歯科医学
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56 巻, 6 号
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  • 青木 幸子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 459-474
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     ペリクル形成機構に関するこれまでの研究の多くは、市販タンパク質を使用して進められてきた。本研究では、ヒト反射全唾液のゲルろ過で得た 4 画分の唾液タンパク質と合成ハイドロキシアパタイトとの吸着相互作用について検討した。なお、対照実験として市販タンパク質についても同様に実施した。
     各画分の生化学的性状を検討すると、B2 画分はヒト唾液 s-IgA と一致する分子量をもつ糖タンバク質、C2 画分はヒト血清アルブミンと一致する分子量をもつ糖結合タンパク質であった。A2 画分はウシ顎下腺ムチンに相当する糖タンパク質のほかに s-IgA を、D2 画分はヒト唾液 α-アミラーゼのほかに高プロリンタンパク質、高プロリン糖タンパク質および高ヒスチジンペプチドと考えられるタンパク質を含んでいた。
     トリス-塩酸緩衝液で調製した各濃度のタンパク質溶液に HAp をそれぞれ分散させると、HAp への各タンパク質の吸着量はタンパク濃度に比例して増加した。また、HAp 分散前後のアミノ酸組成の変化を検討すると、Pro を主体とする非極性・中性アミノ酸が減少しており、唾液タンパク質の吸着は、これらのアミノ酸の疎水結合によって支配されているものと推定された。
     タンパク質吸着 HAp およびその分散媒であるタンパク質溶液中のタンパク質の zeta 電位を測定すると、唾液タンパク質各画分の HAp への吸着は、低タンパク濃度では単分子吸着を示し、高濃度では多層吸着を示した。しかし、多層吸着によりタンパク量が増加しても、HAp 表面の電位構造は吸着タンパク質に支配されているので、高濃度下のタンパク質の吸着現象を解明するには、タンパク量の測定と zeta 電位の測定とを併用するのが有効であるといえる。
     これらの所見は、HAp への唾液タンパク質の吸着が、静電気学的相互作用および疎水性相互作用に支配されていることを示す。
  • 小野 晴美, 塩路 伊佐子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 475-485
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     促進老化を示す SAM-P8//Odu(P系)とその対照である SAM-R1/Odu(R系)の 7、17、27 および 37 週齢の唾液腺(顎下腺、舌下腺)から N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAGase)を抽出し、その活性発現、酵素学的性状およびアイソザイムパターンの変化から、P 系唾液腺における老化現象の特徴を追究した。唾液腺 NAGase 活性は、R 系の顎下腺では 17 週齢まで、舌下腺では 27 週齢まで増大したのち、以後一定値を係留した。P 系では両唾液腺の活性とも 17 週齢まで増大し、 27 週齢で低下、37 週齢で再び増大した。両唾液腺の NAGase 活性に及ぼす pH、各種化合物添加および熱効果は、R 系と P 系とでは異なった加齢変化を示した。NAGase を等電点分画すると、R 系の両唾液腺は 4 個(a, b, c および d)のピークに分離されたが、P 系では両唾液腺とも酸性域のピーク b が消失して、活性分布率はピーク a に集約した。
     以上の所見より、P 系では両唾液腺の NAGase 活性とも 27 週齢で促進老化に伴う量的・質的変動をきたしていることが明らかになった。また、その変動には、酸性域で活性を示すアイソザイムが密接に関与していることが示唆された。
  • 寺井 裕
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 486-496
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     近年、免疫組織化学の飛躍的な進歩により、中枢および末梢での神経伝達(調節)に関与するペプチドの発現についての研究が数多くなされ、生体内で鎮痛に働くとされる enkephalin が注目されている。とくに痛みは、矯正歯科治療の領域においても大きな関心事である。そこで、このペプチドが歯の移動時にどのように発現するかを調べるために本研究を行った。
     体重 200~250 g の雌性 Wistar 系ラットの上顎左側臼歯部を実験側とし Waldo の方法に準じて移動させ、右側を未処置のまま対照側として用いた。観察部位は M1 頬側根の圧迫部および牽引部とした。ゴム挿入 1, 3, 6, 9, 12, 18, 24 時間、2, 7 および 14 日後に約 15 μm の連続横断凍結切片を作製し、蛍光抗体法による染色および HE 染色を行った。1, 6, 9, 18, 24 時間群については、さらに in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法を行い観察した。
     対照群では、蛍光抗体法による陽性細胞および ISH 法によるシグナルがともに認められなかった。実験群の 6, 9, 12 時間群で牽引側歯根膜に enkephalin 陽性細胞が認められ、とくに 9 時間群で著明であった。牽引側歯根膜内における encephalin 陽性細胞の局在は歯頸部付近に多く認められ、そのなかでも近心根に比べて遠心の 2 根に多く認められた。圧迫側では、各群を通じて歯根膜内に enkephalin 陽性細胞がほとんど認められなかった。ISH 法による観察では 9, 18 時間群の牽引側歯根膜にハイブリダイゼーションシグナルが認められた。
     歯を移動したときに歯根膜内において、enkephalin 含有細胞の出現が認められ、歯の移動に際して起こる痛みの調節機構に関連している可能性が示唆された。また、その歯根膜内の細胞が enkephalin を産生している可能性も示唆された。
  • 中垣 直毅
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 497-508
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     歯周ポケットの組織破壊進展メカニズムのうち、急性発作時におけるポケット内細菌の直接的病原因子を明らかにするために、急性発作部位と非発作部位から細菌を分離し、酵素および粘性物質産生性を検索するとともに、その産生菌を同定した。
     その結果、非発作部位においては collagenase および DNase 産生菌の比率が高く、平均値はそれぞれ 22.0%、および 18.4% であった。しかし、β-lactamase(5.7%)と trypsin(5.1%)を除く他の酵素産生菌の比率は、いずれも 5% 以下であった。一方、急性発作部位においても collagenase および DNase の産生菌の比率は高く、それぞれ 30.4% および 22.6% であった。加えて、trypsin 産生菌の比率は 17.6% を示した。しかし、他の酵素産生菌の比率はいずれも 5% 以下であり、collagenase、DNase および trypsin 産生菌が急性化に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
     酵素産生菌を同定した結果、非発作部位での collagenase 産生における優勢菌は "milleri" group streptcocci(16.0%)であり、ほかにも PrevotellaLactobacillusFusobacterium および Veillonella などが collagenase を産生することが示された。一方、急性発作部位での collagenase 産生においては、P. gingivalis が優勢であり、53.7% を占め、ついで Fusobacterium、"milleri" group streptococci の順であった。DNase 産生菌としては、非発作部位では "milleri" group streptococci がもっとも優勢であり、ついで P. intermediaLactobacillusActinomyces が上位にランクされた。一方、急性発作部位では P. gingivalis が 60.0% を占めた。Trypsin 産生菌として、非発作部位では P. gingivalis が 42.0% を占め優位であっだが、急性発作部位では 91.3% であった。
     以上の結果から、いずれの酵素とも急性発作部位では P. gingivalis が主役を演じており、宿主側の防御要因が減弱したとき、なんらかの原因で P. gingivalis が選択的に増殖し、病原的に働くと考えられる。
  • 中村 裕
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 509-523
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     成長期ラット片側の頭蓋・上顎骨の成長抑制が下顎骨におよぼす影響について形態計測的に検索した。
     実験動物には、5 日齢(体重 12~15 g)の Wistar 系ラット 90 匹を用いた。エーテル吸入麻酔下にてラット頭部皮膚に正中切開を施し骨膜上で剥離したのち、片側の矢状方向の成長抑制を与えるために、あらかじめラット頭部の形態に合わせて扇形に屈曲した 0.016 × 0.016 インチ(0.41 × 0.41 mm)の矯正線を左側の眼窩下裂と後頭骨間に固定し、皮膚縫合を行った。14、28 および 42 日齢の実験動物をそれぞれ麻酔下で断頭して乾燥頭蓋骨を作製し、軟エックス線装置にて頭頂方向エックス線規格写真および左右下顎骨の側方方向エックス線写真を撮影し、パーソナルコンピュータを用いて分析した。さらに、側方方向エックス線写真上に投影された左右下顎骨の面積および左右乾燥下顎骨の重量を計測した。その結果、実験群は対照群と比較して、 1) 体重の差は認められなかった。 2) 手術側の左側下顎骨の長径は減少したが、高径には変化を認めなかった。 3) 非手術側の右側下顎骨の長径には変化を認めなかったが、高径は減少した。 4) 側方方向エックス線写真上に投影された下顎骨の面積は、左右ともに減少したが、左右差はなかった。 5) 乾燥下顎骨の重量は、左右ともに減少したが、左右差はなかった。
     以上の結果から、成長期ラット片側の上顎骨-後頭骨間に加えた持続的な圧迫性外力は下顎骨を含めた頭蓋・顎顔面の非対称を生じさせることが判明した。さらに下顎骨の非対称は、下顎骨の成長の量的な抑制と方向の転換との組み合わせにより、生じることが示唆された。
  • 辰巳 浩隆, 黒田 洋生, 植野 茂, 白数 力也, 竹本 靖子, 福島 久典, 佐川 寛典, 毛利 学
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. 524-529
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     大阪歯科大学附属病院の病院環境内の methicillin-resistant staphylococci(MRS)の分布状況を把握する一環として、手術室と医療従事者 4 名の鼻腔の MRS 分離頻度および分離された MRS の抗生物質感受性を検索した。
     手術室各部位と医療従事者の鼻腔の半数から MRS が分離された。MRS 分離部位のうち、約半数が医療従事者の手指が接触する機会のある部位で、残りは接触する機会のない部位であった。
     抗生物質感受性試験の結果では、vancomycin に対して、すべての菌株が感受性を示し、その他の抗生物質に対しても半数以上の菌株が感受性を示した。抗生物質感受性試験に基づく分類では、8 タイプ(A~H)に分かれ、MRS の由来と抗生物質感受性タイプの関連から、由来により異なったタイプの MRS が認められた。それゆえ、本大学附属病院の手術室では、空気感染と接触感染による伝播の可能性が示唆される。
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 諸井 英二
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. g35-g36
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    温熱療法は単独でも抗腫瘍効果が認められるが, 一般には放射線療法, 化学療法との集学的治療として用いられている. cis-Diamminedichloroplatinum (CDDP) は, 頭頸部腫瘍において頻繁に用いられる薬剤で, 種々の併用療法が行われている. CDDP 併用局所温熱化学療法もその一つであるが, in vivo における基礎的検討はほとんどなされていない.
    そこで, 本研究ではヒト口腔癌由来の KB 細胞をヌードマウス上に固形腫瘍として発育させたものを用い, CDDP 併用局所温熱化学療法による抗腫瘍効果および副作用について検討を行った.
    実験材料および方法
    実験腫瘍としては KB 細胞 (poorly differentiated epidermoid carcinoma) を用いた. 実験動物は 4 週齢の雌のヌードマウス (BALB/cA) で, その大腿皮下に固形腫瘍を挿入移植し, 移植 20 日後, 腫瘍長径が約 8 mm 前後になったものを 1 群 5 匹として実験に供した. CDDP はランダ®注を生理食塩液にて 5 倍希釈し, 腹腔内に投与した. 加温はデジタル恒温槽を用い, ヌードマウスを全身麻酔後, 著者が作製した固定具に入れ, 腫瘍部近心側が水面下約 1 cm になるようにテープで固定し, 局所加温を行った.
    抗腫瘍効果の判定は, 担癌無治療群を対照群とし, 各群の相対平均腫瘍重量比の比較で行った. 方法としては, まず腫瘍の短径 (a), 長径 (b) をノギスで測定し, 推定腫瘍重量 [W(mg) = (a2 × b) / 2] を得た. 次いで各群の相対平均腫瘍重量比 (relative mean tumor weights, RWn = Wn / W0, day n と day 0)を算出した. 副作用の検討は, 無担癌無治療群を対照群とし, 各群の相対平均体重比 (relative mean body weights, RBWn = BWn / BW0)により行った.
    CDDP 併用局所温熱化学療法に先だって, CDDP, 加温それぞれの単独群について実験を行った. CDDP については 1, 3, 5, 7 mg/kg を, 加温については 39, 41, 43, 45℃, 30 分間加温を 3 日間隔で 3 回行い, その抗腫瘍効果, 副作用を検討した. その結果, CDDP 5, 7 mg/kg 単独群において RW20 値が 0.1 を下回り, 45℃ 単独群では腫瘍が完全に消失した. 以上の単独群の実験結果から, 温熱化学療法群は, CDDP 1, 3 mg/kg, 加温 39, 41, 43℃, 30 分間加温のそれぞれを組み合わせ, 3 日間隔で 3 回行うこととした. なお, 温熱化学療法群における CDDP の投与は加温直前に行った.
    併用効果の判定には, 実験開始後 20 日目の相対平均腫瘍重量による T/C 比 (T/C of the relative mean tumor weights, TRw/CRw, T: 治療群, C: 対照群) の値を用い, 温熱化学療法群の T/C 値と, 各単独群の T/C 値の積を比較する方法を採った. また, CDDP 単独群と温熱化学療法群の RW20 値の比により, 加温温度別増感率を算定した.
    実験結果
    1. CDDP 併用局所温熱化学療法は, 相乗効果を示した.
    2. CDDPによる抗腫瘍効果は, 39℃ 加温に比べ 43℃ 加温で約 6 倍に増強した.
    3. CDDP 併用局所温熱化学療法群における体重減少は, CDDP 単独群と同程度で, 回復傾向も十分みられた.
    以上より, CDDP 併用局所温熱化学療法は抗腫瘍効果が高く, 副作用の少ない治療法と考えられた.
  • 方 一如
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. g37-g38
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    口腔粘膜は高温の飲食物による熱傷に遭遇する機会が多い. また口腔粘膜は, その構造ならびに機能上から被覆粘膜, 咀嚼粘膜, 特殊粘膜に分類されている. 外力に侵害される点からいえば, とくに特殊粘膜に属する舌背の粘膜が他の部分の粘膜に比べて頻度が高い. 著者ほ熱傷の治癒についてつねに論議される第 II 度熱傷 (水疱形成) を実験的に惹起させ, 損傷を受けた組織の修復状況を経時的に追究し, その修復に貢献する微細血管構築の連続的変化について, 肉眼, 組織学的ならびに微細血管鋳型の三者を同時に比較しつつ検索し, 一般の第 II 度熱傷の修復像とも比較を試みた.
    本研究は Wistar 系ラット 204 匹を用い, 実験的熱傷発症用に木柄をつけた金属円柱形プローべ (直径 3 mm, 長さ 10 mm) を作製した. 80℃ に加熱した金属プローべを舌尖後方の舌背の片側の粘膜に接触させ, 水疱形成を認めた個体を実験観察群とした. 実験直後から 24 時間以内と, 2 日から 42 日までの 16 期間について観察した. 肉眼観察には, 生体のまま表面から熱傷部を継続観察したのち, 同部の連続組織切片について光顕観察を行った. また固定, 凍結乾燥を行い, 金蒸着を施して走査電顕で観察した. 一方, 上行大動脈からアクリル樹脂を注入し, 舌背実験部の微細血管鋳型を走査電顕によって観察した.
    舌背粘膜の熱傷の治癒過程は, 水疱形成, 同退縮期, 潰瘍期, 上皮修復前期および上皮修復後期の5期に区分することができた. 水疱形成期では固有層毛細血管は拡張し筋線維の横紋は消失していた. 糸状乳頭は不規則な配列となり, 乳頭間距離, 毛細血管ループの上・下行両脚間および細静脈網網目それぞれが拡大していた. 水疱退縮期では, 水疱上皮が一部脱落し, 固有層乳頭と毛細血管は消失していた. 糸状乳頭の毛細血管ループ全体, 細静脈網網目と, 固有層と筋層の毛細血管も消失し, 細動・静脈だけが認められた. 潰瘍期には創辺縁の粘膜上皮が隆起し, 表面には放射状溝が認められ, 創中心部が陥凹していた. 創辺縁部にある糸状乳頭の毛細血管ループは創中心に傾斜し, ループの先端は膨大していた. 上皮修復前期では, 粘膜上皮が創周縁から創面全体に伸展しており, 瘢痕形成のために創中心を横断している溝が認められたが, 粘膜の各構成層はすでに明瞭となっていた. 創縁から創中心まで糸状乳頭が新生しており,創縁の既存毛細血管や創底からの新生毛細血管が吻合して網目を形成し, これから毛細血管ループが新生していた. 創中心では新生洞様血管が緻密な血管綱を形成していた. 上皮修復後期では, すでに創面の粘膜上皮は修復されているが, 固有層にはまだ幼若な結合組織がみられ, 創部にはすべて新生糸状乳頭が認められた. これは非実験群と同様の像を呈していた. 創縁から創中心へと新生毛細血管ループは正常型となり, 42 日後にはこれらは完全に修復されていた.
    結論として, 舌背粘膜は他部の粘膜と異なり固有層乳頭が発達した糸状乳頭を有しているが, 第 II 度熱傷をうけた口腔粘膜と微細血管構築が治癒状態となるには約 6 週を要することが明らかになった. 本研究によって中等度の口腔粘膜熱傷の詳細な組織修復と, これに貢献する微細血管構築の変化の相互関係が明らかにされた.
  • 奥村 明子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. g39-g40
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    顎関節は胎生期における間葉細胞から発生するもので, 組織改造が旺盛な器官である. また, アブミ前庭関節も同様な組織によって構成されているために, 卵円窓部にも組織改造, ときには病理的変化が発生しやすい領域といえる. 本研究ほアブミ前庭関節, 輪状靭帯および卵円窓の発育を解明し, さらに顎関節の発生およびその形態完成と成熟を比較した. さらに, 関節部の一次硝子軟骨と二次線維軟骨における弾性系線維の加齢変化について, 組織学的検索を行った.
    実験材料には, Slc-ICR 系マウスの胎生 13 日目から生後 28 日目までの各日齢についてそれぞれ 5 匹を用いた. 観察には顎関節部と錐体部とを一塊として摘出し, 1/2 Karnovsky 固定液で前固定, 1 % osmium tetroxide で後固定, 通法に従って alcohol 系列で脱水後, Epon 812 で包埋した. 光顕的には厚さ 1 %mu;m の連続準超薄切片を作製し, malachite green・toluidine blue・basic fuchsin 三重染色を施して検索を行った. 電顕的には各時期における顎関節部および耳小骨関節と卵円窓部の超薄切片に uranyl acetate・lead citrate 二重染色を施し, 日立 H-800 透過電子顕微鏡で観察, 撮影した.
    下顎突起軟骨は胎生 13 日目頃に間葉細胞から発生し, 以後軟骨内骨化によって顎関節方向に成長しながら発育していく. 顎関節は胎生 17 日目にその形成が開始され, 生後 1 週目に形態完成が認められた. 前歯部が咬合する時期 (生後 10 から 12 日目) になると, 関節軟骨は棚状配列の軟骨細胞構造が著明となり, 関節部にはコラーゲン線維および弾性線維が認められた. 第一臼歯が咬合する時期 (生後 21 から 23 日目)になると, 顎関節突起の棚状配列の各軟骨細胞層には非薄化がみられ, 樹状血管の分布が疎になり, 成熟期に移行する構造が認められた. 生後 4 週までの顎関節の形態は未熟で, 関節内にはエラウニン線維が束状を呈するコラーゲン線維中に混在しているが, 線維成分の加齢変化は認められなかった.
    卵円窓部は胎生 13 日目では陥没して薄くなり, その部の軟骨組織が耳小骨と中耳内の間葉細胞とに移行しているのが認められた. 胎生 17 日頃に入ると卵円窓部の軟骨はその連続性が失われ, アブミ骨と卵円窓壁面には線維結合の形成が認められた. 生後 0 日目から 5 日目におけるアブミ前庭関節には線維芽細胞が柵状に配列した輪状靭帯が形成され, その部のコラーゲン線維とエラウニン線維が関節部の軟骨基質に移行していた. 生後 1 日目では関節部に二次線維軟骨が出現し, 骨置換がみられた. 生後 1 週目以降では卵円窓部の関節軟骨における血管の分布は疎となり, 薄い軟骨組織が関節面にのみ残存し, 成熟期の組織像を呈していた. なお, 関節付近には介在層や関節腔の出現は認められなかった.
    一方, 耳小骨は顔面頭蓋における二次骨化の中心をもたない一次硝子軟骨からなるもので, 関節腔は生後 0 日目前後に出現し, 生後 5 日目に鼓室の含気化とともに成熟した状態がみられた. また, 関節包には多数の弾性線維が認められた.
    以上の結果より, 中耳部の単純関節の完成と成熟は早期に行われ, その時期は関節部の機能状態によって左右される. 硝子軟骨と線維軟骨の関節部における弾性系線維の成熟度は, 関節の成熟と機能に関係するものであるが, 耳小骨関節のものが最も早い. また, 形態的成熟を終えたアブミ前庭関節と未熟な顎関節のそれぞれにおける弾性系線維は, おもにエラウニン線維であることが明らかになった.
  • 寺野 敏之
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. g41-g42
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    顎矯正手術術式の中でも Le Fort I 型骨切り術はその適用範囲が広いことから, 近年よく用いられている. しかし, 本術式は骨切り後の上顎骨骨片への栄養血管である下行口蓋動脈が骨切り線上に存在し, 手術時に切断の危険性を伴うことからやや複雑な術式と考えられている. 事実, 術後の上顎骨骨片への血液供給不良の結果, 歯髄壊死, 広範囲の粘膜および上顎骨の壊死の報告もあることから, 本術式施行時における下行口蓋動脈の保存が血液供給路を保持するために重要なことと考えられてきた. しかし, 下行口蓋動脈からの血行が遮断されても本術式が成り立つとの報告もあり, 本術術式において, 下行口蓋動脈が切断された場合における上顎骨骨片への血行動態については不明瞭な点が多い.
    そこで, 本研究ではニホンザル (Macaca fuscata fuscata) 12 頭を用いて, 全身麻酔下に Le Fort I 型骨切り術を行い, 片側の下行口蓋動脈を結紮切断し, 術後の上顎骨骨片への血行路, さらには粘膜骨膜切開創部における微小血管吻合の回復状態について経時的に観察した. 実験方法は, 歯肉頬移行部上で上顎結節部から対側まで骨膜に達する弧状冠状切開を加え, 犬歯を除く各歯の歯根尖から約 5 mm 上方で上顎骨前壁および側壁に水平骨切りを行った. 上顎の可動性を確認後, 右側の下行口蓋動脈を結紮切断した. 止血確認後, 上顎骨を術前の位置に復位させ, ミニプレートにて固定した. 術後 3, 5, 7, および 10 日目に屠殺し, 両側総頸動脈より Ohta ら (1990) の方法に準じてアクリル樹脂を注入し, 鋳型標本を作製した. 口蓋部の血行路ならびに上顎前歯部の粘膜骨膜切開創部および骨切り部での微小血管吻合の新生機序について経時的に観察した.
    大口蓋動脈本幹の口径は, 術後 3 日目では切断側が非切断側よりも縮小していたが, 有意差は認められなかった. 一方, 上行口蓋動脈の枝と吻合している小口蓋動脈の口径は, 切断側において術後 3 日目より有意に非切断側に比較して拡大し, 術後 5 日目を頂点として以後左右差は減少した. 上顎前歯部の粘膜骨膜切開部と骨切り部の走査電顕所見では, 術後 5 日目で切開創断端部の既存血管から, 連鎖状の新生洞様血管が形成されていた. また骨切り部では, 骨断端部の骨膜から新生血管が形成されていた. 術後 10 日目で新生洞様血管はしだいに独立した管腔を呈し, 新生毛細血管へと整理されていた.
    以上の所見より, Le Fort I 型骨切り術において下行口蓋動脈を切断した場合の上顎骨骨片への血液供給路には, 小口蓋動脈と上行口蓋動脈との交通路が確認され, 術直後の上顎骨骨片への血液供給には上行口蓋動脈からの血行が重要な役割を果たしていることが示唆された. ゆえに, Le Fort I 型骨切り術施行時に下行口蓋動脈を損傷した場合, 上行口蓋動脈から上顎骨骨片への血行路を十分に考慮して手術を進めなければ, 上顎骨骨片に対して重大な虚血の合併症を招く恐れのあることが示唆された.
  • 土井 純子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 6 号 p. g43-g44
    発行日: 1993/12/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    最近, 顎変形症患者では顔貌の審美的改善への要求が高まっていることから, 術前に術後の顔貌予測を確実に行い, 患者への手術説明を行ったうえで, 手術術式の決定を行うことがインフォームドコンセントとして重要なことである. 従来著者は, これらの目的で側面頭部X線規格写真によるペーパーサージェリー, ビデオサージェリーを用いて行ってきたが, これらの方法だけでは顔貌の二次元的な予測しかできなかった. そこで, さらに顎・顔面歯列模型によるモデルサージェリーを組み合わせることにより三次元的に顔貌の輪郭およびオトガイ部の位置に関してほぼ予測が可能となってきだが, 口唇およびその周囲軟組織の側貌予測においては, やはり手術前後のセファロから求められた硬組織・軟組織移動率を基本として行われている. これらの移動率は骨切りにより三次元的に移動された顎骨に対しての軟組織の変化量を二次元的に評価したものであるため, 報告者により多少異なり, いまだ正確な移動率が求められていないのが現状である.
    そこで著者は, 正中矢状面で下顎の垂直的・水平的移動に対する口唇周囲の正確な軟組織変化量を求めることを目的として, 正常咬合者の女性 15 名を対象として, 非接触型三次元曲面形状計測装置を用いて顔貌軟組織を三次元的にまず計測した. 本研究では下顎の移動は, 予め咬合器上で作製されたバイトプレートにて下顎限界運動内で, 下方へは 4 mm まで, 前方へは 7 mm までの範囲内で 1 mm 間隔で下顎を移動させたときのそれぞれの口唇軟組織移動量を求めた. そしてその移動形式は, (1)中心咬合位から垂直下方に 4 mm まで, (2)中心咬合位から前下方 45° 方向に前方 4 mm, 下方 4 mm まで, (3)中心咬合位から下方に 2 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm まで, (4)中心咬合位から下方に 3 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm まで, (5)中心咬合位から下方に 4 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm までの 5 通りとした. 下顎の移動に伴った個々の顔貌軟組織の三次元データを数値解析ソフトウェア上で, フィッティングプログラムを用いて移動前後の顔貌の非移動部を三次元的に重ね合わせたのち, 正中矢状面の口唇軟組織上に設けた 21 ポイントの点の移動を一次回帰直線として求め, 有意差検定を行った.
    以上の下顎の移動形式と口唇軟組織の移動量を比較検討した結果, 下顎の垂直下方への移動に対しては軟組織の伸展には許容があることがわかった. また, 下顎の前方への移動に対しては, ロ裂部より上方では硬組織・軟組織移動率が 1 より小さかったが, 下方ではその移動率が 1 前後の係数であった. しかも, 本装置により硬組織・軟組織移動率が 1 以上を示す部位が多々見受けられることが明らかとなり, 従来の報告よりも正確な硬組織・軟組織移動率を求められたことにより, 外科的矯正治療施行に対してより正確な治療計画の立案に寄与することが示唆された.
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