下顎エナメル上皮腫はさまざまなX線像や組織像を示し, その発育も厚い被膜を有し, 膨脹性に増大するものから, 骨髄に浸潤増殖するものまである. また治療法に関しても, 下顎骨の保存療法を行うか切除するかは術者の考え方により異なっている. 著者は本腫瘍が発生部位により X 線学的および組織学的に, ほぼ同じような性状を示すことに着目し, これらの相互関係を詳細に検索するとともに, 本腫瘍の再発に密接に関与すると考えられている被膜や骨髄への浸潤についても, 組織型および X 線像を用いて分析し, 治療法の適応について検討した.
研究対象および方法
1970 年から 1989 年までの 20 年間に, 大阪歯科大学口腔外科学第2講座にて組織学的にエナメル上皮腫と診断された下顎症例 126 名を対象として, 以下の項目について検索した.
I. 腫瘍の性状
1. 初診時年齢
2. X 線学的観察
1)骨吸収像のX線分類, 2)発生部位, 3)腫瘍と関連した埋伏歯
3. 組織学的観察
1)組織型, 2)腫瘍の被膜, 骨髄, 下歯槽神経・血管束, 歯肉, 筋および腺組織への浸潤
なお被膜への浸潤が被膜の中央部までにとどまっているものを浅在型, 浸潤が被膜の深部にまで認められるものを深在型とした.
II. 治療法と予後
下顎骨切除, 辺縁切除, 摘出掻爬, 凍結外科および開窓が用いられ, 療法別に年齢, X線分類, 組織型および予後について検討した.
結果および考察
1. 前歯部の症例は比較的年齢が高く, 多くは蜂巣型や多胞型を呈し, 大多数は濾胞型で I 型や II 型を示した.
2. 大臼歯・後臼歯部の症例は 10~30 代が多く, 過半数が単胞型で, しかも網状型で III 型を示し, 蜂巣型や混合型はきわめて少なかった.
3. 埋伏歯を有する症例の大多数は 10~20 代で, ほぼ大臼歯・後臼歯に限定されていた.
以上のことは腫瘍の発生時期が大臼歯・後臼歯部では前歯部に比べ若いことに起因すると推察され, 発生部位によるX線像の違いは骨梁の密度や走行が関与すると思われた.
4. 被膜浸潤は単胞型-網状型, 単胞型-III型では浅在型が大多数を占め, 膨脹性増殖を示していた. 単胞型-濾胞型, 多胞型-濾胞型, 多胞型- II 型では深在型が多く, 多胞型-網状型, 多胞型- III 型では浅在型と深在型は同頻度で, 再発症例の大多数は深在型であったことから被膜外浸潤を考慮する必要がある.
5. 骨髄浸潤は組織型にかかわらず蜂巣型と混合型では全例に認められた. 単胞型や多胞型でも濾胞型で II 型を示す症例は骨髄浸潤を想定する必要がある.
6. 3年以上観察した治療法別の再発率は下顎骨切除 0/14, 辺縁切除 0/13, 摘出掻爬 8/55, 凍結外科 1/18 であった.
7. 摘出掻爬は単胞型や多胞型に適し, 辺縁切除との併用で混合型や蜂巣型にも用いられる.
8. 凍結外科の適応は摘出掻爬に準じる.
9. 辺縁切除は比較的小さな病変で, とくに蜂巣型に適応される.
10. 開窓は嚢胞性で, 下顎骨下縁の骨皮質が広範囲に吸収されているものに用いられる.
11. 下顎骨切除は下顎骨下縁の骨皮質が広範囲に吸収されているもの, 再発を繰り返したり, 組織学的に悪性が疑われるものなどに適用され, 単胞型は適応とはならない.
12. Unicystic ameloblastoma は全例 10~20 代で, 埋伏歯を有し, 網状型, III 型であった. 摘出掻爬または凍結外科を施行し再発はない.
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