ジチエノ[3,2-a:2',3'-c]フェナジン(dtpz)を用いて新規ドナー-アクセプター-ドナー型化合物を合成し,発光特性を調べた。dtpzの8,11位に9-(2-エチルヘキシル)-9H-カルバゾール-3-イル基や4-ヘキシルチオフェン-2-イル基を側鎖として導入すると,塩化メチレン中で強い赤色蛍光が得られた。一方,2,5位に電子供与性π共役側鎖を導入すると赤~深赤色蛍光が得られたが,発光量子収率は8,11位置換体よりも低かった。いずれのdtpz誘導体も顕著な正の発光ソルバトクロミズムを示し,それらの発光はICT型遷移に基づくことがわかった。8,11位に9-(2-エチルヘキシル)-9H-カルバゾール-3-イル側鎖を有するdtpz誘導体を発光材料に用い,有機EL素子を作製したところ,ポリ(ビニル-9H-カルバゾール)の低い極性のために発光の短波長化が認められ,黄色の電界発光が観測された。
グルコース燃料電池(DGFC)のためのAu-Pt合金(Au4Pt)アノード触媒の電気化学特性に及ぼす安定剤(ポリ(N-ビニル-2-ピロリドン))濃度の効果を調べた。サイクリックボルタンメトリーにおいて,金属ナノ粒子触媒の炭素への担持量が5 wt%のとき,[PVP]/[金属]=1(モル比)において最大電流密度を記録した。PVP濃度がより低いときは,金属ナノ粒子間の凝集のため電流密度は減少した。一方,PVP濃度がより高いときにも電流密度が減少した。これはおそらく金属触媒が安定剤によって不動態化し,活性な表面が失われたためである。全電池系においても,[PVP]/[金属]=1において最大電流密度を記録した。安定剤の至適条件を適用した場合,0.38 V(vs Ag|AgCl)において最大電流密度12.7 mW cm-2,開放電圧0.85 Vを記録した。さらに,10個のスタックセルを用いて計1 WのLEDランプを60時間,燃料を流さずに点灯することができた。これらの結果から本DFGC系をLED照明システムの動力供給源として使用できることが証明される。
材料界面におけるエネルギー状態はその内部とは異なっている。本総説では,高分子鎖が異種相,たとえば,液体および異種固体と接触した際の凝集状態と熱運動特性についてその解析法を交えながら紹介する。
水中に分散している平均粒子径約4~6 nmのジルコニアナノ微粒子を,少量の表面処理剤を用いた溶媒置換法により凝集することなくトルエン相へ相移動させるその場疎水化手法を開発した(溶媒置換法)。本手法で表面処理されたジルコニア微粒子は,乾燥後も種々の有機媒体に再ナノ分散可能であった。ビニル基修飾ジルコニアと汎用ビニルモノマーとの共重合によりジルコニアナノ微粒子を架橋点とした高透明かつ高屈折率な熱硬化性ハイブリッドバルク材料が得られた。また,連鎖移動剤修飾ジルコニアを用いると,高透明かつ高屈折率な熱可塑性ハイブリッドバルク材料が得られた。本ハイブリッド化手法は,アッベ数をそれほど低下させることなく屈折率を増加させることができる興味深い方法である。
繊維製品は,精練→染色→ソーピング→(フィックス)→仕上加工→縫製・(ガーメント洗い)の工程を経て完成するが,そのほぼすべての工程で界面活性剤が活用されている。界面活性剤の基本性能である,乳化・分散・湿潤・浸透・洗浄等の機能が幾多の場面で貢献しているわけである。また,繊維素材のそのものの変遷とともに要求される品質と機能は年々進化しており,その進化を技術的に支えるうえでも界面活性剤は非常に重要な役割を担っている。ここでは,工程薬剤として精練剤・染色助剤(ポリエステル用分散均染剤)・オリゴマー除去剤・綿用フィックス剤,仕上工程では,難燃剤・撥水剤・吸水速乾加工剤にフォーカスし,それぞれの工程での界面活性剤の役割と界面化学の応用例をご紹介することとする。
日本における化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)は,世界に先駆けて施行された化学物質管理に関する法律である。化審法はカネミ油症事件[ポリ塩化ビフェニル(PCBs)などが混入した食用油(カネミ油)を摂取した人々に障害等を起こした事件]を契機として1973年に制定された。化学物質の開発が急速に進展する中,本法は化学物質の安全性に関するハザードおよびリスク評価において,より重要な役割を果たしていくものと考えられる。本稿では化審法の歴史と化学物質の安全性に関する各試験方法を紹介する。