Streptococcus mutans Rm-10は液体培地で培養すると, 対数増殖後期即座に溶菌が起こり, 明瞭な定常期が認められないことと, 溶菌後に広い抗菌域と狭い抗菌域をもつ2つのバクテリオシンを遊出するのが特徴である.しかし, 長期に亘って凍結あるいは凍結乾燥保存したS.mutans Rm-10は, 従来のものと異なり, 対数増殖期以降に溶菌がみられない.ところが, 溶菌を起こさないS.mutans Rm-10は, 指示菌として用いたEnterococcus faecalis ODUに対して, 溶菌を起こすS.mutans Rm-10と同様, 強いバクテリオシン活性を保持している.そこで本実験では, これらのS.mutans Rm-10からバクテリオシンを分離し, 精製することを試みた.培養上清から80%飽和硫酸アンモニウムの塩析で得られた粗バクテリオシン標品をArginine Sepharose^[○!R] 4Bに供した結果, バクテリオシン活性は, 吸着画分, 非吸着画分ともに認められた.本実験では, 非吸着画分(N-ABC)を以降の実験に用いた.Sephacryl^<TM> S-100では, 280nmの吸光度測定で2つのピークが得られ, バクテリオシン活性は最初のピークにみられた.10〜60%ショ糖密度勾配遠心では, 活性画分は遠心管上部に残っていた.また, Lysine Sepharose^<TM> 4Bに供した結果, 活性画分は非吸着画分にみられた.SDS-PAGEでは, 34kDa付近に1本のタンパクバンドが確認された.また, バクテリオシン活性はほぼこの付近に存在した.精製標品は, 主として糖とタンパク(1.67:1)から成り, 糖ではglucose, rhamnose, glucosamine, mannose, arabinose, galactose, galactosamineおよびN-acetylneuraminic acid, また, 主要アミノ酸はalanine, lysine, glycine, glutamic acid, serine, threonineなどでそれぞれ構成されていた.これらの結果から, N-ABCは糖-タンパク複合体であり, 分子量と化学組成の面から, 村松が報告している2つのRm-10バクテリオシンのいずれとも異なるバクテリオシンであると考えられる.
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