本研究は,表層エナメル質が乳歯エナメル質の初期う蝕形成パターンにどのような影響を及ばすのかを明らかにする目的で,AFMおよびSEMによる乳歯初期う蝕の表層エナメル質の微細構造観察およびTMRを用いたミネラルプロファイル測定による表層下脱灰部の定量分析を行い,永久歯エナメル質の初期う蝕形成パターンとの比較検討を行った.
ヒト抜去乳犬歯およびヒト抜去永久中切歯の唇側面から,エナメル質ディスク(直径:3mm)を採取した後,その表面を耐水ペーパーおよびゲル状研磨材で鏡面研磨を行った.
初期う蝕病巣を作製するため,各鏡面研磨エナメル質表面の半分をマニキュアで覆い,脱灰溶液(0.1M乳酸溶液,0.296水溶性レジン,50%飽和ハイドロキシアパタイト;pH=5.0)に37℃で4および24時間浸潰したのち,蒸留水で洗浄した.
作製した初期う蝕病巣試料の表面および病巣体部を,AFMおよびSEMにより,微細構造学的に観察し,また,初期う蝕病巣の定量分析には,TMRを用い,ミネラルプロファイルの測定を行った.測定パラメータは,脱灰深さ,表層エナメル質の厚さおよびミネラル溶出量とした.
その結果,乳歯初期う蝕病巣表面の結晶サイズおよび結晶間隙の拡大が,表層エナメル質の厚さおよび病巣休部の崩壊程度に影響することが明らかとなった.また,乳歯初期う蝕形成は,脱灰深さの内部への進行によって病巣の進行・拡大が行われるのではなく,ミネラル溶出量が示す病巣体部の崩壊によって,病巣が進行・拡大することが明らかとなり,さらに,表層エナメル質の厚さが,脱灰深さをコントロールしている可能性が示された.
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