漆塗膜は紫外線に対して脆弱であることが広く知られているが
2), 漆塗りが外装にほどこされた歴史的建造物においては, 紫外線のみでなく, 風雨などその他の劣化要因も存在する。本稿では実際に外装に用いられる漆から黒漆を選択し, 劣化要因となりうる紫外線照射や水漬, さらに, それらのサイクルによる劣化促進実験を行った。とくに, 水漬後は風乾あるいは水滴除去をほどこし, 塗膜表面に残存した水滴の有無によっても表面状態に差異が生じるかどうかを検討した。劣化促進実験後は, 光沢度の変動に加え, 走査型電子顕微鏡による表面観察から劣化状態の評価を行った。その結果, 紫外線照射後の水漬により塗膜成分の一部が流失し, 塗膜表面に微小な空隙孔を多数形成していた。また, 紫外線照射および水漬の後, 風乾させた塗膜では, 光沢度の減少がいちじるしく, もっとも表面状態が乱雑化していた。このことから, 紫外線照射後の水漬による劣化表面の除去, あるいは水分蒸発が漆塗膜表面におよぼす影響が甚大であることが確認できた。同時に, 水漬直後に塗膜表面の水分を速やかに除去することによって, 漆塗膜の表面光沢をある程度維持できることも明らかになった。
抄録全体を表示