「嗜好品(文化研究)の未来」を論じる特集において、本稿では、今後取り組まれるべき嗜好品研究の問題群を提示する。モノ、場所および、それらと人との関係を対象とした人文社会科学分野の研究動向を踏まえ、これからの嗜好品研究の素描を試みている。
モノをめぐる研究では、物質文化研究の新しい展開として、ブルーノ・ラトゥール、ミシェル・カロンらによるアクターネットワーク理論、アルフレッド・ジェルによるアートのエージェンシーを紹介する。これらの研究を援用することで、世界商品としてもっぱら経済的な役割を論じられてきた嗜好品について、新しく自然―社会関係を構成するネットワークや人間に働きかけるアクターとして描き出す可能性を見出した。次に、嗜好品のある場所の研究としてオルデンバーグに由来するサードプレイス研究を検討する。コミュニティカフェなど居場所の研究は日本でもさかんだが、空間のデザインだけでなく、そこで嗜まれる飲み物・食べ物についても探求することが重要であるとした。さらに、こうしたモノ・場所を介した人と人の関係を考えるために藤原辰史の縁食論を取り上げる。ときに共同体への強制を伴う共食でも、孤独な孤食でもないあり方として提唱された縁食の概念を検討して、嗜好品がもつ「人と人をつなぐ」機能について、その機能の存在を指摘するだけでなく、そのつながり方・適度な距離こそが追求されるべきと提案した。
これら人文社会科学の研究展開を紹介する作業を通じて、愉しみ・オモシロさを生み出すモノ・場所・人の連環を追及する営為としての、嗜好品研究の未来を探っている。
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