歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
56 巻, 5 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • 内田 実, 藤田 厚
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 361-375
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     人工歯根材料の開発および異物埋入による腫瘍発生機構解明への基礎的資料を得る目的で、各種アパタイト焼結体をラット皮下に埋入して誘発された実験腫瘍を用い、そのフィブリルコラーゲンの型および架橋の挙動に関する生化学的情報を得た。さらに、埋入焼結体周囲の線維性被膜フィブリルコラーゲンを対象とした分析結果と対比することにより、フィブリルコラーゲンと埋入体による腫瘍の発生や形質発現との関連性についても検討を加えた。
     酸化ジルコニウム・ランタン含有ヒドロキシアパタイト焼結体の埋入により悪性腫瘍が高率に誘発された。腫瘍組織のコラーゲンはペプシン消化で高率に可溶化され、その分子種は I 型、III 型(構成比 71:29)および微量の V 型によって構成されていることを分別塩析、アミノ酸分析および SDS-PAGE により同定した。また、架橋結合をアミノ酸分析改変法、HPLC および蛍光分析法により分析し、ピリジノリン、ヒスチジノアラニンおよびメイラード反応による架橋を検出した。一方、アパタイト焼結体を包む被膜のコラーゲンはペプシン可溶化率が低く、また、I 型コラーゲンが高率を占め、III 型は約10%であった。被膜においては、ピリジノリンおよびヒスチジノアラニン架橋はほとんど検出されず、メイラード反応による架橋の形成が進行していた。
     以上のフィブリルコラーゲンについての結果から、被膜内の細胞は環境因子としてのコラーゲンの線維化と過剰な蓄積により形質転換を起こして発癌にいたる可能性が高いことを示唆している。さらに、腫瘍が発生すると、コラーゲンは腫瘍の発育・増殖に伴って間質を形成しながら、細胞成分の外部環境を維持するとともに、腫瘍の発育増殖にふさわしい場を提供するものと考えられる。
  • 西川 哲成, 富永 和也, 藤田 厚, 大森 佐与子, 湯川 雅枝, 石黒 信吾, 建石 龍平, 和田 昭, 田中 昭男
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 376-384
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     診療中および技工作業中に金属やレジンの削片などを歯科の職員は吸引する機会が多い。今回、われわれは歯科医療関連職員の肺汚染の状態を定量的に検索した。
     肺癌の脳転移が認められた歯科技工士の病理解剖を経験し、肺、肝および腎における各種金属の濃度を熱中性子放射化分析法で測定した。また、対照として生前一般事務職に従事し、死亡した肝癌患者についても、同方法にて各種金属の濃度を測定し、比較検討した。その結果、歯科技工士の肺における Au, Co, Cr, V および Zn の各元素の濃度は他職種従事者より高かった。これらの元素は歯科用金属にかなり含まれている。歯科技工士の職を退いて10年近く経過してもなおこれらの元素は肺に残存することが明らかとなった。
     Au や Cr は金属アルレギーのそして Cr は癌の原因物質とも考えられているので、他の職種従事者と比較して肺に多く沈着していることから、肺への悪影響が懸念され、職場環境の改善が望まれる。
  • 大下 智友美
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 385-397
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     近年、若年の咬合異常者と顎関節症状を有するものとの関連について注目が集まっている。本研究は、小児における顆頭運動の基礎的なデータを得ることを目的として、下顎に対して終末蝶番運動、protrusion-retrusion、mediotrusion-medioretrusion、opening-closing という 4 つの基本運動を行わせ、顆路描記装置 Axi-Path II Recorder を用いて顆頭運動路の三次元的な記録を行った。そしてその運動路の距離ならびに角度計測を行い、平均値を求めると同時に計測結果について成人と比較分析し、以下の結論を得た。
    1. Manipulation technique により reference position での顆頭の蝶番軸点を求めることは、小児においても可能であり、かつ有効であることが認められた。
    2. Hellman の dental stage III A~III B の小児の顆頭運動について各計測項目における平均値のデータを求めることができた。
    3. 小児の excursive な運動は成人よりも浅い角度で滑走していた。
    4. Protrusion、mediotrusion 時の顆頭の運動距離について小児と成人を比較したところ有意差は認められなかった。Opening 時の運動距離は小児のほうが有意に小さかった。
    5. Mediotrusion 時の顆頭の側方変位量について左右を比較すると、小児では Motility、Mobility ともに左右差がみられなかったが、成人では右側のほうが左側より大きな値を示した。小児と成人を比較すると、右側では Motility、Mobility ともに差が認められなかった。左側では Mobility には差が認められなかったが、Motility は成人のほうが小児より小さな値を示した。
     これらのデータは小児歯科臨床においてアンテリアガイダンスとポステリアガイダンスの調和のとれた顎運動を行うことのできる顎顔面系の成長を育成するうえで重要な参考資料になると考えられる。
  • 藤田 康一, 福島 久典
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 398-414
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     形態学的に異なる表層構造をもつ Prevotella intermedia の付着性を知る目的で、赤血球凝集性と熱、酵素および糖の凝集阻止を試験した。
     供試したほとんどの菌株が赤血球凝集性を示した。Homology group や線毛 type と凝集性との間に明瞭な相関性は認められず、線毛構造をもたない菌株においても強い凝集活性がみられた。90℃、10 分間の加熱で凝集性が残存していた 2 株を除くすべての菌株が 70℃、10 分間の加熱で失活した。Trypsin、chymotrypsin および protease に対して感受性を示す菌株と、抵抗性を示す菌株とがみられた。ATCC 33563 group に属する Prevotella intermedia strain E8 では、D-glucosamine を作用させたのちに凝集活性は消失したが、他の菌株では影響を受けなかった。
     Trypsin 処理で失活した type A 線毛をもつ Prevotella intermedia strain O2 の形態変化を観察した結果、処理した細胞の negative 染色像では、グラム陰性菌特有の皺はあまりみられず、外形も円滑さを欠いていたが、処理、未処理像ともに線毛構造に変化は認められなかった。処理した細胞の走査電顕像では表面が滑らかであったり、凹凸の起伏がゆるやかな像が観察された。処理後の超薄切片像では、対照でみられる dense、less dense、dense の表層構造を一部欠く細胞が多く認められた。
     Trypsin 処理した細胞の SDS-PAGE の泳動パターンでは、27 kDa 付近のバンドが消失していた。
     以上の結果から、Prevotella intermedia の hemagglutinin は菌株により異なり、タンパク分解酵素に対する感受性や D-glucosamine による凝集阻止から少なくとも 3 group に分けられ、線毛構造をもたない菌株や Prevotella intermedia strain O2 のように、線毛以外の表層タンパクによるものも存在することが明らかとなった。
  • 高橋 啓
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 415-425
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     磁場は診断および治療に医療分野で応用されている。矯正歯科領域においても、定常磁場はすでに歯の移動に臨床的に応用されており、疼痛などの不快感がなく臨床的治療効果をあげることができたと報告されている。そこで著者は、定常磁場が歯の人為的移動に与える影響について検討した。
     Wistar 系雄性ラット 120 匹(42 日齢)を 7 日間準備飼育したのち、全身麻酔下で上顎第一臼歯が頬側方向に移動するように初期荷重を 20 g として作製された装置を上顎中切歯にコンポジットレジンで固定した。装置装着 30 分後、アクリル板とステンレス棒からなる装置でラットの体部を固定し、実験群には電磁石で最大磁束密度約 60 millitesla の定常磁場を作用させ、対照群には同様の処置を行ったが、電磁場のみを与えなかった。装置装着 3, 7 および 10 日後にラットを屠殺し、歯の移動量を計測したあと、標本を作製して HE 染色を行い観察した。
     実験群の歯の移動量は対照群と比較して、3 日間では有意差は認められなかったが、7 および 10 日間では有意に大きかった。実験群の 7 および 10 日間の歯の移動では、圧迫側歯槽骨の穿下性骨吸収の進行とともに周囲の血管の拡張と充血、破骨細胞による活発な骨吸収が認められた。
     以上の結果から、定常磁場を作用させることで、歯の移動を促進させる可能性が示唆された。
  • 松川 公洋, 高橋 一朗
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 426-440
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     老化促進モデルマウスは、促進老化兆候を示す疾患動物である。その老化兆候のなかに変形性顎関節症が含まれることが解明された。そこでこのマウスの顎顔面頭蓋形態を把握することと、促進老化を示す SAMP 系と通常の老化を示す SAMR 系における加齢に伴う形態上の差異の有無を分析し、変形性顎関節症の疾患動物となる可能性を検討した。
     実験は、実験群として SAMP1//Odu、対照群として SAMR1/Odu の雄性 SAM をそれぞれ 43 匹と、39 匹用いて行った。体重測定を定期的に行ったのち、側方頭部エックス線規格写真撮影を 5, 9, 14, 21, 29 および 36 週齢と、合計 6 回行い、Persson らの方法に従って分析した。その結果は、以下のとおりである。
     体重の変化については、両系ともに 9 週齢までは急激な増加を示し、系統差は認められなかった。
     経時的な形態的差異については、P 系が危険率 0.5% のレベルで有意に大きな値を示したのは、5 週齢では Ba-So、9 週齢では N-A、PoBa/PoE、14 週齢では Ba-Pr、Ba-So、PoBa/PoE、21 週齢では Ba-Pr、Ba-So、PoBa/PoE、29 週齢では Ba-Pr、36 週齢では Ba-Pr、Ba-So、PoBa/PoE、AN/PoE、AN/SoE であった。
     以上の結果から、SAMP1//Odu 系と SAMR1/Odu 系の顎顔面頭蓋形態の差異は、成長発育の影響ではなく、5 週齢より存在する Ba の位置的差異が成長とともに変化した結果であると考えられる。このことより両系は 5 週齢より形態的な差異を有するものであり、SAMP1//Odu 系と SAMR1/Odu 系には SAMP3 系と SAMR 系に報告されるような比較変化はみられなかった。本実験では病理組織学的な検討を行っていないので極論することはできないが、SAMP3 系のように変形性顎関節症の疾患動物として使用することは困難であることが示唆された。
  • 辰巳 浩隆, 黒田 洋生, 植野 茂, 白数 力也, 羽竹 豊, 竹本 靖子, 福島 久典, 佐川 寛典, 毛利 学
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 5 号 p. 441-447
    発行日: 1993/10/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     大阪歯科大学附属病院でのメチシリン耐性ブドウ球菌の分布状況を把握するため、医療従事者、外来および入院患者の鼻腔内保菌率と分離されたメチシリン耐性ブドウ球菌の抗生物質感受性を検討した。メチシリン耐性ブドウ球菌は、医療従事者および外来患者の鼻腔からまったく分離されなかったが、入院患者 3 名の鼻腔と病室の 1 か所から分離された。入院患者から分離された 41 株のメチシリン耐性ブドウ球菌のうち、34 株が歯肉癌患者由来、4 株が口底癌患者由来、3 株が術後性上顎嚢胞患者由来であった。一方、病室からの 3 株は、すべてベッドの手すりから分離された。
     抗生物質感受性試験の結果では、chloramphenicol と vancomycin に対して、すべての菌株は感受性を示したが、その他の抗生物質は半数以下の菌株にしか感受性を示さなかった。抗生物質感受性試験に基づく分類では、9 タイプ(A~I)に分類され、またメチシリン耐性ブドウ球菌の由来と抗生物質感受性タイプの関連から、歯肉癌患者と口底癌患者とに共通したタイプ(AタイプとCタイプ)のメチシリン耐性ブドウ球菌が分離された。それゆえ、本大学附属病院では入院患者間での伝播の可能性が示唆される。
大阪歯科学会例会抄録
feedback
Top