麻酔犬において, dextran による容量負荷と, bal-loon catheter拡張による急性大動脈縮窄による実験的急性左心不全を作成し,Swan-Ganz catheterによる右心カテーテル法を行いながら,dibutyryl cyclic AMPをbolus静注し,血行動態の変化および血中遊離脂肪酸,インスリン,血糖,乳酸,ピルビン酸の変化を30分間にわたって観察した後, 心筋cyclic AMP依存性蛋白リン酸化酵素活性化率を測定し,比較検討した.
平均70mg/kg(n=6)のdibutyryl cyclic AMP注入では,2.5分頃より効果があらわれ,5分で有意の変化となり, 20分で心拍出量は2.89→7.47
l/min(+160%, p<0.01) , 心拍数は188→234beats/min(+24%,p<0.001),肺動脈楔入圧は38→16mmHg(-58%,p<0.01)と減少,大動脈近位部平均血圧は177→146mmHg(-18%, p<0.001)と減少, 全末梢抵抗は76→22mmHg・min /
l(-71%, p<0.001) と減少し, これらの強心効果と血管拡張効果は30分でも持続がみられた.また,心拍出量増加, 肺動脈楔入圧減少は60mg/kgまではdose responseがみられた.血糖上昇,血糖/インスリン比の低下,乳酸軽度増加,乳酸/ピルビン酸比の軽度増加を認めた.dibutyryl cyclic AMP投与量に対する心筋cyclic AMP依存性蛋白リン酸化酵素活性比は, 60mg/kgまでは直線的にdose responseがありそれ以上ではplateauとなる傾向があった(n=8).
以上の結果によれぼ,dibutyryl cyclic AMPは,強心効果と血管拡張効果により左心不全に有効な治療方法と考えられ,その効果はcyclic AMP依存性たん白リン酸化酵素の活性化によると考えられる.
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