歯科医学
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79 巻, 2 号
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  • 古森 賢, 山根 一芳, 王 宝禮
    2016 年 79 巻 2 号 p. 53-61
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2017/01/10
    ジャーナル フリー

    口腔感染症から分離される細菌には,sucrose 非依存性に菌体外マトリックスを産生する株が存在する.これらの細菌の産生する菌体外マトリックスは貪食抵抗因子として働くだけでなく,菌体を周囲の環境から保護し,疾患の慢性化,難治化に重要な役割を果たすことが分かっている.我々はこれまでに数回の根管治療にもかかわらず,持続的に単一の細菌種が分離される難治性根尖性歯周炎の病巣からRothia muci laginosa DY­18 株(DY­18 株)を分離し,この菌株が菌体外マトリックスを産生することで治療に抵抗して病巣で長期に生存することを明らかにしてきた.本研究ではDY­18 株のバイオフィルム形成について更に詳細に検討し,その遺伝学的な背景を明らかにすることを目的に,浮遊状態の細胞と,バイオフィルム形成状態の細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ分析した. 培養菌液の粘度からEPS の産生量を経時的に測定すると,種菌接種30 時間後から42 時間後まで粘度が著しく上昇していた.また,種菌接種36 時間後の振盪培養した浮遊状態と,静置培養したバイオフィルム形成状態の培養菌液の粘度を比較したところ,振盪培養では粘度上昇が認められず,静置培養時とは菌体外マトリックスの産生量に大きな差があることが示された.そこでDY­18 株のゲノム情報を基にマイクロアレイをデザインし,浮遊状態とバイオフィルム形成状態の細胞における遺伝子の発現量を測定した.その結果,バイオフィルム形成状態でDNA polymerase Ⅲsubunit beta, signal transduction histidine kinase, mo­ lecular chaperone をコードする遺伝子が有意に発現上昇していることが明らかになった.これらの遺伝子は,DY­18 株のバイオフィルム形成に重要な役割を果たしていると考えられる.

  • 藤本 哲也, 井上 博, 平野 俊一朗, 内橋 賢二, 西川 泰央
    2016 年 79 巻 2 号 p. 62-69
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2017/01/10
    ジャーナル フリー

    ビスフェノールA(Bisphenol A;以後,BPA と略す.)は,歯科材料をはじめポリカーボネイトの原料として広く用いられている.BPA は環境ホルモンの1 つであり,エストロゲン様作用および抗アンドロゲン様作用を有する.前回我々はBPA の周産期曝露による性的二型行動への影響を報告したが,今回はBPA の情動行動への影響に着目した. 極微量BPA を妊娠期の母ラットに経口投与し,生まれた仔ラットの成長後に,うつ情動の評価法である強制水泳試験を実施,さらに環境ストレスに対する脆弱性を調べる目的で独自の評価法を考案し,捕食者であるキツネのニオイに対する回避行動を調べた. 強制水泳試験において,BPA 曝露によりimmobility 時間が有意に延長し,swimming 時間は減少した.また回避行動では,BPA 曝露群のみがキツネのニオイに対して有意に回避した.BPA 曝露ラットのうつ様行動亢進は,その背景としてキツネのニオイのような環境ストレスに高感受性状態に起因することが示唆された.

  • 堤 義文, 藤井 隆晶, 柏木 宏介, 前田 羊一, 佐藤 正樹, 田中 順子, 田中 昌博
    2016 年 79 巻 2 号 p. 70-76
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2017/01/10
    ジャーナル フリー

    口腔内に装着された歯根膜支持の歯冠補綴装置を検査し,装着から1 か月経過における歯間離開度の経時的動態を観察することを目的として行った. 本学附属病院にて歯冠補綴処置予定の患者7 名(男性4 名,女性3 名,平均年齢56.7 歳)のうち,被験歯を,前歯6 歯および臼歯7 歯とした.通法に従い歯冠補綴装置を製作後,歯間離開度を80 μm に調整し,口腔内に装着した.検討項目は,歯周ポケットの深さ,歯の動揺度,咬合接触面積および咬合接触点数,両隣接歯との歯間離開度の測定とした.歯の臨床的動揺度測定には,ペリオテストを用いた.咬合接触点数および咬合接触面積の測定に,咬合接触検査材および歯接触分析装置を用いた.歯間離開度の測定に,チタン製の金属箔を用いた.測定時期は,歯冠補綴装置の装着直後および1 か月経過時とした.統計学的解析は,Wilcoxon の順位和検定を行い,有意水準は5%に設定した. 結果として,すべての検討項目において,統計学的有意差は認められなかった.歯間離開度を80 μm に調整された歯冠補綴装置は,近遠心ともに装着直後の状態が1 か月間では大きな変化が認められなかった.今後,歯間離開度の経時的な動態を解明するためには,より長期間の観察を行う必要があると考察された.

大阪歯科学会例会講演報告
  • 大阪歯科大学小児歯科学講座
    2016 年 79 巻 2 号 p. 77
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2017/01/10
    ジャーナル フリー

    静置培養時と振盪培養時の Rothia mucilaginosa の遺伝子発現の比較

    古森賢・山根一芳・王宝禮(大阪歯大・細菌)

    口腔感染症から分離される細菌には,シュクロース非依存性に菌体外マトリックスを産生する株が存在する.これらの細菌の産生する菌体外マトリックスは貪食抵抗因子として働くだけでなく,菌体を周囲の環境から保護し,疾患の慢性化,難治化に重要な役割を果たすことが分かっている.我々はこれまでに数回の根管治療にもかかわらず,持続的に単一の細菌種が分離される難治性根尖性歯周炎の病巣からRothia mucilaginosa DY­18 株(DY­18 株)を分離し,この菌株が菌体外マトリックスを産生することで治療に抵抗して病巣で長期に生存することを明らかにしてきた.また,我々はDY­18 株の産生する菌体外マトリックスが,中性糖として主にガラクトース,マンノース,ラムノース,グルコースを含み,アミノ糖として少量のグルコサミンとガラクトサミンを含む菌体外多糖(exopolysaccharide, EPS)であり,このEPS がDY­18 株のバイオフィルムの構成因子になっていることを報告した.

    本研究ではDY­18 株のバイオフィルム形成について更に詳細に検討し,その遺伝学的な背景を明らかにする ことを目的に,浮遊状態の細胞と,バイオフィルム形成状態の細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ分析した.走査型電子顕微鏡観察の結果,DY­18 株の菌体表面には,バイオフィルム形成菌の特徴である菌体間の網目様構造物が存在していた。さらに,培養菌液の粘度からEPS の産生量を経時的に測定すると,種菌接種30 時間後から42 時間後まで粘度が著しく上昇し,EPS の産生量が増加していた.また,種菌接種36 時間後の振盪培養した浮遊状態と,静置培養したバイオフィルム形成状態の培養菌液の粘度を比較したところ,振盪培養では粘度上昇が認められず,静置培養時とはEPS の産生量に大きな差があることが示された.そこで,我々が決定したDY­18 株のgenome の配列とアノテーションを基にマイクロアレイをデザインし,浮遊状態とバイオフィルム形成状態の細胞における遺伝子の発現量を測定した.両培養条件における各遺伝子の発現量を比較した結果,バイオフィルム形成状態でDNA polymerase III subunit beta(NCBI locus tag ;RMDY18_00020),signal transduction histidine kinase(RMDY18_00350),mo­ lecular chaperone DnaK(RMDY18_16800)をコードする遺伝子が有意に発現上昇していることが明らかになった.これらの遺伝子は,DY­18 株のバイオフィルム形成に重要な役割を果たしていると考えられる.

  • 大阪歯科大学歯科放射線学講座
    2016 年 79 巻 2 号 p. 78-79
    発行日: 2016/09/25
    公開日: 2017/01/10
    ジャーナル フリー

    歯科用CBCT 画像の寸法安定性について森友理恵・四井資隆・新井是宣・清水谷公成・馬場俊輔(大阪歯大・大学院・口腔インプラント,大阪歯大・歯科放射線,大阪歯大・口腔インプラント)断層画像による画像診断は,歯科用コーンビームCT(以下,CBCT)の普及に伴って,インプラント治療を行う際には不可欠とされている.撮影範囲(以下,FOV)内での位置による計測精度の差について検証したものはない.そこで本研究は,FOV 内の各位置におけるCBCT 画像計測値と実測値を比較し,分析することを目的とした.撮影ファントムは,市販のCDR(直径120 mm,厚さ1.2 mm)を1.2 mm 間隙で,30 枚重ね合わせたものを作成した.撮影機材はUni3DMultiOS(京セラメディカル社,以下,Uni)およびMORITA 3D Accuitomo F17(モリタ,以下,3DX)を使用した.撮影条件は,電流が4 mA,電圧が90 kV, 80 kV, 70 kV とした.またFOV は,各装置の歯科用での最大FOV に設定し,Uniでは12×8.5 cm, 3DX では8×8 cm とした.画像計測にはOsiriX ver.5.8.1(pixmeo)を用いた.実測には電子ノギス(DIGIMATIC CALIPER, Mitutoyo corporation)を用いた.計測点は,FOV 外周端部の上部,中部,下部に設定し,CDRを放射状に8 分割した接点8×3 点とした.またFOV 中心部では,CDRの中心孔の上部・中央部・下部の3 点を計測点とした.実測と画像計測は各5回ずつ行った.計測後,各部位におけるCBCT 画像計測値と実測値との誤差を算出した.また,歪みは,算出された誤差/実測値×100(%)で算出したところ,以下の結果を得た.Uni での計測の結果,FOV 端部では,上部での歪0.4%,端中央部での歪0.1%,端下部での歪1.1% であり,誤差の範囲は0〜0.8 mm であった.FOV 中心部では上部での歪0.4%,中央部での歪0.4%,下部での歪0.9% であり,誤差の範囲は0〜0.4 mm であった.電圧が低いと外周部と中心部共に誤差が大きくなる傾向を示した.3DX での計測の結果は,FOV 端部では,端上部での歪0.4%,端中央部での歪0.5%,端下部での歪0.9%であり,誤差の範囲は0〜0.4 mm であった.FOV 中心部では上部での歪2.6%,中部での歪1.3%,下部での歪1.4% であり,誤差の範囲は0.2〜0.7 mm であった.以上のことから,誤差の程度や特性は機種によって異なるが,90 kV においては端部の誤差は近似した.電圧が低いと誤差は大きくなる傾向で,FOV 端部全域と中心部の上部や下部においては誤差が大きくなる傾向が明らかとなった.この歪が生じるのは,CBCT の撮影機構自体に問題がある.上部や下部では射入されるエックス線の垂直的角度が大きくなり,外周部ではそれがさらに顕著となることから,元画像に歪が生じると考える.

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