電子欠損性のジベンゾ[a,c]フェナジン(dbpz)を用いて新規ドナー-アクセプター-ドナー型化合物を合成し,発光特性を調べた。dbpzの10,13位に電子供与性π共役側鎖を導入すると,顕著な蛍光を示す分子内電荷移動(ICT)型発色団が得られた。側鎖の電子供与性を変えることで,発光色を黄緑色から深赤色まで調節することができた。とくに,4-ヘキシルチオフェン-2-イル基や5-(9,9-ジヘキシル-9H-フルオレン-2-イル)チオフェン-2-イル基,5-(9-(2-エチルヘキシル)-9H-カルバゾール-3-イル)チオフェン-2-イル基は、側鎖として赤色発光を得るのに効果的であった。開発したdbpz誘導体は顕著な正の発光ソルバトクロミズムを示し,強いICT型電子構造をもつことが示唆された。dbpz誘導体を発光材料とする有機電界発光素子を作製したところ,光励起時の発光に相当する電界発光が得られた。
末端にジブチルアミノ基を有し,フェニル基に長さの異なるアルコキシ基をもつ11個の新規なビスアゾメチン色素を合成し,溶液と結晶状態における吸収蛍光特性を調べた。その結果,10個の誘導体では結晶状態で蛍光の量子収率が向上し,赤色から近赤外領域で12~28%の収率で発光することがわかった。単結晶の得られた誘導体についてはX線構造解析を行い,結晶状態で観測された分光特性の変化について検討した。アルコキシ基が長い誘導体では構造と蛍光特性の相関が観測されたが,その他の誘導体では明確な相関は見いだされなかった。
ミニエマルション重合は機能性物質を含有する高分子微粒子の調製に有効である。その簡便化のため,温度による転相現象を利用した乳化によってミニエマルションを調製し,重合した。転相温度で重合を行うことで,平均径40 nm以下の高分子微粒子を調製できた。水への溶解度がきわめて低い物質が含有されることを確認するため,蛍光物質であるピレンをモノマーに溶解させ,水,界面活性剤および開始剤を加えて転相温度で重合を行った。重合後にピレンを加えた場合よりも,重合前にピレンを加えておいた場合に,得られる高分子微粒子内にピレンが多く含有されていた。転相温度で重合することが,水に不溶性の物質を含有する微小高分子粒子を調製するのに有効である。
高分子微粒子は,塗料,接着剤,電子素子,そして体外診断薬などさまざまな分野で利用される重要な分散材料である。優れた技術的側面だけでなく,経済性などの観点から,高分子微粒子は乳化重合などの手法で製造されてきた。不均一相ラジカル重合の進展とともに,表面官能基や制御された構造を有するコア-シェル型高分子微粒子が開発されてきた。近年では,リビングラジカル重合による高分子微粒子の表面修飾も検討されている。本稿では,原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)による高分子微粒子表面からのグラフト重合に関するいくつかの研究報告を紹介する。また,転相温度(Phase Inversion Temperature:PIT)乳化法により得られるoil-in-water(O/W)型エマルションモノマー油滴の重合による高分子微粒子合成についても述べる。
紙パルプ分野で使用される界面活性剤には,脱樹脂剤,フェルト洗浄剤,ピッチコントロール剤,脱墨剤,消泡剤,顔料分散剤,嵩高剤などがあり,これまでの講座で述べられてきた界面活性剤の基本的機能を利用してパルプや紙の製造に役立っている。
今回は,古紙をリサイクルするときに使用する脱墨剤と,紙に厚さとしなやかさを付与する嵩高剤について記載する。
ナノマテリアルの安全性の問題が指摘されて以来10年以上経過したが,ナノマテリアルに適した規制枠組みはまだ模索中である。欧州では規制上の定義を定めて,該当する場合には,ナノ表示やリスク評価を求める傾向がある。米国では外形的な定義を定めずに,サイズに起因した機能性の有無で判断し,既存の法規制枠組みをケースバイケースで適用する傾向がある。日本では国内の法規制対応の動きは鈍いものの,国際的なコンセンサスの形成に注力している。本稿では,ナノマテリアルの法規制を検討するうえでの背景を第1節に簡潔にまとめたうえで,第2節では国内,第3節では米国,第4節では欧州における法規制動向をまとめた。