分散媒となる炭化水素油(オクタン,ドデカン,ヘキサデカン)に植物油(大豆油)を混合すると,界面活性剤などの乳化剤を使用しなくても油中水滴型(W/O)エマルションが分散安定化できることを明らかとした。たとえば,オクタンを分散媒としたW/Oエマルションを乳化剤を使用せずに調製した場合(乳化剤フリーW/Oエマルション),調製直後は乳濁状態であるが2時間経過するとほぼ透明状態となる。つまり,乳化剤フリーW/Oエマルションは調製後2時間程度で油と水に分離する。一方で,オクタンに大豆油を重量分率で0.2混合すると,調製後12時間を経過しても乳化剤フリーW/Oエマルションは乳濁状態を維持していた。さらに,オクタン中の大豆油の含有率が増加すると,乳化剤フリーW/Oエマルション調製後12時間を経過しても乳濁状態はほとんど変化しないことが明らかとなった。また,高級脂肪酸(リノール酸,オレイン酸,ステアリン酸,パルミチン酸)をオクタンに混合しても,乳化剤フリーW/Oエマルションの分散安定性が向上することも明らかとなった。
皮膚に対して高い付着性を有する化粧品用高分子界面活性剤であるプロパンジオールアミド型シリコーンの,顔料分散剤としての性能を調べた。このポリマーは,既存の化粧品用顔料分散剤に比較して,化粧品オイル中での顔料分散性向上効果に優れ,とくに軟凝集を起こしやすい赤酸化鉄試料の凝集を抑制する効果に優れていた。モデル口紅に配合すると,顔料分散が向上することでスティック外観色と塗布色の色差を小さくすることが可能であった。また,顔料分散剤で起こりがちなスティックの硬度を低下させる問題も発生しなかった。
インクジェットプリントは,電子技術の革新的進歩とともに大いなる発展を遂げた。それにともない,テキスタイル業界でも,従来捺染機からインクジェット捺染機への置き換えに拍車がかかるものと期待されている。インクジェットに関する技術情報はその製造メーカーから頻繁に発信されているものの,インクジェット機の使用者である捺染業からはわずかである。ここでは,捺染に携わった技術者の立場から,セルロース,とりわけ,綿素材の加工に焦点を当てて,インクジェットプリントに及ぼす影響について概説した。まず,各加工工程,すなわち,前工程,前処理,捺染,固着,洗浄,仕上の基本的役割を説明した。いずれの工程もインクジェットの品質,色濃度と再現性に大きくかかわり,従来捺染以上に各工程の品質を安定させることは重要である。色素に関しては,インクジェット用の基本色CMYKのうちシアン色であるTurquoise染料は固着が遅いなど,取り扱いに留意しなければならない。この対策の決めては,プリント前後工程の前処理とスチーム処理である。
機能性微粒子の応用は実にさまざまな分野に及んでいる。微粒子を材料として用いる場合,その化学的,物理的性質は一般にその大きさに依存するため,均一な特性の微粒子を作製するには,粒径の揃った単分散性粒子の合成が必要となる。またプロセスとしての応用を考えれば,環境に優しいプロセスの利用が望ましい。ここでは,最近の研究に焦点を当て,低環境負荷プロセスによる単分散性微粒子の粒径制御法について紹介する。また,多機能性化を図るための微粒子複合化の例として,球形の単核や多核のコア・シェル型,非球形コア・シェル型,中空型,ならびに単分散液滴を利用する微粒子の合成を紹介し,環境適合型のプロセスによって,今では精密で,多様な構造制御が可能となっていることを解説する。
塗料製品のコンプライアンスを確保するためには,製品設計の段階で法規制や業界自主基準をよく調査してから,開発を始めることが重要である。コンプライアンスチェックを後回しにすることによって遵法に問題が見つかると,投入した経営資源に多大な無駄を生じてしまうかもしれないからである。また,コンプライアンスチェックには,すべての関係者が参加することが重要である。加えて,設計時だけでなく,法改正時など必要に応じてレビューすることも重要である。本解説では,塗料設計にあたって重要度が高いと思われる化審法,安衛法,毒劇法および米国TSCA,EU REACHを中心に,おもな化学物質法規について概説した。