歯科医学
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58 巻, 4 号
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  • 奥田 昌義, 前田 照太
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 251-264
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    歯の接触のない連続開閉口運動の最閉口点(CP)が, どのような下顎位を示すか, またその下顎位がどのような要因で変動するかを明らかにする目的で, 開口距離, 開閉口速度, 姿勢などを変えて歯の接触のある開閉口運動(タッピングポイント, TP)と比較し, またその再現性についても検討した. 顎運動の記録は, MKG K6ダイアグノースティックシステムを用い, 切歯点運動のアナログデータをシグナルプロセッサ 7T17にてAD変換し, 咬頭嵌合位を基準として, vertical 曲線からみた開閉口運動の最閉口点の三次元的位置を計測した. 各条件がTPおよびCPの前後的側力的な位置に及ぼす影響を統計的に分析し, 以下の結果を得た.
     CPはTPより変動が大きく, CPとTPの変動には正の相関が認められた. 開閉口速度が速くなるとCPは有意に後方に移動し, 開口距離が大きくなるにつれ, 側方への変動が有意に増加した. 姿勢の影響をみると, CPは直立座位が最も安定した. 45°傾斜位, 仰臥位と, 上体が後方に倒れるに従い, CPは前方に移動する傾向があった. とくに開口距離を増加すれば, この傾向が増強された. このことから外側翼突筋の姿勢に対する関与が推察された.
     自覚的にはなんら異常を訴えていないが, 咬頭嵌合位が不安定であるかまたは開閉口路が側方へ偏位する被験者に対して同様の測定をした結果, TPおよびCPともに正常者群より変動が大きく, とくにCPの変動は著しく, CPは顎口腔機能との関連があることがわかった.
  • 長岡 康彦, 川本 達雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 265-274
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    歯口清掃の主流は手用歯ブラシによるブラッシングである. ところが, マルチブラケット法による矯正患者では, 口腔内に複雑な装置が介在するために, 通常の歯口清掃用歯ブラシを用いても有効な歯垢除去効果は期待できない. そこで, 穴径1.8mm, 穴数12に長さ9.00mm, 大さ0.20mmのナイロン毛を中央に向かってピラミッド植毛した矯正患者用歯ブラシ(以下試作歯ブラシと略す.)を作製しその特性について現在矯正患者に応用している歯ブラシと比較検討した.
     試作歯ブラシの最適ブラッシング圧を求めるために, 著者らはブラケット装着の顎模型上に人工歯垢を付着させ, 試作歯ブラシを用いてスクラッビング法によって刷掃した.
     その結果, 試作歯ブラシの最適ブラッシング圧は200gであることが分かった.
     試作歯ブラシと市販の一般歯口清掃用歯ブラシ(3列植毛歯ブラシおよび1列植毛歯ブラシ)との人工歯垢除去能力の比較を行うために, ブラッシング圧200gで同様の実験を行った. それぞれの歯ブラシにおける人工歯垢除去率を比較した.
     その結果, 試作歯ブラシは, 一般歯口清掃用歯ブラシに比べて人工歯垢除去能力が優れていた. また, 矯正治療中の患者についてこれら3種類の歯ブラシの歯垢除去率を比較したところ, 試作歯ブラシは, 手先が届きにくい隣接面での歯垢除去率が高かった.
     また, ブラッシング圧は, 個人的にばらつきがあるものの約200gであった.
     さらに, 試作歯ブラシ, 市販の一般歯口清掃用歯ブラシ, 市販の矯正患者用歯ブラシおよび試作歯ブラシとは毛の太さだけが異なる歯ブラシの耐久性について比較検討した. その結果, 試作歯ブラシは200gのブラッシング圧で使用した場合, 約1か月間使用可能であることが分かった.
     今回試作した歯ブラシは, マルチブラケット装置を装着している患者の口腔内を清掃するのに適し, 耐久性の面でも1か月は使用可能であった.
  • 川添 堯彬, 末瀬 一彦, 田中 昌博, 木村 公一, 上田 直克, 更谷 啓治, 関 良太, 柏木 宏介, 武田 真左信
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 275-285
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    新たに開発された歯冠用合成樹脂「CMO-4S」を用いてオクルーザルスプリントを製作し, 大阪歯科大学附属病院補綴科へ来院した34名の患者に適用した. オクルーザルスプリントの種類はスタビライゼーションタイプが32症例, リポジショニングタイプが2症例であり, すべてのスプリントは可撤式であった. このスプリントを術前, 装着直後, 術後1か月以降, 術後3か月以降において観察し, 本品のオクルーザルスプリント用材料としての有効性と安全性を評価したところ以下の結果を得た.
    1)歯肉炎と口腔粘膜の状態について経過観察したところ, 本品は軟組織に対し高い安全性を有していた.
    2)適合性について調査したところ, 28症例は内面の調整を行うことなく良好な適合性が得られたが, 6症例ではガタツキを生じた.
    3)表面滑沢性について調査したところ, 32症例に光沢の消失を認めたが, 臨床使用上問題はなかった. そのなかで29症例は装着直後よりすでに光沢が消失していた.
    4)耐摩耗性について調査したところ, 全期間を通じて摩耗は認められないか, あるいはごくわずかであった.
    5)色調変化について調査したところ, 32症例で1か月後にわずかな変色を認めた.
    6)破折について調査したところ, 28症例に破折を認めなかったが, 最終治療段階の6症例に破折を認めた.
    7)舌感について調査したところ, 2症例に装着直後に舌に違和感を認めた.
     以上の結果から, 「CMO-4S」はオクルーザルスプリント用材料として優れた有効性と安全性を有していることが判明した.
  • 松成 康男, 榊 敏男, 中野 幹丈, 北垣 英俊, 福渓 康人, 安井 常晴, 川端 利明, 井関 富雄, 虫本 浩三, 白数 力也
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 286-290
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    口腔原発扁平皮癌一次症例117例を UICC の stage分類, WHOの腫瘍分化度, および Yamamoto らの浸潤様式を基準として分類し, 各区分ごとの累積生存率を算出して癌の性状と患者の予後との関連を統計的に観察した.
     Stage分類では, 進展例が多く認められたが, 各 stage間の累積生存率には有意差は認められなかった. 分化度分類では, 高分化型と中分化型の癌が多くみられたが, これらの症例に比べ低分化癌症例の生存率は有意に低かった. 浸潤様式分類では, 3型の癌が最も多く, 4D型症例の生存率は他の浸潤様式をとる症例に比べ有意に低かった.
     これらのことから, 低分化癌や浸潤様式4型の癌では, 広範囲な原発巣の切除や頸部郭清術が必要であり, 化学療法や放射線治療の面でも的確な対応が重要であることが示唆された.
  • 辰巳 浩隆, 黒田 洋生, 植野 茂, 白数 力也, 竹本 靖子, 福島 久典, 佐川 寛典, 毛利 学
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 291-296
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    大阪歯科大学附属病院の医療従事者の鼻腔を対象として, 1994年度におけるメチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)検査を実施した.
     その結果, ほとんどの医療従事者の鼻腔(75%)からMRSが分離され, 1993年度(3%)よりも著しく高い分離比率を示した. またマンニトール発酵性とコアグラーゼ産生性から供試したMRS 75株は, すべてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ではなく, メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)に属した. 抗生物質感受性試験の結果から, すべての MRCNS が vancomycinに対して感受性を示し, imipenemを除く他の抗生物質に対しても, 半数以上のMRCNSが感受性を示した. 一方, 抗生物質感受性試験の結果に基づくタイプ分類より, 多くのタイプのMRCNSが認められた.
     それゆえ, 感染源は広範囲にわたって存在し, しかもMRCNSが1年間のうちに急速に広く蔓延したと考えられる.
  • 辰巳 浩隆, 黒田 洋生, 植野 茂, 白数 力也, 竹本 靖子, 福島 久典, 佐川 寛典, 毛利 学
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 297-302
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    大阪歯科大学附属病院の手術室, 病棟および外来診療室の病院環境を対象として, 1994年度のメチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)分布状況を調査した.
     その結果, 半数の病院環境部位(50%)からMRSが分離された. そのうち手術室では前回の50%から23%に改善された. 病棟では83%を占め, 前回とほぼ同じ値を示した. また外来診療室での分離比率は44%であった. MRS分離部位のうち, 医療従事者あるいは患者の手指が接触する機会のない部位のほうが, 接触する機会のある部位よりもやや高い分離比率を占めた. またマンニトール発酵性とコアグラーゼ産生性から供試MRS 104株は, すべてメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)に属した. 抗生物質感受性試験から, すべての MRCNS が vancomycinに対して感受性を示し, erythromycinを除く他の抗生物質に対しても, 半数以上のMRCNSが感受性を示した. 一方, 抗生物質感受性試験に基づくタイプ分類より, さまざまなタイプの MRCNSが認められた.
     これらのことから, 本大学附属病院の病院環境では, 依然としてMRSが広く棲息し, 接触および空気感染により伝播している可能性が示唆される.
  • 青木 秀哲, 板垣 恵輔, 原 三正, 沼田 好道, 古跡 孝和, 成川 公一, 古跡 養之眞
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. 303-309
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    近年, 齲蝕は減少していく傾向がみられているにも拘わらず臼歯部での隣接面齲蝕の占める割合は逆に増大しており, 日常の歯科臨床において隣接面齲蝕に対する処置の割合は増加している. そこでわれわれは, 最近開発され, 臨床応用されつつある口腔内デジタルX線撮像システムおよび従来より用いられてきたフィルム感度Dグループの UItra SpeedTM (Kodak), フィルム感度Eグループの Ekta SpeedTMならびに新しく改良された Ekta Speed plusTMの3種類のフィルムを用い臼歯部隣接面の初期齲蝕の検出能について検討した.
     その結果
    1)フィルムは, Ultra SpeedTMの成績が最もよかった.
    2)Ultra SpeedTMの写真濃度は, 本学で従来より行っていた撮影条件(60kV, 10mA, 0.42sec)より時間がやや長めの0.6secでのほうが優れた検出率を示した.
    3)SENS-A-RAY^<TM>の検出能は Ultra SpeedTMによる咬翼法とほぼ同様の結果が得られ, 臨床的に十分使用可能と思われた.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 山下 秀介
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g1-g2
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    現在, 歯冠修復用材料として開発, 研究されているキャスタブル・セラミックスは, 組織構造からマイカセラミックス, アパタイト結晶化ガラスおよびリン酸カルシウム系結晶化ガラスがあり, すでに実用化されているものも少なくない. とりわけリン酸カルシウム系結晶化ガラス(以下, 結晶化ガラスと略す.)は, 短鎖リン酸塩ガラスを母ガラスとすることから通常のガラスあるいはセラミックス材料にはみられない特異的な溶融特性を示し, 融点も極めて低く, しかも融液の粘性が低いという鋳造成形に適した特異性を有している. 主としてβ-Ca (PO_3)_2の極微結晶からなり, 組成が天然歯エナメル質に近似し, 形態再現性, 機械的強度など人工歯冠に適した性質を具備している. 一方, 歯冠修復に対する患者の要望は, 咀嚼を中心とした機能回復だけにとどまらず, 審美に対する期待も高まっている. このような時期に登場した結晶化ガラスは, 生体安全性, 形態再現性, 適合性および機械的強度などの特性から前, 臼歯同一材料で行える歯冠修復材料として生体適合性の点からも注目に値するものである. そこで, 日常臨床における多くの臨床症例に対応し, 汎用性を高めるためには前, 臼歯を問わず色調再現性に優れていなければならない. 本研究では, 結晶化ガラスにおける歯冠色調の再現性について把握するために, 結晶化ガラス・クラウンの製作時に行う結晶化熱処理条件に伴う色調変化ならびに透明性について検討するとともに, さらに臨床においては種々の支台歯にクラウンを装着することから支台築造用コア材料および合着セメントの色調が結晶化ガラスの色調に及ぼす影響について検討した. 実験にはCaO-P_2O_5を主成分とするリン酸カルシウム系結晶化ガラス(九州耐火煉瓦, 備前, 以下CPCCと略す.)を用いた. ガラス原材料から10.0mm×10.0mm×1.0mmの試料を鋳造成形したのち, 結晶化熱処理最終温度を635℃, 640℃および645℃に変化させて色調の異なる試料を製作した. 試料の測色にあたっては鏡面仕上げ面を受光面とし, 分光測色計(CM-1000, ミノルタ, 大阪)を用い, 直径8mmの測色径でC光源によって背後になにも置かないで測色した. 次に, 支台築造用コア材料の色調による影響について検討するために色調の異なるコンポジットレジンおよび合金コア材料を用いて結晶化ガラスと重ね合わせた状態で測色した. さらに結晶化ガラスとコア材料をオペーク色, 白色および歯冠色の接着性レジンで合着し, 同様に測色した. なお, 表色にはCIEL^*a^*b^*によって評価し, 以下の結果を得た. 1.結晶化熱処理温度の上昇に伴って, 明度L^*および色度b^*は増大し, 色度a^*はわずかに減少した. 2.各種コア材料と結晶化ガラスの組み合わせによっていずれも明度L^*は増大し, 色度a^*は赤方向へ, 色度b^*は黄色方向へ移動した. この傾向は不透明性の高いコア材料において著明であった. 3.オペーク色セメントを用いた場合, いずれの試料間においても明度および色度に有意の差は認められなかった. また, 歯冠色セメントを用いた場合, セメントを介在させない場合との色差が小さかった. 以上の結果から, 結晶化ガラス・クラウンの歯冠色調の再現にあたっては, 結晶化熱処理温度を制御し, 支台築造材料および合着セメントの色調を考慮する必要のあることが判明した.
  • 横山 馨
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g3-g4
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    口腔内細菌, とくに齲蝕原性細菌の生物学的性質については, これまでに細菌学あるいは生化学的に研究されているが, 電気化学的測定法による研究はほとんどみられてはいない. そこで, 齲蝕原性細菌の電気化学的特性を解明するために, サイクリックボルタンメトリー(CV法)により検討を行った. 実験材料および方法 全自動分極測定装置(HZ-1A Potentiostats/Galvanostats HA-501A, Arbitray function generators)を用い, sweep-speed: 20mV/sec, sweep-width: -100mV〜+1000mVの条件で, 電流(Ipa)および電位(Epa)を計測した. 被検菌株は齲蝕原性を有する数種類の連鎖球菌, すなわちStreptococcus cricetus HS-6 (S. cricetus HS-6), S. rattus BHT, S. mutans NCTC 10449, S. mutans OMZ 175および S. sobrinus Kl-Rで, 37℃, 24時間, 好気的に前培養し, 0.1molリン酸緩衝食塩水(PBS: pH7.0)中で遠心後, 菌液濃度を1×10^5cells/mlに希釈して用いた. なお, 作用電極にはIn, SnおよびITO, 対極にはPt, 参照電極には Ag/AgClをそれぞれ使用した. また, 電気化学的特性測定前の菌体の形態は, 通法にもとつき試料を作製し, 透過型電子顕微鏡(TEM)にて, さらに測定後の電極(作用電極: In, SnおよびITOの各電極)表面への細菌の吸着状態は, 走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した. 結果および考察 Inおよび ITOの両電極においては, いずれの菌でも Ipa の peakが認められた. Ipaの値(pH: 7.0)は, S. sobrinus Kl-Rが3.00μAと最も高い値を示し, ついで S. rattus BHTおよび S. cricetus HS-6(それぞれ, 2.20μAおよび 2.10μA)の順に低く, S. mutans NCTC 10449および S. mutans OMZ 175では最も低い値(0.50μA)を示した. また, これら IPaの変化は, CV法における電流-電位曲線から得られた分析値より, 細菌の細胞内に存在する CoAにより影響されることがわかった. Epaについては, S. sobrinus Kl-Rが 0.90Vで最も高く, 他の4菌株ではほぼ同じ値(0.5〜0.6V)を示した. さらに, 各pHのPBSにおける各菌株および CoA の Ipaは, pHが高くなるに従って, 大きくなる傾向がみられた. これに対して, S. sobrinus Kl-R 以外の名菌株および CoAの Epaは, PBSのpH値が高くなるにつれて, 低下傾向を示した. また, 電流-電位曲線での電位走査回数が増加すると, どの菌株でも Ipaは低下し, その低下傾向は S. sobrinus Kl-R>S. rattus BHT≧S. cricetus HS-6>S. mutans OMZ 175=S. mutans NCTC 10449≧CoAであった. しかし, Epaについては, どの菌株においても, 電位走査回数が増加してもそれに伴う著明な変動は, 認められなかった. そして, IpaおよびEpaの高い S. sobrinus Kl-R のような菌株においては, 電極への吸着量が多くなることが TEMおよび SEMによる観察から確認された. すなわち, 本実験における Ipaおよび Epaの変動は Inを含有した電極に顕著にみられることから, 細菌との電気化学反応は Inに依存していることがわかった. 以上の結果から, 酸化還元反応は菌株によって異なるので, 物質に対する細菌の吸着等をCV法によって判定できることが明らかになった.
  • 岩井 信幸
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g5-g6
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    歯垢形成機序を界面化学的に解明する講座の一連の研究の一つとして, 本研究では, ハイドロキシアパタイト(HAp)-細菌間, フッ化カルシウム (CaF_2)-細菌間, フルオロアパタイト(FHAp)-細菌間および各種フッ化物(F)処理HAp-細菌間の表面ポテンシャルエネルギーを理論計算し, F処理がHAp-細菌間に働く遠距離力にどのような影響を及ぼすかについて検討した. HApおよび CaF2は市販のものを用い, FHApは岡崎の方法によって作製した. F処理HApは, HAp 50mgをそれぞれF濃度を100, 1,000, 9,000ppmに調製したフッ化ナトリウム(NaF), リン酸酸性フッ化ナトリウム(APF)およびフッ化第一スズ(SnF_2) 25mlに4分間浸漬した後, 蒸留水で洗浄したものを用いた. また, 口腔内細菌には Streptococcus rattus BHT (S. rattus BHT), S. cricetus HS-6, S. mutans OMZ175, S. mutans K-1および S. sobrinus 6715を用いた. 電気二重層間相互作用力は, Hogg-Healyの理論から求め, 算出に必要な HAp, CaF_2, FHAp, F処理 HApおよび口腔内細菌のモータ電位は通法に従って0.03Mリン酸緩衝液(pH6.0, 7.0, 8.0)中で測定した. また, ファンデルワールス力は, 一般式 V_A=-A/48πh^2 (A: Hamaker定数, h: 粒子間距離の1/2)から求め, Hamaker定数にはVisserおよび Nirの値を用いた. これら両者の和から, 表面ポテンシャルエネルギーを算出し, さらに表面ポテンシャルエネルギーの反発力の極大値である Vmaxを求めて, 細菌の付着のしやすさを評価した. 表面ポテンシャルエネルギーおよび Vmaxは, HAp-細菌間とFHAp-細菌間とでは, ほぼ近似した値を示したのに対し, CaF_2-細菌間では, これらに比べて小さくなり, CaF_2表面はHAp表面に比べて細菌が付着しやすいことがわかった. HApとモータ電位の低い細菌(S. mutans OMZ175, S. mutans K-1, S. sobrinus 6715)との間の表面ポテンシャルエネルギーおよび Vmaxは, いずれのFを用いてHApを処理しても, ほとんど変化しなかった. これに対して, HApとモータ電位の高い細菌(S. rattus BHT, S. cricetus HS-6)との間の表面ポテンシャルエネルギーおよび Vmaxは, NaF処理によっては, ほとんど変化しなかったものの, HApを APFで処理すると小さくなり, SnF_2で処理すると逆に大きくなった. F処理HAp-細菌における表面ポテンシャルエネルギーは, 細菌の種類によって最も大きく影響され, ついで処理するFの種類に影響を受けるが, 溶液pHおよび処理F濃度による影響は小さかった. 以上のことから, HAp-細菌間の表面ポテンシャルエネルギーに及ぼすF処理の影響は, 細菌のモータ電位が高い場合のみ認められることがわかった. また, HApをAPFで処理すると, HAp-細菌間の表面ポテンシャルエネルギーは減少し, HApに細菌は付着しやすくなるが, SnF_2で処理すると逆に表面ポテンシャルエネルギーは増加し, HApに細菌は付着しにくくなることがわかった. さらに, 歯面のゼータ電位を負に大きくし, Hamaker定数を小さくすることが歯垢形成の抑制に効果があることが示唆された.
  • 山田 健蔵
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g7-g8
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    水酸化カルシウムは硬組織形成促進作用を有する薬剤として生活歯髄切断法(断髄法)に応用されている. この断髄面に応用された水酸化カルシウムの新生硬組織形成に果たす役割を明らかにするには, 断髄面直下に形成された新生硬組織中のカルシウムの由来を検索することが必要である. そこで, 2種の異なる起源のカルシウム, すなわち断髄面局所への放射性水酸化カルシウムの応用, あるいは全身への放射性塩化カルシウムの投与を別個に行い, カルシウムの新生硬組織への取込みについてオートラジオグラフィ(ARG)の手法を応用して観察を行った. 実験方法 実験1: 断髄面応用薬剤からのカルシウムの移行 生後6か月のビーグル犬3頭の上下顎左右側前臼歯に対して, 断髄処置を行い, 断髄面に^<45>Ca標識水酸化カルシウム(比放射能: 0.82mCi/g)を応用した. 実験期間は12週とし, 術後1日, 1週, 以後1週ごとに尿, 血液, 糞便を採取した. 実験期間終了後に実験動物を安楽死させ, 処置歯を含む上下顎骨, 胆汁ならびに主要臓器を採取した. 採取した試料はそれぞれ次のように処理した. すなわち, 血液は遠心分離し血清のみを, 糞便および主要臓器は蒸留水を加えてホモジナイズしたものを, 尿および胆汁はそのままをそれぞれ測定試料とした. 各試料中に含まれる^<45>Ca濃度の測定は液体シンチレーション法によって行った. また, 上下顎骨は凍結乾燥を行い, 一歯ずつに分割後, 近遠心的に切片を作製した. その後, 切片に歯科用X線フィルムを圧接し, 24時間露出させ, 通法によりARGとし, 肉眼的観察を行った. 実験2: 全身循環血液からのカルシウムの移行 生後6か月のビーグル犬6頭の上下顎左右側前臼歯に対して実験1と同様に断髄処置を行い, 非標識水酸化カルシウムを断髄面に応用した. 実験期間は12週とし, 断髄処置終了直後に^<45>Ca標識塩化カルシウム水溶液(放射能濃度: 20μCi/ml)の第一回目の全身投与を静脈注射にて行い, 以後は週2回の投与を実験期間終了まで行った. なお, 1回の薬剤投与量を1mlとしたので, 1頭当りの投与放射能総量は0.48mCiとなった. 実験期間中, ^<45>Ca濃度を測定するために標識塩化カルシウム投与直前に毎回採血を行い, 尿, 糞便についても実験1と同様に適宜採取を行った. 実験期間終了後, 実験1と同様の方法で採取試料を処理し, 液体シンチレーション法にて^<45>Ca濃度を測定するとともに, ARGによる観察を行った. 実験結果 1.断髄面に応用した標識水酸化カルシウム由来のカルシウムは血中において全実験期間を通じて認められたが, 尿中へのカルシウムの排泄は術後1週以降ほとんど認められなかった. したがって, 水酸化カルシウム中のカルシウムは断髄直後の短時間のうちに全身循環に移行するが, その後の薬剤からのカルシウムの血中への移行はほとんどないものと思われた. 2.断髄面直下の新生硬組織中には, 水酸化カルシウム由来のカルシウムの存在は実験1のARGにおいて確認できず, 水酸化カルシウム中のカルシウムは硬組織形成時に利用されないことが明らかとなった. 3.実験2のARGにおいて, 断髄面直下の新生硬組織に, 全身投与した標識塩化カルシウム由来のカルシウムによるフィルム上の黒化が得られたことから, 全身投与したカルシウムの新生硬組織への移行が確認された. 以上のことから, 断髄処置後に形成される新生硬組織を構成するカルシウムは体液由来であり, 断髄面に応用した水酸化カルシウム由来のカルシウムは断髄直後に血中へ移行するが, 新生硬組織には取り込まれないことが明らかとなった.
  • 山田 義博
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g9-g10
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    顔面頭蓋の成長の様相を究明することは, 骨格性不正咬合の成因の解明と, 矯正歯科治療の開始時期を決定するうえにも重要である. 顔面頭蓋に存在する growth siteの一つであるところの鼻中隔軟骨性成長は, 顔面頭蓋の成長や, 上顎骨および下顎骨の位置の決定に対して重要な役割を果たしていると考えられてきた. 今回, 鼻中隔軟骨が顔面頭蓋の成長発育に主要な役割を果たしていることに注目し, ラットの上顎歯列弓の拡大後生ずる顔面頭蓋の成長発育の変化と, それに伴う鼻中隔軟骨細胞およびその周囲組織の経時的変化について観察を行った. 実験材料および方法 試料として, 4週齢のSD系雄ラット150匹を用いた. ラットの上顎歯列弓拡大のため, 上顎切歯に矯正線を鑞着したバンドを装着し, 上顎臼歯の口蓋側から拡大力が加わるように矯正線の屈曲を行った. 拡大力が大きいグループ(100g)と小さいグループ(50g)にわけて実験群とし, 同様の装置を装着し, 加力を行わないものを対照群として, おのおの50匹ずつ用いた. ラットは実験期間がそれぞれ1日(生後4週齢), 1週(生後5週齢), 4週(生後8週齢), 7週(生後11週齢)および10週(生後14週齢)のグループにわけ, 動物用セファロスタットを用いて麻酔下で1週ごとに頭部エックス線規格写真を撮影し, Kiliaridisらの方法を用いて形態学的分析を行った. また, 組織学的観察を行うため安楽死後, 通法に従い, ヘマトキシリン-エオジン重染色を行い, 光学顕微鏡を用いて観察を行った. 実験結果 1.実験群と対照群とでは体重の変化に差はなかった. 2.各頭部エックス線規格写真の角度分析および距離計測を行い, 多重比較検定を行った結果, 実験群では顔面頭蓋の脳頭蓋に対する成長方向が前下方から前方へと変化した. また, 実験群間においても, 力の大きなグループは小さなグループに対してその変化量は大きかった. また, 頭部エックス線規格写真の経時的な観察の結果, 成長方向は加力後2〜4週時をピークとして変化していることが観察された. 3.組織学的観察の結果, 鼻中隔軟骨細胞およびその周囲組織は, 対照群に対して実験群では実験開始後, 1日および1週で著明な変化が観察されたが, 実験開始後4週では組織学的変化に差が少なくなり, 7週および10週では変化がみられなかった。以上の結果から, ラットの上顎歯列拡大が, 顔面頭蓋の成長発育の方向に変化を生じさせることがわかった. また, その経時的な形態変化と, 鼻中隔軟骨細胞の活性の時期には少しのずれが認められるものの, 顔面頭蓋の成長発育に鼻中隔軌骨が関与していることが示唆された.
  • 三浦 康伸
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g11-g12
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    動的抽出法による細胞毒性試験を確立するため, 10種類の金属材料を用いて, 細胞生存率に対する抽出条件の検討を行った. 抽出条件としては, 試料の重さ(1.5gと2.0g), 旋回速度(200rpmと240rpm), 抽出期間(1, 3および5日間)および旋回時に用いる加速抽出(アルミナ球あるいはジルコニア球上での抽出)の各条件であった. さらに, 得られた抽出液を0.22μmのメンブランフィルタにて濾過した濾液についても, L-929細胞に72時間作用後の細胞生存率に及ぼす影響ならびに溶出金属量の測定を行った. その結果, 細胞生存率に対する試料の重さの影響は少なかった. 旋回速度および抽出期間については, それぞれ増加に伴って細胞生存率は低下した. また, 加速抽出条件に関しては, アルミナ球上での抽出のほうが, ジルコニア球上より細胞生存率の低下は顕著であった. 以上の抽出条件のなかで, 10種類の金属材料をアルミナ球上にて240rpmで旋回抽出した場合, それらが細胞生存率に及ぼす影響は異なっていた. その影響の程度からして4つのグループに分けられた. すなわち, チタンおよびチタン(Ti-6Al-4V)合金のグループ, コバルトクロム合金, ニッケルチタン合金および316Lステンレス鋼のグループ, タイプIV金合金および金銀パラジウム合金のグループとニッケルクロム合金, 銀インジウム合金および銀スズ合金のグループであった. また, 濾液の細胞生存率に及ぼす影響は抽出液より小さく, 濾過による細胞毒性の減弱化が認められた. 一方, 溶出金属量については, アルミナ球上にて240rpmで5日間抽出した濾液中には, タイプIV金合金と金銀パラジウム合金では, 選択的な銅の溶出が認められた. 銀インジウム合金と銀スズ合金では, 亜鉛の溶出が認められた. ニッケルクロム合金, ニッケルチタン合金および316Lステンレス鋼ではニッケルの溶出が, コバルトクロム合金ではコバルトの溶出が認められた. 一方, チタンおよびチタン合金からの溶出は認められなかった. 以上の結果から, 動的抽出による加速抽出の効果が得られる条件は, 試料の重さを1.5gとして, アルミナ球上にて240rpmで旋回抽出する方法であることがわかった.
  • 小島 寿雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g13-g14
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    最初の哺乳類は敵を避けるために地中性, 水中性, 走行性, 樹上性の4つの異なる方向に適応放散していった. そのうちコウモリは真の飛行型に至った動物である. 歯の場合にはこれらの生活適応とともに二次的に食性に適応したものである. 翼手類(目)は大翼手類(面目) 1科と小翼手類(亜目)17科に分類されるが, 大翼手類の食物は果実, 花, 花粉, 花蜜などの乾性物を食するため, 臼歯の形態は食虫性のコウモリとはずいぶん異なっている. これら翼手類における歯の形態についての報告は散見されるが, その組織構造については詳細な報告はほとんどみられない. 本研究は, 翼手目のなかでとくにオオコウモリ科について, その歯の微細構造の解明を目的として行った. 実験材料および方法 材料は, タイ国 LoP Buri地方で採取されたインドオオコウモリ(Pteropus giganteus), コイヌガオフルーツコウモリ(Cynopterus brachyotis)およびデマレルーセットオオコウモリ(Rousettus leschenaulti)の3種で, 各材料は安楽死後, 70%アルコールで固定し, 歯を含んだ顎骨ごと摘出した. 光顕的な観察には研磨標本を作製して観察, 撮影を行った. 電顕的には通法に従って試料を作製し, 走査型電子顕微鏡を用いて観察, 撮影を行った. 結果および結論 1.エナメル質 歯冠部の表面は全体に歯小皮に被われているが, エナメル質は非常に薄く, インドオオコウモリでは160〜170μm, 他2種では80〜90μmで, 各エナメル小柱は並走しているため, シュレーゲル条はみられなかった. 小柱の直径は3.5〜5μmで, 深層から表層までほとんど同じ太さで, それぞれに横紋がみられ, 歯頸部付近から隣接面にかけてのエナメル質には明瞭なレチウス条が認められた. エナメル小柱の横断形態はコイヌガオフルーツコウモリでは完全に周囲が小柱間質にかこまれた不正な円形を呈し, デマレルーセットオオコウモリでは小柱の一側が小柱鞘を欠き小柱間質と連続し, インドオオコウモリでは表層に面した側では凸弧を描き, 象牙質に面した側ではこの一部が欠如して次の小柱の凸弧が介入するため, アーケード状を呈していた. さらにコイヌガオフルーツコウモリでは歯小皮と連続しているエナメル葉が認められた. エナメル象牙境は各種ともに円弧の連続による波状形態を呈していた. 2.象牙質 象牙質は細管構造を有し, 全体的にほぼ均一な石灰化状態であったが, インドオオコウモリにのみ髄室天蓋部付近において成長線に沿って存在する球間象牙質が認められた. 象牙細管は細く, 1μm前後で深層から表層までその太さは変わらない. 象牙細管は走行途中に側枝を派生せず, 終末部において側枝の派生が認められたが, 終枝のエナメル質への侵入は認められなかった. 象牙細管の横断所見ではインドオオコウモリおよびデマレルーセットオオコウモリに管周象牙質が認められたが, コイヌガオフルーツコウモリでは認められなかった. 3.セメント質 セメント質はほとんどが非常に薄い無細胞セメント質で, その厚さはデマレルーセットオオコウモリおよびコイヌガオフルーツコウモリでは10〜15μmで, インドオオコウモリでは20〜30μmであった. しかし, インドオオコウモリでは根尖1/3においてセメント質が認められ, その最も厚い部分では約1OOμmであった. 以上の結果から, 今回検索した食果性のオオコウモリにおいては, 歯には強い咬合力に対する抵抗形態や構造の強化機構は認められなかった. これはおそらく食性に関係するものであると考える. また, それぞれのエナメル質やセメント質にみられた組織学的な相違は, 歯の大きさ, 習性あるいは生活様式および進化の過程の相違などによって生じたものであると考える. つまり, 歯の組織構造は食性のみでなく, 他の多くの要素をも反映するものであると思われる.
  • 上田 善弘
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g15-g16
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    根管充填用シーラー(シーラーと略)には緊密な根管封鎖性と高い組織親和性が求められる. さらに, 根尖孔を硬組織で封鎖させる作用を有することが理想的とされている. 最近, リン酸カルシウムの硬組織誘導能と高い組織親和性が注目され, リン酸カルシウムを主成分とする新しいシーラーの研究, 開発が進められている. 今回, α-リン酸三カルシウム(α-TCP)とクエン酸/タンニン酸溶液を主な成分とする2種類と, リン酸四カルシウム・リン酸水素カルシウム等モル混合物(TeDCPD)と低濃度クエン酸溶液からなる1種類のシーラーを試作した. そして, これらの物性と組織刺激性を検索し, 臨床応用の可能性を検討したのでその結果を報告する. 実験材料および方法 試作シーラー-1 (NS-1)の粉剤は70% α-TCP/30% TiO_4で, 液剤は35%クエン酸/5%タンニン酸溶液, 試作シーラー-2 (NS-2)の粉剤は85% α-TCP/15% BaSO_4で液剤は35%クエン酸/5%タンニン酸溶液である. また, 試料シーラー-3 (NS-3)の成分はTeDCPDと増粘剤および防腐剤を含む2.1%クエン酸溶液である. 対照には市販の酸化亜鉛ユージノール系シーラー(ZOE)とリン酸カルシウム系シーラー(ARS)を用いた. 試料シーラー練和後のpH, 硬化時間, 崩壊率を測定して物性を検討するとともに, エックス線回折(XRD)による硬化体内反応物の同定を行った. また, 根管を拡大・形成(#70)したヒト抜去上顎中切歯40歯に各シーラーをレンツロで根管に填入し, 一部を液体窒素中で凍結, 割断し根管壁とシーラーの界面および硬化後のシーラー内部の観察のために走査型電子顕微鏡(SEM)の検索に供し, 残りは墨汁に浸漬したあとに根管封鎖性試験に用いた. さらに, 試作シーラーの組織刺激性試験を Sprague Dawleyラット背部皮下組織と根尖歯周組織で行った. すなわち, 30匹のラット背部皮下に各シーラーを埋入した1および4週後の, また, 別の75匹のラットで下顎左右側第一臼歯根管の抜髄と根管拡大・形成(#25)を行い, 各シーラーを充填した. その後, 1, 2, 3, 4および5週後の組織反応について, それぞれ通法に従って作製した6μmの連続切片(ヘマトキシリン・エオジン染色)にて病理組織学的に検索した. 結果・考察 液剤が練和後のpHに強く影響し, NS-1, NS-2およびARSは酸性を示し, NS-3のみが中性域にあった. また, 根管封鎖性は試作シーラー, なかでもNS-3が有意に優れていた. 硬化時間はすべてのシーラーで有意差が認められ, NS-2の硬化が最も早く, ARSが最も遅かった. 崩壊率はNS-1とNS-2は3%を超え, ARSも約3%であったが, NS-3は約0.9%で優れた結果を示した. TiO_2やBaSO_4の添加が硬化時間の遅延および崩壊率の増加に関係すると思われる. 練和後14時間のXRDでは, NS-1とNS-2にハイドロキシアパタイト(HAp)が検出されず, α-TCPとTiO_2あるいはBaSO_4が検出されたのみであった. NS-3では低結晶性がHApがおもに検出された. SEMでの観察の結果, NS-1とNS-2には貫通性の小孔が存在し, NS-3には板状と塊状の粒子で満たされた小孔が存在した. XRDとSEMの結果から, NS-3の優れた封鎖性が確認された. 組織刺激性はNS-2が最も強く, 高い酸性度とBaSO_4の影響が示唆される結果が得られた. 結論 1. NS-1は強い酸性を示したが組織刺激性は緩徐で, 新規シーラーとして応用できる可能性が認められた. 2. NS-2は強い組織刺激性を示し, 新規シーラーとして不適当であると結論された. 3. NS-3は凝結硬化するために初期にマクロファージ系細胞を誘導するが, 優れた生体親和性を有することが確認された. さらに, NS-3は崩壊率が小さく, pHも中性域にあることから, 新規シーラーとして有望であると判断された.
  • 服部 均
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g17-g18
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    内因感染を示す口腔感染症の発症機構を研究するには, 宿主と寄生体の相互反応を電子顕微鏡学的, 生化学的および遺伝学的に研究する必要がある. とくに電子顕微鏡学的研究では, 宿主内における細菌細胞の増減, 微細構造変化, 細菌由来物質の宿主内分布状況, 宿主細胞のオルガネラの増減および微細構造変化などを明らかにしなければならない. 同時にその結果を数値化し, 生化学的および遺伝学的結果と対応させる必要がある. ところが, 口腔感染症を電子顕微鏡で観察した報告は多数みられるが, 電子顕微鏡計測学的に研究した報告はほとんどみられない. 本研究では, 口腔感染症の発症機構を宿主と寄生体の相互反応の面から解析するために膿汁中に存在する食細胞の細菌貪食系を微細構造学的に観察した. ついでその写真をデジタル画像処理装置に入力して計測し, 細菌の病原因子と宿主の抵抗因子の発現状態を検討した. 実験に供した膿汁は5例の膿瘍から授取した. 電子顕微鏡試料はグルタルアルデヒド-四酸化オスミウム法または Kellenberger-Ryter法(四酸化オスミウム単独)で固定後, 通法によりエポキシ樹脂混合液に包埋し超薄切片を作製した. この切片を二重染色したのち電子顕微鏡で観察した. 画像計測は, 各症例から任意に選んだ電子顕微鏡写真100枚をデジタル画像処理装置(ルーゼックスFS, D法)に入力し二値化後行った. 任意に選んだ写真50枚を手動測定法(ペーパートレースと重量法あるいはプラニメータ法, M法)で計測し, 次の結果を得た. 1.採取した膿汁を嫌気培養すると, 全症例から細菌が検出された. 2.透過電子顕微鏡では, 多数の正常グラム陰性菌とグラム陽性菌が観察された. 3.細菌の量的変化を知るために食細胞におけるファゴソーム内細菌占有率をD法で計測すると, グラム陰性菌が33.0%, グラム陽性菌が43.8%であった. また, 食細胞のファゴソーム断面当たりの細菌数は1ないし30個みられた. 4.細菌の質的変化として莢膜を観察した. 莢膜の出現頻度はグラム陽性菌よりグラム陰性菌で高かった. 莢膜の細菌細胞における占有率はD法によるとグラム陰性菌で33.0%, グラム陽性菌では26.7%とグラム陰性菌で大きかった. 5.外膜由来小胞はその表層に内毒素を, 内部に組織破壊酵素を含み重要な病原因子である. 小胞の直径と面積は, それぞれD法によると平均26.0nmと541.0nm^2であった. 6.宿主の抵抗反応として, リソソームの宿主細胞内およびファゴソーム内占有率をD法で測定すると, それぞれ20.5%および21.1%であった. 7.D法とM法を比較すると, 低倍写真ではM法は計測できない場合があったが, D法は高速で正確に計測できた. 高倍写真では両測定法の値はほぼ一致していた. 以上のことより, デジタル画像計測法で宿主の抵抗性因子と細菌の病原性因子を量的および質的に数値化できることが明らかとなった. 今回得られた結果をもとに膿瘍形成にいたった理由を推定すると, 莢膜を有する細菌が食細胞の殺菌機構に抵抗してファゴソーム内で増殖するとともに, 小胞形成能が高くなり, 内毒素や組織破壊酵素を口腔組織内に分散させたことも一因と考えられる.
  • 樋渡 順一
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g19-g20
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    In vitroにおける細菌細胞の微細構造変化を自動画像解析処理装置を用いて計測し数値化することは, 口腔感染症の発症と進展に伴う細菌細胞の微細構造変化を解析するのに役立つ. 本研究では, 口腔感染症の発症と進展に深く関与している Prevotella intermedia (P. intermedia)細胞の表層構造に及ぼす固定の影響を, 電子顕微鏡と画像処理法で詳細な観察と計測および周期構造を解析することによって検討した. 供試菌株は, P. intermedia ATCC 25611 (P. i 25611), ATCC 33563 (P. i 33563)および Porphyromonas gingivalis 381 (P. i 381)を用いた. 電子顕微鏡試料は, 2.5%グルタルアルデヒドと四酸化オスミウム(化学固定, GA-OsO_4)または Kellenberger-Ryter固定液(化学固定, OsO_4単独, KR)で固定した. さらに試料を液化プロパンで瞬間凍結後, ドライアイス-アセトンで冷却した1% OsO_4-アセトン中に浸漬して凍結置換した(物理固定, FS). ついで通法により脱水した試料をエポキシ樹脂混合液に包埋後, 超薄切片を作製して透過電子顕微鏡で観察した. 細胞表層構造の幅はデジタル画像解析処理装置ルーゼックスを用い, 測定部位を二値化後計測した. また, 周期構造はフーリエ変換後のパワースペクトルの高周波成分の検出で確認した. 結果と考察は次のとおりである. 1.画像処理に使用する写真の倍率は目的構造物によって異なる. 本研究では細胞膜の内外葉などを観察する場合, 約24万倍以上に引き伸ばした写真が必要であった. 2. P. i 25611のエンベロープ(細胞膜内葉から外膜外葉まで)の幅はGA-OsO_4, KRおよびFSでそれぞれ39.3, 40.4および31.5nmで, 化学固定の値が物理固定の値より大きかった. GA-OsO_4の場合, 各構造の幅は, それぞれ細胞膜13.0, その内葉4.6, 中層2.7および外葉3.6, 外膜9.2, その内葉2.7, 中層3.1および外葉3.1nmであった. FSの場合, それぞれ11.9, 3.8, 4.4および3.3nm, 11.0, 3.1, 3.7および3.7nmであり, 固定法による差異はみられなかった. 3. P. i 33563の場合, エンベロープの幅はGA-OsO_4, KRおよびFSで, それぞれ33.3, 36.7, および30.1nmで, 固定法による相違はみられなかった. 細胞膜および外膜とその内外葉および中層の幅は, 概してFSの値のほうがGA-OsO_4やKRの値より大きかった. 4. P. g 381の場合, エンベロープの幅は, GA-OsO_4で35.8nm, KRで37.0nmおよびFSで35.8nmであった. 細胞膜および外膜とその内外葉と中層の幅は, P. i 33563と同様にFS の値がGA-OsO_4やKRの値より大きかった. 5.ぺリプラズム間隙をフーリエ変換後, さらに逆フーリエ変換すると, いずれの固定法でもねじれ構造が認められた. ねじれ構造は物理固定より化学固定で多い傾向が認められた. 6.化学固定試料の走査電子顕微鏡所見で観察される細胞表層における粒子構造の周期性をフーリエ変換法で検討したところ, 周期性は認められなかった. 以上の事実は, デジタル画像解析処理装置を用いて P. intermedia細胞の表層構造を詳細に計測し, 周期構造を解析すると, 固定法の影響はペプチドグリカン層とペリプラズム間隙に出現しやすいことを示唆している.
  • 金下 桂三
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g21-g22
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    Prevotella intermedia (P. intermedia)は多形性を示す偏性嫌気性グラム陰性桿菌であり, 血液寒天培地上で黒色色素を産生する特徴をもつ. P. intermediaは以前は Bacteroides gingivalis (現在はPorphyrormonas gingivalis)とともにBacteroidesに属していたが, 1990年にShahらによって Prevotellaに再分類された. ついで, P. intermediaは, DNA-DNA hybridizationを基に2つのhomology groupに分けられていたが, 1992年にATCC 25611 groupは P. intermediaに, ATCC 33563 groupは P. nigrescensに移されている. しかし, P. intermediaと P. nigrescensとは, DNA-DNA hybridization以外に鑑別できる表現形質は見いだされていない. 両菌種は初期や進行性歯周炎および急性壊死性潰瘍性歯肉炎から頻繁に分離され, 歯周病原細菌の1つと考えられている. また, 両菌種とも感染根管由来の感染症からもっとも高頻度に, しかも高い比率で分離される細菌種である. 著者らは両菌種の病原性に関して, 標準株や常在菌叢から分離される菌株でのβ-lactamase, DNase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, lecithinaseあるいは lipaseなどの平均加水分解酵素産生数が1.5以下であるのに対し, 根尖性歯周炎(2.4)や蜂巣炎(5.0)では高くなることを明らかにしている. また, 病原性状の1つである付着性と関連する菌体表層構造について, 菌体表層には形態の異なる線毛が存在し, type Cの線毛をもつ菌株では, 強い上皮細胞への付着性と赤血球凝集性がみられることが Leungらによって明らかにされている. また, 藤田らは, 形態学的に異なる表層構造をもつ P. intermedia と P. nigrescensの付着性を知る目的で, 赤血球凝集性と熱, 酵素および糖による凝集阻止試験を試みている. その結果, 両菌種ともに赤血球凝集因子は菌株によって異なり, タンパク分解酵素に対する感受性やD-glucosamineによる凝集阻止から少なくとも3つのgroupに分けられ, 線毛様構造をもたない菌株や線毛以外の表層タンパクによるものも存在することを示している. さらに村上らは, 線毛構造は観察されないが, 強い赤血球凝集活性をもつ P. intermedia strain E18を対象に, 赤血球凝集因子を菌体から分離し, 硫安分画後, ショ糖密度勾配遠心で得られた, vesicle様構造物を含まない密度の低い画分(fraction A)が強い赤血球凝集性を示すことを明らかにしている. そこで本研究では, P. intermedia strain E18から fraction Aを分離し, 赤血球凝集因子の精製を試み, 以下の成績を得た. Fraction Aを Arginine-Sepharose 4Bに供した結果, 赤血球凝集活性はPBSで溶出される画分にはみられず, 1M arginineで溶出された. ついでこの活性画分を透析後, Sepharose CL-4Bに供した結果, 波長280nmでの吸光度測定では2つのピークが得られ, 凝集活性は第二ピークに認められた. しかし, 6M ureaを含む bufferで平衡化した Sepharose CL-4Bに供した場合, 第二ピークは4管 shiftしたにすぎなかったが, 凝集活性ははとんど消失した. ゲル濾過後の活性画分をSDS-PAGEに供した結果, 25kDa付近に単一のバンドが形成された. 活性画分を家兎で免疫して得られた抗血清(1:32)を Protein A Sepharose 6MBカラムに供した結果, citrate buffer (pH4.0)で溶出される画分と赤血球凝集因子とが反応した. そこで IgG画分を用いて Western blottingを試みた結果, SDS-PAGEに一致したバンドが形成された. また, protein A-goldで凝集因子の局在性を検討した結果, P. intermedia strain E18の菌体表層のみに gold粒子が観察された. それゆえ, 赤血球凝集因子は P. intermedia strain E18の菌体表層に分布していると考えられる.
  • 土居 正英
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g23-g24
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    Provetella intermediaは種々の口腔感染症に関連しており, とくに感染根管由来の感染症からもっとも高頻度にしかも高比率に分離される細菌種である. P. intermedia の type strainである P. intermedia ATCC 25611や常在菌叢および慢性根尖性歯周炎から分離される P. intermediaは, 病原性状に関連する加水分解酵素をわずか1〜2種類しか産生せず, 一般的には Porphyromonas gingivalis に比べて病原性は弱いと考えられている. しかし, 蜂巣炎から分離される P. intermediaは菌株あたり平均で5種類以上の酵素を産生し, マウスを用いた膿瘍形成実験でも P. gingivalisに匹敵する病原性を示すことが明らかにされている. ところで, これらの酵素活性の一部は継代培養によって消失したり減弱したりする. また, 中辻らは粘性物質を産生し, type C線毛を有する P. intermedia strain 17に ethidium bromideを作用させて, 粘性物質産生能や type C線毛を欠失した変異株が得られることおよびこれらの変異株から revertantが分離されないことを示している. さらに, P. intermediaは血液寒天培地上で黒色色素を産生することで他の prevotellaと鑑別されるが, 継代培養を重ねると色素を産生しないコロニーがみられることがある. 著者らは線毛をもたない P. intermedia strain E18に強い赤血球凝集活性を見いだし, その部分精製についてすでに報告している. P. intermedia strain E18の継代培養でもしばしば黒色色素非産生株がみられるので, 本実験では, これらの黒色色素非産生株を分離し, 黒色色素産生株との性状を比較検討し, 以下の成績を得た. P. intermedia strain E18, 3株の黒色色素非産生株(strain E1801, E1802, E1803)および type strainである P. intermedia ATCC 25611は, API ZYM systemでそれぞれ alkaline phosphatase, acid phosphatase, phosphoamidase および α-glucosidase活性を示した. SDS-PAGEによる可溶性タンパク泳動パターンはいずれの菌株とも類似していた. また, P. intermeida strain E18と黒色色素非産生株は菌体表層に線毛構造がみられず, 両者の間に形態学的な相違は認められなかった. 赤血球凝集性は, 対照とした P. intermedia ATCC 25611では8AUであったのに対して, P. intermedia strain E18と黒色色素非産生株はともに32AUであった. 試験したすべての培養菌液と P. intermedia strain E18を硫安分画で濃縮し, ショ糖密度勾配遠心で得た vesicle画分である fraction BとCに対する抗fraction Bおよび 抗fraction C抗血清との間には共通する2本の沈降線が認められた. また, fraction Aを Arginine-agaroseとゲル濾過でさらに精製し, SDS-PAGEで約25kDaのバンドを示す赤血球凝集因子に対する抗血清と各培養菌液とを反応させた場合も共通する1本の沈降線が認められた. P. intermedia strain E18および3株の黒色色素非産生株はいずれもβ-lactamase, DNase, lecithinaseおよび lipaseを産生した. パルスフィールド電気泳動では, P. intermedia strain E18, 黒色色素非産生株とも2,200kbと750kb付近に2本のバンドが認められ, chromosomal DNAに相違は認められなかった. 以上の結果から, 黒色色素非産生株は, P. intermedia strain E18由来の変異株であると考えられる.
  • 林 美行
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g25-g26
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    口腔感染症のなかでもっとも重篤な口腔感染症から頻繁に分離される Prevotella intermedia (P. intermedia)は, 病原性に関連する5種類以上の加水分解酵素を産生する. また, P. intermedia には同時に病原性と関連の深い, 宿主組織への強い付着性をもつ菌株もみられる. Leungらは形態学的検索から P. intermedia の菌体表層には typeの異なる4種類の線毛がみられ, type C線毛を有する菌株では, 強い赤血球凝集性と上皮細胞への付着性を示すと報告している. また, 最近 Leungらは, type C線毛を有する P. intermedia strain 17から赤血球凝集活性を有する線毛を分離精製し, この線毛が proteaseや80℃, 10分間の加熱に感受性を示し, 精製線毛に対するモノクローナル抗体のFabで凝集阻止されることを明らかにしている. 一方, 藤田らは, 線毛をもたない P. intermedia にも強い赤血球凝集能があることを報告している. また, 村上らは, 線毛をもたない P. intermedia strain E18から赤血球凝集因子を分離し, vesicleを取り囲む amorphousな構造物が赤血球凝集因子であることを示唆している. さらに, 金下らは, この凝集活性を示す amorphousな構造物から Arginine-Sepharose 4Bと Sepharose CL-4Bを用いて約25kDaの赤血球凝集因子を精製している. そこで, 本研究では Leungらが報告している線毛由来の赤血球凝集因子の性状と比較する目的で, 線毛をもたない P. intermedia strain E18から分離精製した赤血球凝集因子の物理化学的性状を検索した. また, 土居らは精製した赤血球凝集因子に対して作製された抗血清が, 精製赤血球凝集因子や P. intermedia strain E18ばかりでなく, type strainである P.intermedia ATCC 25611との間にも共通抗原性を見いだしているので, 赤血球凝集因子の普遍性を検討するために, P. intermediaや Porphyromonas gingivalisをはじめとする黒色色素産生株との間の共通抗原生について検討し, 以下の成績を得た. 本凝集活性因子の残余活性は50℃, 10分間の加熱で50%に, 60℃, 10分間では3.1%に, 70℃, 10分間では完全に消失した. また, trypsin, chymotrypsin, protease および hyaluronidaseで完全に失活し, lysozymeでは3.1%に, β-galactosidaseでは50%に, β-glucosidaseでは12.5%に減少した. 本凝集因子は抗血清で凝集活性は完全に阻止され, galactoseと melibioseで残余活性は50%に減少し, L-arginineと lactoseでは完全に消失した. 本因子は pH7.0〜5.0まで凝集活性に変化は認められなかったが, pH4.5では50%に, pH4.0では25%に, pH3.0では12.5%に, pH2.0では6.3%に減少した. P. intermedia strain E18由来の赤血球凝集因子の普遍性を検討した結果, 多くの P. intermediaと一部の P. nigrescensに本凝集因子と共通抗原性を有する凝集性因子が認められた. また, Porphyromonas gingivalis, Fusobacterium nucleatum, Bacteroides fragilis と同様, P. intermediaや P. nigrescensにも本凝集因子と抗原性が異なる赤血球凝集因子が存在した. Protein A-goldと部分精製した本因子に対する IgGとを用いて本凝集因子の局在性を検討した結果, IgGと反応性が認められない菌株では, gold粒子は菌体表層に認められなかった. 以上の結果から, P. intermedia strain E18由来の赤血球凝集因子は, タンパク-糖の複合体であり, 一部の P. nigrescensを除き, 種特異的であると考えられる.
  • 岡田 正傳
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g27-g28
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    咀嚼時に観察される開口筋の開口動作に先行する筋活動につき, その動作学的な意義を明らかにするため, 咀嚼に比べ比較的単純で再現性に優れた open-close-clench cycle (OCC運動)を被験運動とし, 開閉口運動速度, 咬みしめ力, 運動の繰り返しの有無, 歯の接触の有無, 歯根膜感覚の有無などの条件が外側翼突筋下頭(Lpt), 顎二腹筋前腹(Dig)の onsetに及ぼす影響について観察した. 実験1 下顎運動速度と咬みしめ力の変化による影響を観察するため, 健常有歯顎者男子6名にOCC運動を行わせ, 右側 Lpt, Dig, および咬筋中央部(Mm)より筋電図を双極誘導し, 下顎運動路は MKG K6にて筋電図と同時記録した. 運動リズムは信号音で規定し, 開閉口相450msec, 咬合相180msecのリズムを基準に咬合相を一定にして開閉口相を変化させたり, 開閉口相を一定にして咬合相を変化させたりした. また基準のリズムで咬みしめ力を被験者ごとに任意に強, 中, 弱と変化させた. これらの試行はそれぞれ40ストロークずつ行わせ, 信号音を切った後半20ストロークのうち任意の10ストロークを計測対象とした. 計測は, 筋電図, 筋電図積分オートリセット波形, MKG vertical曲線を紙面に再生後, 各ストロークの開口開始点と Lpt, Digの onsetとの時間差(OT)を測定し, 各試行ごとに平均値を求め統計的に分析した. また, 各試行の咬合相における Mm平均筋活動量も同時に計測した. その結果, 有歯顎者のOCC運動では, Lpt, Digともに開口開始に先行する筋活動がみられ, それぞれの筋の onsetは, 開閉口相時間, 咬合相時間の変化によっては有意な変動を示さなかったが, Mm平均筋活動量の変化によって有意に変動し, Mmの活動量が大きくなると開口筋 onsetはより先行する傾向を示した. 最大開口速度の変化は開口筋 onsetには影響を及ばさなかったが, 開口前の筋活動量を有意に変動させる傾向を示した. 咬合相における Mmの平均筋活動量が増すと, 開口筋の開口前に認められる筋活動比が高くなる傾向を示した. 開口筋の先行活動は, OCC運動のような繰り返し運動のみならず, 一度だけの咬みしめ後の開口においても認められた. 実験2 歯の接触の有無による影響を観察するため, 健常有歯顎者男子4名を被験者とし, 実験1と同じリズムで, 歯を接触させない開閉口運動を行わせ, この時の開口筋OTを測定した. その結果, 歯を接触させない開閉口運動では, Lpt, Digともに開口に先行した活動が認められず, cycle timeの変化によってもOTは影響されなかった. 実験3 歯根膜感覚の有無による影響を観察するため, 総義歯装着患者5名に対しOCCを被験運動としOTを計測した. 運動リズムは被験者ごとに任意のリズムでさらに速度や咬みしめ力を自発的に変えるように指示し, 各患者で記録した45ストローク中25ストロークのOTを計測した. その結果, 総義歯患者におけるOCC運動では, Lptおよび Digの onsetが, 開口開始から先行したが, Mm 平均筋活動量の変化によって onsetは有意な変動を示さず, 有歯顎者とは異なる傾向を示した. 以上の結果より, 開口筋 onsetの開口開始からの先行は, 下顎を開口方向に向けるための準備的活動であることが示唆され, これらは開口筋としての動作的特徴であることが示された. また, 開口筋 onsetを変化させる重要な要因は咬みしめ力であることが明らかとなったが, 総義歯患者では, 開口筋 onsetの調節性が有歯顎者に比較するとやや劣る傾向が示された.
  • 奥田 昌義
    原稿種別: 本文
    1995 年 58 巻 4 号 p. g29-g30
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    歯からの求心性情報に影響されない下顎位を診査するために, 歯を接触させずに開閉口運動を行わせ, 顎関節や咀嚼筋群の作用によって誘導された下顎位を求めることがある. この下顎位はヒトによりばらつきがあり, 姿勢によって影響を受けるとされているが, いまだ詳細は明らかではない. そこで本研究では歯の接触を伴わない連続開閉口運動の最閉口点(CP)が, どのような下顎位を示すか, またその下顎位がどのような要因で変動するかを明らかにする目的で, 開口距離, 開閉口速度, 姿勢を変えて, 歯の接触のある開閉口運動(タッピングポイント, TP)と比較し, またその再現性について検討した. 顎運動の記録は, MKG K6ダイアグノースティックシステムを用い, 切歯点運動のアナログデータをシグナルプロセッサ 7T17にてAD変換し, 咬頭嵌合位を基準として, vertical曲線からみた開閉口運動の最閉口点の三次元的位置を計測した. 実験1 開口距離および開閉口速度の影響 自覚的に顎関節や咀嚼筋群に異常を認めない有歯顎者19名(平均年齢24.5歳)を被験者として, 直立座位で連続10回以上の習慣性下顎開閉口運動を行わせた. 開口距離は大, 中, 小の3種とし, また開閉口の速度は, 速い, 中等度, 遅いの3種で, それらの大きさや速さは被験者の任意とした. 歯の接触を伴わない運動では, 歯が接触しないで, できるだけ閉口位をとるように指示した. 試行はそれぞれの条件を無作為な順序で選び, それぞれ2回繰り返した. 側方および前後方向への偏位量と各条件との相関を調べた. その結果, CPは, TPより変動が大きく, 2〜3倍の範囲にばらついた. TPとCPの変動には前後, 側方方向ともに正の相関が認められ, TPの偏位が大きなものは, CPの偏位も大きくなることがわかった(P<0.001). また開閉口速度が速くなるとCPは有意に後方に移動したが(P<0.001), 側方の方向にはその影響は認められなかった. さらに開口距離が大きくなると, 側方への変動が有意に増加した(P<0.002). 実験2 姿勢の影響および反復開閉口回数の経過の影響 健常有歯顎者10名(平均年齢25.0歳)を被験者として, 背もたれと足の部分を可変できる木製の椅子に座らせ, 連続20回以上の下顎開閉口運動を記録した. 被験者の体位は, 直立座位, 上体の45°傾斜位, および仰臥位とした. 開口距離は大・中・小の3種とし, それらの大きさおよび開閉口の速さは被験者の任意とした. 試行は無作為な順序でおのおの3回繰り返した. 各条件の影響を分散分析法により解析した. CPは, 開閉口の回数の経過に伴い漸次前方に偏位し, 10回目以降で, とくに大開口時に著明であった. また直立座位, 45°傾斜位, 仰臥位と上体が後方に倒れるほど, 前方に移動する傾向が大きく, 開口量の増加が, この傾向をさらに顕著にした(P<0.001). このことから外側翼突筋の姿勢に対する関与が推察された. 実験3 顎口腔機能異常との関係 自覚的にはなんら異常を訴えていないが, 咬頭嵌合位が不安定であるかまたは習慣性開閉口路が側方ヘ2mm以上偏位する被験者5名(平均年齢26.4歳)に対して実験1と同様の測定をした. TP, CPともに正常者群より変動が大きく, とくにCPの変動は著しく, 顎口腔機能の状態を反映していることが明らかとなった. 以上のことから, CPは, タッピングポイントより変動が大きく, 開口距離, 速度, 開閉口の回数, 姿勢によって変動することがわかった. また直立座位で開口量が小さいときが, 変動が小さく最も安定することが明らかとなった. さらにCPは, 歯の接触がないにもかかわらず, 咬頭嵌合の状態を反映していることがわかった.
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