および最大閉口速度は, 乳歯列期, 混合歯列期, 成人の順に速くなった. このとき, 乳歯列期と混合歯列期との間には有意の差は認められなかったが, 成人と他の二つの時期との間には有意の差が認められた.
    以上のことから, ヒ卜の咀嚼運動経路は, 乳歯列期から混合歯列期へと成長するにつれて, 個体差が認められるものの, 全体的には成人に近づく傾向にあった. しかし, 最大側方移動距離だけは, 各個人ともに混合歯列期に大きく減少し, 成人に近い値をとることが明かになった.
  • 坂井田 藤芳
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g5-g6
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    リン酸カルシウム系結晶化ガラスをはじめとするキャスタブルセラミックス材料は金属のような塑性変形によって過大な応力集中を緩和する機構を備えていない. したがって, 歯冠修復物として口腔内で十分な機能を営むためには, クラウン内における局所的な応力集中を可及的に避けるような力学的配慮が必要である.
    そこで, 荷重下における結晶化ガラス・クラウン内の力学的挙動を把握することを目的として, 荷重の部位および方向, クラウン辺縁部の厚さ, 支台築造材料および合着セメントの種類を変えた条件下で有限要素法による応力解析を試みるとともに, 結晶化ガラスの支台築造材料に対する接着強さについて検討した.
    1) 水平荷重時にクラウン内に生じた応力は垂直荷重時の場合より大きく, 荷重側のクラウン内面には引っ張り応力が発現した.
    2) クラウン辺縁部の厚みが増大すれば, クラウン内に生じた応力は減少したが, 修復歯全体の曲げ変形は大きくなった.
    3) クラウン内に生じた応力分布傾向は支台築造材料の種類によって異なった. すなわち, 天然歯支台に比べ, 金属支台では荷重直下のクラウン内の限局した部位に, またコンポジットレジン支台ではメタルポスト部に応力が集中した.
    4) 乾性セメントで合着した場合,荷重直下のクラウン内面および頬側および舌側の外側面に強い引っ張り応力が生じた.
    5) 結晶化ガラスと支台築造材料との接着強さは, コンポジットレジンより合金のほうが, また結晶化ガラス面にプライマー処理を行ったほうが良好であった.
    以上の結果から, 結晶化ガラス・クラウンが長期間口腔内で機能を発揮するためには剛性の大きな支台築造材料を用い, クラウンと支台築造材料との複合一体化を図ることが望ましい.
  • 親里 嘉之
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g7-g8
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    小児歯科における長期間の歯科的健康管理のなかで重要な部門を占めている咬合管理は, 咬合の型や機能的に調和のとれた発達過程にあるか否かを診査する必要がある. そのためには乳歯列期における咬合力の実態が, 咬合型とともに長期にわたって把握され,その関連性が解明されていなければならない.
    そこで, 本講座の小児の口腔機能についての研究の一環として, 小児の最大咬合力がどのように咬合機能に関与しているかを知る目的で, 最大咬合力とバイトワックスを噛み込んだ場合ワックス上に出現する咬合面の圧痕で, その残ったワックスの垂直的厚径を噛み込み残量(以下, 噛み込み残量という.)を用いて検討した.
    研究対象および方法
    研究対象者は齲蝕に罹患していないものであった. そして, 第二乳臼歯は萌出しており, オーバージェットおよびオーバーバイトは正常の範囲内にあり, かつ有隙型歯列弓を有する 3 歳児 13 名, 4 歳児 17 名および 5 歳児 24 名の総計 54 名である.
    バイトワックスの介在があっても中心咬合位の獲得ができるように咬合訓練を行ったのち, 咬合力計 MPM-3000 (日本光電工業, 東京) を, 用いて両側第二乳臼歯における最大咬合力 (以下, 咬合力という.) を測定した.
    温度 22℃ 恒温箱中に保存した厚さ 1 mm および 3 mm のバイトワックス (ジーシー, 東京) を最大咬合力で 3 秒間中心咬合位で噛み込ませ,噛み込み残量を採得した. なお, 測定はいずれも被験児の誕生月に行った.
    頬側計測点は, 上顎の乳中切歯および乳側切歯の切縁中央部, 上顎乳犬歯の尖頭頂部, 上顎の第一乳臼歯の頬側近心咬頭頂部, 第二乳臼歯の頬側近心咬頭頂部および遠心咬頭頂部で, 6 点の印記点に, 舌側計測点は, 下顎の乳中切歯および乳側切歯の切縁中央部, 下顎乳犬歯の尖頭頂部, 上顎の第一乳臼歯の舌側近心咬頭頂部, 第二乳臼歯の舌側近心咬頭頂部および遠心咬頭頂部で, 6 点の印記点に, 中央窩計測点は, 上顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の中央窩で, 2 点の印記点に求めた. 左右側合わせて 28 点である. これらの各計測点の噛み込み残量をメジャリング・ディバイス (ASDI 製, スエーデン) で測定した.
    成績
    1. 第二乳臼歯の咬合力は, 加齢的に大きくなり, 平均値では 3 歳に比して 4 歳は 1.4 倍, 5 歳は 2 倍を示した. 各年齢における咬合力, および噛み込み残量に性差および左右側差は認められなかった.
    2. 1 mm の噛み込み残量は, 切歯部では多く, 臼歯部では少なかった. 同時に各計測点における噛み込み残量には加齢的な減少があったが, 4 歳と 5 歳の噛み込み残量に差を認めなかった. また, 1 mm の噛み込み残量は, 犬歯頬側計測点において, 3 mm では第一乳臼歯頬側計測点において加齢的な変動を示さなかった.
    3. 咬合力が同じであれば噛み込み残量に年齢の相違はあらわれなかった.
    4. 同じ年齢において咬合力が大きいと, 3 歳では臼歯部, 4 歳でも臼歯部, さらに大きいと切歯部および臼歯部, 5 歳では切歯部および臼歯部の噛み込み残量が少なかった.
    以上のことから, 咬合力の加齢的な増加があれば噛み込み残量に相違を認め, 噛み込み残量の出現状態(咬合様式)に特徴があった. この噛み込み残量は, 乳歯列期における咬合力の指標となり, 正常交合を継承するためには, 小児の年齢すなわち咬合機能の成長発育に対応した咬合力が必要であることが示唆された.
  • 谷 佳憲
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g9-g10
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    腺房部細胞の tight junction は物質の透過に対して強いバリヤーとなっていると考えられてきたが, 分泌刺激を与えると間質液の成分が腺腔内へ流入する現象が見られることから, 唾液腺には傍細胞性輸送が存在することが明らかになった. しかしながら, tight junction がどのような機序によって開くのかは不明であり, また tight junction の開閉に伴う腺細胞膜の物理化学的な変動についても観察されていない.
    ところで, 細胞表面は通常陰性に荷電していることが知られているが, この陰性荷電部位は細胞の接着, 変形,移動および貧食などに伴って変動するという報告がある. すなわち, 腺細胞の tight junction の開閉は隣接する細胞が接着, 分離あるいは変形をしている状態であると考えられるから, 腺細胞の安静時と分泌時とでは細胞表面の荷電性が変動する可能性がある.
    そこで, ラット顎下腺腺房部細胞の tight junction の透過性をトレーサーの microperoxidase (分子量: 1,900)によって確認するとともに, 安静時および substance P 刺激後における tight junction を含む傍細胞性輸送経路の荷電性を, 多価陽性荷電物質の ruthenium red あるいは cationized ferritin を用いて細胞化学的に検索した.
    得られた結果は, 以下のとおりである.
    安静時では, microperoxidase は細胞間隙に認められ, tight junction および腺腔内には認められなかった. しかし, substance P 刺激後には, 細胞間隙, tight junction および腺腔内に microperoxidase が認められた. すなわち, 分泌刺激の投与によって microperoxidase が tight junction を通過することを確認した. 腺組織を ruthenium red 溶液に浸漬したときの ruthenium red 粒子の結合状態は, 腺房部細胞膜でも導管部細胞膜でも共通した所見を示した. すなわち, 安静時では, ruthenium red 粒子は腺細胞の基底側膜および細胞側壁膜に均一に結合したが, tight junction には ruthenium red 粒子の結合は認められなかった. しかし, substance P 刺激後には, 細胞側壁膜における ruthenium red 粒子の結合ほ明らかに減少し, 反対に tight junction では rutheniumred 粒子の結合が認められるようになった. また, とくに tight junction の陰性荷電部位を検索するために, cationized ferritin 溶液を顎下腺の主導管より逆行性に注入したが, cationized ferritin の粒子は, 導管部細胞のみに結合した. 安静時では, cationized ferritin 粒子は細胞側壁膜および腺腔側膜に結合し, tight junction には結合しなかった. しかし, substance P 刺激後には, cationized ferritin 粒子は tight junction のみに結合し, 細胞側壁膜および腺腔側膜には結合しなかった.
    以上の結果から, ラット顎下腺腺細胞の細胞側壁膜, tight junction および腺腔側膜の陰性荷電部位は, substance P 刺激後には安静時とは対称的に変動することが明らかになった. なお, tight junction の物質透過性と荷電状態との具体的な関連性については, 今後の検討が必要であると考える.
  • 森田 年也
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g11-g12
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    免疫組織学的研究法の進展によって, コンドロイチン硫酸 (CS) やヒアルロン酸 (HA) が, プロテオグリカン (PG) の形あるいは細胞表層のリセプターと結合した形でヒトをはじめ各種動物の中枢神経系 (CNS) 組織に局在し, 神経系細胞の増殖, 移動, 分化の制御に関与していることが明らかにされつつある. しかし, 加齢に伴う CNS 組織におけるこれらの分子レベルの変化や役割はまだ不明である. 本研究では, 老化促進モデルマウス (SAM)-P/8//Odu (P系) およびその対照の SAM-R/1//Odu (R系) の大脳を用いて, CS および HA の加齢に伴う質的, 量的変化を糖鎖構造の解析から追究した.
    7, 17, 27, 37 週齢の両系統雄マウス大脳脱脂乾燥試料から, 熱処理, NaOH 処理, プロナーゼ消化, CPC およびエタノール沈でんで抽出精製したグリコサミノグリカン (GAG) を生化学的に分析し, 以下のような所見を得た.
    セルロースアセテート膜電気泳動で GAG を分離すると, 両系統ともおもな構成分子種として CS と HA が同定され, ヘパラン硫酸 (HS) は極微量成分にすぎなかった. また, ヒアルロニダーゼ SD とコンドロイチナーゼ ACIIで GAG を同時消化し, CS および HA 糖鎖から生成される不飽和二糖を HPLC で分離, 定量したところ, 両系統の各週齢とも, CS 糖鎖を構成するおもな二糖成分は ΔDi-4S で, 微量成分として ΔDi-0S と ΔDi-6S が混在することが明らかとなった. ΔDi-6S は両系統の 7 週齢では ΔDi-0S とほぼ同量存在していたが, 加齢に伴って急激に減少し, 37 週齢では検出できなかった. 各二糖成分 (ΔDi-HA を含む) 量はどの週齢においても P 系では R 系より少なかった. 組織機能を反映する HA/CS 比は, R 系では 7 週齢から 27 週齢まで増加傾向を示したが, P 系では 7 週齢ですでに R 系の 27 週齢と同程度の高値を示し, 37 週齢でも係留していた.
    SAM-P/8 系は正常な発育・成長過程を経たのち, 脊椎前後彎曲などの一般的な老化徴候を急速に発現するとともに, CNS 組織の形態変化を伴う学習・記憶障害を引き起こすことが知られている. 本研究で得られた P 系における CS および HA 糖鎖の 7 週齢からの質的, 量的変化は, CNS 組織におけるミクロ環境の維持と制御に変動をもたらし, その変動はさらに加齢に伴って進展する学習記憶機能の低下を誘発する要因の一つになっている可能性があることを示唆するものである.
    また, 主として生体膜 (基底膜) に分布する HS が P 系においても R 系と同様に極微量しか存在しなかった所見は, ニューロンや β-アミロイド蛋白沈着部位に早期に HSPG が蓄積していくアルツハイマー病とは異なる所見であり, SAM-P/8 系はアルツハイマー型老年性痴呆のモデルにはなり得ないことを示している.
  • 富塚 正敏
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g13-g14
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    根管充填用シーラー (以下, シーラーと略す.) の組織刺激性に関しては, これまで多くの研究が行われ報告されてきている. それらの報告には, シーラー自体の細胞毒性あるいは組織為害性に関する報告が多い.
    しかし, シーラーの為害性が問題となる根尖周囲組織は, 根管を経由して到達した細菌性因子をはじめとする外来抗原の影響を受けやすい場所であり, この局所にはシーラーによる刺激と同時に外来抗原が共存することが考えられる.
    そこで, 本研究では, シーラーの生体に対する影響を評価する一環として, 根管あるいは根尖周囲に存在する抗原に対する宿主の免疫応答にシーラーがどう影響するかを検討した. すなわち, 最初に外来抗原の免疫原性に対するシーラーの影響を知る目的で, 免疫原として可溶性蛋白質である keyhole limpet hemocyanin (以下, KLHと略す.) を用い, これに Apatite Root Sealer Type-1 (三金工業), Canals (昭和薬品), Tubli-Seal (Kerr), Dentalis KEZ (ネオ製薬), Sealapex (Kerr) の5種類のシーラーを硬化させた後, 可及的に細かく粉砕したものを添加し, これを混合物として感作実験を行い, 抗原特異的な抗体の産生に対する各シーラーの影響を検索した. つづいて, 抗体産生の増強が認められたシーラーについては, それがサイトカイン誘導による効果であるか否かを検討するために, 血中 IL-2 量を測定した. KLH に対する抗体価の測定は, ELISA 法を用いて行い, IL-2 量の測定は, Mouse interleukin-2 ELISA Kit (Collaborative Research Inc.) を用いて行った.
    その結果, 次のような結論を得た.
    1. Apatite Root Sealer Type-1 粉末と KLH の懸濁液を B6 マウスに接種した場合, すべての KLH 濃度において著しい抗体産生増強活性が認められた. また, IgG 抗体価および IgM 抗体価も上昇した.
    2. Dentalis KEZ の場合は, 抗体産生増強活性は認められず, IgG 抗体価も上昇しなかった. しかし, IgM 抗体価の上昇がわずかに認められた.
    3. Canals の場合も, すべての免疫原濃度で抗体産生の増強が認められ, IgG 抗体産生および IgM 抗体産生の増強が認められた. しかし, IgG 抗体価に比較して IgM 抗体価はやや低かった.
    4. Sealapex の場合には, 免疫グロブリン抗体価および IgG 抗体価では上昇が認められなかったが, IgM 抗体産生の増強が認められた.
    5. Tubli-seal では Sealapex の場合とは逆に免疫グロブリンおよび IgG 抗体価の上昇が認められたが, IgM 抗体産生増強活性は認められなかった.
    6. 今回用いたシーラーによる抗体産生増強活性には, シーラーの種類によって著しい差のあることが示された. しかし, IgM 抗体価に関してはシーラー間に有意差は認められなかった. また, 今回用いた 5 種類のシーラーは, negative control に対して抗体産生を有意に抑制しなかった.
    7. 血中 IL-2 量に関しては, 抗体産生増強活性を示した Type-1, Canals, Tubli-seal のいずれのシーラーを混和した場合にも, negative control に対して有意な上昇は認められなかった. またシーラー間の差も認められなかった.
  • 松井 志郎
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g15-g16
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Prevotella intermedia は口腔常在菌叢の構成菌であり, 種々の口腔感染症からも高頻度に分離される偏性嫌気性グラム陰性桿菌である. Johnsonらは, P. intermedia には ATCC 25611と33563 group の2つの homology があることを明らかにしているが, 口腔内から分離される P. intermedia の2つの homology group の分布は, 研究者によって異なる. 最近, 口腔感染症から分離される P. intermedia にはβ-lactamase, DNase, hyaluronidase, collagenase, lecithinase などの病原酵素を産生する菌株が数多くみられることが多々見, 寺岡ら, 吉田らおよび佐々木らによって報告されている. すなわち, 慢性と急性の根尖性歯周炎, 蜂巣炎の症例と, 対照とした口腔常在菌叢から分離した細菌のβ-lactamase, DNase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, collagenase, lipase, lecithirase, trypsin, chymotrypsin および粘性物質産生性を比較したところ, 前述の酵素産生菌の比率は, 蜂巣炎, 急性根尖性歯周炎, 唾液および歯垢の順で高く, P. intermedia が有する病原酵素が直接的病原因子として疾患の増悪化に寄与していると考えられる. 本研究では, P. intermedia のATCC 25611と33563 group のいずれの group が疾患病巣内でどの程度病原的な役割を果たしているのかを明らかにするために, 2つの homology group の口腔内分布と病原性状を比較した. 得られた結果は以下のとおりである Indole産生性とAPI ZYM systemによる酵素活性パターンから P. intermedia と同定したほとんどの菌株は, 2つのhomology groupのいずれかに属した. 根尖性歯周炎, 蜂巣炎および口腔常在菌叢から分離した P. intermedia ではATCC 33563 groupが優勢であった. また, 歯周ポケット由来株では, ほぼ同数であった. 22例の被験者のうち, 50%から両groupの P. intermedia が分離された. これらの結果および従来の報告から, 被験者や口腔部位によってその比率は異なるが, 両groupとも口腔内に広く分布していると考えられる. 両groupの菌体表層構造をnegative染色で観察した結果, ATCC 25611 groupでは, typeA, ALと線毛構造をもたない菌株とがみられたにすぎなかったが, ATCC 33563 groupでは, 上記の構造とともに種々の菌体表層構造をもつ菌株がみられた. SDS-PAGEによる菌体タンパクは, ATCC 25611 groupの菌株ではATCC 25611と, また, ATCC 33563 groupの菌株では, ATCC 33563 と類似の泳動パターンを示した. 両groupの菌株とも, β-lactamase, DNase, lipase, lecithinase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, collagenase および粘性物質のいずれかを産生した. これらの酵素のうちDNaseは, 口腔常在菌叢を含む口腔部位から分離した両groupの P. intermedia によって普遍的に産生されたが, β-lactamase, hyaluronidase および chondroitin sulfatase 産生菌は, 両 group とも蜂巣炎から分離した菌株にみられた. それゆえ, これらの酵素を産生する P. intermedia の両 group は疾患の増悪化に関連する可能性が示唆される.
  • 吉田 謙一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g17-g18
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    矯正歯科治療における上顎歯列側方拡大法は狭窄を呈する上顎歯列弓を側方に拡大する方法である. この方法の歴史ほ古く, Angell が 1860 年に expansion screw による治療を報告して以来, 多くの臨床的, 実験的研究がなされてきた. 上顎歯列急速拡大を行うことにより, 鼻腔底, 歯槽骨側壁, 上顎骨と口蓋骨の口蓋面, 眼窩壁など頭蓋顔面の広範囲に拡大力の影響が及んでいることが報告され, また外力による拡大を受けた成長期の縫合部では, 外力を受けない縫合部よりも活発な組織反応や改造現象がみられることが明らかにされている. このように上顎歯列側方拡大法は, 頭蓋顔面の成長部位になんらかの影響を与えていると考えられるが, その後の成長に対する影響については明らかにされていない.
    本研究では, 成長発育期のラットの上顎歯列に側方拡大力を加え, その後の頭蓋顔面の成長発育を形態学的および組織学的に検討した.
    材料および方法
    1. 実験材料
    実験動物には, 生後 4 週齢, ウイスター系雄性ラットを実験群 60 匹, 対照群 75 匹を用いた.
    2. 実験方法 実験群の上顎切歯間に 0.01 インチの矯正線で作製したへリカルループを歯科用レジンで固定し, 切歯間を 1 週間拡大した. へリカルループは初期加重を 50 g, 最大拡大幅を 4 mm に調節した. 矯正力を除去した直後, 3 週, 6 週, 9 週後に屠殺し, 上下および側方方向の頭部軟エックス線規格写真撮影を行った. 撮影されたエックス線フィルムを 5 倍に拡大して形態分析を行い, 対照群と実験群とを比較検討した. また, ボーンマーカーとして,実験期間中にテトラサイクリンとカルセインの 2 種類の硬組織ラベリング剤を用いて組織学的に検索した.
    実験結果
    1. 上顎切歯間の側方拡大は正中口蓋縫合を離開させ, また頭蓋顔面複合体の広範囲に影響を与えていた.
    2. 装置装着期間中の実験群の切歯萌出量は対照群に比較して, 減少が認められた. 装置撤去後も実験群の切歯萌出量は対照群と比較して小さい傾向を示したが, 成長とともに徐々に萌出量の差はなくなり, 11 週齢においてはほとんど差は認められなかった.
    3. 上顎切歯間の拡大 1 週間 (生後 5 週齢) での頭蓋前方部の幅径は, 実験群が有意に大きな値を示した. 拡大装置撤去 3 週, 6 週, 9 週においても, 頭蓋前方部の幅径は実験群が有意に大きな値を示し, 装置撤去後, 実験群の頭蓋幅径は対照群より増大する傾向が認められた.
    4. 上顎切歯間の拡大 1 週間 (生後 5 週齢) での頭蓋高径と長径は, 実験群と対照群との有意の差は認められなかった. 拡大装置撤去 3 週, 6 週, 9 週においては, 頭蓋高径と長径は実験群が有意に小さい値を示し, 装置撤去後, 実験群の頭蓋高径と長径は対照群より減少する傾向が認められた.
    以上の結果から, 成長発育期における上顎歯列の側方拡大は, その後の頭蓋顔面の成長方向に変化をもたらすことが示唆された.
  • 砂川 正次
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g19-g20
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    口腔から分離した黒色色素産生性偏性嫌気性グラム陰性桿菌 (BPNR) を同定する際,第一次鑑別性状は, glucose 発酵性である. この性状で asaccharolytic group の Porphyromonas gingivalis, P. asaccharolyticus および P. endodontalis と他の BPNR とを区別することができる. ついで, lactose と sucrose 発酵性および indole 産生性が重要な鑑別性状となる. すなわち, lactose 発酵菌のなかには, Prevotella loescheii, P. denticola, P. melaninogenica (P. melaninogenica group), Bacteroides macacae および B. levii が含まれる. 前 3 者と後 2 者とは, sucrose 発酵性で区別される. Lactose 非発酵菌としては, P. corporisP. intermedia があり, 両者はindole産生性で区別される.
    しかし, 口腔感染症や口腔常在菌叢から分離される BPNR のなかで, glucose 発酵性で, indole 産生性を示すが, 他の生化学的性状から同定不能となる菌株がいくつかみられている. そこで, 本研究ではこれらの菌株を API ZYM system や DNA-DNA hybridization 法で同定するとともに, key 性状を得る目的で, それぞれの菌種の形態, 表現形質, SDS-PAGE による菌体タンパクパターンおよび plasmid の有無を検討した.
    供試菌として上記の性状から同定不能となった小学生の唾液由来 45 株, 膿瘍由来 6 株および歯科衛生士学校実習生の唾液由来 1 株を用いた.
    API ZYM の結果では, 52 株はすべて alkaline phosphatase, acid phosphatase, phosphoamidase, β-galactosidase および N-acetyl-β-glucosaminidase を産生し, P. melaninogenica group と類似した酵素産生パターンを示した. DNA-DNA hybridization の結果, 52 株中, 24 株が P. melaninogenica, 23 株が P. denticola, 5 株が P. loescheii と同定された. したがって, glucose発酵性で, indole産生性のBPNRを同定する際には注意を要する.
    生化学的性状試験と API ZYM で, P. melaninogenica group 3 菌種を鑑別することはできなかった. それゆえ, 菌体表層構造, plasmid の有無について検討した.
    Negative 染色で菌体表層に線毛様構造を有するものは, P. denticola に 5 株, P. melaninogenica に 3 株および P. loescheii に 1 株みられた. 粘性物質産生菌は P. denticolaP. loescheii にそれぞれ 5 株および P. melaninogenica に 4 株みられた. Plasmid 検索の結果, P. denticola CS29 と P. melaninogenica CS37 では, それぞれ 6.2 kb 付近に 1 本の band が観察された. また, P. denticola ATCC 35308 には 6.2 kb と 30 kb 付近に 2 本の band が観察された. しかし, 菌種間で相違は認められなかった. さらに, 病原性状と関連が深い, β-lactamase, DNase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, lecithinase, lipase, collagenase, trypsin, chymotrypsin および粘性物質産生性にも菌種間で鑑別できる特徴は認められなかった. しかし, SDS-PAGE では, P. loescheii と他の 2 菌種とが区別された.
    以上の結果から, 臨床から分離される BPNR のなかには, 初代培養で indole 産生を示す P. melaninogenica group が多数存在することが明らかとなった. これらの菌種を他の BPNR と鑑別する際には, glucose, lactose および sucrose 発酵性が重要である. また, P. loescheii と他の 2 菌種との鑑別には SDS-PAGE が有用であり, P. melaninogenicaP. denticola の鑑別には DNA-DNA hybridization が必要であると考えられる.
  • 江龍 多美子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g21-g22
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Prevotella intermedia (P. intermedia) はヒト口腔感染症から頻繁に分離されることから, 口腔感染症の発症と進展に重要な役割を演じていると考えられている. 本菌には β-lactam 剤耐性株が存在し, アシドメトリーディスク法で β-lactamase 活性が検出されることから, この酵素が耐性機構に関与すると推定されている. しかし, 本菌由来の β-lactamase の性状についてはほとんど研究されていない.
    本研究では, ヒト口腔から分離した P. intermedia のβ-lactam剤耐性機構を明らかにするために, ミクロヨード法で β-lactamase 活性を測定するとともに, 酵素の基質親和性, 誘導性およびタイプについて検討した.
    供試菌株はヒト口腔感染症患者から分離, 同定し, 教室で保存している P. intermedia 10 株 (0001, 0003, 0008, 0011, 0014, 0018, 0021, M4, M5 および M6) と標準株の P. intermedia ATCC 25611 および ATCC 33563 を用いた. 供試菌株を Todd Hewitt broth (Todd) で嫌気培養後遠心した. その沈査を 0.05 M リン酸緩衝液 (pH 7.0) に懸濁したのち, 超音波破砕器で細胞を破壊後, 再び遠心して得た上清を粗酵素液として実験に供した. β-Lactamase 活性はミクロヨード法で, 粗酵素液中の蛋白量は蛋白測定キットで測定した. 供試菌株に対する β-lactam 剤の最小発育阻止濃度 (MIC) は Todd Hewitt 寒天培地を用いて寒天平板希釈法で求めた.
    口腔由来株の β-lactamase は, アシドメトリーディスク法では, 全供試菌株で弱い cephalosporinase 活性を示した. Todd で 24 時間供試菌を嫌気培養後, 酵素活性をミクロヨード法で測定し, その際, 口腔由来株の比活性は ampicillin (ABPC) を基質としたとき 24.0~70.2 mU/mg, cefazolin (CEZ) を基質としたとき 23.5~54.7 mU/mg であったが, 標準株ではその活性は認められなかった. 0001, 0014 および 0020 株を trypticase soy broth, Todd および GAM broth で培養したとき, これら 3 株の酵素活性は 15.3~62.9 mU/mg であった. Wilkins-Chalgren broth で培養したときの活性は 5.9~17.6 mU/mg であり, 前者に比べて値は低かった. 0001 と 0020 株を Todd で 24 時間嫌気培養して界面活性剤の影響を調べた.デオキシコール酸ナトリウムでは, 酵素活性は 1.7~2.2 倍に増加したが, CHAPS と Tween80 ではほとんど効果がみられなかった. Todd で培養した 0001, 0014 および 0020 株に 1/2 MIC の PCG と CEX を添加後 2 時間培養すると, 0014 株の酵素活性は PCG 処理で 1.1 (基質 ABPC) ~ 1.5 倍(基質 CEZ), CEX 処理で 2.0 (基質 ABPC) ~ 4.9 倍 (基質 CEZ)に増加していた. 供試菌株由来酵素の基質親和性を調べると, 全酵素が CEZ, ABPC と cefuroxime を分解したが, cephaloridine, latamoxef (LMOX), imipenem (IPM) および aztreonam の分解性は菌株によって異なっていた. 供試菌株に対する β-lactam 剤の MIC は PCG, amoxicillin, bacampicillin および CEX では 1.6~200 μg/ml と大きかった. しかし, LMOX や IPM の MIC は小さかった.
    以上の結果, 供試口腔由来 P. intermedia の β-lactam 剤耐性には構成的に産生された β-lactamase が深く関与しているものと推定される. 供試菌株由来の酵素は, 基質親和性から oxyiminocephalosporinase 活性を有し, タイプ 1 とタイプ 2 が存在した. また, この酵素は CEX によって誘導される可能性が示唆された.
  • 由良 博
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g23-g24
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    宿主-寄生者相互関係において, 細菌細胞の表層は, 宿主細胞と最初に接触する部位であり, 細菌が宿主に対して病気を起こさせる第一歩でもある. そのため細菌の付着因子の解析が生物学的, 生化学的および形態学的手法で進められている. 形態学的手法では, 主としてネガティブ染色法やシャドウイング法で線毛の有無やその特徴が透過電子顕微鏡 (TEM) で研究されている. 宿主と細菌のかかわり合いは, 走査電子顕微鏡 (SEM) でも, グルタルアルデヒド (GA) と四酸化オスミウム (OsO4) で固定したヒト腸粘膜や培養細胞表面で観察されている. 付着した Escherichia coli や Salmonella の細胞表層では線毛が認められている. しかし, ヒト口腔から分離した Prevotella や Porphyromonas における細胞表層の立体像は十分には明らかにされていない. 本研究では, 細菌細胞の表層を高分解能 SEM で観察するための至適方法を得るために, Prevotella intermedia (P. intermedia) の臨床分離株 7 株, 標準株 2 株および Porphyromonas gingivalis (P. gingivalis) 1 株を用いて実験した.
    SEM 試料は, 供試菌株を Todd Hewitt broth (Todd) または CDC 処方嫌気性菌用血液寒天培地(血液寒天培地)で培養後, GA-OsO4 固定法または凍結置換法 (液化プロパンで凍結ののち, ドライアイス-アセトン槽で冷却したOsO4-アセトンで固定) で作製した. 一部の試料には, 酢酸ウラニルあるいは燐タングステン酸でネガティブ染色を施し, 電界放射型SEM s-4,000 で観察した.
    供試菌株を Todd で 24 時間培養後, GA-OsO4 固定法で試料を作製すると, すべての供試菌株の細胞表層は粒子構造物 (粒子) で覆われていた. P. intermedia 細胞表層の粒子は非常に明瞭に観察されたが, P. gingivalis ではやや不明瞭であった. 粒子の大きさは 34 × 61 nm (14~87 × 16~95 nm) であった. 小胞は全供試菌株において認められ, 分裂部位でとくに頻繁にみられ, その数は数個から数十個に及んでいた. ほとんどの長い連鎖状小胞は, その一部でガラス線維 (支持体にガラスろ紙使用の場合) に付着していた. 小胞の大きさは 51 × 201 nm (45~352 × 45~352 nm) であった. 凍結置換法を用いて液体培養した供試菌株を SEM で観察すると, 細胞表層の粒子は認められず, 菌株によって緩やかかあるいは細かい波状構造を呈していた. 小胞の観察頻度は GA-OsO4 固定法より少なかったが, その形や数は類似していた. 血液寒天培地に発育した細菌細胞をGA-OsO4 固定法と凍結置換法で SEM 試料を作製すると, 液体培養と同様に, 細胞表層の粒子は前者では認められ, 後者では認められなかった. また, 小胞の観察頻度は前者では高く, 後者では低かった. 小胞の大きさは前者で 67 × 296 nm, 後者で113 × 332 nm であった. 細胞の大きさはそれぞれ 0.4 × 2.2 μm と 0.5 × 2.7 μm であり, 後者の値が前者の値よりも大きかった. 血液寒天培地で発育した細菌細胞を poly-L-lysine 処理したアルミ箔上に載せ, GA-OsO4 固定法後に SEM で観察すると, 紐状構造物で細胞はアルミ箔に付着していた. 拡大像 (6 万倍) では細胞の表面に細かくて短い線維様構造物がけばだっていた. ネガティブ試料を TEM で観察すると, 線毛が認められたが, SEM では認められなかった.
    以上の結果から, 細菌細胞の表層構造は, GA-OsO4 固定法よりも凍結置換法でより本来の構造に近い状態に保存されるものと推定される. また, 線毛は, 導電染色法を用いると高倍率で観察できる可能性, および分裂部で多数形成される小胞が細菌の付着に関与している可能性も考えられる.
  • 松本 良造
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g25-g26
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     細胞死に至らない細胞障害を評価し得る細胞回復度試験法を確立するために, L-929 細胞と HEp-2 細胞の 2 種類の株細胞に対して, 温度変化 (4, 40, 43, 46 および 49℃), 水素イオン濃度の変動 (pH = 3, 4, 5, 6) ならびに金属イオン (Ag, Pd, Cu) の 3 種類の細胞障害因子を作用させ, その際の初期細胞数, 作用時間ならびに細胞回復時間への影響をしらべた. 温度変化の影響については, 40℃ で最も軽微な細胞回復度への影響にとどまった. しかし, 4℃, 43℃, 46℃ の順に作用時間が長いほど細胞回復度の著しい低下をきたし, 49℃ ではほとんど細胞回復を認めないまでになった. 以上の結果は 4 日間あるいは 7 日間の細胞回復時間, 4 段階の初期細胞数 (2×104, 5×103, 1×103, 3×102 cell/ml) あるいは両細胞種間に認められ, 互いに有意な差は認められなかった. 水素イオン濃度の変動の影響については, pH = 6 ではほとんど認められず, pH = 5 では両細胞および 4 日間ならびに 7 日間の細胞回復時間とともに, 作用時間が長くなるにつれて, しかも初期細胞数が少ないほど細胞回復度が低下した. pH = 3 および 4 ではほとんど細胞回復が認められなかった. Ag では 0.01 ppm 以上でイオン濃度が上昇するにつれて, 作用時間が長いほど, しかも初期細胞数が少ないほど両細胞で細胞回復度が低下した. とくに 5 ppm および 10 ppm では著しい低下であった. Pd では 0.5 ppm 以上, Cu では 0.5 ppm あるいは 1 ppm 以上のイオン濃度で類似の結果であった. 以上の結果から, 細胞回復度試験法の確立に関してその基礎的条件を検討するうえから, 温度変化, 水素イオン濃度の変動ならびに金属イオンと, 初期細胞数, 作用時間および細胞回復時間との関係を明らかにすることができた.
  • 下村 弘明
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g27-g28
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    歯肉剥離掻爬術は歯周病の進行によって破壊された歯・歯肉付着を再確立させるため行われる. 術中の重要操作は, (1)ポケット上皮の除去, (2)ポケットの深化に伴って汚染したセメント質の処理である. とりわけ, 後者の汚染セメント質除去に注意が払われるが, そのセメント質掻爬根面への付着は接合上皮によることが多い. このような状況から, 近年, より強固な付着を求める種々の根面処置法が開発, 提唱されている. その一つである根面への酸塗布は, 1889 年, Stewart によって歯周疾患歯表層にみられる過石灰化層への対応処置として紹介された. 以後, 1970 年半ばに, Register らがイヌの酸処置象牙質根面に歯肉再付着を認めたことから, この根面処置法に注目が集った. その後, ヒトや動物を対象として, この酸処置法の有効性が調べられてきたが, 期待した結果の得られない報告も少なくない. 西村らは, サルの酸処置根面への初期付着を超微構造学的に観察したが, この初期検索では, Register らの示した新旧線維の嵌合はみられなかった. そこで今回, より長期的にサル酸処置根面への歯肉付着観察を行った場合, どのような付着が形成されるか, また, イヌ, サルという種差が付着形成にどのような影響をもたらすかを検索した.
    実験動物は, サル 3 頭とイヌ 3 頭を用い, その左右上顎犬歯を実験歯とした. 実験は, まず実験歯部の歯肉を剥離, 骨を根尖方向に約 3 mm 削除し, 根面を露出させた. ついで, 露出根面をルートプレーニングし, pH 1.0 のクエン酸を 3 分間塗布した. 同部を十分洗浄後, 歯肉弁を元の位置に戻し縫合した. 術後 2, 3, 4 週に光顕的, 電顕的観察を行った.
    光顕所見:脱灰根面に接する結合組織の線維化は, イヌにおいて 2 週でかなり進んでいた. 3 週になると, より線維化した結合組織が根面に接し, 多角形の細胞が根面上に種々の方向性をもって配列した. そして 4 週では, 脱灰層に沿ってセメント芽細胞が規則的に配列し, その両者間にセメント前質が形成された. 一方, サルでは 3 週においても, 根面に接する結合組織には軽度の炎症がみられ, 線維組織の成熟化に遅れがみられた. 4 週では, 炎症は消失したものの, 脱灰層に接する線維組織に十分な成熟化はみられなかった. 吸収窩は, イヌでは 2 週に多くみられたが, 直ちにその吸収窩がセメント質でうめられた. 半面, サルでは 3, 4 週でも吸収がつづき, その吸収量も大きく, のちに骨性癒着に移行する例がみられた.
    電顕所見: 2 週のイヌ試料では, 歯冠側部から根尖側部に, 脱灰露出線維と細胞間に明瞭な横紋構造を有する膠原線維が多量にみられた. これら線維の一部は, 脱灰露出線維間に進入, 新旧線維の嵌合がみられた. 3 週では, 新生線維と脱灰露出線維とがより強固に嵌合する像がみられた. 4 週になると, 脱灰露出線維上に密な膠原線維の集積 (セメント質形成) がみられた. 一方, サル 2 週例の脱灰露出線維と近接する細胞間には, 細線維が認められた. 3 週, 4 週になると, それら膠原線維は 2 週例に比べ, 太く, 構造的にも明瞭な周期性を有したが, 新生線維の密度はイヌに比べかなり劣った. 新生線維と脱灰露出線維との嵌合は, イヌと違って弱かった. また, サルでは脱灰層表層の膨化, 分解が実験期間を通じてみられ, しだいに脱灰層幅を減じた.
    以上のことから, 本実験結果は,種差により脱灰露出線維への治癒組織の対応が大きく異なることを示した. とくに, イヌに比べて治癒の遅れたサルでは, 脱灰露出線維の生物学的処置にかなり時間を要することが明らかになった.
  • 岡 憲一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g29-g30
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    口腔感染症の大部分は口腔常在菌叢構成菌によって引き起こされる内因感染症で,発症には, 通常, 宿主の抵抗力の減弱が条件となる. 口腔感染症は, 外因感染と異なり, 弱毒菌による感染症typeに属し, 病原因子や原因菌が複数であるのが特徴である. 病原因子のなかで細菌の宿主組織への付着は, 感染の第一段階であり, 付着性状と病原性の発現とは重要な関わりを有している. 細菌の付着には, 宿主の receptor と菌体表層に依存する付着因子 (adhesin) が介在する. 歯面への最初の定住者であるレンサ球菌には, adhesin として線毛が機能している細菌が多い. とくに, う蝕原性細菌として注目されている Streptococcus mutans group では parent strain と mutant の系で, う蝕誘発に線毛を介した歯面への付着が必須であることが証明されている.
    口腔レンサ球菌の線毛は, 形態学的特徴から周毛性と局在性とに分けられる. Handley らは, S. sanguis の線毛を 7 type に, S. sarivarius の線毛を 4 type に分類し, おのおのの付着性状を検討している. 荒垣らは, 舌背から分離した線毛を有するレンサ球菌の疎水性は, 局在性線毛のほうが周毛性線毛より強いことを明らかにしている. また, 同じ分離株を用いた吉田らは, 上皮細胞への付着菌数が菌種および線毛形態によって異なることを報告している. 本研究は, 頬粘膜, 歯垢および唾液から線毛を有するレンサ球菌を分離同定し, 菌種および線毛形態の口腔内分布と付着性状について比較検討した.
    その結果, 全分離菌 349 株のうち, 頬粘膜由来 38 株, 歯垢由来 45 株および唾液由来 36 株に線毛が観察された. 部位別に線毛形態をみると, 頬粘膜由来 26 株 (68.4%), 歯垢由来 32 株 (71.1%) および唾液由来 34 株 (94.4%) が周毛性線毛であり, 残りが局在性線毛であった. 同定の結果, 分離菌はすべて S. sarivariusS. oralis のいずれかに属した. S. sarivarius の分布は, 頬粘膜 42.1 %, 歯垢 55.5% および唾液 66.6% であった. S.sarivarius の線毛はすべて周手性であり, S. orlis では周毛性線毛と局在性線毛がありその分布比率ほ同じであった.
    疎水性は, S. sarivarius がもっとも高く, ついで type D の S. oralis, type A の S. oralis の順であった. 部位別による疎水性の相違は認められなかった. ヒ卜および家兎赤血球との凝集性は, いずれの菌株にも認められなかった. 上皮細胞への付着菌数は, S. sarivarius (669 /cell) がもっとも多く, ついで type D の S. oralis (457 /cell), type A の S. oralis (232 /cell) の順であった. 部位別による付着菌数の相違は認められなかった.
    In vitro プラーク形成性は, S. sarivarius では供試した 24 株すべてが陽性で, 13 株にとくに強い形成性が認められた. 一方, S. oralis のプラーク形成性は弱く, type D ではほとんどが陰性であった.
    以上の結果から, 線毛を有するレンサ球菌の分布は, 口腔各部位により異なり, 歯垢と唾液では S. sarivarius が, 頬粘膜では S. oralis が優勢であった. また, S. sarivariusS. oralis に比べて, 疎水性, 頬粘膜上皮細胞への付着性および in vitro プラーク形成性において優れており, より強い病原ポテンシャルをもつといえる.
  • 辻 一郎
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g31-g32
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    リン酸4カルシウム (TeCP) とリン酸水素カルシウム・2水和物 (DCPD) との等モル混合物 (TeDCPD) を McIlvaine 緩衝液と練和して根管充填用シーラーとして用いる可能性が検討され, その結果, 良好な生体親和性を有することが確認されている. そこで, 組織修復促進を目的として McIlvaine 緩衝液にコンドロイチン硫酸ナトリウムA (Ch・S) を添加した液剤を試作し, この液剤と TeDCPD との練和物 (試作根充剤) を根管充填用シーラーとして用いる可能性について検討を行った.
    材料および方法
    粉剤が TeDCPD, 液剤が 2.5% あるいは 5.0% 濃度に Ch・S を添加した McIlvaine 緩衝液からなる 2 種類の試作根充剤 (試作根充剤-2.5, 試作根充剤 U-5.0) を調整した. 対照に市販のアパタイト系根管充填用シーラー (ARS) および酸化亜鉛ユージノール系根管充填用シーラー (ZOE) を用いた.
    試作根充剤の物性:練和後の経時的な pH の変動, 硬化時間および試作根充剤の崩壊率を測定した. また, 試作根充剤を練和して 30 分, 1 時間, 1 日, 3 日および 7 日後の硬化過程での結晶構造を X 線回折装置および走査型電子顕微鏡で検索した. さらに, ヒト抜去上顎中切歯根管を試作根充剤で充填し, 墨汁浸漬後の脱灰透明標本を作製して根尖封鎖性を検討した.
    試作根充剤の生体親和性:練和した試作根充剤を SD 系ラット背部皮下に埋入して周囲組織の反応を検索するとともに, SD 系ラット下顎第一臼歯根管の抜髄後に試作根充剤を充填し, 根尖歯周組織の反応を検索した. 処置を施した 1 週, 2 週, 3 週および 4 週後に埋入体を周囲組織ごと, また, 顎骨を摘出して脱灰し, 免疫組織化学的手法に従ってパラフィン包埋した. 6 μm の連続切片を作製してヘマトキシリン・エオジンまたはマッソン・トリクローム染色を施し, さらに, 一部の切片には抗ラット単球/マクロファージモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的染色を施して光学顕微鏡下で観察した.
    結果と考察
    試作根充剤の pH は, 練和後 120 分で試作根充剤 -2.5 では 8.35 付近で, また, 試作根充剤 -5.0 は 8.45 付近で安定した. 練和後 9~13 分で硬化し, 崩壊率は試作根充剤 -2.5 が 1.18%, 試作根充剤 -5.0 は 1.92% であった, X 線回折と走査型電子顕微鏡による検索の結果, 試作根充剤表面にハイドロキシアパタイト (HAp) 結晶の析出, 成長が観察された. 試作根充剤の硬化は HAp 結晶相互の絡み合いによって生じ, HAp 結晶が硬化体表面を覆うことと未反応の TeCP が「骨材効果」を発揮することから機械的強度が得られるものと考えられた.
    ラット背部皮下に埋入した試作根充剤周囲の組織に炎症性反応は認められず, HAp 結晶間隙に結合組織が入り込んだ所見が得られ, 試作根充剤の優れた生体親和性が明らかになった. 試作根充剤を応用した根尖歯周組織に歯槽骨の吸収が観察されたが ARS あるいは ZOE を応用した場合に比較して軽度で, 吸収された根尖周囲の歯槽骨辺縁に早期に骨芽細胞が観察され, 試作根充剤が歯槽骨と再生し病変の修復を促進する可能性が示唆された.
    結論
    TeDCPD と Ch・S 含有 McIlvaine 緩衝液との練和物について根管充填用シーラーとしての物性と組織刺激性を評価する実験を行った結果, 次のような結論が得られた.
    1. 試作根充剤の硬化時間および崩壊率は ISO 規格に適合していた.
    2. 試作根充剤の pH は練和 2 時間後に pH 8.35 から 8.45 で安定した.
    3. 試作根充剤は練和直後から速やかに HAp に転換した.
    4. 試作根充剤は極めて良好な組織親和性を有することが明らかになった.
    5. 試作根充剤は骨芽細胞を誘導して歯槽骨の再生を促進することが示唆された.
  • 森田 章介
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 4 号 p. g33-g34
    発行日: 1993/08/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    下顎エナメル上皮腫はさまざまなX線像や組織像を示し, その発育も厚い被膜を有し, 膨脹性に増大するものから, 骨髄に浸潤増殖するものまである. また治療法に関しても, 下顎骨の保存療法を行うか切除するかは術者の考え方により異なっている. 著者は本腫瘍が発生部位により X 線学的および組織学的に, ほぼ同じような性状を示すことに着目し, これらの相互関係を詳細に検索するとともに, 本腫瘍の再発に密接に関与すると考えられている被膜や骨髄への浸潤についても, 組織型および X 線像を用いて分析し, 治療法の適応について検討した.
    研究対象および方法
    1970 年から 1989 年までの 20 年間に, 大阪歯科大学口腔外科学第2講座にて組織学的にエナメル上皮腫と診断された下顎症例 126 名を対象として, 以下の項目について検索した.
    I. 腫瘍の性状
    1. 初診時年齢
    2. X 線学的観察
    1)骨吸収像のX線分類, 2)発生部位, 3)腫瘍と関連した埋伏歯
    3. 組織学的観察
    1)組織型, 2)腫瘍の被膜, 骨髄, 下歯槽神経・血管束, 歯肉, 筋および腺組織への浸潤
    なお被膜への浸潤が被膜の中央部までにとどまっているものを浅在型, 浸潤が被膜の深部にまで認められるものを深在型とした.
    II. 治療法と予後
    下顎骨切除, 辺縁切除, 摘出掻爬, 凍結外科および開窓が用いられ, 療法別に年齢, X線分類, 組織型および予後について検討した.
    結果および考察
    1. 前歯部の症例は比較的年齢が高く, 多くは蜂巣型や多胞型を呈し, 大多数は濾胞型で I 型や II 型を示した.
    2. 大臼歯・後臼歯部の症例は 10~30 代が多く, 過半数が単胞型で, しかも網状型で III 型を示し, 蜂巣型や混合型はきわめて少なかった.
    3. 埋伏歯を有する症例の大多数は 10~20 代で, ほぼ大臼歯・後臼歯に限定されていた.
    以上のことは腫瘍の発生時期が大臼歯・後臼歯部では前歯部に比べ若いことに起因すると推察され, 発生部位によるX線像の違いは骨梁の密度や走行が関与すると思われた.
    4. 被膜浸潤は単胞型-網状型, 単胞型-III型では浅在型が大多数を占め, 膨脹性増殖を示していた. 単胞型-濾胞型, 多胞型-濾胞型, 多胞型- II 型では深在型が多く, 多胞型-網状型, 多胞型- III 型では浅在型と深在型は同頻度で, 再発症例の大多数は深在型であったことから被膜外浸潤を考慮する必要がある.
    5. 骨髄浸潤は組織型にかかわらず蜂巣型と混合型では全例に認められた. 単胞型や多胞型でも濾胞型で II 型を示す症例は骨髄浸潤を想定する必要がある.
    6. 3年以上観察した治療法別の再発率は下顎骨切除 0/14, 辺縁切除 0/13, 摘出掻爬 8/55, 凍結外科 1/18 であった.
    7. 摘出掻爬は単胞型や多胞型に適し, 辺縁切除との併用で混合型や蜂巣型にも用いられる.
    8. 凍結外科の適応は摘出掻爬に準じる.
    9. 辺縁切除は比較的小さな病変で, とくに蜂巣型に適応される.
    10. 開窓は嚢胞性で, 下顎骨下縁の骨皮質が広範囲に吸収されているものに用いられる.
    11. 下顎骨切除は下顎骨下縁の骨皮質が広範囲に吸収されているもの, 再発を繰り返したり, 組織学的に悪性が疑われるものなどに適用され, 単胞型は適応とはならない.
    12. Unicystic ameloblastoma は全例 10~20 代で, 埋伏歯を有し, 網状型, III 型であった. 摘出掻爬または凍結外科を施行し再発はない.
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