日本の漆技術は縄文時代から始まる長い歴史や伝統がある。漆は現在の石油製品より薬剤や海水に対する優れた耐性をもち,漆器はさまざまな非常に美しい色を発する。漆の優れた物性は知られてはいるが,その構造や物性発現のメカニズムを深く追求する人は少ない。これは漆の構造測定が非常に困難であるためと考えられる。本研究では,微量の鉄を添加した漆黒漆の黒色発現のメカニズムについて,漆に含まれるウルシオール同士の相互作用に着目し,色の違いを生じるナノ構造の違いを量子ビームで解明した。本成果をほかの漆研究とともに紹介する。
世界的に温室効果ガスの排出削減,とりわけCO2排出量の削減が必要とされている。産業界では自動車産業での自動車の走行によるCO2排出削減のみならず,自動車製造時,とくに塗装工程での排出量の大幅削減が必要となっている。本稿ではこれに寄与できる弊社のペイントフィルムの技術紹介とこの分野での課題を提起する。
光触媒とは光を照射すると化学反応を引き起こす物質の総称であり,最も有名な光触媒は酸化チタン(IV)(TiO2)であろう。ここではTiO2を還元的物質変換に応用した研究について紹介する。中でも,ニトロ基からアミノ基,カルボニル基からヒドロキシ基への還元反応はプロトン(H+)と励起電子(e-)を使った水素化反応だということができ,一般にH+源としてアルコール類が使用される。水素ガスの代わりにアルコールを使った水素化反応という点で魅力的な反応である。この記事では,一般的な光触媒的還元反応について解説した後,植物由来の化合物=バイオマスを水素の代わり(H+源)として利用する光触媒的水素化反応についても解説する。
ヒトの皮膚や毛髪の力学的な応答は複雑なため,化粧品を塗ったり,毛髪をトリートメントしたときの触感の変化を物理的に理解し,商品開発に応用することは難しい。本稿では,ヒト皮膚やこれを模した人工皮膚を接触子で擦る摩擦試験機型,ヒトがモノに触れたときに発生する抗力を測定するフォースプレート型,指のひずみや振動を測定する指装着型・指モデル型に加えて,筆者らが開発したヒト指の構造・力学特性とモノに触れるときの運動を模倣したバイオミメティック触覚センシングシステムについて概説したうえで,化粧品および化粧品原料の解析に利用した例を紹介する。
金属粉顔料は光輝性顔料に属するもので,ソリッド系の着色顔料とは異なる,金属由来の独特の金属光沢を有する。本稿では,代表的な金属粉顔料であるアルミニウム粉顔料(アルミペースト)の製造方法について解説する。製造工程は,金属粉をフレーク粒子に加工する物理的な加工工程と,フレーク粒子に機能性を付与するために,表面に有機・無機処理を行う化学的な処理工程の二つに大別される。また,物理加工工程については,最も広く普及している粉砕機を用いた機械的加工法に加え,PVD法を用いた物理的な加工法についても解説する。