歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
58 巻, 1 号
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
  • 額田 和門, 柿本 和俊, 小正 裕, 権田 悦通
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    チタン系補綴物の色彩, 硬度および耐摩耗性の改善のために, 窒素ガス雰囲気下でパルスおよび連続発振レーザをチタン圧延板と鋳造体表面に照射して, 生じた窒化層に対するレーザ発振様式, ファイバー導光路, レーザパワー, 焦点はずし距離および試料移動速度の影響について検討した. 実験には, 純チタン圧延板と本講座で試作した熱膨張抑制埋没材(シリカ系)と市販のチタベストCB(ノンシリカ系)で作製した鋳造体を使用した. 実験装置には, パルス発振および連続発振レーザの2種類のYAGレーザ加工機を使用した. また, 導光路として, パルス発振レーザでは直径0.8mmのステップインデクス(SI)型およびグレーテッドインデクス(GI)型光ファイバーの2種類, 連続発振レーザではGI型光ファイバーを使用し, ともに窒素ガス雰囲気でレーザの照射を行った. その後, レーザ照射部表面の観察, 断面の金属組織観察, 表層の元素分析を行った.
     レーザ照射の溶融部は黄金色化した. チタンの窒化物は, 圧延板と鋳造体のどちらにも形成され, レーザによる表面窒化が可能であった. レーザ照射部は, 表層にデントライト状の窒化層が生成し, その下層にNを多く固溶したα-Ti層が生成した. 溶融部中央の窒化層は, 連続発振レーザ照射のほうがパルス発振レーザ照射よりも厚かった. レーザをSIファイバーで伝送するよりも, GIファイバーで伝送するほうが厚い窒化層を形成した. 窒化層は, 連続発振レーザ照射の場合, 試料の移動速度を遅くすると窒化層の幅が広くなり, 厚さも増加した. 鋳造体の場合, 表層に存在した元素は窒化層の下層の溶融部内に拡散した.
     以上のことから, チタン系補綴物にレーザを用いて窒化する場合, 諸条件によって窒化物, 窒化層の形態が変化することが明らかになった.
  • 有本 博英
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. 17-30
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 咬合力発現部位の位置的な違いがラット顎顔面の成長発育に影響を及ぼすかどうか調べることである. 204匹の3週齢F344/Jclラットを無作為に3群に分けた. A群(n=72)は前方咬合群として上顎両側第一臼歯部で1mm咬合挙上し, P群(n=72)は第三臼歯部で咬合挙上, C群(n=60)は対照群とした. 咬合挙上は第三臼歯の萌出が完了する5週齢時で行い, その後粉末食で飼育した. 7, 9, 12および15週齢時に, 顎顔面形態および咬筋・側頭筋の乾燥重量を計測し, 拡張チューキー検定を用いて統計学的に各群間で比較した. 頭部エックス線規格写真の計測の結果, 蝶形骨はA群では前方に, P群では後方に回転しており(P<0.01), 脳頭蓋底に対する上部内臓頭蓋の成長方向がA群では前下方に, P群では前上方に回転していた(P<0.001). また, 下顎枝および下顎角はA群では下方に, P群では上方に成長していた(P<0.001). 脳頭蓋の成長量・方向に大きな違いはみられなかった. これらの変化の結果, A群はhypodivergent typeの, P群はhyperdivergent typeの顎顔面形態となった. しかしながら, 筋乾燥重量に有意差はなかった. 以上より, 成長期における咬合力発現部位の違いがラット顔面の回転成長の方向を変化させることが明らかとなり, それは顎関節部機能圧によるものと思われた. このことは力学的な意味での咬合管理の重要性を示唆するものである.
  • 額田 和門
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. 31-43
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    純チタンは補綴物としての機械的性質が十分とはいえず, 鋳造時には, 反応層が形成される. その対応に, YAGレーザによる表面窒化を試みて, 窒化層の形成を確認した.
     一方, イオンプレーティングや窒素雰囲気でのファーネス加熱による表面改質方法が補綴物に応用され始めているので, レーザ窒化法とこれらの窒化法を比較検討した.
     実験には, 純チタン圧延板と純チタン鋳造体ならびにそれぞれの窒化した試料を用いた. レーザ窒化は, 連続発振YAGレーザ加工機を用いて, 窒素雰囲気下で行った. イオンプレーティングおよびファーネス加熱窒化は, それぞれ専門業者に, 補綴物に行われている条件で依頼した. そして, 以下の結果を得た.
     X線回折法による結晶構造解析によって, レーザ窒化とイオンプレーティングではTiNが, ファーネス加熱窒化ではTi2Nが同定でき, 窒化物の生成が確認された. 表面の電子顕微鏡観察で, レーザ窒化には平坦な部分と粗な部分がみられたが, イオンプレーティングとファーネス加熱窒化は非窒化試料とほぼ同様であった. 表面あらさの測定では, レーザ窒化が最も粗く, イオンプレーティングとファーネス加熱窒化では窒化による変化はなかった. 金属組織観察および窒化層の厚さ測定では, レーザ窒化では, 100μm以上のTiN層, TiN-Ti混合溶融部, 熱影響層および母材結晶粒がみられ, イオンプレーティングでは, 1.3μmのTiN層と母材結晶粒が認められ, また, ファーネス加熱窒化では, 0.7μmの窒化層と粗大化結晶粒が観察された. 3点曲げによる割れ発生状況と窒化層の密着性の観察では, 窒化層にいずれも割れが発生した. 硬度測定では, いずれの試料も, 窒化後に硬度が高くなり, レーザ窒化試料の硬化が最も著しかった. 耐摩耗性は, レーザ窒化試料での向上が最も大きかった.
  • 三輪 佳子
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. 44-56
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    咀嚼力における食品差を解明する目的でヒトの天然歯に超小型の三分力計を組み込み, 三次元的な咀嚼力を直接観察した. 被検食品は6食品, すなわちビーフジャーキー, ピーナッツ, りんご, かまぼこ, カステラ, チーズとした. 下顎第一大臼歯髄室内に咀嚼力測定用の三分力計を組み込み, 上部に咬合面をとりつけ, 同部で被検食品を咀嚼させ同時に作業側咬筋筋電図を記録し分析した結果以下の結論を得た.
     1.各被検食品の嚥下に至るまでの咀嚼回数, 咀嚼力合力力積, 作業側咬筋筋電図積分値を観察した. ビーフジャーキーで咀嚼力合力が他の食品より際だって大きな値であったが咬筋筋電図積分値では咀嚼力ほども大きな差がなかった.
     2.咀嚼進行段階を5期に分けて咀嚼力の合力と咬筋筋電図の推移を検討した. その結果, 両者にはそれぞれの被検食品で特徴ある咀嚼の進行に伴うその物理性状の変化が反映されていた.
     3.咀嚼力の合力力積値と作業側咬筋筋電図積分値の相関係数の値から, 被検食品は特徴ある差を示し, 3群に分けることができた. また, 回帰直線の傾きにも食品差が観察された.
     4.咀嚼力合力の単位時間当たりの力積値はビーフジャーキー, ピーナッツの2つの硬性食品と, りんご, かまぼこ, カステラ, チーズの乾性食品の2極化した発現様相を示したが, 対応する咬筋筋電図の単位時間当たりの積分値は同じような傾向を示さなかった.
     5.食品咀嚼時の垂直力の力積に対する側方力の発現様相を比較すると, 絶対値では垂直力で大きな値を示すビーフジャーキーやピーナッツは側方力でも大きな値を示したが, 比率にすると側方力の発現に大きな食品差はみられなかった.
     6.任意の咬みしめを行わせた結果, 側方力は垂直力に追随するような増大をみせなかった. またこのときの力積を比率で示すと各被検者とも約1/5の小さな値であった.
  • 森川 充康
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. 57-67
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    幼若ラットの片側頭蓋・上顎骨に対する成長抑制が下顎頭軟骨におよぼす影響を検索するため, 組織学的ならびに形態計測学的手法を用いて本研究を行った.
     実験動物には, 5日齢の雄性Wistar系ラット80匹を用いた. エーテル吸入麻酔下にてラット頭部皮膚に正中切開を行い, 骨膜上で剥離したのち, ラット頭部形態に合わせて扇形に屈曲した0.41×0.41mmの矯正線を, 左側の眼窩下裂と後頭骨間に固定し, 皮膚縫合を行った. 4, 6, 10および15週齢において, ラットを麻酔下にて断頭し顎関節の組織切片を作製し, ヘマトキシリン・エオジン染色, およびトルイジンブルー染色による組織学的検索を行った. また, パーソナルコンピュータに同組織切片の画像を取り込み, 下顎頭軟骨層の三次元立体構築を行ったのち, 画像処理し下顎頭軟骨層厚径および軟骨細胞密度について計測を行った.
     その結果, 1)矯正線を固定した左側への頭蓋・顎顔面の非対称変形が認められた. 2)左側(偏位側)下顎頭中央部の軟骨層厚径は4および6週齢で対照群に比較して有意に大きかった. また, 同部のintermediate zoneおよび, hypertrophic zoneの厚径も同様に大きかった. 3)右側(非偏位側)では, 下顎頭後方部の軟骨層厚径は, 4および6週齢で対照群に比較して有意に大きかった. また, 同部のhypertrophic zoneの厚径も大きかった. 4)非偏位側下顎頭後方部と偏位側下顎頭中央部では, 10および15週齢においても軟骨基質のメタクロマジアが広領域で認められた.
     以上のことから, 幼若ラットの片側頭蓋・上顎骨に対する成長抑制の結果, 頭蓋・顎顔面部の成長が, 左側で矢状方向に抑制されることにより, 下顎頭の成長が上方に促進された. また, 頭蓋・顎顔面部が左側に偏位することにより顎口腔機能が変化し, 右側では, 下顎頭の成長が後方に促進されることが示唆された.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 龍田 宇内
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g39-g40
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    顎変形症患者の術前矯正治療開始時および外科的矯正手術時における治療計画を行うにあたって, 患者の顔貌を客観的に把握し, 手術術式を選択する目的で顔面模型が作製され, 診断の補助として用いられている. しかし, 印象法によって作製された顔面模型は印象時の圧迫の影響による変形で必ずしも生体のあるがままの形態を表現してはいないと考えられている. ところが, 生体を非接触状態で計測を行うことが困難であったために, その実態は明らかでない. 一方, 産業界では非接触の形状計測が実用段階に入ってきており, 今回, 顔面模型の作製過程における印象採得時の変形を検討するとともに非接触三次元曲面形状計測の有する意義を明確にするために, 被験者6名の顔面模型を採得し, 模型と生体それぞれを非接触型三次元曲面形状計測装置を用いて三次元的に形態計測を行った. 得られた両者の三次元データのうち, 一方をパーソナルコンピュータ上で最小自乗法を用いて, 最もフィットする位置ヘ座標変換し, 6対のデータを評価した. 評価方法は被験者の正貌に対して, 正中, 左右内眼角, 左右瞳孔, 左右外眼角および左右下顎角を通る9本の垂直線(Y軸方向)と鼻下点(Sn), 上赤唇縁(Ls), 上下口唇接触点(Stm), 下赤唇縁(Li), オトガイ唇溝(SI)およびポゴニオン(Pog)を通る6本の水平線(X軸方向)を引き, そのおのおのの交点54箇所を計測点として接触距離を計算し, 被験者6名の平均値と標準偏差を算出した. また, コンピュータグラフィックを用いて接触距離の大きさに応じて16色の疑似カラー表示で顔面部全体における接触距離の差異を表現した. その結果, 右側下顎角を通るY軸と鼻下点を通るX軸との交点, 右側瞳孔を通るY軸とPogを通るX軸との交点, 右側内眼角を通るY軸とSn, Ls, Stm, Li, Pogを通るX軸との各交点, 正中線とSIを通るX軸との交点, 左側内眼角を通るY軸とSn, Ls, Stmを通るX軸との各交点で圧迫を示す値が得られた. これは圧迫を受けている部位は左右鼻翼から下顎角に向けて走る部分であることを示している. 以上のことから, 印象法による顔面模型では皮下組織の厚い部分での変形が大きく, この分野での用途においては将来的には非接触三次元曲面形状計測により作製された顔面模型に置き換えることがより正確に形態を把握するうえで望ましいことが示唆された.
  • 井口 利彦
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g41-g42
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    近年, 温熱療法は悪性腫瘍の治療法の一つとして確立され, 放射線療法, 化学療法との集学的治療も一般的になってきた. さらに治療効果を高める手段として血流を修飾する薬剤との併用療法も試みられている. 腫瘍血流量に関しては, エタノールの局注にてそれを減少させるとの報告があり, 温熱療法と併用すれば抗腫瘍効果の増大が期待される. そこで, 著者はエタノール局注を併用した温熱療法の抗腫瘍効果に関する報告が皆無である点に着眼し, ヒト口腔癌ヌードマウス移植系における本療法の価値について検討を行った. 実験材料および方法 実験腫瘍としてはKB細胞(poorly differentiated epidermoid carcinoma)を用いた. 実験動物は4週齢の雌のヌードマウス(BALB/cA)で, その大腿皮下に固形腫瘍を挿入移植し, 移植20日後, 腫瘍長径が約8mm前後になったものを1群7匹として実験に供した. エタノールは99.5v/v%エチルアルコールを用い, 固形腫瘍に局注投与した. 加温はデジタル恒温槽を用いヌードマウスを全身麻酔後, 著者が作製した固定具に入れ, 腫瘍の近心側が水面下約1cmになるようにテープで固定し, 局所加温を行った. 抗腫瘍効果の判定は, 担癌無治療群を対照群とし, 各群の相対平均腫瘍重量比の比較で行った. 方法としては, まず腫瘍の短径(a), 長径(b)をノギスで測定し, 推定腫瘍重量[W(mg)=(a^2×b)/2]を得た. ついで各群の相対平均腫瘍重量比(relative mean tumor weights, RWh=Wn/Wo, day nとday 0)を算出した. また, 実験開始後10および20日目の各群2匹ずつの腫瘍組織を採取し, 病理組織学的検討を行った. エタノール局注併用局所温熱療法に先だって, エタノール, 加温それぞれの単独群について実験を行った. エタノールについては推定腫瘍重量あたり0.1, 0.2および0.3ml/gを, 加温については41, 43および45℃, 30分間加温を3日間隔で3回行い, その抗腫瘍効果を検討した. その結果45℃単独群では腫瘍が完全に消失した. 以上の単独群の実験結果から, 併用群は, エタノール0.1, 0.2あるいは0.3ml/g, 加温41あるいは43℃, 30分間加温のそれぞれを組み合わせ, 3日間隔で3回行うこととした. なお, 併用群におけるエタノールの投与は加温1時間前に行った. 併用効果の判定は, 実験開始後20日目の相対腫瘍重量によるT/C比(T/C of the relative mean tumor weights, T_<RW>/C_<RW>, T: 治療群, C: 対照群)の値を用い, 併用群のT/C値と, 各単独群のT/C値の積を比較する方法を採った. また, 加温単独群と併用群のRW_<20>値の比により, エタノールによる加温温度別増感率を算定した. 実験結果 1.エタノールは単独局注でも抗腫瘍効果を示し, その効果は壊死性であった. 2.エタノール局注併用局所温熱療法は相乗効果を示し, その効果は壊死性であった. 3.エタノール0.3ml/g局注で, 温熱療法による抗腫瘍効果は, 41℃加温に比べ43℃加温で約5.8倍に増強した. 以上の結果から, エタノール局注併用局所温熱療法は抗腫瘍効果が高い治療法と考えられた.
  • 村上 斎
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g43-g44
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    チタン製スクリュータイプインプラントのインプラント体の形態と骨形成の関係を知る目的で, 骨と直接に接するインプラントのフィクスチャーに着目し, より臨床的な条件下で実験動物にインプラント体の埋入手術を行い, 非機能下で, フィクスチャーの形態が術後のインプラント周囲組織治癒過程における微細血管構築と骨形成の一連の変化にどのように関わるかを検索した. 実験材料および方法 実験材料には, ノーベルファルマ社製直径3.75mm×長さ10mmのBranemark implant (以下フィクスチャーと呼ぶ.)を使用した. 実験動物には, 3〜5歳で, 歯の欠損や口腔内に異常のない健康なニホンザル(Macaca fuscata)8頭を用いた. フィクスチャーは, 実験動物を全身麻酔下にて片側下顎第二小臼歯, 第一および第二大臼歯を抜去し, 抜歯後約3か月間, 抜歯創の治癒を待ったのち, 通法に従って植土し, 両び弁を閉鎖し縫合を行った. フィクスチャー埋入後の実験期間は, 2, 4, 8, および12週とした. 各実験期間に達した実験動物を脱血死させ, 両側総領動脈からOhtaらの方法に従ってアクリル樹脂注入を行い, 樹脂硬化後, 実験部位をフィクスチャーを含んだ一塊のブロックとして切り出し, 軟組織を溶解除去後, 水洗・乾燥・金蒸着を施した血管鋳型標本を走査電子顕微鏡にて観察した. また, 非脱灰研磨組織標本を作製し, 塩基性フクシン・メチレンブルー重染色を施し光学顕微鏡で観察した. 結果および考察 フィクスチャーをフレンジ部, 体部, 先端部に分け, 先端部をさらに縦ノッチ部とホール部に分けて観察を行い, 以下の結果を得た. 1. フィクスチャー周囲の新生骨形成は体部, フレンジ部に比べて先端部がやや遅れる傾向であった. また, 先端部では, 縦ノッチ部に比べてホールの新生骨形成は著しく遅れていた. 2. フレンジ部では, 初期には炎症に伴う血管像が観察された. 新生骨の形成は体部よりもやや遅れるが, フィクスチャーの初期固定効果のあることが明らかになった. 3. 体部では, ネジの走行に沿って新生血管が形成され, その後新生骨がフィクスチャー表面に接するように形成された. このことからフィクスチャーのネジ形態は骨と密接に接合し, 咬合圧を受けとめるのに有利な形態であることが示唆された. 4. 先端部では, 2週目から底部において周囲に新生骨形成が始まり, 4週以降では縦ノッチ部も新生骨によって満たされていた. このことから, 縦ノッチはフィクスチャーの初期固定に重要な役割を果たしていると考えられた. 一方, ホール部では12週でも十分な新生骨形成が観察されなかった. このことから, ホール部は, 長期にわたってはフィクスチャーの回転防止に寄与する可能性は否定できないものの, 初期にはそのような役割は果たし得ないと思われる. 以上の結果から, Brdnemark implantのようなスクリュータイプのフィクスチャーは, 骨と緊密に接合し, その結果, 咬合力を受けとめ, かつ, 回転に抵抗するために合目的的な形態を有していることが示唆された.
  • 湯 兆舜
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g45-g46
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    神経切断後の組織学的変化に関する研究は多いが, 微細血管構築の変化についての検索はみられない. 本研究は片側舌下神経を後顎下部で切断し, 切断直後から7週にいたるまで舌内および舌背に現われる諸変化を経日的に検索したものである. 検索の指標は, 舌背表面の性状, 舌内筋と間質の組織学的変化, 舌背とくに糸状乳頭内の毛細血管ループの変化, さらにlaser Doppler Flowmetry (LDF)による舌背表面の血流量の変化とした. 実験材料および方法 本実験にはWistar系ラットを用いた. 実験群のラットは左側後顎下部で舌下神経を露出させて同定確認し, 長さ約3mm切断除去した. 神経切断を行った動物は3〜5日, 1〜7週および66週それぞれにおいて安楽死させたのちプラスチック微細血管注入法により, 上行大動脈からアクリル樹脂を注入して舌の微細血管鋳型を作製, またKarnovsky液の灌流固定後, 舌背粘膜の標本を作製し, それぞれ走査電顕で観察し, 一方, 各期間について舌を前頭面を通る組織切片として光顕観察した. 同時に実験群についてはLDFによって舌背粘膜の血流量を測定した. 実験結果 形態学的変化として神経切断後, 早期に浮腫が出現して1週間以内で最も著明となる. 同時に筋線維の退行性変化(萎縮)もみられ, 2〜3週では実験側の舌背粘膜表面に陥凹が生じ, 舌外側縁は波状面となっていた. また舌内筋束は断絶して錯乱していた. 4〜5週では実験側舌背に浮腫がみられ淡青色となり, また舌正中溝は非実験側へ膨出し, また舌尖は矢状方向に伸長していた. 糸状乳頭は角化度が減少し, 乳頭間距離がやや拡大していた. 6〜7週ではこのような変化がやや進行し, まれに実験側舌外側縁に軽度の潰瘍形成が認められた. 糸状乳頭内の毛細血管ループは, 神経切断後3日で, 最初のその先端に捻れが現われ, それがループ全体に及び, これに膨隆, coiling, 蛇行が加わり, その後はループ間の架橋吻合も加わって形態変化が経週的に進行し, 6〜7週で形態変化が最も多様となり, 毛細血管ループが糸球体様を呈するものも認めた, 66週を経たものでもループ形態の複雑化には回復の兆候を認めなかった. LDF による舌背粘膜表面の血流量は対照群では326.8±89.3unit/mm^2/sec, 実験群では3日で382.4±79.2unit/mm^2/secと, わずかに増加を示したのち, 次第に減少し, 3週で316.5±65.9unit/mm^2/secと最低計測値を示し, 5週で321.6±71.5unit/mm^2/secと対照群のレベルに回復していたが, 血流量減少に対して毛細血管ループ形態の複雑化は増加していた. 考察および結論 ほぼ遠心性神経線維で構成されている舌下神経の切断後は, 舌筋線維の萎縮をもたらし, また血管運動神経線維の切断によって早期に舌背に浮腫が現われ, 未梢血管の血流の制御が喪失し, その変化が糸状乳頭固有層内の毛細血管ループの無秩序かつ複雑な形態変化をきたし, 固有層の血流も変化する. このような変化は長期間を経ても回復されないままであることが判明した.
  • 江原 雄二
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g47-g48
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    生体不活性材の多孔質アルミナセラミック人工歯根は単結晶アルミナをコアーとし, その外周に多孔質の多結晶アルミナが接着されている. 多孔質部外面に開く無数のopen poresは, 新生組織, とくに新生骨侵入によるインターロッキングを期待して, より強固な植土を求めて考案された. 著者らは本材を実験的に埴土し, 非機能状況下でインプラント体に接近してopen pores内に侵入する骨組織と微細血管構築の一連の変化を走査電顕で観察した. 材料および方法 成ニホンザルを用い, 両側下顎臼歯抜歯後60日, シリンダー型多孔質アルミナセラミック人工歯根を埋入あるいは突出植土した. 手術した動物を植土後5日, 1, 2, 3, 4, 9, 12週ごとで脱血安楽死させ, 両側総頸動脈からMMA微細血管注入を行い, 軟組織のみを処理し, インプラント体を中心とした骨, 微細血管鋳型標本を作製して走査電顕で, またインプラントを含めた試料を未脱灰のまま樹脂包埋し, 超精密研磨装置によって研磨標本として光顕で観察した. 実験結果 植土5日ではインプラント体外周の骨髄腔の既存血管から多孔質部界面で洞様血管形成が開始されていたが, 骨新生はなく, また両植土形式に差がなかった. 1週ではインプラント体外周では新生洞様血管が伸展・増生し, 多孔質部界面周囲で叢形成を, また既存骨小柱端に一次骨小柱(線維骨)の形成を認めた. この叢から伸展した新生洞様毛細血管はpore口に達していたが, 植土時に圧入された骨削物に侵入を阻害されていた. 2週ではpore内へ新生血管の侵入をみたが, 新生骨は大きい pore口のみに侵入し, pore内では毛細血管は糸球体状であった. 3週ではインプラント体外周の骨髄腔の幼若洞様血管はほとんど整理されて毛細血管となり, 新生骨小柱は肥厚, 密性化して髄腔を充塞していた. 多孔質部外面では骨小柱が形成され, 一部はたがいに密接し, 新生骨がpore口を充塞し始めていた. Pore内に成熟した毛細血管と針状の線維骨を認めた. 4週ではインプラント体界面周囲は密性化し癒合した新生骨小柱で囲まれていた. 埋入植立では新生骨が大きいpore口に深く侵入し, pore腔を充塞しつつあった. 突出埴土では, 多結晶部界面とpore口には骨新生を認めたが, 体部上半では大きいpore口のpore内には新生洞様毛細血管のみを認め, 新生骨は認められなかった. 9週では3週でみられた新生骨小柱は癒合して, 同界面の全周を取り囲む厚い一枚のインプラント槽骨(筒)を形成し, 底部には厚い新生骨板が密接していた. 多孔質部のpore同士が連結している腔内には, その内形に合致した密性化した骨が充塞し, 外方では槽骨と連続してインターロッキング状態を呈していた. Pore内の骨組織表面と同壁界面との間隙および同骨内には毛細血管が認められた. 12週の槽骨外周では一次骨小柱は整理され成熟骨小柱で髄腔が形成され, すでに髄腔の血管構築像を呈していた. 底部の槽骨は小板状の新生骨が重積し, 放射状配列の血管通路を有する曲面篩板となっていた. 結論 多孔質外面から複雑なpore内へ骨と微細血管が侵入するには日時を必要とし, pore迷路内での両要素には不統一像がみられた. 上部構造物の装着には9週〜12週の骨成熟期が適切と考えられるが, 多孔質部の骨組織によるインターロッキングの完成は, pore内への新生骨侵入開始からさらに6週間を要することが判明した. したがって, この付加期間を無視した上部構造の装着はマイクロフラクチャーの一因ともなり留意すべきであるといえる.
  • 桝 充弘
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g49-g50
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    唾液腺導管系の腺外導管(主導管)はただ腺房で分泌された一次唾液を口腔内に運び出すだけでなく, 能動的にイオン交換を行い低張性唾液を形成する. 主導管の上皮細胞の形態と構成およびその周囲に分布している毛細血管の形態と構築が, 最終唾液成分の形成に重要な役割を果たしていると考えられている. 本研究はネコ耳下腺管導管上皮細胞の微細形態と微細血管構築について4か所(集合導管部, 起始部, 浅在部, 深在部)に分けて観察した. 材料および方法 本研究には成ネコを用い, 両側総頸動脈から微細血管鋳型作製法によってアクリル・プラスチックを注入した. 注入した頭部は軟組織を除去し, 金蒸着を行ったのち, 走査電顕で観察した. また他の個体は2.5%グルタールアルデヒド溶液で灌流固定を行い, 凍結割断標本としあるいはSpurr's resinに包埋して透過電顕で観察した. 結果 導管上皮細胞は偽重層上皮(多列上皮)の形態を呈し, 円柱上皮細胞, 明調細胞, 基底細胞の3種類の細胞からなっていた. 円柱上皮細胞tall columnar cellは上皮細胞の80%以上を占めており, 深在部では2または3層の重層立方上皮となって頬粘膜の重層偏平上皮に移行していた. 細胞の自由面には背の高い微絨毛を認め, 隣接細胞との接着装置は発達した複雑な指状嵌合を呈していた. 明調細胞light cellは, 集合導管部と起始部では円柱上皮細胞間に約10%介在しているが, 開口方向に向かって減少し, 深在部では認められなかった. 基底細胞basal cellは耳下腺管壁の基底側に存在し, 細胞の高さは上皮層のほぼ基底側1/3であった. 耳下腺管枝は耳下腺管全体を囲むように内, 外2層の血管鞘を形成していた. 外血管鞘は細動脈と細静脈, 内血管鞘は毛細血管網でそれぞれ構成されていた. 外血管鞘では細動脈が耳下腺管枝から分節的に派出され, 細動脈間の吻合は浅在部では多数認められるが, 深在部では認められなかった. 毛細血管からの血流は直接口径の太い細静脈へ流入し, 隣接のものと吻合を繰り返し, 耳下腺管全体を包む静脈網を形成していた. 内血管鞘では毛細血管網の網目は部位による相違がみられ, 集合導管と起始部では類円形を呈し, 浅在部では耳下腺管の長軸方向に長い楕円形, 深在部ではハシゴ状を呈し, 耳下腺管乳頭では毛細血管は遊離端に沿って不規則で蛇行したループを形成し, 頬粘膜上皮下毛細血管に移行していた. 考察と結論 ネコ耳下腺の集合導管と耳下腺管の導管上皮細胞の構成はラットの耳下腺管とまったく異なっており, 偽重層上皮の形態を示していた. ネコの細胞間の指状嵌合は特有の形態を示していた. 毛細血管網形態の部位差は, 集合導管と起始部では物質輸送に関連があるが, 浅在部では毛細血管の分布密度が低下し, 同時に物質輸送も低下していると考えられる. また, 深在部ではハシゴ状を呈し, はとんど物質輸送には関与していないものと考える.
  • 西浦 健
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g51-g52
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    下顎位は, 中枢神経ならびに末梢神経の協調的な働きによって, 顎関節, 咀嚼筋をはじめとする頭領部の筋群および咬合などの顎口腔系構成要素が制御されて決定される. 外側翼突筋は顎関節部に付着することから, 顎関節顆頭の運動に直接関与するといわれ, 従来から解剖学的および生理学的検討が行われてきた. とくに近年, 外側翼突筋下頭筋活動についての研究から, その機能的意義が報告されている. しかし, 従来の本筋の筋電図学的研究は運動時における観察が大部分で, 下顎位の変化に伴う筋活動を比較検討したものは少なく, さらに従来の研究では下顎位を切歯点でとらえており, 下顎変位時における顆頭点の位置と筋活動の関係について報告したものはみあたらない. そこで, 本研究は, 下顎位の保持に重要な役割を果たすと考えられる外側翼突筋下頭を対象として, 下顎位を実験的に水平および垂直方向に変化させ, 顆頭点および切歯点の移動量と各下顎位に対応する外側翼突筋下頭の筋活動との関連を定量的に分析することによって, 下顎位の保持にかかわる外側翼突筋下頭の働きを明らかにすることを目的とした. 被験者は, 個性正常咬合を有し顎口腔系に自覚的および他覚的に異常を認めない男性5名である. 顆頭点での下顎位の測定は, 顆頭部外側に設置した近赤外線発光ダイオード(LED)からの信号を半導体位置センサ(PSD)を用いて検出することによって行った. 切歯点での下顎位の測定には, 下顎運動描記装置MKG K6システムを用いた. 実験の対象となる被験筋は, 右側外側翼突筋下頭で, 筋電図の誘導は同心型針電極を用い, 口内法で行った. 実験は, すべてシールドルーム内で行い, 被験者に以下の条件で下顎を保持させた. 実験1: 前方運動路, 対側側方運動路および習慣的開閉口路に沿って段階的に下顎を数秒間保持させた. 実験2: 咬頭嵌合位を基準として下顎を任意に変位させて, それぞれの下顎位で数秒間保持させた. なお, 下顎位の保持中は, 被験者に可及的に咬みしめを行わないように指示した. EMG波形ならびに下顎位のPSDおよびMKG波形は, デジタル変換を行い, パーソナルコンピュータに取り込み, 分析を行った. その結果, 以下のことが明らかとなった. 1.前方運動路, 対側側方運動路および習慣的開閉口運動路に沿って段階的に下顎位を保持したとき, 顆頭点ならびに切歯点の移動量が増加するに従って, 外側翼突筋下頭筋活動量は1%の危険率で有意な上昇を示した. 2.移動量増加に伴う外側翼突筋下頭筋活動量の上昇傾向は, 運動路間で比較すると顆頭点では有意な差は認められなかった. 3.咬頭嵌合位を基準として下顎位を保持させたところ, 下顎が変位しているにもかかわらず外側翼突筋下頭に有意な活動が認められない範囲が存在した. その範囲は, 顆頭点では咬頭嵌合位よりも前方に1.25mm, 下方に0.96mm, 移動量は1.20mmであった. 以上の結果から, 下顎保持時の外側翼突筋下頭の筋活動は運動の種類に影響を受けず, その下顎位での顆頭点移動量と密接な関係をもつことが明らかとなった.
  • 川人 照美
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 1 号 p. g53-g54
    発行日: 1995/02/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    学生の窩洞形成実習の教育方法を確立するため, これまで基礎的研究を行ってきたが, 新たに技能訓練, 動作の分析および周辺器材の評価も可能としたシミュレータを開発し, これを用いて歯の切削時のリアルタイムの手指の動きおよび歯に加わる力のべクトルを中心とした分析を行い, その結果を基にした学生教育の切削用シミュレーションシステムの確立を試みた. 今回の研究ではそのためのシミュレータの開発と切削に関する基本データを蓄積し分析することを主な目的とし, 窩洞形成時のハンドピースのコントロールと切削荷重についての研究を行った. 本実験のため, 術者が常に一定のHome Operating Postureをとれるようにファントムヘッドと術者の座る椅子を一体化したファントム固定装置を作製し, 測定装置として, 窩洞形成時のバーの位置を測定する三次元位置測定装置, ハンドピースの把持力を測定する把持力測定装置, および被削歯に加わる荷重を三次元的に測定できる切削荷重測定装置を組み込み, 切削用シミュレータを作製した. このシミュレータを用い, 3名の術者が鏡視下で切削実験を行った. 切削用人工歯は, 従来より当教室で使用している平滑な咬合面に十字形を印記した実験用人工歯A2-94 (ニッシン)を用いた. 切削部位は術者間のばらつきが比較的少ないと報告されている上顎右側第一大臼歯とした. 切削方法は切削方向による傾向をみるため人工歯のガイドライン内を遠心より近心, 近心より遠心, 舌側より頬側, 頬側より舌側方向に20秒以内に各5本ずつ行うこととした. 第1指から第3指までの各指の把持圧, 切削荷重の経時的な値および切削に要した時間を求め, 分析を行い, 以下の結論を得た. 1.被削歯に加わる荷重は, Thrust方向への切削時, すなわちインスツルメント挿入時, 歯軸方向には複数のピークおよび微細な変動が認められ, 力のコントロールがなされていることがわかった. また, Radial方向すなわち近遠心, 頬舌方向への切削は, 単なる直線的な運動にもかかわらず, 被削歯に対する荷重はつねに三次元的方向に加わることが確認された. 2.インスツルメント挿入時のThrust方向への動きは第2指によりコントロールされていることが示唆された. 3.第3指をレストにすると頬舌的な動きをするとき, 第3指の把持力が不安定になることが確認された. 4.インスツルメントの頬舌側方向への動きはレストを軸に回転運動がなされている考えられるが, 時には平行移動も行われているよう推測され, その差異の確認はできなかった. 5.窩洞形成時の外形のコントロールは視覚に頼るところが大きかったが, 切削時の抵抗に対してインスツルメントを定位置に保つなどの微妙な力のコントロールは手指感覚である触覚および深部感覚からのフィードバックによる情報に頼っていることが示唆された. 6.今回開発した切削訓練用シミュレータを用いることにより窩洞形成時のハンドピースのコントロールについて多角的に分析できた. この結果より本シミュレータは研究用および教育用のシミュレータとして有効であることが示唆された.
feedback
Top